ep7 エールハウス
ー/ー 【4】
「ぼっちゃま? 今から外出ですか?」
「ああ」
「どちらに?」
「街だよ。街の中心には繁華街もあるんだろ?」
「し、しかし、お身体は?」
「このとおり元気だよ。さっきがっつりメシも食ってただろ?」
「え、ええ、まあ」
「以前の……記憶を失う前のことはわからないが、今は元気なんだ。だから心配すんな」
「な、なら、私めも…」
「来なくていい。ひとりで行きたいんだ」
ウソじゃなかった。本当に俺=クローは、びっくりするぐらい元気にピンピンしていた。とはいっても、パトリスが心配するのも無理はない。その原因は〔神の呪い〕だけではなかった。
数日前のこと。突然フラついたクローが階段からころげ落ちて頭を打つという事件があったらしい。それから一度も目を覚まさずに今日に至っていたというのだ。
確かに大事件だ。下手すりゃ〔神の呪い〕に関係なく命を落とした可能性もある。だが、少なくとも今の俺は元気そのものだ。
通常、このような状況であれば、たとえ目を覚ましても体力や筋力等の低下により動くのもシンドくなりそうなものだ。しかしまったくそんなことはない。むしろベストコンディションといっても良い。
これが転生による効果なのかどうかはわからないが、俺にとってこんなに都合の良いことはない。執事がいかに心配しようとも、俺の活動は止められない。なぜなら人生の残された時間は少ないんだ。家でゆっくりなどしていられるわけがあるか!
「じゃあ、行ってくる」
派手すぎないシンプルだが上等な服に着替え、俺は夜の繁華街へと馬車を走らせていった。
馬車の窓から街中を眺めると、現代的ではない、前近代的な灯りに照らされた街並みが目に映った。まるで外国映画のワンシーンのような映像が移りゆき、頭の中では自然とBGMが流れてきそうになる。
やがて馬車を降りて外に出れば「むかしの西洋世界にタイムスリップしてきたような……」風景が広がっていた。なんだかヒストリカルファンタジーの主人公にでもなった気分になってくる。
俺は異国情緒に胸ふくらませ〔神の呪い〕のことなどは頭の隅に追いやる。そうしてワクワクしながら小洒落たエールハウス(酒場)まで、使用人に案内させた。
「クローさま。本当におひとりで大丈夫で?」
「なんだ、お前もパトリスと同じことを言うんだな?」
「そ、それは……」
「いいから、あとは馬車に戻って待っていてくれればいい」
「は、はい。では、こちらが街一番のエールハウスです」
「おう」
街一番というだけあり、大きな屋敷のような立派な建物だ。鎧戸やカーテンで窓から中が見えなくなっているが……。
「たしかにここであれば安全でありましょう。評判も良く、貴族の人間がお忍びで訪れることもあるそうです。それこそおひとりで足を運ぶ御婦人もいらっしゃると聞きます。とはいえ、当然いろんな方がいらっしゃるでしょうから、変な輩を見つけたときはくれぐれもお気をつけください」
安心できる情報を使用人は寄越してくれた。
「元の世界でいうところの…クラブ的な感じなのかな? それともパブってやつ? よう知らんけど」
「は?」
「いや、なんでもない。じゃあまたあとでな」
「あっ、クローさま…」
まだなにか言いたそうな使用人を振りきり、俺は街一番のエールハウスとやらのドアを開け、足を踏み入れていった。今更うだうだしている場合ではない。
「広いな……テープル席もあるけど、壁ぎわ以外はスタンディングがメインなんだな……」
広い店内、大人しく飲んでいる者もいれば愉快にステップを踏む者もいる。艶やかに着飾る女性もいればそれをハントするように見つめる男性もいる。すでにずいぶんと仲良くやっている男女もいる。店内はたくさんのヒトと音と酒のニオイが入りまじり、夜に華やいでいた。
「ヒト、たくさんいるな……」
みんな、この街の人間なのだろうか。楽しそうにしてるなぁ。俺以外にお一人様の客はいるのかな……。
「と、とりあえず一杯たのむか…」
俺はおずおずとバーカウンターに進んだ。おずおずとするのは別にビビっているワケではない。こういう空間に慣れていないだけだ。たぶん……。
「いらっしゃいませ」
「あっ、ええと、び、ビールください……」
酒を注文しながら、俺は早くも自覚する。自分が明らかに気後れしていることに。ついさっきまで「豪遊するぞ」などとエラそうに意気込んでいたくせに、俺はなんなんだ。
グラスを受け取って近くのカウンター席に座ると、ぼんやりと転生前の自分を思い浮かべた。
「よくよく考えたら、こういうパリピがワイワイするよーな所に来てどーこーすること自体、今までなかったよな……」
そう。上級陰キャの俺には経験がなかった。いわゆるアソビってやつの経験が!
見た目やステータスや生きる世界が変わったからといって、しょせん中身はダメダメ中年の俺なんだ。人生残りあと僅かだとわかっていても、俺は相も変わらず煮えきらないんだな……。
「ぼっちゃま? 今から外出ですか?」
「ああ」
「どちらに?」
「街だよ。街の中心には繁華街もあるんだろ?」
「し、しかし、お身体は?」
「このとおり元気だよ。さっきがっつりメシも食ってただろ?」
「え、ええ、まあ」
「以前の……記憶を失う前のことはわからないが、今は元気なんだ。だから心配すんな」
「な、なら、私めも…」
「来なくていい。ひとりで行きたいんだ」
ウソじゃなかった。本当に俺=クローは、びっくりするぐらい元気にピンピンしていた。とはいっても、パトリスが心配するのも無理はない。その原因は〔神の呪い〕だけではなかった。
数日前のこと。突然フラついたクローが階段からころげ落ちて頭を打つという事件があったらしい。それから一度も目を覚まさずに今日に至っていたというのだ。
確かに大事件だ。下手すりゃ〔神の呪い〕に関係なく命を落とした可能性もある。だが、少なくとも今の俺は元気そのものだ。
通常、このような状況であれば、たとえ目を覚ましても体力や筋力等の低下により動くのもシンドくなりそうなものだ。しかしまったくそんなことはない。むしろベストコンディションといっても良い。
これが転生による効果なのかどうかはわからないが、俺にとってこんなに都合の良いことはない。執事がいかに心配しようとも、俺の活動は止められない。なぜなら人生の残された時間は少ないんだ。家でゆっくりなどしていられるわけがあるか!
「じゃあ、行ってくる」
派手すぎないシンプルだが上等な服に着替え、俺は夜の繁華街へと馬車を走らせていった。
馬車の窓から街中を眺めると、現代的ではない、前近代的な灯りに照らされた街並みが目に映った。まるで外国映画のワンシーンのような映像が移りゆき、頭の中では自然とBGMが流れてきそうになる。
やがて馬車を降りて外に出れば「むかしの西洋世界にタイムスリップしてきたような……」風景が広がっていた。なんだかヒストリカルファンタジーの主人公にでもなった気分になってくる。
俺は異国情緒に胸ふくらませ〔神の呪い〕のことなどは頭の隅に追いやる。そうしてワクワクしながら小洒落たエールハウス(酒場)まで、使用人に案内させた。
「クローさま。本当におひとりで大丈夫で?」
「なんだ、お前もパトリスと同じことを言うんだな?」
「そ、それは……」
「いいから、あとは馬車に戻って待っていてくれればいい」
「は、はい。では、こちらが街一番のエールハウスです」
「おう」
街一番というだけあり、大きな屋敷のような立派な建物だ。鎧戸やカーテンで窓から中が見えなくなっているが……。
「たしかにここであれば安全でありましょう。評判も良く、貴族の人間がお忍びで訪れることもあるそうです。それこそおひとりで足を運ぶ御婦人もいらっしゃると聞きます。とはいえ、当然いろんな方がいらっしゃるでしょうから、変な輩を見つけたときはくれぐれもお気をつけください」
安心できる情報を使用人は寄越してくれた。
「元の世界でいうところの…クラブ的な感じなのかな? それともパブってやつ? よう知らんけど」
「は?」
「いや、なんでもない。じゃあまたあとでな」
「あっ、クローさま…」
まだなにか言いたそうな使用人を振りきり、俺は街一番のエールハウスとやらのドアを開け、足を踏み入れていった。今更うだうだしている場合ではない。
「広いな……テープル席もあるけど、壁ぎわ以外はスタンディングがメインなんだな……」
広い店内、大人しく飲んでいる者もいれば愉快にステップを踏む者もいる。艶やかに着飾る女性もいればそれをハントするように見つめる男性もいる。すでにずいぶんと仲良くやっている男女もいる。店内はたくさんのヒトと音と酒のニオイが入りまじり、夜に華やいでいた。
「ヒト、たくさんいるな……」
みんな、この街の人間なのだろうか。楽しそうにしてるなぁ。俺以外にお一人様の客はいるのかな……。
「と、とりあえず一杯たのむか…」
俺はおずおずとバーカウンターに進んだ。おずおずとするのは別にビビっているワケではない。こういう空間に慣れていないだけだ。たぶん……。
「いらっしゃいませ」
「あっ、ええと、び、ビールください……」
酒を注文しながら、俺は早くも自覚する。自分が明らかに気後れしていることに。ついさっきまで「豪遊するぞ」などとエラそうに意気込んでいたくせに、俺はなんなんだ。
グラスを受け取って近くのカウンター席に座ると、ぼんやりと転生前の自分を思い浮かべた。
「よくよく考えたら、こういうパリピがワイワイするよーな所に来てどーこーすること自体、今までなかったよな……」
そう。上級陰キャの俺には経験がなかった。いわゆるアソビってやつの経験が!
見た目やステータスや生きる世界が変わったからといって、しょせん中身はダメダメ中年の俺なんだ。人生残りあと僅かだとわかっていても、俺は相も変わらず煮えきらないんだな……。
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