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@51話

ー/ー





 結局成功したのは、一つだけだった。


 


「一颯さん、大変! 財布を失くしてしまって、家にも帰れないんです。今月のお金全部入ってた財布を落としちゃった……困ったわ……」


「よし分かった。10万円位あれば足りるかな? それと今瑞稀を向かわせるから……どこにいるんだい?」


 


 15分も待たない内に瑞稀が迎えに来る。音色は申し訳ない気持ちで一杯になる。何度も何度も感謝とお詫びを繰り返しながら車に乗り込む。すると瑞稀が無造作に封筒を音色の目の前に突き出す。


 


「社長からです……」


「あ、はい……申し訳ありません……ありがとうございます……」


「音色さん、大変でしたね……交番には届け出を出したんですか? ま、期待しない方が良いですけど……」


「あ、いいえ……(嘘なので……)」


「それなら、そこの交番に寄りましょう。現金は諦めても、財布だけでも戻ってくるかもしれない」


「あ、で、でもいいですよ、そんな……あ、でも、そうですよねお財布……」


 


 否定しかけたその途中で気付いた。音色の財布は就職祝いとして瑞稀からプレゼントされた物であった。嬉しくって今でも(●●●)大事に使っている。


 それを落として失くしただなんて……それなのに瑞稀は嫌な素振りを微塵も見せず、逆に音色を気遣ってくれる……。音色は交番に寄ってもらい、絶対に届けられることのない『遺失届』を記入した。時間だけを無駄にした、そして瑞稀の大切な時間も同時に奪ってしまっていることを悔いた。


 


「瑞稀さん、あの、この10万円は来月の給料から天引きしてください。私、ドジだから最初っから給料から引いて頂ければ……」


「ははは、いいですよ、それ社長のポケットマネーですから」


「そんな……必ずお返しします」


「そんなことより、今度の休み出かけませんか?」


「えっ?」


「新しいお財布、必要でしょ? 俺にまた、プレゼントさせてください」


 


 10万円、騙し取ることに成功したが、翌月10万円返済した。ただ、新しいお財布がゲットできて嬉しかった、瑞稀には申し訳ないが……。女はバックだって財布だって何個あったって良い、素直に嬉しかった。




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 結局成功したのは、一つだけだった。
「一颯さん、大変! 財布を失くしてしまって、家にも帰れないんです。今月のお金全部入ってた財布を落としちゃった……困ったわ……」
「よし分かった。10万円位あれば足りるかな? それと今瑞稀を向かわせるから……どこにいるんだい?」
 15分も待たない内に瑞稀が迎えに来る。音色は申し訳ない気持ちで一杯になる。何度も何度も感謝とお詫びを繰り返しながら車に乗り込む。すると瑞稀が無造作に封筒を音色の目の前に突き出す。
「社長からです……」
「あ、はい……申し訳ありません……ありがとうございます……」
「音色さん、大変でしたね……交番には届け出を出したんですか? ま、期待しない方が良いですけど……」
「あ、いいえ……(嘘なので……)」
「それなら、そこの交番に寄りましょう。現金は諦めても、財布だけでも戻ってくるかもしれない」
「あ、で、でもいいですよ、そんな……あ、でも、そうですよねお財布……」
 否定しかけたその途中で気付いた。音色の財布は就職祝いとして瑞稀からプレゼントされた物であった。嬉しくって|今でも《●●●》大事に使っている。
 それを落として失くしただなんて……それなのに瑞稀は嫌な素振りを微塵も見せず、逆に音色を気遣ってくれる……。音色は交番に寄ってもらい、絶対に届けられることのない『遺失届』を記入した。時間だけを無駄にした、そして瑞稀の大切な時間も同時に奪ってしまっていることを悔いた。
「瑞稀さん、あの、この10万円は来月の給料から天引きしてください。私、ドジだから最初っから給料から引いて頂ければ……」
「ははは、いいですよ、それ社長のポケットマネーですから」
「そんな……必ずお返しします」
「そんなことより、今度の休み出かけませんか?」
「えっ?」
「新しいお財布、必要でしょ? 俺にまた、プレゼントさせてください」
 10万円、騙し取ることに成功したが、翌月10万円返済した。ただ、新しいお財布がゲットできて嬉しかった、瑞稀には申し訳ないが……。女はバックだって財布だって何個あったって良い、素直に嬉しかった。