ep14 恋

ー/ー



 午後。 
 遅めの昼食をすませ、少し休んでから俺は出かけた。どうも家にいるのが嫌だったから。
 執事のパトリスやメイド達が、なにかを言いたげな顔で俺を見てきたことが原因じゃない。ただ、室内で悶々とするのが嫌だったから。

「なんで、告白したりしたんだろう……」

 街に向かってトボトボと歩きながら早くも後悔の念に支配される。まだ転生二日目なのに。あらためて自分で自分がイヤになる。
 
「言わなきゃよかった……」

 しかし、そうもいかなかったんだ。

「ナオミが、しぬほどカワイイから……」

 俺はすっかりナオミに心を奪われてしまっている自分に気づいた。あんなカワイイ女の子、元の世界でも見たことがない。

「そんなコと、俺は……」

 街外れの屋敷から街の中へと向かっていく道すがら、ナオミのことを考えて俺の胸は、きゅっと締めつけられる。

「また、会いたいなぁ……」

 俺のハートは、ナオミに強奪されてしまった。女の鉤爪に鷲掴みにされた俺の心臓は、恋の大空へと持ち去られてしまったのだ。つい昨日まで「豪遊する!」などと息巻いていた自分は、心臓とともに一体どこへ行ってしまったんだ。

「人生の最後で、ナオミみたいな女の子と付き合えたら、もうそれだけでも充分なのに……」

 しまいにはそんなことまで思ってしまう自分がいる。自分で自分にビックリだ。俺ってこんな人間だったのか?
 しかし、ナオミの気持ちはどうなんだろう。朝起きてからのあの態度。明らかに俺の感情との間には温度差がある。
 付き合うのは無理なのかな……。
 それに、よくよく考えてみれば、俺みたいな死にかけのヤローと付き合って幸せになれるわけがないんだよな。ナオミにとってはいい迷惑でしかないはずだ。
 わかっている。わかっているんだよ、そんなことは。俺だってそこまでバカじゃない。
 でも、それでも……
「せめてもう一回だけでも、会いたい」という気持ちは、抑えがたいものだった。
 
 空は晴れ渡っている。
 昨日出かけた時はすでに夜だったので、こちらの世界に来てからはじめてマトモに太陽の光を浴びたかもしれない。

「街に行けば、またナオミに会えるかも……」

 午後の陽射しを体いっぱいに受けながら、根拠のない期待に胸を膨らませて小走りになる。

「はっ、はっ、はっ」

 自分で自分が滑稽だ。わかっている。でも、いいんだ。
 どうせ残り少ない人生。恋するままに生きてみるっていうのも、悪くないんじゃないかって。

「ハッ、ハッ、ハッ」

 でも、これって恋なのか?
 経験の乏しい俺には今ひとつ判断がつかない。そもそも一晩を共にしただけだぞ?
 いや違う。
 一晩を共にしてしまったんだ! 俺には天地を覆す大事件なんだ!

「ハッ! ハッ! ハッ!」

 彼女のぬくもりが忘れられない。
 声も、息づかいも、潤んだ瞳も、濡れた唇も、肌と肌の感触も。腕も、脚も、指も、首すじも、髪の毛も、なやましい肢体、そのすべてが……

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 けっこう走ってしまった。もうだいぶ街の中心部近くまで来たと思う。まわりの風景も、店やら馬車やら人やらで賑わってきている。

「ハァ、ハァ、ハァ……とりあえず、どこかに入って少し休もうかな……」

 額の汗をぬぐいながら辺りを見まわし、適当なカフェを見いだして入店した。
 席に着き、注文した飲み物が運ばれてくる。グラスに口をつけ、昨夜ナオミと一緒にカンパイしたときのことを思い浮かべた。

「やっぱり……行くか」

 グラスをコトっと置くと、決心した。今夜もまたあのエールハウスに行くことを。
 もはや俺の想いは誰にも止められない。
 恋の列車は、各駅でも急行でも特急でもない。終着駅まで止まらない、恋のリニアモーターカーだ。……リニアモーターカーって、途中停車しないものなのか?


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む ep15 友達


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 午後。 
 遅めの昼食をすませ、少し休んでから俺は出かけた。どうも家にいるのが嫌だったから。
 執事のパトリスやメイド達が、なにかを言いたげな顔で俺を見てきたことが原因じゃない。ただ、室内で悶々とするのが嫌だったから。
「なんで、告白したりしたんだろう……」
 街に向かってトボトボと歩きながら早くも後悔の念に支配される。まだ転生二日目なのに。あらためて自分で自分がイヤになる。
「言わなきゃよかった……」
 しかし、そうもいかなかったんだ。
「ナオミが、しぬほどカワイイから……」
 俺はすっかりナオミに心を奪われてしまっている自分に気づいた。あんなカワイイ女の子、元の世界でも見たことがない。
「そんなコと、俺は……」
 街外れの屋敷から街の中へと向かっていく道すがら、ナオミのことを考えて俺の胸は、きゅっと締めつけられる。
「また、会いたいなぁ……」
 俺のハートは、ナオミに強奪されてしまった。女の鉤爪に鷲掴みにされた俺の心臓は、恋の大空へと持ち去られてしまったのだ。つい昨日まで「豪遊する!」などと息巻いていた自分は、心臓とともに一体どこへ行ってしまったんだ。
「人生の最後で、ナオミみたいな女の子と付き合えたら、もうそれだけでも充分なのに……」
 しまいにはそんなことまで思ってしまう自分がいる。自分で自分にビックリだ。俺ってこんな人間だったのか?
 しかし、ナオミの気持ちはどうなんだろう。朝起きてからのあの態度。明らかに俺の感情との間には温度差がある。
 付き合うのは無理なのかな……。
 それに、よくよく考えてみれば、俺みたいな死にかけのヤローと付き合って幸せになれるわけがないんだよな。ナオミにとってはいい迷惑でしかないはずだ。
 わかっている。わかっているんだよ、そんなことは。俺だってそこまでバカじゃない。
 でも、それでも……
「せめてもう一回だけでも、会いたい」という気持ちは、抑えがたいものだった。
 空は晴れ渡っている。
 昨日出かけた時はすでに夜だったので、こちらの世界に来てからはじめてマトモに太陽の光を浴びたかもしれない。
「街に行けば、またナオミに会えるかも……」
 午後の陽射しを体いっぱいに受けながら、根拠のない期待に胸を膨らませて小走りになる。
「はっ、はっ、はっ」
 自分で自分が滑稽だ。わかっている。でも、いいんだ。
 どうせ残り少ない人生。恋するままに生きてみるっていうのも、悪くないんじゃないかって。
「ハッ、ハッ、ハッ」
 でも、これって恋なのか?
 経験の乏しい俺には今ひとつ判断がつかない。そもそも一晩を共にしただけだぞ?
 いや違う。
 一晩を共にしてしまったんだ! 俺には天地を覆す大事件なんだ!
「ハッ! ハッ! ハッ!」
 彼女のぬくもりが忘れられない。
 声も、息づかいも、潤んだ瞳も、濡れた唇も、肌と肌の感触も。腕も、脚も、指も、首すじも、髪の毛も、なやましい肢体、そのすべてが……
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 けっこう走ってしまった。もうだいぶ街の中心部近くまで来たと思う。まわりの風景も、店やら馬車やら人やらで賑わってきている。
「ハァ、ハァ、ハァ……とりあえず、どこかに入って少し休もうかな……」
 額の汗をぬぐいながら辺りを見まわし、適当なカフェを見いだして入店した。
 席に着き、注文した飲み物が運ばれてくる。グラスに口をつけ、昨夜ナオミと一緒にカンパイしたときのことを思い浮かべた。
「やっぱり……行くか」
 グラスをコトっと置くと、決心した。今夜もまたあのエールハウスに行くことを。
 もはや俺の想いは誰にも止められない。
 恋の列車は、各駅でも急行でも特急でもない。終着駅まで止まらない、恋のリニアモーターカーだ。……リニアモーターカーって、途中停車しないものなのか?