第31話 悲しみの始まり
ー/ー
どのくらい時間が経っただろうか、ようやくクロナが落ち着く。
目の前には、服を真っ赤に染めて物言わぬ姿となったブラナが横たわっている。
「このままでは可哀想です。せめて、きれいな姿に戻しておかないと……」
クロナは浄化の魔法を使うことにする。
回復魔法は、対象が生きていないと効果をなさない。なので、汚れなどを消し去ることに特化した魔法を使うことにしたのだ。
べったりとついていた真っ赤なものはさらりと消え去っていったが、やはりブラナが目を覚ますことはなかった。
改めて、クロナはその死を受け入れなければならなかった。
『聖女様、このままではこの者の体が朽ちてしまう。私めが糸で保護をしましょう』
「はい、お願い致します」
アサシンスパイダーは、ブラナの体を自身の糸で包み始めた。
アサシンの名を持つとおり、アサシンスパイダーは音もなく忍び寄れるほか、様々な効果を持つ糸を吐き出すことができる。
その中には、獲物の鮮度を保つための不思議な糸もあり、捕らえた獲物を長期保存することも可能なのだという。
今回は、ブラナの遺体を保存するためにその糸を使うようなのだ。
『敵ながら、この私にあれだけの傷を負わせたのだ。最後に見せた聖女様への忠誠、その心を汲み、私がその姿を残しておいてやろう』
ブラナの体を完全に包み込んだアサシンスパイダーは、部屋の隅っこに糸の繭を安置する。
『では、聖女様。今日はお疲れでしょう、お休みになられてください』
「そうさせて頂きますね……」
ブラナのことがショックなので、アサシンスパイダーはクロナに無理をさせない選択肢を取ったようだ。
さすがはクロナの補佐をするべく選ばれた眷属である。気遣いもなかなかにできるようなのだ。
クロナはアサシンスパイダーの作ってくれた寝床に横になると、そのままぐっすりと眠りについたのだった。
クロナが眠ったことを確認すると、アサシンスパイダーはスチールアントたちと向き合う。
『さて、このブラナという者はかなり手強かったな。お前たちをあのような短剣で簡単に切り刻めるとは、相当の手練れであったことは間違いないだろう』
『そうですな……』
アサシンスパイダーの発言に頷くスチールアントたちだが、どことなく元気がない。それというのも、自分たちの仲間が数体、あっさりと殺されてしまったからだ。
それでなくても、バタフィー王子という人物にもかなり簡単に倒されてしまっている。自分たちの強さでは、クロナを守り切れないと焦りを覚えるほどだった。
『最後にあの者が話していた、クロナの兄であるシュヴァルツという人物も、相当に警戒をした方がよさそうだな』
『そう思われますな』
アサシンスパイダーたちが引っかかっているのは、死の間際にブラナが伝えてきた話だった。
クロナの命を狙う者が、まだたくさんいるということなのだ。
ここは狭いために簡単には攻め込まれないではあろうものの、過信していては実力の差で強引に上がってこられかねない。
クロナを守るためには、自分たちの実力をどうにかして向上させなければならないのである。
だが、魔物であるアサシンスパイダーたちには、実力をつけるというのは至難の業。実に悩ましい問題なのである。
『仕方がない。私が外に行って仲間に話をつけてこよう。私の種族であるアサシンスパイダーなら、密偵に向いているからな』
『ぐぅ……。我々は役立たずなのだろうか』
『そうでもない。聖女様を乗せて移動できるし、いざとなれば壁にだってなれる。なにより、私よりも数のいる種族だ。どうとでもなるだろう』
アサシンスパイダーにフォローを入れられるスチールアントたちである。
クロナの様子を見守ることをスチールアントに頼んだアサシンスパイダーは、ブラナのアジトから外へと出る。このアジト周辺の見張りを、他のアサシンスパイダーたちに頼むためだ。
『なんだお前は』
『お願いがあってきた。話を聞いてくれるか?』
『俺の縄張りに入るとは生意気なやつだ』
『なるほど、実力を示せというのか。分かりやすい』
『ほざけ!』
最初に会ったアサシンスパイダーは実に敵対的だった。
だが、聖女の眷属として目覚めたアサシンスパイダーに敵うわけもなく、あっという間にこてんぱんにされてしまった。
クロナの眷属になったアサシンスパイダーに負けたアサシンスパイダーは、渋々その頼みを聞き入れていた。
こうして、クロナを守るための環境が整っていく。
『さあ、いつでも来るといい、聖女様を狙う人間よ。この森を突破することができるのならね!』
アサシンスパイダーを中心とした防御陣を形成した眷属となったアサシンスパイダーは、かなり自慢げに構えている。
心優しいクロナに、これ以上の精神的負担をかけたくない眷属たちは、クロナを守ろうと必死である。
だが、その気持ちを踏みにじろうとする邪神の呪いは、着実にその魔の手をクロナたちへと差し向けている。
クロナは無事に三年間を乗り切り、元の平和な生活に戻れるのだろうか。
その悲劇はまだ幕を開けたばかりなのだ。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
どのくらい時間が経っただろうか、ようやくクロナが落ち着く。
目の前には、服を真っ赤に染めて物言わぬ姿となったブラナが横たわっている。
「このままでは可哀想です。せめて、きれいな姿に戻しておかないと……」
クロナは浄化の魔法を使うことにする。
回復魔法は、対象が生きていないと効果をなさない。なので、汚れなどを消し去ることに特化した魔法を使うことにしたのだ。
べったりとついていた真っ赤なものはさらりと消え去っていったが、やはりブラナが目を覚ますことはなかった。
改めて、クロナはその死を受け入れなければならなかった。
『聖女様、このままではこの者の体が朽ちてしまう。私めが糸で保護をしましょう』
「はい、お願い致します」
アサシンスパイダーは、ブラナの体を自身の糸で包み始めた。
アサシンの名を持つとおり、アサシンスパイダーは音もなく忍び寄れるほか、様々な効果を持つ糸を吐き出すことができる。
その中には、獲物の鮮度を保つための不思議な糸もあり、捕らえた獲物を長期保存することも可能なのだという。
今回は、ブラナの遺体を保存するためにその糸を使うようなのだ。
『敵ながら、この私にあれだけの傷を負わせたのだ。最後に見せた聖女様への忠誠、その心を汲み、私がその姿を残しておいてやろう』
ブラナの体を完全に包み込んだアサシンスパイダーは、部屋の隅っこに糸の繭を安置する。
『では、聖女様。今日はお疲れでしょう、お休みになられてください』
「そうさせて頂きますね……」
ブラナのことがショックなので、アサシンスパイダーはクロナに無理をさせない選択肢を取ったようだ。
さすがはクロナの補佐をするべく選ばれた眷属である。気遣いもなかなかにできるようなのだ。
クロナはアサシンスパイダーの作ってくれた寝床に横になると、そのままぐっすりと眠りについたのだった。
クロナが眠ったことを確認すると、アサシンスパイダーはスチールアントたちと向き合う。
『さて、このブラナという者はかなり手強かったな。お前たちをあのような短剣で簡単に切り刻めるとは、相当の手練れであったことは間違いないだろう』
『そうですな……』
アサシンスパイダーの発言に頷くスチールアントたちだが、どことなく元気がない。それというのも、自分たちの仲間が数体、あっさりと殺されてしまったからだ。
それでなくても、バタフィー王子という人物にもかなり簡単に倒されてしまっている。自分たちの強さでは、クロナを守り切れないと焦りを覚えるほどだった。
『最後にあの者が話していた、クロナの兄であるシュヴァルツという人物も、相当に警戒をした方がよさそうだな』
『そう思われますな』
アサシンスパイダーたちが引っかかっているのは、死の間際にブラナが伝えてきた話だった。
クロナの命を狙う者が、まだたくさんいるということなのだ。
ここは狭いために簡単には攻め込まれないではあろうものの、過信していては実力の差で強引に上がってこられかねない。
クロナを守るためには、自分たちの実力をどうにかして向上させなければならないのである。
だが、魔物であるアサシンスパイダーたちには、実力をつけるというのは至難の業。実に悩ましい問題なのである。
『仕方がない。私が外に行って仲間に話をつけてこよう。私の種族であるアサシンスパイダーなら、密偵に向いているからな』
『ぐぅ……。我々は役立たずなのだろうか』
『そうでもない。聖女様を乗せて移動できるし、いざとなれば壁にだってなれる。なにより、私よりも数のいる種族だ。どうとでもなるだろう』
アサシンスパイダーにフォローを入れられるスチールアントたちである。
クロナの様子を見守ることをスチールアントに頼んだアサシンスパイダーは、ブラナのアジトから外へと出る。このアジト周辺の見張りを、他のアサシンスパイダーたちに頼むためだ。
『なんだお前は』
『お願いがあってきた。話を聞いてくれるか?』
『俺の縄張りに入るとは生意気なやつだ』
『なるほど、実力を示せというのか。分かりやすい』
『ほざけ!』
最初に会ったアサシンスパイダーは実に敵対的だった。
だが、聖女の眷属として目覚めたアサシンスパイダーに敵うわけもなく、あっという間にこてんぱんにされてしまった。
クロナの眷属になったアサシンスパイダーに負けたアサシンスパイダーは、渋々その頼みを聞き入れていた。
こうして、クロナを守るための環境が整っていく。
『さあ、いつでも来るといい、聖女様を狙う人間よ。この森を突破することができるのならね!』
アサシンスパイダーを中心とした防御陣を形成した眷属となったアサシンスパイダーは、かなり自慢げに構えている。
心優しいクロナに、これ以上の精神的負担をかけたくない眷属たちは、クロナを守ろうと必死である。
だが、その気持ちを踏みにじろうとする邪神の呪いは、着実にその魔の手をクロナたちへと差し向けている。
クロナは無事に三年間を乗り切り、元の平和な生活に戻れるのだろうか。
その悲劇はまだ幕を開けたばかりなのだ。