ep25 危機

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 肩越しにそいつから目が離せなくなる。本当は一秒でも早くこの場から逃げなきゃいけないはずなのに。
 俺はそいつへの不吉な興味を振り払うようにバッと前を向く。それから足を踏み出そうとすると…ハッとして動作を中断した。

「アイツ……ぼくたちって、言わなかったか?」
 
 確かに言ったぞ。ぼくたちって。ということは……

「まさか!」

 途端に俺は部屋を飛び出して廊下を走り階段まで行くと、急停車する。下階から「仮面のヤツらが!」上がってきたからだ。俺の思考はさらにせわしく駆けめぐる。
 あのドレッドのヤツ以外にも何人いるんだ? 全部で何人なんだ? ヤツらは組織なのか? 何のために来た? そういえば、なんか言っていたぞ。魔導書……とか言ってなかったか? 魔導書ってなんだ?
 ああクソッ! 考えれば考えるほどわけがわからない!
 とにかくどうする? これじゃ逃げられないぞ? ああどうしよう。わからない。わからない! 怖い怖い!

「パトリス……!」

 気がついたら俺は無我夢中で部屋にUターンしていた。パトリスの傍へ戻りたくて。だが、部屋に戻った俺の目に映ったものは、絶望だった。

「!」

 執事姿の白髪の年配男性が、絨毯を赤黒く染め、うつ伏せに倒れている。すぐそばにはドレッドヘアーがのぞく仮面の男がしゃがんでいて、ぬらりとこちらを見てくる。

「パトリス……?」

「ぼ、ぼっちゃま……」

 眼前の現実に頭と心が追いつかない。

「パトリス? ど、どうしたんだよ? いったい……」

「早く、ぼっちゃまだけでもお逃げください……」

「パトリス、パトリス!」

 狼狽の只中の俺に向かって、そいつが例の質問を投げてきた。

「魔導書は、どこ?」

「パトリス! パトリス!」

「そうじゃなくてさ。魔導書は、どこ?」

「パトリスをどうした? なにをしたんだ!?」

「先に質問してんのこっちなんだけどなぁ」

「お、おまえが、やったのか!?」

「てかさ? 教えてくんないと、キミもこのおじさんみたいになっちゃうよ?」

「!」

 ここでようやく、俺は現実を理解し始める。
 そいつは魔導書とやらを探している。なぜ俺たちに訊くのか、それはわからない。ただ、パトリスはそいつにやられた。そいつの質問に答えられなかったからだろう。俺も魔導書なんてものはまったく知らない。ということは、俺もやられる……?

「ま、魔導書って、いいいったい、な、なんなんだ?」

 恐怖でうまく呂律がまわらない。
 そいつは俺を不気味にじ〜っと見て、つまらなそうに言う。

「知らない? ホントに? マジ?」

「ま、まま、マジで……」

「ほーう?」

「わ、わわわからないから、こ、答えようが、ない、というか」

「魔法についての書物だよ。しかもトクベツな、ね」

「ま、まほう?」

 その言葉に思わず俺は硬直する。魔法? なにそのファンタジーな単語。ますますわけがわからない。と俺の混乱がいっそう加速した時だった。
 
『魔法は存在します』

「!」

 突然、俺の頭の中に謎の声が響く。途端に俺は靄が吹き飛んだかのように混乱を忘れ、はたとする。その声が、聞き覚えのある声だったから。


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 肩越しにそいつから目が離せなくなる。本当は一秒でも早くこの場から逃げなきゃいけないはずなのに。
 俺はそいつへの不吉な興味を振り払うようにバッと前を向く。それから足を踏み出そうとすると…ハッとして動作を中断した。
「アイツ……ぼくたちって、言わなかったか?」
 確かに言ったぞ。ぼくたちって。ということは……
「まさか!」
 途端に俺は部屋を飛び出して廊下を走り階段まで行くと、急停車する。下階から「仮面のヤツらが!」上がってきたからだ。俺の思考はさらにせわしく駆けめぐる。
 あのドレッドのヤツ以外にも何人いるんだ? 全部で何人なんだ? ヤツらは組織なのか? 何のために来た? そういえば、なんか言っていたぞ。魔導書……とか言ってなかったか? 魔導書ってなんだ?
 ああクソッ! 考えれば考えるほどわけがわからない!
 とにかくどうする? これじゃ逃げられないぞ? ああどうしよう。わからない。わからない! 怖い怖い!
「パトリス……!」
 気がついたら俺は無我夢中で部屋にUターンしていた。パトリスの傍へ戻りたくて。だが、部屋に戻った俺の目に映ったものは、絶望だった。
「!」
 執事姿の白髪の年配男性が、絨毯を赤黒く染め、うつ伏せに倒れている。すぐそばにはドレッドヘアーがのぞく仮面の男がしゃがんでいて、ぬらりとこちらを見てくる。
「パトリス……?」
「ぼ、ぼっちゃま……」
 眼前の現実に頭と心が追いつかない。
「パトリス? ど、どうしたんだよ? いったい……」
「早く、ぼっちゃまだけでもお逃げください……」
「パトリス、パトリス!」
 狼狽の只中の俺に向かって、そいつが例の質問を投げてきた。
「魔導書は、どこ?」
「パトリス! パトリス!」
「そうじゃなくてさ。魔導書は、どこ?」
「パトリスをどうした? なにをしたんだ!?」
「先に質問してんのこっちなんだけどなぁ」
「お、おまえが、やったのか!?」
「てかさ? 教えてくんないと、キミもこのおじさんみたいになっちゃうよ?」
「!」
 ここでようやく、俺は現実を理解し始める。
 そいつは魔導書とやらを探している。なぜ俺たちに訊くのか、それはわからない。ただ、パトリスはそいつにやられた。そいつの質問に答えられなかったからだろう。俺も魔導書なんてものはまったく知らない。ということは、俺もやられる……?
「ま、魔導書って、いいいったい、な、なんなんだ?」
 恐怖でうまく呂律がまわらない。
 そいつは俺を不気味にじ〜っと見て、つまらなそうに言う。
「知らない? ホントに? マジ?」
「ま、まま、マジで……」
「ほーう?」
「わ、わわわからないから、こ、答えようが、ない、というか」
「魔法についての書物だよ。しかもトクベツな、ね」
「ま、まほう?」
 その言葉に思わず俺は硬直する。魔法? なにそのファンタジーな単語。ますますわけがわからない。と俺の混乱がいっそう加速した時だった。
『魔法は存在します』
「!」
 突然、俺の頭の中に謎の声が響く。途端に俺は靄が吹き飛んだかのように混乱を忘れ、はたとする。その声が、聞き覚えのある声だったから。