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生真面目宦官の正体

ー/ー




 そんな甘い日々が続いたある日、皇帝の側近宦官・来儀が家臣を引き連れてやってきた。
 
「おや? 今日、陛下はいらっしゃらないのですか」

(ひとりでここに来るとは珍しい)
 
「今後、陛下があなたに会いに来ることはありません」
「どうして?」

 来儀の背後から、ぞろぞろと難いのいい武官やら宦官やらがやってくる。その異様な迫力に気圧されつつも、蓮花は来儀を見上げた。

「あのぅ……これは一体」

(嫌な予感しかしないのですが)
 
「あなたには貴妃暗殺計画の嫌疑がかかっております。故に、拘束します」

(……は? 貴妃暗殺……?)

 貴妃とは、後宮でもっとも皇帝から寵愛を受けている妃だ。今の貴妃は、美玉(メイユー)妃。
 ふわふわしたお妃様だが、妃たちの中でもとりわけ聡い方だと聞く。

(もしかして私、美玉妃に陥れられた? 最近美玉妃のところにお通りがないから?)

「連れて行け」
「え? ちょちょ、来儀! 待って待って」

(嘘でしょ!?)

 そして、蓮花は拘束された。

「どーしてこうなるのぉ!?」

 幽閉された簡素な部屋で嘆いていると、来儀が来た。来儀は蓮花を見下ろしてほくそ笑んでいる。

「ちょっと来儀! 私暗殺なんて考えてないよ!」
「あぁ、知ってる。お前はそんな小狡い策を考えられるほど、頭が良くない」

 来儀は能面のように表情のない顔のまま言った。

「なんだとコラ!? 自慢じゃないけど私、前世は医……」
「うるさい黙れ」
「んなっ!」
「あなたは馬鹿ではないが、嘘が下手だ」
「オイコラ。心の声が漏れてますよー。私も一応妃なんですけど。そんな態度をとっていいのかしら?」
「私はあなたを妃とは認めない。あなたは妃に相応しくない。故に適当な罪状を付けて幽閉した」
「はぁん!?」

(美玉妃じゃなくて、コイツが私を陥れたの!?)

「なんであんたに妃として認められなきゃならないのよ!」

「あなたは陛下を誑かす危険な女。陛下は既にあなたに心酔している。このままでは、国が傾く。これ以上、陛下の寵愛を与えるわけにはいかない」
「……まさかの転生早々首チョンパですか……せっかくイケメン陛下とキャッキャウフフの優雅な生活が待ってると思っていたのに」

 まさかの展開に己の悲運を嘆いたそのとき、
「おいっ! 来儀はいるか!? おいっ!!」
「お、お待ちください、皇帝陛下!」
「どけ!」

 外で皇帝の声がした。相当苛立っている声だ。直後、部屋の扉が全開に開け放たれる。扉の前にいたのは、皇帝だった。

「はっ! 陛下!」

 来儀が慌てて跪く。
 
「来儀! どういうことだ? あらぬ罪で蓮花を監禁するなど、相応の説明をせよ」
「いえ、私はただ陛下のために……。近頃、陛下は蓮花妃に気を傾け過ぎのように思えました。ですので少々頭を冷やしていただきたく……」
「来儀。私から蓮花を奪おうなどとはいい度胸だ。私が妃をどう扱おうと私の勝手。そなたになんの権限があって私から蓮花を奪うというのだ」

 皇帝は分かりやすく怒り狂っていた。

(なんかもう……わけが分からないんだけど。てか、陛下ってば鞭持ってない? え、なに、その拷問器具?)

 皇帝の手に握られた物騒なものを見て、蓮花はゾッとする。
 
「お前にはお仕置きが必要のようだな」
「え……」

 そう言って、皇帝は鞭を振り上げ……。

「あぅっ!!」

 容赦なく来儀を打ち始めた。パチンパチンと肉が叩かれる壮絶な音に、蓮花は思わず目を瞑る。

(なんと哀れな……ドンマイ、来儀。でもこれは、君が悪いよ)

「あっ……はぁ」

 皇帝を思い、行動した家臣の末路を哀れみ、指の隙間から控えめに見ていると、ふと、来儀の異変に気が付いた。

(……ん?)
 
 来儀はなんとも恍惚的な表情で、声を上げていた。

「あっ! も、申し訳ありません! 陛下ぁんっ!」

(うわ……マジか。そっちか)

 来儀は痛がってはいるものの、嫌がってはいない。いやむしろ、喜んでいる。

 つまり、来儀は蓮花が皇帝からの寵愛を受けていることが不満だったらしい。
 
 氷水の話によると、皇帝はこれまで妃たちに溺れるようなことはなかったという。自分より歳下である妃たちが、皇帝の嗜好には合わなかったのだ。
 かくいう蓮花の身体も皇帝よりは歳下であるが、転生前の人生経験を合わせると二倍だ。というか、転生前の年齢は皇帝より上だ。

 本当のところはもちろん生娘ではないし、それなりの知識もある。だからこそ、皇帝の寵愛を得られたのだろう。
 
 そして、
「……陛下のマゾを上回るマゾ側近か……」

(なるほど。私は来儀の欲求を満たすために、いいように利用されたのか)

 来儀は皇帝に尻を突き出しながら、蓮花をちらりと見た。
 
 蓮花は一歩後退る。
 このとき、なんとなく察した。蓮花の敵は後宮の妃たちなどではなく、この変態宦官なのだと。

(この政権、絶対悪政だわ……)

 鞭の音が響く部屋の中で、蓮花は心底嬉しそうに頬を上気させる来儀を見つめながら、この国の行先を哀れむのだった。


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 そんな甘い日々が続いたある日、皇帝の側近宦官・来儀が家臣を引き連れてやってきた。
「おや? 今日、陛下はいらっしゃらないのですか」
(ひとりでここに来るとは珍しい)
「今後、陛下があなたに会いに来ることはありません」
「どうして?」
 来儀の背後から、ぞろぞろと難いのいい武官やら宦官やらがやってくる。その異様な迫力に気圧されつつも、蓮花は来儀を見上げた。
「あのぅ……これは一体」
(嫌な予感しかしないのですが)
「あなたには貴妃暗殺計画の嫌疑がかかっております。故に、拘束します」
(……は? 貴妃暗殺……?)
 貴妃とは、後宮でもっとも皇帝から寵愛を受けている妃だ。今の貴妃は、美玉《メイユー》妃。
 ふわふわしたお妃様だが、妃たちの中でもとりわけ聡い方だと聞く。
(もしかして私、美玉妃に陥れられた? 最近美玉妃のところにお通りがないから?)
「連れて行け」
「え? ちょちょ、来儀! 待って待って」
(嘘でしょ!?)
 そして、蓮花は拘束された。
「どーしてこうなるのぉ!?」
 幽閉された簡素な部屋で嘆いていると、来儀が来た。来儀は蓮花を見下ろしてほくそ笑んでいる。
「ちょっと来儀! 私暗殺なんて考えてないよ!」
「あぁ、知ってる。お前はそんな小狡い策を考えられるほど、頭が良くない」
 来儀は能面のように表情のない顔のまま言った。
「なんだとコラ!? 自慢じゃないけど私、前世は医……」
「うるさい黙れ」
「んなっ!」
「あなたは馬鹿ではないが、嘘が下手だ」
「オイコラ。心の声が漏れてますよー。私も一応妃なんですけど。そんな態度をとっていいのかしら?」
「私はあなたを妃とは認めない。あなたは妃に相応しくない。故に適当な罪状を付けて幽閉した」
「はぁん!?」
(美玉妃じゃなくて、コイツが私を陥れたの!?)
「なんであんたに妃として認められなきゃならないのよ!」
「あなたは陛下を誑かす危険な女。陛下は既にあなたに心酔している。このままでは、国が傾く。これ以上、陛下の寵愛を与えるわけにはいかない」
「……まさかの転生早々首チョンパですか……せっかくイケメン陛下とキャッキャウフフの優雅な生活が待ってると思っていたのに」
 まさかの展開に己の悲運を嘆いたそのとき、
「おいっ! 来儀はいるか!? おいっ!!」
「お、お待ちください、皇帝陛下!」
「どけ!」
 外で皇帝の声がした。相当苛立っている声だ。直後、部屋の扉が全開に開け放たれる。扉の前にいたのは、皇帝だった。
「はっ! 陛下!」
 来儀が慌てて跪く。
「来儀! どういうことだ? あらぬ罪で蓮花を監禁するなど、相応の説明をせよ」
「いえ、私はただ陛下のために……。近頃、陛下は蓮花妃に気を傾け過ぎのように思えました。ですので少々頭を冷やしていただきたく……」
「来儀。私から蓮花を奪おうなどとはいい度胸だ。私が妃をどう扱おうと私の勝手。そなたになんの権限があって私から蓮花を奪うというのだ」
 皇帝は分かりやすく怒り狂っていた。
(なんかもう……わけが分からないんだけど。てか、陛下ってば鞭持ってない? え、なに、その拷問器具?)
 皇帝の手に握られた物騒なものを見て、蓮花はゾッとする。
「お前にはお仕置きが必要のようだな」
「え……」
 そう言って、皇帝は鞭を振り上げ……。
「あぅっ!!」
 容赦なく来儀を打ち始めた。パチンパチンと肉が叩かれる壮絶な音に、蓮花は思わず目を瞑る。
(なんと哀れな……ドンマイ、来儀。でもこれは、君が悪いよ)
「あっ……はぁ」
 皇帝を思い、行動した家臣の末路を哀れみ、指の隙間から控えめに見ていると、ふと、来儀の異変に気が付いた。
(……ん?)
 来儀はなんとも恍惚的な表情で、声を上げていた。
「あっ! も、申し訳ありません! 陛下ぁんっ!」
(うわ……マジか。そっちか)
 来儀は痛がってはいるものの、嫌がってはいない。いやむしろ、喜んでいる。
 つまり、来儀は蓮花が皇帝からの寵愛を受けていることが不満だったらしい。
 氷水の話によると、皇帝はこれまで妃たちに溺れるようなことはなかったという。自分より歳下である妃たちが、皇帝の嗜好には合わなかったのだ。
 かくいう蓮花の身体も皇帝よりは歳下であるが、転生前の人生経験を合わせると二倍だ。というか、転生前の年齢は皇帝より上だ。
 本当のところはもちろん生娘ではないし、それなりの知識もある。だからこそ、皇帝の寵愛を得られたのだろう。
 そして、
「……陛下のマゾを上回るマゾ側近か……」
(なるほど。私は来儀の欲求を満たすために、いいように利用されたのか)
 来儀は皇帝に尻を突き出しながら、蓮花をちらりと見た。
 蓮花は一歩後退る。
 このとき、なんとなく察した。蓮花の敵は後宮の妃たちなどではなく、この変態宦官なのだと。
(この政権、絶対悪政だわ……)
 鞭の音が響く部屋の中で、蓮花は心底嬉しそうに頬を上気させる来儀を見つめながら、この国の行先を哀れむのだった。