ep6 クロー・ラキアード

ー/ー



  【3】


 執事のパトリスの話から、おおよそ己の状況がわかった。
 まず、俺=クロー・ラキアードという人物は、予想どおり資産家の息子だった。しかも、二年前から一年前にかけて、立て続けに両親を病気で亡くし、その遺産をひとりで相続したらしい。 
 父が亡くなってからは、若いながらもまわりに助けられながら父親の事業を受け継いで頑張っていたクロー。しかし〔神の呪い〕の病を患うと、共同経営者に事業のすべてを譲渡。それに伴い、クローは自身の療養のことも考えて住居を移すことを希望する。
 クロー自身は詳しくは語らなかったようだが「もはや先が短いとわかった今、見知った人や場所が近くにあることが逆にツラかったのでしょう」と、パトリスは語っていた。
 そしてラキアード家のツテから、隣の隣の街の街外れにあるこの家「以前はとある貴族が住んでいた古いけれど立派なお屋敷」の紹介を受け、気に入ったクローは即断。直ちに引っ越すことになる。
 それからは街の喧騒を離れたこの屋敷で、代々ラキアード家に仕えていた執事のパトリス他数名の使用人達とだけで、クローは静かに暮らしていたのだった……。

 ……とまあ、クローの状況は大体こんなところであった。
 必要なことは概ね知ることができたように思う。だが、俺が知りたかったことは他にもあった。
 それはクローにまつわる話ではない。ここが「安全な社会かどうか」という事だ。
 これはとても重要な点だ。お金やルールといった社会の仕組みのこともあるが、第一はそこだ。
 まず、今いるこの世界は(陳腐な表現だが)どうやら中世ヨーロッパのような文明レベルの世界だと思われる。社会の仕組みもそれに準じたものと考えていいだろう。
 では、肝心の「安全かどうか」の問題はというと……
 どうやら大丈夫そうだった。
 なんでも、一年前に大きな戦争が終わってからはすっかり平和になったということだ。身の危険が身近に迫るような戦争や紛争や飢饉が起こっていたりしたらイヤだな~と心配していたが、杞憂にすぎたみたいで良かった。
 ちなみに、いま住んでいるこの街は、小都市ではあるものの経済的に豊かで、インフラ整備や住環境も整っており、治安が良いことでも有名らしい。この事実も、俺にさらなる安心感を与えた。

 さて……。

 こんな世界にあって、若い資産家の青年である俺。金はもちろん、ルックスもイイ感じだ。
 これらの事実から「好き放題ヤるのにこんな都合のイイ状況はあるのか?」と、俺は下腹部をムラつかせ…否、眼をギラつかせた。
 どうせあとは死んでいくだけ。俺が死んだ後のことは、すでにパトリスがあれこれ考えてくれていて、他の使用人たちもそれに従うのだろう。
 もちろん、それまでのクローの人となりだとか人間関係だとか、まだまだ気になることは多分にあった。でも、クローはもともと病気がちで交友関係が狭く、事業に携わった短期間以外では人とそれほど関わっていなかったみたいなので、そこらへんのことも、あまり注意する必要はないのかもしれない。
 いや、そんなものはどーでもいいんだ。そんなものは全部、記憶喪失ってことでなんとでもなるんだ。
 
 とにかく……。

 俺は遊び尽くすんだ。元のダメダメな俺にはできなかったような遊びを。
 そうだ。豪遊だ。豪遊しまくってやるんだ!
 俺はムラムラと…否、メラメラと闘志を燃やした。


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  【3】
 執事のパトリスの話から、おおよそ己の状況がわかった。
 まず、俺=クロー・ラキアードという人物は、予想どおり資産家の息子だった。しかも、二年前から一年前にかけて、立て続けに両親を病気で亡くし、その遺産をひとりで相続したらしい。 
 父が亡くなってからは、若いながらもまわりに助けられながら父親の事業を受け継いで頑張っていたクロー。しかし〔神の呪い〕の病を患うと、共同経営者に事業のすべてを譲渡。それに伴い、クローは自身の療養のことも考えて住居を移すことを希望する。
 クロー自身は詳しくは語らなかったようだが「もはや先が短いとわかった今、見知った人や場所が近くにあることが逆にツラかったのでしょう」と、パトリスは語っていた。
 そしてラキアード家のツテから、隣の隣の街の街外れにあるこの家「以前はとある貴族が住んでいた古いけれど立派なお屋敷」の紹介を受け、気に入ったクローは即断。直ちに引っ越すことになる。
 それからは街の喧騒を離れたこの屋敷で、代々ラキアード家に仕えていた執事のパトリス他数名の使用人達とだけで、クローは静かに暮らしていたのだった……。
 ……とまあ、クローの状況は大体こんなところであった。
 必要なことは概ね知ることができたように思う。だが、俺が知りたかったことは他にもあった。
 それはクローにまつわる話ではない。ここが「安全な社会かどうか」という事だ。
 これはとても重要な点だ。お金やルールといった社会の仕組みのこともあるが、第一はそこだ。
 まず、今いるこの世界は(陳腐な表現だが)どうやら中世ヨーロッパのような文明レベルの世界だと思われる。社会の仕組みもそれに準じたものと考えていいだろう。
 では、肝心の「安全かどうか」の問題はというと……
 どうやら大丈夫そうだった。
 なんでも、一年前に大きな戦争が終わってからはすっかり平和になったということだ。身の危険が身近に迫るような戦争や紛争や飢饉が起こっていたりしたらイヤだな~と心配していたが、杞憂にすぎたみたいで良かった。
 ちなみに、いま住んでいるこの街は、小都市ではあるものの経済的に豊かで、インフラ整備や住環境も整っており、治安が良いことでも有名らしい。この事実も、俺にさらなる安心感を与えた。
 さて……。
 こんな世界にあって、若い資産家の青年である俺。金はもちろん、ルックスもイイ感じだ。
 これらの事実から「好き放題ヤるのにこんな都合のイイ状況はあるのか?」と、俺は下腹部をムラつかせ…否、眼をギラつかせた。
 どうせあとは死んでいくだけ。俺が死んだ後のことは、すでにパトリスがあれこれ考えてくれていて、他の使用人たちもそれに従うのだろう。
 もちろん、それまでのクローの人となりだとか人間関係だとか、まだまだ気になることは多分にあった。でも、クローはもともと病気がちで交友関係が狭く、事業に携わった短期間以外では人とそれほど関わっていなかったみたいなので、そこらへんのことも、あまり注意する必要はないのかもしれない。
 いや、そんなものはどーでもいいんだ。そんなものは全部、記憶喪失ってことでなんとでもなるんだ。
 とにかく……。
 俺は遊び尽くすんだ。元のダメダメな俺にはできなかったような遊びを。
 そうだ。豪遊だ。豪遊しまくってやるんだ!
 俺はムラムラと…否、メラメラと闘志を燃やした。