ep26 地下室

ー/ー



『どうも、ご無沙汰しておりました。クロー様』

 その声は、この世界に転生する前、溺死寸前の俺に囁きかけてきた声。この世界に転生したばかりの俺に、語りかけてきた声。
 なぜだろうか? 危機的状況にあるにもかかわらず、俺は奇妙なほどに落ち着いて、静かに思考で会話をはじめる……。

『今まで……この半年ぐらいの間、どこでなにをしていた?』

『話せば長くなりますが、まあそのようなことはどうでもよいことです』

『……相変わらず意味がわからないヤツだな。ぶっちゃけ、ほとんど忘れかけてたぞ? おまえのことなんか』

『それはご安心ください。貴方はワタクシを忘れることはできません』

『は?』

『それよりもクロー様。魔法です』

『そ、そうだ。それだよ。魔法ってなんだよ? そんなものがあるのか? この世界には』

『ございます』

『ちょちょちょっと待ってくれ。じゃあ半年もこっちに暮らしていてなんで俺はそれについて何も知らないんだ?』

『それはこの世界特有の事情なんでしょう。あるいは貴方特有の事情かもしれません』

『事情ってなんだよ?』

『そんなことよりも』

『なんだよ?』

『このままでは貴方、やられてしまいますよ』

『わ、わかってるよ! おまえと悠長に会話してる場合じゃないってこと!』

『ということで、今から貴方をお呼びします』

『は??』

 一瞬だ。謎の声が『お呼びします』と言った瞬間、俺は見たことのない部屋の中にいた。

『えっ? どうなってる?』

『ようこそ。秘密の地下室へ』

『ワープ? したのか?』

『ちょっとした空間転移です』

『空間転移!?』

 正直ここまで来ると、もはや何に驚けばいいのかすらわからなくなってくる。とにかく俺は、屋敷の二階から〔秘密の地下室〕とやらに〔空間転移〕したらしい。

『ここは……屋敷のどこかなのか?』

『そうですよ』

 そこは無装飾の実に殺風景な部屋で、室内の真ん中に腰丈ほどのテーブルが一台だけあり、その上には材質不明の長い長方形の箱と一冊の古びた本が置かれている。
 ひとつ不思議なのが……地下室という割には灯りもないのに、どういうわけか室内はボンヤリと明るい。俺はこの殺風景な地下室に、なにか不思議な、霊妙な感覚を覚える。

『ここはいったい……こんな部屋が屋敷にあったなんて、まったく知らなかったぞ?』

『さて、クロー様。今は危急の状況。細かい説明は割愛します。まずは…』

『いや待ってくれ!』

『はい?』

『どうやったのかは知らないが、パトリスも連れてきてくれよ! あともうひとり、メイドのロバータもどこかにいるんだ!』

『それは無理です。なぜなら、ワタクシが用があるのは貴方だけですから』

『そ、そんな、パトリスたちを助けないと!』

『……助けたいと、そう思うのですね?』

『そんなの当たり前だろ? パトリスたちだけは俺を見離さずにいてくれたんだ!』

『わかりました。では今からワタクシの言うとおりにしてください。さすれば貴方の望みも叶うことでしょう』

『お前の言うとおりに?』

『早速、テーブルの上に置いてある本を手に取り、それを服の中にでも大事にしまってください』

『本? その本を?』

 俺は、疑問をぶつけるどころか極めて従順に、謎の声に従うままに、本を手に取り服の中へしまった。本能? 直感? どちらでもない。言うなれば……抗いがたい何かの力が、そうさせるように……。
 
『これでいいか?』 

『はい。ちなみにそれが〔魔導書〕です』

『え? じゃあ、あの仮面のヤツはこれをよこせって言ってたのか?』

『どこでどう嗅ぎつけたのかは知りませんが、そういうことでしょう』

『……これをアイツに渡せば済むのか?』

『それはなりません。絶対に』

『なんで? 大事なもんなのか?』

『今は説明している暇がないのはおわかりですよね? さっさと次に移りますよ』

『わ、わかったよ。で?』

『次は箱を開けて、箱の中の物を手に取ってください』

 俺は箱の蓋を慎重に持ち上げて、横にズラして置いた。箱の中身は、くすんだ赤色の布切れが被さっていて確認できない。

「なんだろう……」

 布切れをそっと掴んで、クッと引いた。すると……

『これは……剣!?』


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次のエピソードへ進む ep27 魔導剣


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『どうも、ご無沙汰しておりました。クロー様』
 その声は、この世界に転生する前、溺死寸前の俺に囁きかけてきた声。この世界に転生したばかりの俺に、語りかけてきた声。
 なぜだろうか? 危機的状況にあるにもかかわらず、俺は奇妙なほどに落ち着いて、静かに思考で会話をはじめる……。
『今まで……この半年ぐらいの間、どこでなにをしていた?』
『話せば長くなりますが、まあそのようなことはどうでもよいことです』
『……相変わらず意味がわからないヤツだな。ぶっちゃけ、ほとんど忘れかけてたぞ? おまえのことなんか』
『それはご安心ください。貴方はワタクシを忘れることはできません』
『は?』
『それよりもクロー様。魔法です』
『そ、そうだ。それだよ。魔法ってなんだよ? そんなものがあるのか? この世界には』
『ございます』
『ちょちょちょっと待ってくれ。じゃあ半年もこっちに暮らしていてなんで俺はそれについて何も知らないんだ?』
『それはこの世界特有の事情なんでしょう。あるいは貴方特有の事情かもしれません』
『事情ってなんだよ?』
『そんなことよりも』
『なんだよ?』
『このままでは貴方、やられてしまいますよ』
『わ、わかってるよ! おまえと悠長に会話してる場合じゃないってこと!』
『ということで、今から貴方をお呼びします』
『は??』
 一瞬だ。謎の声が『お呼びします』と言った瞬間、俺は見たことのない部屋の中にいた。
『えっ? どうなってる?』
『ようこそ。秘密の地下室へ』
『ワープ? したのか?』
『ちょっとした空間転移です』
『空間転移!?』
 正直ここまで来ると、もはや何に驚けばいいのかすらわからなくなってくる。とにかく俺は、屋敷の二階から〔秘密の地下室〕とやらに〔空間転移〕したらしい。
『ここは……屋敷のどこかなのか?』
『そうですよ』
 そこは無装飾の実に殺風景な部屋で、室内の真ん中に腰丈ほどのテーブルが一台だけあり、その上には材質不明の長い長方形の箱と一冊の古びた本が置かれている。
 ひとつ不思議なのが……地下室という割には灯りもないのに、どういうわけか室内はボンヤリと明るい。俺はこの殺風景な地下室に、なにか不思議な、霊妙な感覚を覚える。
『ここはいったい……こんな部屋が屋敷にあったなんて、まったく知らなかったぞ?』
『さて、クロー様。今は危急の状況。細かい説明は割愛します。まずは…』
『いや待ってくれ!』
『はい?』
『どうやったのかは知らないが、パトリスも連れてきてくれよ! あともうひとり、メイドのロバータもどこかにいるんだ!』
『それは無理です。なぜなら、ワタクシが用があるのは貴方だけですから』
『そ、そんな、パトリスたちを助けないと!』
『……助けたいと、そう思うのですね?』
『そんなの当たり前だろ? パトリスたちだけは俺を見離さずにいてくれたんだ!』
『わかりました。では今からワタクシの言うとおりにしてください。さすれば貴方の望みも叶うことでしょう』
『お前の言うとおりに?』
『早速、テーブルの上に置いてある本を手に取り、それを服の中にでも大事にしまってください』
『本? その本を?』
 俺は、疑問をぶつけるどころか極めて従順に、謎の声に従うままに、本を手に取り服の中へしまった。本能? 直感? どちらでもない。言うなれば……抗いがたい何かの力が、そうさせるように……。
『これでいいか?』 
『はい。ちなみにそれが〔魔導書〕です』
『え? じゃあ、あの仮面のヤツはこれをよこせって言ってたのか?』
『どこでどう嗅ぎつけたのかは知りませんが、そういうことでしょう』
『……これをアイツに渡せば済むのか?』
『それはなりません。絶対に』
『なんで? 大事なもんなのか?』
『今は説明している暇がないのはおわかりですよね? さっさと次に移りますよ』
『わ、わかったよ。で?』
『次は箱を開けて、箱の中の物を手に取ってください』
 俺は箱の蓋を慎重に持ち上げて、横にズラして置いた。箱の中身は、くすんだ赤色の布切れが被さっていて確認できない。
「なんだろう……」
 布切れをそっと掴んで、クッと引いた。すると……
『これは……剣!?』