「今日は何件でも、どこまででも付き合うよ。気に入った財布が見つかると良いね」
瑞稀が話しかける。音色は疚しい気持ちがあるだけ、ショッピングは楽しみだけれども『なるべく手短に済ませよう』と心に決めていた。
「前に行った百貨店のコンシェルジェに頼んだのなら、すぐ見つかるんじゃなくって?」
無知は怖い……今まであまり感じたこともなかったが、幼馴染である一颯を羨ましいと思った。
人並みよりは金は持っている方だと思う……しかし好きな女の願いを叶えてあげられるほど持っている訳でもない。『金が欲しい……』そう思わない訳はなかった。音色が疑いもない真直ぐな気持ちで言ったのなら、瑞稀はプライドを誤魔化すために笑った。
「ははは、あそこは俺なんかが行ったって相手にしてくれないよ。それに色々見て回った方がデートっぽくて楽しいんじゃない?」
『デート』……今日はその言葉が音色の心をチクリと刺した。絵の具が溶けあったように車外の景色が後方へと飛ばされていく。今日は社用車のときよりスピードが出ている。
晴れの光が少しだけ煩わしい。そんな気持ちでは申し訳ない、と音色は窓を開けて入ってくる冷たい風で頭と心を洗う。
『どうしたの?』と瑞稀に聞かれたのなら、『ううん、何でもない』と微笑みで返す。
車は埃を巻き上げて都会のビルの森へと呑み込まれていった。