裏切り者への裁定と極限の当番制を経て、六龍盟約軍は、仇敵カインが率いる帝国軍残党との総力戦へと突入した。
戦場となったのは、帝都から東方約100kmに位置する、帝国軍の最後の軍事要塞都市『アイアン・フォート』。カインは、帝都を放棄し、皇帝と皇太子レオナルドを伴ってこの地に立てこもり、帝国に残されたすべてのDSW(対竜特化兵器(Dragon Specialized Weapons)と正規軍の残存兵力、そして旧ドラゴンスレイヤー教団の魔導師団を結集させた、最終防衛線を構築していた。
ヒカルの「戦場の視覚化」が捉える敵の総兵力は、約20万。対する盟約軍の総兵力(竜族兵と人類兵の合計)は約6万と、純粋な兵士の数だけ見れば三倍以上の絶望的な劣勢に直面していた。
(この数字の裏側にある戦力差を、カインは理解しているはずだ)
盟約軍の司令部は、最前線から遠く離れた山岳地帯に設置されている。
ヒカルは、玉座に座るレヴィア、テラ、ルーナ、ヴァルキリア、セフィラ、アクアの六龍姫を前に、最終的な戦略を告げた。
「カインは、DSWを集中配備している。奴の狙いは、我々のユニゾンという非線形な力を、多数のDSWによる線形な火力で圧倒し、愛の調律の無力化を証明することだ」
ヒカルの脳裏で、盟約軍の真の戦力が数値として展開される。竜族の一般兵ですら、その戦闘力指数(BPI)は人間兵の50倍に相当する。姫や六天将クラス(BPI 200〜500超)の傑出した個体能力が、この圧倒的な数の劣勢を覆すのだ。DSWとは、その非合理な竜族の力を、人類が知恵と憎悪で打ち消すために開発した兵器に他ならない。
蒼玉の理性竜姫アクアが、冷静な瞳で戦略盤の魔力分布図を指し示す。
「王よ。DSWは、我々の炎や水のブレスに対する防御は完璧です。正面からの力押しは、膨大な兵力の消耗に繋がります」
「だが、DSWの防御構造は、憎悪と信仰を核とする光の魔力に依存している。DSWの真の防御は、聖女アリアの憎悪の結界と同じ論理で構築されている」
ヒカルは、アクアとエルダー・ソフス、そしてルーナに視線を送った。
「DSWの防御を打ち破るには、我々がこれまでに確立した知恵の盾。すなわち、憎悪の結晶を浄化するユニゾンが不可欠だ」
紅蓮の激情竜姫レヴィアは、カインの姑息な戦略に激しく反応した。
「チッ、姑息な謀略家め! 正々堂々と戦うこともできないのか! 夫よ、私の激情の炎で、DSWの防御など一瞬で焼き尽くさせてくれなければ、気が済まないわ!」
ヒカルは、レヴィアの激情を鎮火させるように諭した。
「レヴィア。お前の炎は、最高の矛だ。だが、その炎は、DSWの憎悪を増幅させる燃料にもなりかねない。この戦いは、力ではなく知恵の証明だ。お前には、最大の忍耐を命ずる」
「ううう、我慢するわよ……」
◇◆◇◆◇
ヒカルは、作戦の核となる三龍ユニゾンの構成と、一番槍の栄誉をフレアに与えることを宣言した。
「DSWの防御を打ち破るユニゾンの核は、光・土・水の三属性だ。ルーナの光が憎悪を浄化し、テラの土が防御の基盤を固定し、アクアの水が知恵と論理のベクトルを与える」
「エルダー・ソフス。DSWの論理的な弱点を突くユニゾンの配合比の分析は完了したか?」
学術顧問のエルダー・ソフスが、ルーナとアウラの隣で恭しく応じた。
「御意、王よ。DSWは、光属性の魔力構成を核としております。DSWの防御機構の論理的なバグは、三元聖盾浄化《トライアド・シールド・ピュリフィケーション》によって上書き可能です。成功率は95%と、理論的に極めて高い数値にございます」
ヒカルは、その論理的な成功確率を、炎の六天将の贖罪の愛で現実のものにすることを決意する。
「爆炎龍将軍フレア! 以前約束した通り、今回、貴様の一番槍の栄誉を与える!」
フレアは、最前線での武功を命じられたことに、贖罪の炎を燃やした。
「王よ! 御意! シエル、私は王への忠誠心を、武功で証明する!」
フレアが控え室へと向かおうとすると、ヒカルは呼び止めた。
「待て、フレア。前にも言ったが、一番槍は、いきなりの特攻ではない。まずは、DSWの射程外から、お前の炎の部隊が、 DSWの魔導士団に最も大きな心理的プレッシャーを与えることだ。お前の炎の力は、DSWのターゲットを分散させるための王の陽動として使われる」
「な、なるほど……」
「特攻されて兵が命を落とすのは本末転倒。お前の忠誠心は、無駄な命の消耗ではなく、まずはDSWの論理的な計算を狂わせるために使ってくれ!」
ヒカルの言葉は、フレアの命への配慮と、彼の武功への最大級の信頼を示していた。
しかし、フレアの背中は、武人としての「一番槍は先陣を切るもの」という不満を、わずかに滲ませていた。言葉にはしないが、その熱い炎を抑えつけられることへの不満が、態度として現れていた。
ヒカルは、フレアの瞳の奥にある武人としての誇りを見抜いた。そして、その意思をはっきりとフレアに伝えて、彼の能力を最大限に引き出した。
「ただし、フレア。DSWの機能が停止し、敵の陣に穴が空いた瞬間、貴様は迷わず突撃し、敵の統制を破壊せよ! それが、お前が最も得意とする、愛の激情による戦場のかき回しだ。この二重の任務こそが、お前への真の信頼であり、一番槍の栄誉だ! そして、それができるのは、わが軍において、お前しかいないと、俺は確信している!」
「おお! 承知いたしました! 王の期待、いえ、それ以上の成果を上げて見せます!!」
そしてヒカルは、戦場での躍動を心待ちにしている疾風の遊撃竜姫セフィラに視線を向けた。
「そしてセフィラ。DSWの浄化は、三龍ユニゾンで開始するが、貴様は待機だ」
「ええー、つまんなーい」
疾風の遊撃竜姫セフィラは、頷きながらも、一番槍のフレアと同様に、明確な「自分も戦いたい」という愛の不満を滲ませていた。
ヒカルは、セフィラの不満も見抜く。
「浄化が成功し、DSWが機能不全に陥った瞬間、貴様はユニゾンに加わる。光・土・水の浄化の波動を、お前の風の愛で戦場全体に超高速で拡散させる。DSWの完全な機能停止、そして敵指揮系統への動揺の浸透。四龍ユニゾンによる、知恵の決定打(ダメ押し)が、お前の真の任務だ!」
「つまり、私が作戦の核、ということ?」
「そうだ! 貴様の働きが、この軍の命運を担っていると心せよ!!」
「ふっふっふ。流石は団長! 私の使いどころよく分かってるよ!」
セフィラは、遊撃だけではない、ユニゾンの「ダメ押し」という重要な役割を命じられたことに、満足げな微笑みを浮かべた。
◇◆◇◆◇
盟約軍の最前線。フレアの炎龍部隊による大規模な陽動が開始され、カインのDSW部隊の射撃は分散した。その隙に、ヒカルはユニゾンの核となる三龍姫を前線に展開した。
「ルーナ! テラ! アクア! ユニゾン発動! 三元聖盾浄化だ!」
ヒカルの愛の指揮棒が振り下ろされる。三人の竜姫の愛の音色が、完璧な和音を奏でた。
純白の調和聖女ルーナ(ホルン)の光の和声が、憎悪のノイズを浄化し、磐石の守護龍テラ(チェロ)の重厚な低音が防御の基盤を固定。そして、蒼玉の理性竜姫アクア(クラリネット)が、理知的な対旋律でユニゾンのベクトルをDSWの論理的弱点へと精密に誘導する。
和音は、静謐で崇高な長三和音(メジャー・トライアド:F-A-C)を形成。破壊の力ではなく、慈愛に満ちた浄化の響きが、DSWの防御結界へと浸透していく。DSWの一部が機能不全に陥り、前線に隙間が生じる。
「馬鹿な……! 破壊のブレスではない! なぜ、防御結界が内側から論理的に崩壊していく!」
カインが驚愕に声を上げる、その瞬間。ヒカルの愛の指揮棒が、最高の高揚と共に振り上げられた。
「仕上げだ! セフィラ! ユニゾンを四極拡散浄化《クアッドラ・ディフュージョン・ピュリフィケーション》に切り替えろ!」
疾風の遊撃竜姫セフィラ(ヴァイオリン/フルート)の、高らかで自由なG音(ソ)の愛の音色が、ユニゾンに加わる。光・土・水の三和音(F-A-C)は、セフィラの風の調律によって、F-Major-Add9(F-A-C-G)という、優しさと高揚に満ちた拡張和音へと進化する。
この高次の調和が、爆発的に増幅し、音速を超えて戦場全体へと拡散した。
「四龍ユニゾン! 浄化の波動が、戦場の隅々にまで! ユニゾンが、戦闘中に進化するだと!」
DSWの防御構造は、愛の浄化という非合理な知恵の前に、論理的な防御を失い、次々と機能を停止していった。DSWの脅威は去り、盟約軍はカインの最終防衛線を突破した。この勝利は、力ではなく知恵、そして憎悪ではなく愛が最強の盾であることを、カインに突きつけたのだった。
◇◆◇◆◇
DSWの無力化が完了した直後、ヒカルは全軍に最後の指令を下した。
「全軍に告ぐ! 四極拡散浄化は完了した! これより、フレアを中心に六天将を先鋒とする総攻撃に移行する!」
ヒカルの愛の指揮棒は、DSW突破後の戦場のかき乱しと、兵力の圧倒的優位を覆すための、緻密な連携を指示した。
「爆炎龍将軍フレア! 貴様の出番だ! 敵陣中央へ突撃し、火力を集中させよ!」
フレアは、待望の突撃命令に、贖罪の炎を歓喜の咆哮へと変えた。彼の炎龍部隊は、DSWが沈黙した戦場を、一瞬で炎の地獄へと変える。
「疾風の遊撃竜姫セフィラ! 空虚の斥候王ゼファー! 貴様たちの高速機動力で、敵指揮系統の遮断と情報の攪乱を徹底せよ! 敵の退却ルートを封鎖しろ!」
セフィラとゼファーの遊撃隊は、敵の指揮官と伝達網を狙い、自由奔放な動きで戦場全体を混乱させる。
「闇の特務機関長ヴァルキリア! 漆黒の工作師シェイド! 貴様たちの闇の忠誠心で、皇帝と皇太子レオナルドの所在を特定し、捕縛せよ! 敵の最高権威を確保するのだ!」
ヴァルキリアとシェイドは、闇の結界を張り、カインの警護を潜り抜けるための、裏工作へと移行する。
「不動の防衛将ガイア! ユグドラ! 貴様たちはテラの防御基盤を維持し、盟約軍の側面を護れ! 敵の敗残兵によるゲリラ戦術を許すな!」
ガイアとユグドラは、テラと連携し、盟約軍の防御と兵站を磐石に固める。
そして、ヒカルは、要塞都市『アイアン・フォート』の外郭に展開していた辺境12国連合軍へと、通信魔力を通じて最後の指令を送った。
「総帥リヒター! 貴殿の武力と誇り、今こそお借りいたします! 盟約軍が突破した穴から、人類連合軍を突入させ、帝国の残存兵力に最後の圧力をかけよ!」
総帥リヒターは、DSWの沈黙と竜族の圧倒的な個体能力による突破を見て、ヒカルの「優しさの統治」が武力として最強であることを確信した。
「盟約の王よ! 御意! 我々人類連合軍が、王の平和を勝ち取る最後の盾となろう!」
人類連合軍は、リヒターの号令と共に要塞都市へと突入。竜族の圧倒的な個体能力とユニゾンによる知恵の勝利、そして人類連合軍の物量が連携し、カインの最終防衛線は総崩れとなった。
【第78話へ続く】