「あれ? 瑞稀どうしたこんな時間から? 今日俺、予定何にもなかったよな?」
「あぁ、おはよう一颯。予定は何もないよ、オフだ……今日は仕事じゃあない。ちょっと音色を借りていくよ、ってお前に断らなくたっていっか」
「あぁ、そういうこと。どこかでかけるのか」
「気になるか?」
瑞稀にそう言われて一颯は目を逸らす。何か瑞稀に『自分でも認識してない心の奥底』に触れられてしまったようで落ち着かなくなる。
「バカなこと言ってないでさっさと行けよ、今日はおかげで一日、一人でのんびりするよ」
「OK! 夕飯も一緒に済ませてくるよ。今日は一日一人で寂しくさせて悪いな」
瑞稀の皮肉に一颯は何か返そうとしたとき、『お待たせ』と音色が出てきた。二人の息が止まる……。ヒーローの登場シーンのように期待を裏切らない演出側と、心を鷲摑みにされた子供たちと同じ反応しかできない観客側。
当の音色は自信がない。地味に生きてきた習慣が音色から自信を奪っている。しかしその自信の無さが返って音色を謙虚に素直にさせ、奥ゆかしさを醸し出す。
まるで季節が変わるような、少女がその実を熟れさせていく不安定さ。その危なっかさに、ついつい引き寄せられてしまうのが男心。
季節が巡って出会ったときより音色は一つ大人になった。女は過ごした相手によって奇跡的に成長の変化を見せる。
一颯の視線が糸引く中、二人は出発していった。