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第30話 果てる忠義

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 なんと、自分に向けられたはずの短剣がブラナの胸に突き刺さっていたのだ。
 あまりの衝撃的な光景に、クロナは表情を引きつらせながら、思わず口を押さえてしまう。

「ブラナ! どうして、そんな……」

 刺さった時の血しぶきを浴びながらも、クロナはブラナに必死に声をかけている。
 ごふっとブラナは血を吐きながら、クロナの顔をじっと見つめている。

「どうしてって……。私にお嬢様を傷つけられるわけが、ないじゃない、ですか……」

 苦しそうな顔をしながらも、ブラナはしっかりとクロナの顔を見て質問に答えている。

「まった、く……。この私に……お嬢様を殺さ、せようだ、なんて……、酷い奴も、いるものです、ね……」

 かろうじて立っていたブラナだったが、ぐらりと体勢を崩す。
 クロナは震えのあまり動けなかったが、アサシンスパイダーが素早く動いて、ブラナの体をどうにか支えていた。

『なんなんだ、この人間は。聖女様を殺そうとしたかと思ったら、自分で自分の心臓を突くだなんて……』

 さすがのアサシンスパイダーも、ブラナの行動の意味がまったく分からなくて困惑しているようである。
 先程のダメージと気持ちの動揺で、アサシンスパイダーの体は少し震えているようだ。
 自分を受け止めたアサシンスパイダーに、ブラナはゆっくりと目を向ける。

「さすがは魔物ですね。先程、あれほど強く、突き飛ばしましたのに……。お嬢様を、守ろうとしてくれ……て、ありがとうございます」

 ブラナは、絞り出すかのような声で、アサシンスパイダーにお礼を言っている。
 アサシンスパイダーは、ブラナの言っている言葉が分かるのか、どう反応していいのか分からずに困っているようである。

「もういいです、ブラナ。今回復させますから、黙っていて下さい」

 クロナはブラナに近付き、回復魔法を使おうとする。
 ところが、ブラナはクロナを近付けさせまいと、大きく手を前に突き出し、顔を向けて笑顔を浮かべている。

「いいえ、お嬢様……。私を回復させても……、また操られて、お嬢様に、刃を向けて、しまいます。このま、ま……、死なせてくだ、さい……」

 ブラナからの必死の願いである。この言葉を聞いて、クロナは顔をくしゃくしゃにしてしまう。
 助けたいのに、助けるなとお願いされているのだ。クロナの感情は複雑を極めてしまっている。

「何を、言うのですか、ブラナ……。邪神の呪いに必死に抗ったあなたを……、どうして私は、助けられないのですか……」

「お嬢様、悲しまないで、下さい。それと、お嬢様に悪い、知らせ、が……もう一つ、ございます」

「なんでしょうか、ブラナ……」

 虫の息になりつつあるブラナが、最後に力を振り絞ってクロナにあることを伝えようとしている。
 悪い知らせという言葉に、クロナの表情が少しこわばっている。

「シュヴァルツ、坊ちゃまが……、お嬢様を殺そうと、して……おります。私のかつ、ての……仲間が、ここを知っている、ようでし、て……、そのうち、やってくるか……と……」

「お兄様が……。なんで、どうして……」

「それほど、精神操作が、強力ということで、しょう……。……うっ、このままでは……」

 ブラナが再び苦しみ始める。どうやら、ブラナの精神を再び邪神の呪いが蝕もうとし始めているのだ。
 伝えることは伝えた。自分の体ももう限界を迎えている。
 自分の状態を悟ったブラナは、かすみゆく視界にクロナの姿を捉え、その顔をしっかりと見る。

「お嬢様、あなたの忠実な侍女であるブラナの最期、しかと見届けて下さい……。ふんっ!」

 ブラナはそういうと、自分に突き刺した短剣に手をかけ、一気に引き抜く。
 次の瞬間、クロナの視界は真っ赤に染めあげられてしまう。
 そして、カランと金属が転がり落ちる音が響き渡る。

「ブラ……ナ……?」

 クロナの視線の先には、口から血を流し、穏やかな表情で果てたブラナの姿があった。
 洗脳に苦しみながらも、自分のままで果てられたことへの満足からなのだろうか。それとも、自分の大好きなクロナに看取られながら死ねたことへの満足からだろうか。
 だが、どちらにせよ、クロナにとっては衝撃が大きすぎた。大切な人を目の前で失ったという悲しみは、まったくもって計り知れないのである。

「いやあああああっ!!」

 洞窟の中に、クロナの悲鳴が響き渡る。
 小さな頃からずっと一緒にいた、自分専属の侍女。どんな時でもそばにいて微笑みかけてくれた侍女。
 自分の周囲の環境が一変してからも、時々洗脳に抗いながらも気にかけてくれた侍女。
 クロナにとって自分の誇りともいえる侍女であるブラナ。そのブラナが、自分の前で息絶えてしまったのである。

 その場には、しばらくの間、クロナの大きな嗚咽が響き渡る。
 ブラナの体を支えるアサシンスパイダーや、生き残ったスチールアントたちが、クロナを心配して集まってくる。
 悲しみと悔しさに涙を流し続けるクロナに、しばらく声をかけられず、魔物たちはただただその様子を見守るしかなかった。


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 なんと、自分に向けられたはずの短剣がブラナの胸に突き刺さっていたのだ。
 あまりの衝撃的な光景に、クロナは表情を引きつらせながら、思わず口を押さえてしまう。
「ブラナ! どうして、そんな……」
 刺さった時の血しぶきを浴びながらも、クロナはブラナに必死に声をかけている。
 ごふっとブラナは血を吐きながら、クロナの顔をじっと見つめている。
「どうしてって……。私にお嬢様を傷つけられるわけが、ないじゃない、ですか……」
 苦しそうな顔をしながらも、ブラナはしっかりとクロナの顔を見て質問に答えている。
「まった、く……。この私に……お嬢様を殺さ、せようだ、なんて……、酷い奴も、いるものです、ね……」
 かろうじて立っていたブラナだったが、ぐらりと体勢を崩す。
 クロナは震えのあまり動けなかったが、アサシンスパイダーが素早く動いて、ブラナの体をどうにか支えていた。
『なんなんだ、この人間は。聖女様を殺そうとしたかと思ったら、自分で自分の心臓を突くだなんて……』
 さすがのアサシンスパイダーも、ブラナの行動の意味がまったく分からなくて困惑しているようである。
 先程のダメージと気持ちの動揺で、アサシンスパイダーの体は少し震えているようだ。
 自分を受け止めたアサシンスパイダーに、ブラナはゆっくりと目を向ける。
「さすがは魔物ですね。先程、あれほど強く、突き飛ばしましたのに……。お嬢様を、守ろうとしてくれ……て、ありがとうございます」
 ブラナは、絞り出すかのような声で、アサシンスパイダーにお礼を言っている。
 アサシンスパイダーは、ブラナの言っている言葉が分かるのか、どう反応していいのか分からずに困っているようである。
「もういいです、ブラナ。今回復させますから、黙っていて下さい」
 クロナはブラナに近付き、回復魔法を使おうとする。
 ところが、ブラナはクロナを近付けさせまいと、大きく手を前に突き出し、顔を向けて笑顔を浮かべている。
「いいえ、お嬢様……。私を回復させても……、また操られて、お嬢様に、刃を向けて、しまいます。このま、ま……、死なせてくだ、さい……」
 ブラナからの必死の願いである。この言葉を聞いて、クロナは顔をくしゃくしゃにしてしまう。
 助けたいのに、助けるなとお願いされているのだ。クロナの感情は複雑を極めてしまっている。
「何を、言うのですか、ブラナ……。邪神の呪いに必死に抗ったあなたを……、どうして私は、助けられないのですか……」
「お嬢様、悲しまないで、下さい。それと、お嬢様に悪い、知らせ、が……もう一つ、ございます」
「なんでしょうか、ブラナ……」
 虫の息になりつつあるブラナが、最後に力を振り絞ってクロナにあることを伝えようとしている。
 悪い知らせという言葉に、クロナの表情が少しこわばっている。
「シュヴァルツ、坊ちゃまが……、お嬢様を殺そうと、して……おります。私のかつ、ての……仲間が、ここを知っている、ようでし、て……、そのうち、やってくるか……と……」
「お兄様が……。なんで、どうして……」
「それほど、精神操作が、強力ということで、しょう……。……うっ、このままでは……」
 ブラナが再び苦しみ始める。どうやら、ブラナの精神を再び邪神の呪いが蝕もうとし始めているのだ。
 伝えることは伝えた。自分の体ももう限界を迎えている。
 自分の状態を悟ったブラナは、かすみゆく視界にクロナの姿を捉え、その顔をしっかりと見る。
「お嬢様、あなたの忠実な侍女であるブラナの最期、しかと見届けて下さい……。ふんっ!」
 ブラナはそういうと、自分に突き刺した短剣に手をかけ、一気に引き抜く。
 次の瞬間、クロナの視界は真っ赤に染めあげられてしまう。
 そして、カランと金属が転がり落ちる音が響き渡る。
「ブラ……ナ……?」
 クロナの視線の先には、口から血を流し、穏やかな表情で果てたブラナの姿があった。
 洗脳に苦しみながらも、自分のままで果てられたことへの満足からなのだろうか。それとも、自分の大好きなクロナに看取られながら死ねたことへの満足からだろうか。
 だが、どちらにせよ、クロナにとっては衝撃が大きすぎた。大切な人を目の前で失ったという悲しみは、まったくもって計り知れないのである。
「いやあああああっ!!」
 洞窟の中に、クロナの悲鳴が響き渡る。
 小さな頃からずっと一緒にいた、自分専属の侍女。どんな時でもそばにいて微笑みかけてくれた侍女。
 自分の周囲の環境が一変してからも、時々洗脳に抗いながらも気にかけてくれた侍女。
 クロナにとって自分の誇りともいえる侍女であるブラナ。そのブラナが、自分の前で息絶えてしまったのである。
 その場には、しばらくの間、クロナの大きな嗚咽が響き渡る。
 ブラナの体を支えるアサシンスパイダーや、生き残ったスチールアントたちが、クロナを心配して集まってくる。
 悲しみと悔しさに涙を流し続けるクロナに、しばらく声をかけられず、魔物たちはただただその様子を見守るしかなかった。