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第2楽章〜アダージョ〜⑩

ー/ー



 同日 午後3時〜

 〜白草四葉の想い〜

「はい、確認オッケーで〜す! 本日の撮影は終了となります。みなさん、お疲れさまでした」

 撮影現場を取り仕切る藤川さんの声に、わたしは、胸を撫で下ろす。
 順調に行けば午前中で終了するだった撮影は、時間が伸びてしまい、結局、午後の時間まで終わることはなかった。

 香盤表(こうばんひょう)と呼ばれる撮影のタイムスケジュールを記載した一覧表は、わたしとともに、今日の撮影に参加する予定だった名和立花(めいわりっか)ちゃんを被写体にするスケジュールで組まれていた。
 そのために、急遽の予定変更を余儀なくされた影響で、衣装やメイクを準備する段取りに時間が掛かってしまい(なにしろ、立花ちゃんが着て撮影する予定だった衣装もわたしが着ることになった)、カメラ撮影が思ったように進まなかったのだ。

 屋外の撮影は、どうしても、天候に左右されてしまう。

 撮影の開始時は、雲ひとつない快晴だった空も太陽が登るにつれて少しずつ増えて行く雲に陽射しが遮られる時間帯が出来たため、十分な光量を得られず、待機時間も増えたため、午前中にすべての撮影を終えることは出来なかった。

 立花ちゃんが撮影に参加できず、わたし一人でのお仕事になったため、撮影時間も短くなるだろう、と楽観視していた自分の認識は甘かったと認めざるを得ない。

 それでも、立花ちゃんが突然、撮影に参加できなくなったこと自体も含めて、撮影スケジュールが大幅に変更になってしまったトラブルを、今後のお仕事に活かせる貴重な経験になったと割り切って、わたしは、気持ちを切り替えることにした。
 
 なにより、お昼のケータリングのお弁当は美味しかったし、そのランチタイムを雪乃と共有できたことは、嬉しいことで、撮影スタッフのみんなと打ち解けた彼女は、

「今後の資料のために被写体になってよ」

というリクエストに応じて、何度かカメラの前に立って、シャッターを切ってもらっていたのだ。

 もともと、色白で可愛らしい顔立ちの雪乃には、今日のロケーションは合っていたと思うし、自分と親しい女子が、プロの人たちに認められるのは、なんだか喜ばしい気持ちになる。

 戸惑いながらも、撮影班の要望に応じながらポーズを取ったりしている雪乃の姿を微笑ましく見守りながら、わたしは、彼女を今日の撮影現場に誘って、本当に良かった、と感じていた。

 撮影のお仕事が終了し、宿泊先であるペンションにロケ車で送ってもらう間、可愛い後輩に、今日の撮影見学の感想をたずねてみる。

「今日は、朝早くから撮影について来てもらったけど……実際に現場を見て、どうだった?」

「その……ヨツバちゃんのお仕事の場所に一緒に居るというだけで緊張していたけんども……ヨツバちゃんが、実際にお仕事をしている現場を見ることが出来て、勉強になったことが、とっても多かったべ」

「そっか、良かった……ちなみに、雪乃が勉強になったと思ったのは、どんなこと? 良かったら聞かせてくれないかな?」

「それは……なかなか、うまく言えないけんども……ポスターの撮影には、大勢の人が関わって進められるということが、具体的に良くわかったべ。カメラマンの人、メイクや衣装係の人、撮影の準備をする機材係の人、スケジュール管理をする人―――。広報部でも同じような作業をすることも多いけど、やっぱり、プロの人達の仕事ぶりはスゴイ……と、あらためて感じたべな」

「―――だそうですよ、藤川さん。皆さんのお仕事の素晴らしさは、やっぱり、どんな人にも伝わるんですね」

 今日のロケーションコーディネートを行ってくれたスタッフの皆さんに、感謝の意志を示すため、下級生の言葉を伝えると、代表者の藤川さんが笑顔で応じる。

「こんな可愛いコに褒められると、やっぱ、気持ちが上がるなぁ。今日は、えぇ仕事が出来たって気になるわ。藤本ちゃん、光石さんに、宮野さんの写真も送っておいて。今後のロケの参考にしてもらおう」

「はい、了解です」

 わたしの言葉で、気を良くしたのか、コーディネーターの藤川さんは、カメラマンの藤本さんに雪乃を撮影した画像のデータを古都乃さんに回すように伝えた。雪乃は、立花ちゃんが着るはずだった衣装に着替えて撮影をしてもらっていたので、用意した衣装が御蔵入りにならずに済んだことも幸運だったかも知れない。

 思わぬ予定変更はあったものの、想像以上に気分良くお仕事を終えることができたことに満足しながら、わたしたちは、撮影場所から車で5分程の場所にあるペンションの駐車場でロケ車から下ろしてもらう。

 ラズベリーファーム白咲と名付けられたペンションは、可愛らしいネーミングそのままに、オシャレで愛らしい白色の本館とバンガロー風のコテージが並ぶスタイリッシュな施設だった。

 今夜は、このコテージで夕陽を眺めながら、バーベキューをいただく予定だ。

 せっかくのお肉料理なのに、男子が居ないことを少しだけ寂しく感じつつも、その相手とは明日、会いに行こうと考えて、今日のところは、この素晴らしい場所でお仕事の疲れを癒やすことに決めた。


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 同日 午後3時〜
 〜白草四葉の想い〜
「はい、確認オッケーで〜す! 本日の撮影は終了となります。みなさん、お疲れさまでした」
 撮影現場を取り仕切る藤川さんの声に、わたしは、胸を撫で下ろす。
 順調に行けば午前中で終了するだった撮影は、時間が伸びてしまい、結局、午後の時間まで終わることはなかった。
 |香盤表《こうばんひょう》と呼ばれる撮影のタイムスケジュールを記載した一覧表は、わたしとともに、今日の撮影に参加する予定だった|名和立花《めいわりっか》ちゃんを被写体にするスケジュールで組まれていた。
 そのために、急遽の予定変更を余儀なくされた影響で、衣装やメイクを準備する段取りに時間が掛かってしまい(なにしろ、立花ちゃんが着て撮影する予定だった衣装もわたしが着ることになった)、カメラ撮影が思ったように進まなかったのだ。
 屋外の撮影は、どうしても、天候に左右されてしまう。
 撮影の開始時は、雲ひとつない快晴だった空も太陽が登るにつれて少しずつ増えて行く雲に陽射しが遮られる時間帯が出来たため、十分な光量を得られず、待機時間も増えたため、午前中にすべての撮影を終えることは出来なかった。
 立花ちゃんが撮影に参加できず、わたし一人でのお仕事になったため、撮影時間も短くなるだろう、と楽観視していた自分の認識は甘かったと認めざるを得ない。
 それでも、立花ちゃんが突然、撮影に参加できなくなったこと自体も含めて、撮影スケジュールが大幅に変更になってしまったトラブルを、今後のお仕事に活かせる貴重な経験になったと割り切って、わたしは、気持ちを切り替えることにした。
 なにより、お昼のケータリングのお弁当は美味しかったし、そのランチタイムを雪乃と共有できたことは、嬉しいことで、撮影スタッフのみんなと打ち解けた彼女は、
「今後の資料のために被写体になってよ」
というリクエストに応じて、何度かカメラの前に立って、シャッターを切ってもらっていたのだ。
 もともと、色白で可愛らしい顔立ちの雪乃には、今日のロケーションは合っていたと思うし、自分と親しい女子が、プロの人たちに認められるのは、なんだか喜ばしい気持ちになる。
 戸惑いながらも、撮影班の要望に応じながらポーズを取ったりしている雪乃の姿を微笑ましく見守りながら、わたしは、彼女を今日の撮影現場に誘って、本当に良かった、と感じていた。
 撮影のお仕事が終了し、宿泊先であるペンションにロケ車で送ってもらう間、可愛い後輩に、今日の撮影見学の感想をたずねてみる。
「今日は、朝早くから撮影について来てもらったけど……実際に現場を見て、どうだった?」
「その……ヨツバちゃんのお仕事の場所に一緒に居るというだけで緊張していたけんども……ヨツバちゃんが、実際にお仕事をしている現場を見ることが出来て、勉強になったことが、とっても多かったべ」
「そっか、良かった……ちなみに、雪乃が勉強になったと思ったのは、どんなこと? 良かったら聞かせてくれないかな?」
「それは……なかなか、うまく言えないけんども……ポスターの撮影には、大勢の人が関わって進められるということが、具体的に良くわかったべ。カメラマンの人、メイクや衣装係の人、撮影の準備をする機材係の人、スケジュール管理をする人―――。広報部でも同じような作業をすることも多いけど、やっぱり、プロの人達の仕事ぶりはスゴイ……と、あらためて感じたべな」
「―――だそうですよ、藤川さん。皆さんのお仕事の素晴らしさは、やっぱり、どんな人にも伝わるんですね」
 今日のロケーションコーディネートを行ってくれたスタッフの皆さんに、感謝の意志を示すため、下級生の言葉を伝えると、代表者の藤川さんが笑顔で応じる。
「こんな可愛いコに褒められると、やっぱ、気持ちが上がるなぁ。今日は、えぇ仕事が出来たって気になるわ。藤本ちゃん、光石さんに、宮野さんの写真も送っておいて。今後のロケの参考にしてもらおう」
「はい、了解です」
 わたしの言葉で、気を良くしたのか、コーディネーターの藤川さんは、カメラマンの藤本さんに雪乃を撮影した画像のデータを古都乃さんに回すように伝えた。雪乃は、立花ちゃんが着るはずだった衣装に着替えて撮影をしてもらっていたので、用意した衣装が御蔵入りにならずに済んだことも幸運だったかも知れない。
 思わぬ予定変更はあったものの、想像以上に気分良くお仕事を終えることができたことに満足しながら、わたしたちは、撮影場所から車で5分程の場所にあるペンションの駐車場でロケ車から下ろしてもらう。
 ラズベリーファーム白咲と名付けられたペンションは、可愛らしいネーミングそのままに、オシャレで愛らしい白色の本館とバンガロー風のコテージが並ぶスタイリッシュな施設だった。
 今夜は、このコテージで夕陽を眺めながら、バーベキューをいただく予定だ。
 せっかくのお肉料理なのに、男子が居ないことを少しだけ寂しく感じつつも、その相手とは明日、会いに行こうと考えて、今日のところは、この素晴らしい場所でお仕事の疲れを癒やすことに決めた。