瑞稀が徐に一番近くにある家の呼び鈴を押した。何をしているのか分からず呆気にとられる音色。ただただ瑞稀の行動を見守った。
「こんばんは~」
「はーい。どなた?」
インターフォン越しに応答がある。おばちゃんの声だ。
「チャムチャムです」
真顔で瑞稀が言った。
「はい?」
「チャムチャムです!」
さっきよりはっきりと大きな声で告げる。
「ねーあなた~。パミュパミュさんだってよ~」
奥にいるのであろうご主人か誰かに向かって伝えているのが分かる。『今行く』と奥からの声が届く。
「すみません、今出ますからね」
再び奥さんらしきおばちゃんがインターフォンを通して答えてくれた。
「逃げるぞ!」
瑞稀はそう言って音色の手を取って走り出した。しばらく走って息が切れたところで歩きに変える。人通りのないところまで来ると、電柱に寄りかかって止まる。瑞稀は音色の顔を見る。側に座り込んだ音色も瑞稀を見る。二人は声を出して笑った。
「なに、『チャムチャム』って~」
「おばさん、勝手に変換して『パミュパミュ』だって~」
二人が話す声は、息が切れているのと笑っているので途切れ途切れだ。
「ご主人も『今行く』だって。パミュパミュさんって知り合いいるのかしら~」
「『チャムチャム』は昔そう言うあだ名の先生が居たんだ。英語の先生」
「なんで『チャムチャム』なの?」
「授業で『it’s cold today』を訳しなさいっていう正解で、『今日は寒いですね』って言ったんだ、それからあだ名が『チャムい』『チャムチャム』になったんだ」
また二人は顔を見合わせて笑った。
「……ありがとう……」
「また笑いたくなったらやろう」
「次はもっと面白い名前、考えておいてね」
『任せとけ』そう言って、音色の手を掴んで引き起こすと、二人は酔っぱらいらしく肩を寄せながらフラフラと帰路に就いた。