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クリスマス最大の奇跡

ー/ー



        序章

「速攻!引っ掻き!!」
「ぎゃ~!」

 悪の悲痛な叫びが、廃墟と化した工場で上がった瞬間(トキ)、戦いの火蓋は切って落ちされる。
         1
 時はクリスマス。
 
 ニャンニャンズが暮らす町から、クリスマスプレゼントが消えたところから、物語は始まる。

 場所は人気の無い、丑三つ時の工場。

 昨今、24時間フル稼働する工場が多い中、この工場だけが夜9時以降には終業時刻を迎えていた。

 機械のモーター音だけが、夜の帳に響く敷地内に、サンタクロースの格好をした者が、頻りに地面を見つめている。

 まるで身を隠すかのように、全身黒づくめのサンタは、背後に同じ姿の仲間数匹を従わせていた。

 決して正体を明かすまいと選んだサンタ服の襟を整えながら
「これでこの地域全体のオモチャを集め終わったにゃ~」
と、口をへの字に曲げて言う。

 勝利に酔うボス猫に、仲間達は祝杯をあげるかの如く、次々と雄叫びをあげた。

 その中で冷静な態度をとっていた、一匹の三毛柄の子猫が、さも不思議そうに
「ところで、この真っ白い袋の中味は一体何なのかにゃ?」
と、得意気空を仰ぐボス猫に訊ねる。

 彼等の足元には、絹で出来たような白くて光沢がある袋が、三つ置かれていた。

 子猫三匹が悠々と乗れる程の大きさの袋は、皆真っ平らではなく、ゴツゴツしている。

“それか?”と訊ね返したボス猫は、少し含みを持たせ
「大人のオモチャが入っているにゃん」
と、胸を張って答えた。

 その会話を聞いた黒毛のハチワレの子猫が、袋の紐を解き、中を恐る恐る覗き見る。

 そこには、剣玉や縄跳びの縄、漫画本に小説と、ありとあらゆる遊具が詰められていた。

「確かに、大人のオモチャで一杯だにゃん」 

 袋の口を縛り直しながら、ハチワレの子猫は半ば納得した口調で答えた。

 どうやらボス猫達が遊べない遊具全て、大人のオモチャと呼んでいるらしい。

「しかし、ボス」

 今度は白毛の子猫が、達成感に浸るボス猫に、新たな疑問を呈した。

 「町中からこんな物を集めて、一体何を企んでいるのにゃ?」
「こんな物……これは人間達が騒ぐ祭の一つ、クリスマスに贈る、プレゼントというものにゃ」
「何と、この物がかの有名なクリスマスに贈り合う品々なのかにゃ!」
「そうにゃ!」

 ボス猫は深く頷くと同時に、風で[[rb:捲 > メク]]り上がりそうな黒いフードを、手で押さえながら
「我々猫に対して存外な態度をとるくせに、対人間だとこんないい物を贈り合い、友情や愛情を築き、育てているのにゃ!」
と、目を吊り上げて憎々しく答える。

 その声はまるで、今にも獲物を取られまいとする、あの独特な唸り声によく似ていた。

「何だ、単なるボスの嫉妬かにゃ」

 思わず心の声を漏らした白毛の子猫。

 “はっ”と気付くも、ボス猫の耳には届いてはおらず、すーっと大きく息を吐いてから
「成程、ボスの言う通りずるい奴らだにゃん」
と、少々焦りながら、ボスの気持ちに同調する。

「そう……だから、町内中からクリスマスプレゼントを盗み、この工場へ時間をかけて運んだのにゃ!」
「世界中ではないんだにゃ……」
「と、ともかく、これで今年のクリスマスは、町中が静寂に包まれること間違いなしにゃん!」

 恥を隠すように胸を張るボス猫。

 子猫達が放つ呆れた視線にもめげず、“どうだ!”と言わんばかりに、ボス猫の高笑いが工場の敷地内に響き渡った。

 しかし、ボス猫が笑い続けるのも、どうやらここまでのようである。

「そこまでにゃ!」
「誰にゃ!?」

 突如トタン屋根から聞こえた声に、怪訝な表情を浮かべて仰ぎ見たボス猫。

 その瞬間、顔を隠していた闇色に染まったフードが、パサリと音をたてて滑り落ちる。

 現れたその顔もまた、黒一色の毛で覆われていた。

「やっと見つけたにゃ……黒サンタ!」
「そ、その声は、ニャンニャンズ!?」

“何故ここに?”という言葉を、驚愕の視線に乗せて送るボス猫。

 トタン屋根には、お揃いの赤いサンタ服を身につけた3匹の猫達が、横一列に並んでボス猫を睨んでいた。

         2
 夜の闇に突然現れた、金銀に光る三組の双眸。

 トタン屋根に乱れ一つなく並ぶそのシルエットに、ボス猫率いる黒サンタ達は、思わず息を呑む。

「ニャンニャンズ、何故ここに!?」

 恐怖のあまり、そう叫んだボス猫に、ニヤリと笑う赤サンタ達。

 一歩また一歩とし後退始める黒サンタ達に対し
「今日は赤サンタと呼ぶにゃん!」
と、いつになく低い声で言った。

 「あ、赤サンタ、何故ここに?」
 律儀にも顔をひきつらせながら、再びボス猫が問うと、赤サンタの代表であるMガールが、前にしゃしゃり出る。

「巷で大人のオモチャが大量に失くなったと聞いて、もしやと思い調べたにゃん」
「そしたら、ここ二・三日の間にお前等が怪しい動きをしていたと聞き」
「一連の事件が黒サンタ一味の仕業と分かったにゃん」

 Mガールの自信に満ちた返答に続き、KボーイとSガールもそう言い放つ。

「くーっ、まさか知らぬ間に調べられていたとは」
「もっとコンパクトに答えられないのかにゃん?」
「黙れ、兎に角お前等の悪事はこの赤サンタが許さないにゃん!」

 そう言葉を放ったMガールは、一歩前へ躍り出ると同時に、身を固くした黒サンタ達を勢い良く指差した。

 悔しさのあまり、唸ることしか出来ない黒サンタ一味。
 
 ここで小さな恨みを晴らさないと、後で悔やむに違いない。

 黒サンタ一味は、より一層唸り声を上げ、正正堂堂した姿で立つ赤サンタ一味を威嚇した。

 それでも動じない赤サンタ一味。

 暫くの沈黙の後、Mガールがゆっくりと口を開く。

「お前等の目的は何なのにゃ?」
「ふっふっふっ……それはだな」

 含み笑いを浮かべ、今にも答えようとしたボス猫の耳を
「Mガール!」
という、甲高い声が貫いた。

“うるさい!”というボス猫が瞳を向けた先には、トタン屋根を見て立つ、体が一回り小さいサビ猫赤サンタの姿。

「こっち向くにゃん!」

 ボス猫の鋭いツッコミを無視し、サビ猫は堂々とした態度で
「奥の工場にも、あたし達のオモチャが隠してあったにゃん」
と、仁王立ちで耳を傾けるMガールに、そう報告をした。

 どうやらこのサビ猫は、小柄な体型を利用して、一足先に潜入捜査をしていたらしい。

「私達のオモチャまで盗んでいたとは……」

 サビ猫の報告を一通り聞いたMガールは、わなわなと怒りに肩を震わせ
「黒サンタ一味、絶対に許さないにゃん!」
と、思わず叫びを上げた。

「Hガール、Cガールと合流後、この一連の事件を大人の人間達にも伝えるにゃん!」
「了解したにゃん!」

 サビ猫改めHガールは、元気良く答えると、直ぐ様その場から走り去る。

 遠ざかるその姿をトタン屋根から見送った三匹は、音をたてずに地上へ降り立った。

「そう簡単にやられるオレ達ではない」
「その言葉はこっちの台詞にゃん!」

 お互いがお互い胸を張り、睨み合うこと数十秒。

「覚悟するにゃん!」

 Mガールの啖呵で、戦いの幕は切られた。

         3
 Hガールが、Mガール達に猫のオモチャの在りかを報告し終わった頃。

「くっ、来るなにゃん!」
「そんな事言わずに、オレと一緒に遊ぶにゃん!」

 盗まれたオモチャが入った袋の見張り番をかって出たCガールが、敵の仲間の一匹のシャム猫に見つかり、じわじわと言い寄られていた。

 敵というからには、例の黒いサンタ服を身に着けているはずなのだが、このシャム猫は何故か何も着ていない。

 色々と突っ込みどころはあるが、まずはこの状況をどう打開するか考える方を選んだCガールは、声を発せずその場に(ウズクマ)った。

 その姿を見たシャム猫は、cガールが降参したと勘違いしたようで、じわじわと距離を縮めていく。

 その時だった。

 突如シャム猫の口から叫び声が飛び出したのである。

 その声は、喉の奥から出ているのではないかと疑いたくなる程、悲痛な(モノ)だった。

“ギャッ”という叫び声を上げて、その場に倒れ込んだシャム猫。

 室内は月明かりに照らされているとはいえ、薄暗いことには変わらない。

 そもそも、人間達の瞳とは全く違う構造をしているのだから、暗闇であっても良く見えた。

 しかしレンズの回りが白く濁っているせいで、目の前にいるのが誰なのかまでは、はっきりしない。

 瞳に入る光を何度か調節してみても、頭にハテナが幾つも飛び交うCガール。

 そんなCガールに、その人物は何事もなかったかのように、少々早口で話しかけた。  

「Cガール、Mガールからの命令にゃん!」
「Hガール?」
「この事件の真相を、あたしと共に大人の人間達に伝えに行くにゃん!」
「分かった、今すぐ行くにゃん!」

 Mガールの力になるべく、先程まで感じていた恐怖を、見事はね除けたCガール。

 スーッと立ち上がり、颯爽と出口へ向かったCガールを見送ったHガールは、下敷きになっているシャム猫に
「ウ・ワ・キ・モ・ノ!」
と、怒りに満ちた声でそう告げた。

「クリスマスは、とーっても楽しみですね!」

 静かにそう言い放ち、“ふん!”と鼻を鳴らしたHガールは、先に行くCガールの背を追うように、その場から走り去る。

「な、何を送ってくるのかにゃん?」

 胸の中に広がる恐怖を捕えたシャム猫は、数日後に届くであろうクリスマスプレゼントを想像し、思わず身震いをした

         4
「速攻!引っ掻き!!」

 技を食らった黒サンタの子分達が、悲痛な声を上げながら、
次々と倒れていく。

 倒すべき敵は、残り二匹。

 ボスとナンバー二だけだ。

「くっ……やってくれたな、Mガール!」

 ボス猫が悔しそうに言葉を掃き捨てる。

 Mガールは特に興味がないのか、反応することはなかった。

 押さえた黒白の可愛い前足から、一筋の血が(ウッス)らと流れている。

 どうやら、致命傷ととまではいかなくても、かなりの打撃は受けているようだ。

「ボス!」

 ナンバー2のハチワレが、慌てふためいた声をあげ、すかさず仁王立ちで様子を伺うMガール達に、敵意の眼差しを向ける。

「応援を呼んできます!」

 ハチワレがそう告げ、その場から離れようとした瞬間。

 kボーイが躊躇することなく、引き締まった体をハチワレの股にねじ込ませた。

「あ、あれは……」

 その体勢を見たMガールが、急に焦り出すと同時に
「Sガール、今すぐ耳を塞いで地面に伏せるにゃ!」
と、切羽詰まった声で命令する。

 しかし、突然そう言われても、SガールにはKボーイがただ敵に馬乗りにされているとしか思えなかった。

「えっ、でも」
「いいから、早く!」

“説明している暇はないにゃん!”

 エメラルドグリーンに輝く、Mガールの小さな双眸が早急さを物語る。

 Sガールは、漸(ヨウヤ)く事態を把握し、Mガールの言う通り地面に伏せて身を堅くした。

 その途端、Kボーイがハチワレに向けて発した超音波が、工場全てを飲み込んでいく。

 破壊こそないものの、馬乗りになったハチワレにとってそれは、たまったものではないだろう。

 案の定、Kボーイが前を向くのと重なるように、ハチワレは背中から地面目掛けて倒れていく。

 Mガールは、まるで映画のワンシーンのような悲惨な光景を、伏せたまま見ているしかなかった。

「……恐るべし、Kボーイの秘技超音波」
「秘技、超音波?」

 Mガールが感慨深く呟いた言葉を聞いたSガールは、恐る恐る訊ねる。

 立ち上がり、体についた埃を手で払ったMガールは、何故か語り出すかのように
「初代Kボーイから受け継いだ、猫界では数千匹程しか使えない技なのにゃ」
と、簡単に説明した。

 本音はもっと詳しく説明したかったのだが、訊ねたSガールの視線が何かを捕らえたことと、朝食の時間が迫ってきた為に、中断せざるを得なかったである。

 そんなSガールは、ゆっくりと立ち上がり
「何処へ行くにゃ」
と、一歩また一歩と後退りするボス猫に、ドスが効いた声でそう訊ねた。

 その声にいつになく強い恐怖を感じたボス猫。

 この異様な雰囲気に完全に呑み込まれてしまったボス猫は、それでもなおその場から逃げようと、くるりと背を向ける。

 その姿を見たSガールの怒りは頂点に達し、いつもは穏やかで丸い目が、今はきつく吊り上がった目へと変わっていた。

「逃げるにゃ!」
「ご、ごめんにゃ~!!」

 うわずった声を上げ、再び動き出すボス猫は、今度こそこの場から逃げ切ると心に誓う。

 だが、時は既に遅く、怒りを抑えきれないSガールの前足が、今まで事の成り行きを静かに見守っていた天に向けて、ピンと真っ直ぐ伸びきった。

「Sガール、今は」
「食らえ……雨雨降れ降れ!」

 察したMガールの止める声と、Sガールの攻撃する声が、夜の空に見事に重なる。

 勝ったのは、当然怒りに満ちたSガールの念だった。

 まるでSガールの甲高い声に応えるかのように現れた白い雲は、星々を次々と飲み込むかの如く、急激に広がっていく。

 そして、間もなくポツリポツリと冷たい雨が、ボス猫の頭目掛けて降ってきた。

「何だ、ただの雨粒じゃない……痛っ!」

 ボス猫の口から、徐々に悲痛な声が漏れ始める。

 それを聞いたKボーイが、恐怖と不安で体を震わせながら
「雨って痛いものなのかにゃん?」
と、またまた呆気にとられて身を固くするMガールに訊ねた。

 Mガールもまた、瞳に(ウッス)らと涙を浮かべている。

「あの技は、Sガールが最も得意とする技なんだが、時折雨を降らせようとすると、雹(ヒョウ)が降ったりするのにゃ」
「雹(ヒョウ)?」
「それだけじゃない、霙(ミゾレ)(アラレ)が降る時もある」
「つまり、コントロールが効かない、とっても危険な技ってことなのかにゃ?」
「……そういうことになるにゃん」

“受けた私達が”という言葉を付け足したMガールは、今にも流れ出ようとする涙を、そっと細い前足で拭った。

 目の前に広がる光景(モノ)

 それは、黒に染まった工場の敷地に、無数の純白の氷の粒のが、ボス猫を押し潰している光景だった。

 完全にのびて動かないボス猫に、哀れみの視線を送ったMガールは、深い溜め息を吐き
「さぁ、ボス猫が目を覚まさないうちに、この場から撤収するにゃん」
と、ほぼ放心状態のSガールとKボーイに命令する。

「疲れたにゃ……」
「お疲れ様にゃん……」

 お互いに労いながら歩き出すSガールとKボーイ。

 戦いに疲れていると言えど、その足取りは軽い。

「雹は放っておけば溶けるから、あのままにしておいても特に
問題はないだろう……」

 ボス猫に別れを告げたMガールもまた、疲れた体を癒す為、温かい我が家へと帰っていった。

 かくして、クリスマスプレゼント奪還劇は、黒サンタ達壊滅という形で幕を下ろす。

 後に赤サンタ伝説の一つとして語られるとは、この時誰も想像していなかった。

        終章
 そして、クリスマスの夜。

 数十時間前に起きた出来事の事など、露とも知らない飼い主が、今宵可愛く着飾ったニャンニャンズに、毎年恒例のクリスマスプレゼントを手渡した。

 それは、CガールとHガールが連れてきた大人達が確保した、あの袋に入っていたプレゼントである。

 多少の汚れはあるものの、こうして差し出されたそれは、彼等ニャンニャンズにとって、大きな勲章と言えるであろう。

「有難うにゃん!」

 Mガールが代表で、大好きなイルカの縫いぐるみを、前足で受け取る。

 それを咥えたのを合図に、いつものじゃれあいが始まった。

 いつまでも平和な世の中であってほしいと願うニャンニャンズ。
 
 時折、入院中の黒サンタ軍団に思いを馳せつつ、遊び続けるニャンニャンズニであった。



 




 







 


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 悪の悲痛な叫びが、廃墟と化した工場で上がった瞬間《トキ》、戦いの火蓋は切って落ちされる。
         1
 時はクリスマス。
 ニャンニャンズが暮らす町から、クリスマスプレゼントが消えたところから、物語は始まる。
 場所は人気の無い、丑三つ時の工場。
 昨今、24時間フル稼働する工場が多い中、この工場だけが夜9時以降には終業時刻を迎えていた。
 機械のモーター音だけが、夜の帳に響く敷地内に、サンタクロースの格好をした者が、頻りに地面を見つめている。
 まるで身を隠すかのように、全身黒づくめのサンタは、背後に同じ姿の仲間数匹を従わせていた。
 決して正体を明かすまいと選んだサンタ服の襟を整えながら
「これでこの地域全体のオモチャを集め終わったにゃ~」
と、口をへの字に曲げて言う。
 勝利に酔うボス猫に、仲間達は祝杯をあげるかの如く、次々と雄叫びをあげた。
 その中で冷静な態度をとっていた、一匹の三毛柄の子猫が、さも不思議そうに
「ところで、この真っ白い袋の中味は一体何なのかにゃ?」
と、得意気空を仰ぐボス猫に訊ねる。
 彼等の足元には、絹で出来たような白くて光沢がある袋が、三つ置かれていた。
 子猫三匹が悠々と乗れる程の大きさの袋は、皆真っ平らではなく、ゴツゴツしている。
“それか?”と訊ね返したボス猫は、少し含みを持たせ
「大人のオモチャが入っているにゃん」
と、胸を張って答えた。
 その会話を聞いた黒毛のハチワレの子猫が、袋の紐を解き、中を恐る恐る覗き見る。
 そこには、剣玉や縄跳びの縄、漫画本に小説と、ありとあらゆる遊具が詰められていた。
「確かに、大人のオモチャで一杯だにゃん」 
 袋の口を縛り直しながら、ハチワレの子猫は半ば納得した口調で答えた。
 どうやらボス猫達が遊べない遊具全て、大人のオモチャと呼んでいるらしい。
「しかし、ボス」
 今度は白毛の子猫が、達成感に浸るボス猫に、新たな疑問を呈した。
 「町中からこんな物を集めて、一体何を企んでいるのにゃ?」
「こんな物……これは人間達が騒ぐ祭の一つ、クリスマスに贈る、プレゼントというものにゃ」
「何と、この物がかの有名なクリスマスに贈り合う品々なのかにゃ!」
「そうにゃ!」
 ボス猫は深く頷くと同時に、風で[[rb:捲 > メク]]り上がりそうな黒いフードを、手で押さえながら
「我々猫に対して存外な態度をとるくせに、対人間だとこんないい物を贈り合い、友情や愛情を築き、育てているのにゃ!」
と、目を吊り上げて憎々しく答える。
 その声はまるで、今にも獲物を取られまいとする、あの独特な唸り声によく似ていた。
「何だ、単なるボスの嫉妬かにゃ」
 思わず心の声を漏らした白毛の子猫。
 “はっ”と気付くも、ボス猫の耳には届いてはおらず、すーっと大きく息を吐いてから
「成程、ボスの言う通りずるい奴らだにゃん」
と、少々焦りながら、ボスの気持ちに同調する。
「そう……だから、町内中からクリスマスプレゼントを盗み、この工場へ時間をかけて運んだのにゃ!」
「世界中ではないんだにゃ……」
「と、ともかく、これで今年のクリスマスは、町中が静寂に包まれること間違いなしにゃん!」
 恥を隠すように胸を張るボス猫。
 子猫達が放つ呆れた視線にもめげず、“どうだ!”と言わんばかりに、ボス猫の高笑いが工場の敷地内に響き渡った。
 しかし、ボス猫が笑い続けるのも、どうやらここまでのようである。
「そこまでにゃ!」
「誰にゃ!?」
 突如トタン屋根から聞こえた声に、怪訝な表情を浮かべて仰ぎ見たボス猫。
 その瞬間、顔を隠していた闇色に染まったフードが、パサリと音をたてて滑り落ちる。
 現れたその顔もまた、黒一色の毛で覆われていた。
「やっと見つけたにゃ……黒サンタ!」
「そ、その声は、ニャンニャンズ!?」
“何故ここに?”という言葉を、驚愕の視線に乗せて送るボス猫。
 トタン屋根には、お揃いの赤いサンタ服を身につけた3匹の猫達が、横一列に並んでボス猫を睨んでいた。
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 夜の闇に突然現れた、金銀に光る三組の双眸。
 トタン屋根に乱れ一つなく並ぶそのシルエットに、ボス猫率いる黒サンタ達は、思わず息を呑む。
「ニャンニャンズ、何故ここに!?」
 恐怖のあまり、そう叫んだボス猫に、ニヤリと笑う赤サンタ達。
 一歩また一歩とし後退始める黒サンタ達に対し
「今日は赤サンタと呼ぶにゃん!」
と、いつになく低い声で言った。
 「あ、赤サンタ、何故ここに?」
 律儀にも顔をひきつらせながら、再びボス猫が問うと、赤サンタの代表であるMガールが、前にしゃしゃり出る。
「巷で大人のオモチャが大量に失くなったと聞いて、もしやと思い調べたにゃん」
「そしたら、ここ二・三日の間にお前等が怪しい動きをしていたと聞き」
「一連の事件が黒サンタ一味の仕業と分かったにゃん」
 Mガールの自信に満ちた返答に続き、KボーイとSガールもそう言い放つ。
「くーっ、まさか知らぬ間に調べられていたとは」
「もっとコンパクトに答えられないのかにゃん?」
「黙れ、兎に角お前等の悪事はこの赤サンタが許さないにゃん!」
 そう言葉を放ったMガールは、一歩前へ躍り出ると同時に、身を固くした黒サンタ達を勢い良く指差した。
 悔しさのあまり、唸ることしか出来ない黒サンタ一味。
 ここで小さな恨みを晴らさないと、後で悔やむに違いない。
 黒サンタ一味は、より一層唸り声を上げ、正正堂堂した姿で立つ赤サンタ一味を威嚇した。
 それでも動じない赤サンタ一味。
 暫くの沈黙の後、Mガールがゆっくりと口を開く。
「お前等の目的は何なのにゃ?」
「ふっふっふっ……それはだな」
 含み笑いを浮かべ、今にも答えようとしたボス猫の耳を
「Mガール!」
という、甲高い声が貫いた。
“うるさい!”というボス猫が瞳を向けた先には、トタン屋根を見て立つ、体が一回り小さいサビ猫赤サンタの姿。
「こっち向くにゃん!」
 ボス猫の鋭いツッコミを無視し、サビ猫は堂々とした態度で
「奥の工場にも、あたし達のオモチャが隠してあったにゃん」
と、仁王立ちで耳を傾けるMガールに、そう報告をした。
 どうやらこのサビ猫は、小柄な体型を利用して、一足先に潜入捜査をしていたらしい。
「私達のオモチャまで盗んでいたとは……」
 サビ猫の報告を一通り聞いたMガールは、わなわなと怒りに肩を震わせ
「黒サンタ一味、絶対に許さないにゃん!」
と、思わず叫びを上げた。
「Hガール、Cガールと合流後、この一連の事件を大人の人間達にも伝えるにゃん!」
「了解したにゃん!」
 サビ猫改めHガールは、元気良く答えると、直ぐ様その場から走り去る。
 遠ざかるその姿をトタン屋根から見送った三匹は、音をたてずに地上へ降り立った。
「そう簡単にやられるオレ達ではない」
「その言葉はこっちの台詞にゃん!」
 お互いがお互い胸を張り、睨み合うこと数十秒。
「覚悟するにゃん!」
 Mガールの啖呵で、戦いの幕は切られた。
         3
 Hガールが、Mガール達に猫のオモチャの在りかを報告し終わった頃。
「くっ、来るなにゃん!」
「そんな事言わずに、オレと一緒に遊ぶにゃん!」
 盗まれたオモチャが入った袋の見張り番をかって出たCガールが、敵の仲間の一匹のシャム猫に見つかり、じわじわと言い寄られていた。
 敵というからには、例の黒いサンタ服を身に着けているはずなのだが、このシャム猫は何故か何も着ていない。
 色々と突っ込みどころはあるが、まずはこの状況をどう打開するか考える方を選んだCガールは、声を発せずその場に踞《ウズクマ》った。
 その姿を見たシャム猫は、cガールが降参したと勘違いしたようで、じわじわと距離を縮めていく。
 その時だった。
 突如シャム猫の口から叫び声が飛び出したのである。
 その声は、喉の奥から出ているのではないかと疑いたくなる程、悲痛な声《モノ》だった。
“ギャッ”という叫び声を上げて、その場に倒れ込んだシャム猫。
 室内は月明かりに照らされているとはいえ、薄暗いことには変わらない。
 そもそも、人間達の瞳とは全く違う構造をしているのだから、暗闇であっても良く見えた。
 しかしレンズの回りが白く濁っているせいで、目の前にいるのが誰なのかまでは、はっきりしない。
 瞳に入る光を何度か調節してみても、頭にハテナが幾つも飛び交うCガール。
 そんなCガールに、その人物は何事もなかったかのように、少々早口で話しかけた。  
「Cガール、Mガールからの命令にゃん!」
「Hガール?」
「この事件の真相を、あたしと共に大人の人間達に伝えに行くにゃん!」
「分かった、今すぐ行くにゃん!」
 Mガールの力になるべく、先程まで感じていた恐怖を、見事はね除けたCガール。
 スーッと立ち上がり、颯爽と出口へ向かったCガールを見送ったHガールは、下敷きになっているシャム猫に
「ウ・ワ・キ・モ・ノ!」
と、怒りに満ちた声でそう告げた。
「クリスマスは、とーっても楽しみですね!」
 静かにそう言い放ち、“ふん!”と鼻を鳴らしたHガールは、先に行くCガールの背を追うように、その場から走り去る。
「な、何を送ってくるのかにゃん?」
 胸の中に広がる恐怖を捕えたシャム猫は、数日後に届くであろうクリスマスプレゼントを想像し、思わず身震いをした
         4
「速攻!引っ掻き!!」
 技を食らった黒サンタの子分達が、悲痛な声を上げながら、
次々と倒れていく。
 倒すべき敵は、残り二匹。
 ボスとナンバー二だけだ。
「くっ……やってくれたな、Mガール!」
 ボス猫が悔しそうに言葉を掃き捨てる。
 Mガールは特に興味がないのか、反応することはなかった。
 押さえた黒白の可愛い前足から、一筋の血が薄《ウッス》らと流れている。
 どうやら、致命傷ととまではいかなくても、かなりの打撃は受けているようだ。
「ボス!」
 ナンバー2のハチワレが、慌てふためいた声をあげ、すかさず仁王立ちで様子を伺うMガール達に、敵意の眼差しを向ける。
「応援を呼んできます!」
 ハチワレがそう告げ、その場から離れようとした瞬間。
 kボーイが躊躇することなく、引き締まった体をハチワレの股にねじ込ませた。
「あ、あれは……」
 その体勢を見たMガールが、急に焦り出すと同時に
「Sガール、今すぐ耳を塞いで地面に伏せるにゃ!」
と、切羽詰まった声で命令する。
 しかし、突然そう言われても、SガールにはKボーイがただ敵に馬乗りにされているとしか思えなかった。
「えっ、でも」
「いいから、早く!」
“説明している暇はないにゃん!”
 エメラルドグリーンに輝く、Mガールの小さな双眸が早急さを物語る。
 Sガールは、漸《ヨウヤ》く事態を把握し、Mガールの言う通り地面に伏せて身を堅くした。
 その途端、Kボーイがハチワレに向けて発した超音波が、工場全てを飲み込んでいく。
 破壊こそないものの、馬乗りになったハチワレにとってそれは、たまったものではないだろう。
 案の定、Kボーイが前を向くのと重なるように、ハチワレは背中から地面目掛けて倒れていく。
 Mガールは、まるで映画のワンシーンのような悲惨な光景を、伏せたまま見ているしかなかった。
「……恐るべし、Kボーイの秘技超音波」
「秘技、超音波?」
 Mガールが感慨深く呟いた言葉を聞いたSガールは、恐る恐る訊ねる。
 立ち上がり、体についた埃を手で払ったMガールは、何故か語り出すかのように
「初代Kボーイから受け継いだ、猫界では数千匹程しか使えない技なのにゃ」
と、簡単に説明した。
 本音はもっと詳しく説明したかったのだが、訊ねたSガールの視線が何かを捕らえたことと、朝食の時間が迫ってきた為に、中断せざるを得なかったである。
 そんなSガールは、ゆっくりと立ち上がり
「何処へ行くにゃ」
と、一歩また一歩と後退りするボス猫に、ドスが効いた声でそう訊ねた。
 その声にいつになく強い恐怖を感じたボス猫。
 この異様な雰囲気に完全に呑み込まれてしまったボス猫は、それでもなおその場から逃げようと、くるりと背を向ける。
 その姿を見たSガールの怒りは頂点に達し、いつもは穏やかで丸い目が、今はきつく吊り上がった目へと変わっていた。
「逃げるにゃ!」
「ご、ごめんにゃ~!!」
 うわずった声を上げ、再び動き出すボス猫は、今度こそこの場から逃げ切ると心に誓う。
 だが、時は既に遅く、怒りを抑えきれないSガールの前足が、今まで事の成り行きを静かに見守っていた天に向けて、ピンと真っ直ぐ伸びきった。
「Sガール、今は」
「食らえ……雨雨降れ降れ!」
 察したMガールの止める声と、Sガールの攻撃する声が、夜の空に見事に重なる。
 勝ったのは、当然怒りに満ちたSガールの念だった。
 まるでSガールの甲高い声に応えるかのように現れた白い雲は、星々を次々と飲み込むかの如く、急激に広がっていく。
 そして、間もなくポツリポツリと冷たい雨が、ボス猫の頭目掛けて降ってきた。
「何だ、ただの雨粒じゃない……痛っ!」
 ボス猫の口から、徐々に悲痛な声が漏れ始める。
 それを聞いたKボーイが、恐怖と不安で体を震わせながら
「雨って痛いものなのかにゃん?」
と、またまた呆気にとられて身を固くするMガールに訊ねた。
 Mガールもまた、瞳に薄《ウッス》らと涙を浮かべている。
「あの技は、Sガールが最も得意とする技なんだが、時折雨を降らせようとすると、雹《ヒョウ》が降ったりするのにゃ」
「雹《ヒョウ》?」
「それだけじゃない、霙《ミゾレ》や霰《アラレ》が降る時もある」
「つまり、コントロールが効かない、とっても危険な技ってことなのかにゃ?」
「……そういうことになるにゃん」
“受けた私達が”という言葉を付け足したMガールは、今にも流れ出ようとする涙を、そっと細い前足で拭った。
 目の前に広がる光景《モノ》。
 それは、黒に染まった工場の敷地に、無数の純白の氷の粒のが、ボス猫を押し潰している光景だった。
 完全にのびて動かないボス猫に、哀れみの視線を送ったMガールは、深い溜め息を吐き
「さぁ、ボス猫が目を覚まさないうちに、この場から撤収するにゃん」
と、ほぼ放心状態のSガールとKボーイに命令する。
「疲れたにゃ……」
「お疲れ様にゃん……」
 お互いに労いながら歩き出すSガールとKボーイ。
 戦いに疲れていると言えど、その足取りは軽い。
「雹は放っておけば溶けるから、あのままにしておいても特に
問題はないだろう……」
 ボス猫に別れを告げたMガールもまた、疲れた体を癒す為、温かい我が家へと帰っていった。
 かくして、クリスマスプレゼント奪還劇は、黒サンタ達壊滅という形で幕を下ろす。
 後に赤サンタ伝説の一つとして語られるとは、この時誰も想像していなかった。
        終章
 そして、クリスマスの夜。
 数十時間前に起きた出来事の事など、露とも知らない飼い主が、今宵可愛く着飾ったニャンニャンズに、毎年恒例のクリスマスプレゼントを手渡した。
 それは、CガールとHガールが連れてきた大人達が確保した、あの袋に入っていたプレゼントである。
 多少の汚れはあるものの、こうして差し出されたそれは、彼等ニャンニャンズにとって、大きな勲章と言えるであろう。
「有難うにゃん!」
 Mガールが代表で、大好きなイルカの縫いぐるみを、前足で受け取る。
 それを咥えたのを合図に、いつものじゃれあいが始まった。
 いつまでも平和な世の中であってほしいと願うニャンニャンズ。
 時折、入院中の黒サンタ軍団に思いを馳せつつ、遊び続けるニャンニャンズニであった。