ep20 半年後
ー/ー
そろそろ半年が過ぎる。当然だが、こちらの世界にも季節があり、最近は徐々に肌寒くなってきている。といっても、そんなことはどうだっていい。このまま俺は、残りわずかな時間を遊び尽くすだけなんだから。
そんなある日だった。これから出かけようと玄関へ向かう俺に、空いたグラスを盆に乗せてパトリスが声をかけてきた。
「ぼっちゃま。本日付でまたひとり、使用人が辞めました」
「あ、そう」
「ぼっちゃま」
「なに?」
「もうこの屋敷に残っているのは、執事の私とメイドのロバータだけです」
「だから?」
「ですから、その……」
「人が足りないなら誰か雇えばいーじゃん」
「それは、難しいことです」
「なんで?」
「それは……」
「主の俺がもう長くないからだろ?」
「……」
「わかったわかった。パーティーのときは俺が他から専用スタッフを連れてくるから」
「……ぼっちゃま」
「なんだよ? もう出かけたいんだけど」
「本当に、よろしいんですか?」
「なんのハナシ?」
「本当にこのまま、続けるんですか?」
「続けるって? パーティーのこと?」
「本当にそれで、よろしいんですか?」
「な、なんだよ? いきなり……」
俺を見るパトリスの顔は、すごく寂しそうな、悲しそうな、憐れむような、そんな顔だった。俺は胸のどこかで嫌な感覚をおぼえると、すぐに空いたグラスへ視線を落とす。
「……」
グラスにはヒビが入っている。たぶん、俺がさっき落としたときに付いたものだろう。それが不思議と俺の目につき、わずかの間それを見つめる。
俺は空っぽのグラスのヒビに向かって話しかけるように口をひらいた。
「と、とにかく! 俺は出かけてくる! 今日は戻らないから!」
逃げるように家を飛び出した。
「ああクソッ!」
なんだよ、その顔は。そんな目で見ないでくれよ! 俺は俺のやりたいようにやっているだけなのに!
「テンションが下がっちまったじゃねえか! これからオンナと会うってのに! 胸をモヤモヤさせんじゃねーよ!」
俺は街の中心部まで突っ走っていった。特段、急ぐ必要なんてなかったのに。
夜になる。俺はオンナの家のソファーで、金髪のカワイコちゃんとイチャイチャする。先日のパーティーで唾をつけておいたコだ。
「お父さんもお母さんもいない今夜は、俺が朝まで警備するから安心しなよ?」
「けいび、だけ?」
「じゃあ、ちくびも?」
「やだぁ、ヘンタイ」
「ならやめる?」
「いじわるー」
「カワイイ子には、ついイジワルしたくなるんだ。こんなふうにね」
「あっ……あん……」
いつもどおりのはじまり。これからすることも、いつもとさして変わらない。
「どう……ねえ……」
「ん……あっ……あぁ!」
下らないやり取りをしてから、もっと下らないことをしていく。相手が変わろうと、時と場所が変わろうと、実質大差なんてない。
俺はいつもどおり、オンナの服を脱がせていく。やがてオンナは仰向けになり、次のいつもどおりを待つ。俺も次のいつもどおりへと移行していく。が……
『本当にそれで、よろしいんですか?』
突如、執事のパトリスの言葉が緊急速報のよに頭にひびく。
「……!」
俺はハッとして、彼女から体を離した。
「……どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
「そう? じゃあ、はやく……」
「う、うん」
「……ねえ? どうしたの?」
「い、いや」
「もう、またイジワルするぅ。ジらさないで」
「あ、と、その……」
「?」
「ご、ゴメン。今日はもう、やめようかな」
「えっ?」
「な、なんか、体調わるいのかな」
「そうなの? だいじょーぶ?」
「と、とにかく、今日はもう……」
その後、俺はテキトーな言い訳をこしらえて、さっさと彼女の家を後にした。無性に、少しでも早く、ひとりになりたかったから。……。
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そんなある日だった。これから出かけようと玄関へ向かう俺に、空いたグラスを盆に乗せてパトリスが声をかけてきた。
「ぼっちゃま。本日付でまたひとり、使用人が辞めました」
「あ、そう」
「ぼっちゃま」
「なに?」
「もうこの屋敷に残っているのは、執事の私とメイドのロバータだけです」
「だから?」
「ですから、その……」
「人が足りないなら誰か雇えばいーじゃん」
「それは、難しいことです」
「なんで?」
「それは……」
「主の俺がもう長くないからだろ?」
「……」
「わかったわかった。パーティーのときは俺が他から専用スタッフを連れてくるから」
「……ぼっちゃま」
「なんだよ? もう出かけたいんだけど」
「本当に、よろしいんですか?」
「なんのハナシ?」
「本当にこのまま、続けるんですか?」
「続けるって? パーティーのこと?」
「本当にそれで、よろしいんですか?」
「な、なんだよ? いきなり……」
俺を見るパトリスの顔は、すごく寂しそうな、悲しそうな、憐れむような、そんな顔だった。俺は胸のどこかで嫌な感覚をおぼえると、すぐに空いたグラスへ視線を落とす。
「……」
グラスにはヒビが入っている。たぶん、俺がさっき落としたときに付いたものだろう。それが不思議と俺の目につき、わずかの間それを見つめる。
俺は空っぽのグラスのヒビに向かって話しかけるように口をひらいた。
「と、とにかく! 俺は出かけてくる! 今日は戻らないから!」
逃げるように家を飛び出した。
「ああクソッ!」
なんだよ、その顔は。そんな目で見ないでくれよ! 俺は俺のやりたいようにやっているだけなのに!
「テンションが下がっちまったじゃねえか! これからオンナと会うってのに! 胸をモヤモヤさせんじゃねーよ!」
俺は街の中心部まで突っ走っていった。特段、急ぐ必要なんてなかったのに。
夜になる。俺はオンナの家のソファーで、金髪のカワイコちゃんとイチャイチャする。先日のパーティーで唾をつけておいたコだ。
「お父さんもお母さんもいない今夜は、俺が朝まで警備するから安心しなよ?」
「けいび、だけ?」
「じゃあ、ちくびも?」
「やだぁ、ヘンタイ」
「ならやめる?」
「いじわるー」
「カワイイ子には、ついイジワルしたくなるんだ。こんなふうにね」
「あっ……あん……」
いつもどおりのはじまり。これからすることも、いつもとさして変わらない。
「どう……ねえ……」
「ん……あっ……あぁ!」
下らないやり取りをしてから、もっと下らないことをしていく。相手が変わろうと、時と場所が変わろうと、実質大差なんてない。
俺はいつもどおり、オンナの服を脱がせていく。やがてオンナは仰向けになり、次のいつもどおりを待つ。俺も次のいつもどおりへと移行していく。が……
『本当にそれで、よろしいんですか?』
突如、執事のパトリスの言葉が緊急速報のよに頭にひびく。
「……!」
俺はハッとして、彼女から体を離した。
「……どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
「そう? じゃあ、はやく……」
「う、うん」
「……ねえ? どうしたの?」
「い、いや」
「もう、またイジワルするぅ。ジらさないで」
「あ、と、その……」
「?」
「ご、ゴメン。今日はもう、やめようかな」
「えっ?」
「な、なんか、体調わるいのかな」
「そうなの? だいじょーぶ?」
「と、とにかく、今日はもう……」
その後、俺はテキトーな言い訳をこしらえて、さっさと彼女の家を後にした。無性に、少しでも早く、ひとりになりたかったから。……。