ep32 意味

ー/ー



  【9】


 被害を受けている建物の辺りまで来ると、ゆっくりと歩き出した。
 人はいない。おそらくこの場から逃げたのだろう。踏み荒らされた庭、傷つけられた壁が目に入る。火が上がっている建物もある。それらを見て、俺は直感した。

「魔法が、使われたんじゃないのか?」
 
 そうだ。よくよく考えたら、最初に屋敷に爆発音が鳴り響いて揺れたのも、魔法の攻撃によるものだったのでは?

「きゃあっ!」

 突然、少し離れたところから女の声が上がった。
 俺はピクッとして、声の方向へと走り出す。ふたつ建物を過ぎる。それから道を右へ折れると、仮面につなぎ姿のヤツが、地べたにへたり込む若い女性ふたりへ鈍器を向けている光景が現れる。

「だからさ〜。フリーダムは今、女っ気が少ないんだよ。是非、キミたちみたいな女子を募集してんのさ」

「い、イヤぁぁぁ!」 
「ひ、ひいぃぃぃ」

「ん?」と、そいつは駆け込んできた俺に気づいた。俺はそいつの後ろに、血を流して倒れている街の警察官数人の姿も確認する。
 
「オマエだれ? なに剣なんか持っちゃってんの? ヤル気なの?」

 そいつはゆっくりとこちらへ近づいてくる。俺は剣をダランと下げたまま、そいつを見据え、確信した。あのドレッドのヤツより、コイツはぜんぜん弱い。 

「なんかオマエ、ムカつくね」

 そいつは俺に鈍器を向けて凄んでくる。転瞬、そいつは俺に向かってバッと飛び込んできた。

「あっ…」

 しかしそいつは俺に触れることなく、誰もいない方向へと虚しく前のめりにバタッと倒れる。

「う……」

 そいつの背中にはじわっと暗い赤色が滲んでいる。俺が風のように背後へ回り込み、そいつの背中にズバッと一閃を浴びせたからだ。
 俺は確信した。

「やっぱり剣だけじゃない。剣を振るう俺自身も、特別な力を得ている……」

『そのとおりです』

『屋敷の時は無我夢中だったけど、これってどういうことなんだ?』

『それは、条件が揃ったからです』

『条件?』

『魔導剣と神の呪い。これが揃う時、その者は神をも殺す絶大な力を持つ可能性を得るのです』

『神をも殺すだって!? じゃあ今の俺って、いわゆるチートってこと? 昔そんな感じの作品をよく読んでいたけど……』

『あくまで可能性の話ですが。それにこんなものはまだまだ序の口です。今後どうなるかは、クロー様、貴方次第です』

「今後って……あと三ヶ月ぐらいの命なんだけどな…」

 呟いた時だった。

「あぶないっ!」と女性の叫び声が上がる。
 咄嗟に上方へ視線を切り替えると、つなぎ姿の仮面野郎どもが三人、屋根の上からバババッと俺に向かって飛びかかってきていた。
 普通に考えれば絶体絶命の大ピンチ。だが、俺はいたって余裕に剣を構え、発動する。

「特殊技能〔ニュンパ・ギャッシュ〕」
 
 それはごく自然に実行された。インストールされたアプリケーションが、プログラムに従って実行されるように。俺の身体は、一瞬の旋風のように反転し、剣は刹那に弧を描き、ヤツらを一閃のもとに斬り裂く。

「ぎゃあっ!.」

 ヤツらは無造作にドサッと地面に落下する。すべては秒の間に終了した。
 俺は剣を下ろすと、へたり込んだ二人の女性の方へ向いた。

「大丈夫だった?」

「た、助かったの? わたしたち……」
「こ、こわかったよぉ〜」

「良かった。助けることができて」

「あ、あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 女性ふたりは泣きながら懸命に感謝を示した。
 
「あ、いや、べつに……」

 戸惑ってしまった。俺は生まれてこのかた、こんなにも人から感謝されたことなど、ただの一度もなかったから。
 
「本当にありがとうございます!」
「ありがとうございます!」

 俺は今日、すでに何人を斬り伏せてしまっただろう。こんなこと、いくら相手が悪人だろうと、決して誇っていいもんじゃない。だけど……。

「ありがとうございますぅ……」
「うぐ……うぅ……」

 人を助けた。悪いヤツらから、俺の手で、人を守ったんだ。

「俺が、人を救った、のか……?」

 俺は俺の中で、なにかが芽生えたのを感じる。カラッポだった、俺の中で……。


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  【9】
 被害を受けている建物の辺りまで来ると、ゆっくりと歩き出した。
 人はいない。おそらくこの場から逃げたのだろう。踏み荒らされた庭、傷つけられた壁が目に入る。火が上がっている建物もある。それらを見て、俺は直感した。
「魔法が、使われたんじゃないのか?」
 そうだ。よくよく考えたら、最初に屋敷に爆発音が鳴り響いて揺れたのも、魔法の攻撃によるものだったのでは?
「きゃあっ!」
 突然、少し離れたところから女の声が上がった。
 俺はピクッとして、声の方向へと走り出す。ふたつ建物を過ぎる。それから道を右へ折れると、仮面につなぎ姿のヤツが、地べたにへたり込む若い女性ふたりへ鈍器を向けている光景が現れる。
「だからさ〜。フリーダムは今、女っ気が少ないんだよ。是非、キミたちみたいな女子を募集してんのさ」
「い、イヤぁぁぁ!」 
「ひ、ひいぃぃぃ」
「ん?」と、そいつは駆け込んできた俺に気づいた。俺はそいつの後ろに、血を流して倒れている街の警察官数人の姿も確認する。
「オマエだれ? なに剣なんか持っちゃってんの? ヤル気なの?」
 そいつはゆっくりとこちらへ近づいてくる。俺は剣をダランと下げたまま、そいつを見据え、確信した。あのドレッドのヤツより、コイツはぜんぜん弱い。 
「なんかオマエ、ムカつくね」
 そいつは俺に鈍器を向けて凄んでくる。転瞬、そいつは俺に向かってバッと飛び込んできた。
「あっ…」
 しかしそいつは俺に触れることなく、誰もいない方向へと虚しく前のめりにバタッと倒れる。
「う……」
 そいつの背中にはじわっと暗い赤色が滲んでいる。俺が風のように背後へ回り込み、そいつの背中にズバッと一閃を浴びせたからだ。
 俺は確信した。
「やっぱり剣だけじゃない。剣を振るう俺自身も、特別な力を得ている……」
『そのとおりです』
『屋敷の時は無我夢中だったけど、これってどういうことなんだ?』
『それは、条件が揃ったからです』
『条件?』
『魔導剣と神の呪い。これが揃う時、その者は神をも殺す絶大な力を持つ可能性を得るのです』
『神をも殺すだって!? じゃあ今の俺って、いわゆるチートってこと? 昔そんな感じの作品をよく読んでいたけど……』
『あくまで可能性の話ですが。それにこんなものはまだまだ序の口です。今後どうなるかは、クロー様、貴方次第です』
「今後って……あと三ヶ月ぐらいの命なんだけどな…」
 呟いた時だった。
「あぶないっ!」と女性の叫び声が上がる。
 咄嗟に上方へ視線を切り替えると、つなぎ姿の仮面野郎どもが三人、屋根の上からバババッと俺に向かって飛びかかってきていた。
 普通に考えれば絶体絶命の大ピンチ。だが、俺はいたって余裕に剣を構え、発動する。
「特殊技能〔ニュンパ・ギャッシュ〕」
 それはごく自然に実行された。インストールされたアプリケーションが、プログラムに従って実行されるように。俺の身体は、一瞬の旋風のように反転し、剣は刹那に弧を描き、ヤツらを一閃のもとに斬り裂く。
「ぎゃあっ!.」
 ヤツらは無造作にドサッと地面に落下する。すべては秒の間に終了した。
 俺は剣を下ろすと、へたり込んだ二人の女性の方へ向いた。
「大丈夫だった?」
「た、助かったの? わたしたち……」
「こ、こわかったよぉ〜」
「良かった。助けることができて」
「あ、あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
 女性ふたりは泣きながら懸命に感謝を示した。
「あ、いや、べつに……」
 戸惑ってしまった。俺は生まれてこのかた、こんなにも人から感謝されたことなど、ただの一度もなかったから。
「本当にありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
 俺は今日、すでに何人を斬り伏せてしまっただろう。こんなこと、いくら相手が悪人だろうと、決して誇っていいもんじゃない。だけど……。
「ありがとうございますぅ……」
「うぐ……うぅ……」
 人を助けた。悪いヤツらから、俺の手で、人を守ったんだ。
「俺が、人を救った、のか……?」
 俺は俺の中で、なにかが芽生えたのを感じる。カラッポだった、俺の中で……。