第七十六話:極限の当番制と愛の契約
ー/ー
裏切り者への絆の鉄則の裁定が下されてから、一夜が明けた。
中央広場での極刑という闇の執行の直後にもかかわらず、ヒカルの居室である『調和の座』の最上階は、純白の調和聖女ルーナの魔力による静謐な光に包まれていた。ヒカルは、疲弊した心身をテラの食事によるケアと、ルーナの調律で回復させていた。
しかし、その安寧は長くは続かない。ヒカルの「絆の共感者」は、一つの激しい激情の音色が、他の全ての竜姫の愛の音色を圧倒せんとしているのを感知した。
扉を乱暴に開けて入室してきたのは、紅蓮の激情竜姫レヴィアだった。彼女は戦闘服のまま、怒りとも歓喜ともつかない炎の魔力を解放し、ヒカルの寝台の傍らまで歩み寄る。
「夫ォオオオオオオ!」
レヴィアの激情は、ルーナの調律の光すらも焼き尽くさんばかりの熱量を持つ。
「あの人間の女(リリア)の地味な献身のMVPを認めた屈辱は、まだ忘れていないわ! そして、貴方はあの場で約束したでしょう!」
レヴィアはヒカルの胸元に顔を埋め、彼の体温と鼓動を確かめるように強く抱きついた。
「MVPに代わる過剰なスキンシップの独占を、今夜、私に許可すると! 裏切りの膿を出し切った今、貴方の心身を癒やせるのは、我の激情という名の愛だけよ! 他の女の甘い光や冷たい論理など、貴方には不要だわ!」
レヴィアの要求は、ヒカルの「精神的安寧」というルーナの独占領域への明確な侵略であり、愛の独占という名の王の心身の支配権の要求だった。
◇◆◇◆◇
レヴィアの要求は、他の王妃たちを黙らせるほどに情熱的で強烈だったが、その激しさは、ヒカルの心身の消耗を無視している。
その時、ヒカルの部屋に、静かな愛を司る三人の姫たちが、それぞれの「王の安寧を護る義務」を主張するために現れた。
まず口を開いたのは、磐石の守護龍テラだった。彼女はレヴィアの激情を母性的な愛で静かに牽制する。
「レヴィア姉上様。貴女の激情は、主の心身を焦がします。王の肉体的安寧は、わらわの献身という名の生命維持の基盤が独占すべき。貴女の過剰なスキンシップは、王の軍務遂行能力を低下させる非合理的行動です!」
テラは、自分の献身こそが、王の持続可能性を保証する最高の愛だと主張した。
純白の調和聖女ルーナは、テラと連携しつつ、自身の精神的独占を主張する。
「レヴィア姉さま。王の魂の楽譜は、私が調律の責任がありますわ。裏切り者の刑の執行という重い決断を実行された今、貴女の激情は、王の精神的な安寧を乱すさらなるノイズとなりかねません。王の心は、わたくしの光の献身が独占してこそ保たれるのです!」
ルーナの言葉は、レヴィアの愛の形そのものを「戦略的リスク」として断罪した。
「テラ、ルーナもいい度胸じゃない!?」
「レヴィア姉様がわがままなだけですわ。ねえ、ルーナ」
「そうよ、そうよ。当番制とMVPはみんなで決めたルールですわ」
そして、深淵の孤高竜姫ヴァルキリアさえもが、孤高の威圧感を放ちながら口を開いた。
「フン。貴様らの愛の衝突は、契約者(ヒカル)の安寧を乱す。王の命を狙うカインの謀略は、まだ終わっていない。私は、王の闇の護衛として、王の安寧という資産の裏側を護る義務がある。当番制の乱れは、私の孤高の忠誠が許容できない」
ヴァルキリアの主張は、王の安寧が「闇の特務機関の最重要軍務」であることを強調し、他の姫たちへの静かな牽制となった。
◇◆◇◆◇
ヒカルは、六龍姫の愛の奔流が、王国の存続という種の存続計画に直結していることを理解していた。レヴィアの火力(激情)、テラの防御(肉体)、ルーナの調律(精神)、ヴァルキリアの防諜(闇)、どれ一つ欠けても、カインとの最終決戦に勝利できない。
(愛の調律とは、一貫性ではない。この場で、誰か一人を選び、他の愛を否定することは、軍の火力そのものを暴走させることだ……)
ヒカルは、意を決して、王の孤独な決断を王の義務として下した。
「静粛に、俺の最強の妻たちよ!」
ヒカルは、レヴィアの燃えるような瞳を正面から見据えた。
「レヴィア。貴様の激情は、王の火力を最大化する最高の燃料だ。MVPに代わる過剰なスキンシップの要求、王の義務として許可しよう。ただし、王の安寧の持続可能性も、王国の最優先事項だ。それが損なわれるようなら受け入れられない!」
ヒカルは、他の三人の姫たちに向き直る。
「故に、今夜の『過剰なスキンシップ』は、レヴィアの激情を鎮火させ、戦場での火力の暴走を防ぐための戦略的な調律としてやむを得ない。一方で、テラ、ルーナ、ヴァルキリア。貴様たちの愛の義務は、この調律を護る盾となれ!」
ヒカルの裁定は、レヴィアの要求を「戦略的な軍務」として昇華させることで、他の姫たちの不満を「王の防衛義務」という論理で封じ込めた。
「テラは、まず夜明けまで肉体的安寧を独占する。ルーナは、そのあと午前中いっぱい王の精神的安寧を、ヴァルキリアは午後の時間で闇の防諜を、それぞれ独占する。レヴィアの激情は、その三人の愛の防御の中で複数回の時間を設けよう。俺という王の心身に愛の和音を刻むのだ! これでいいか!?」
テラ、ルーナ、ヴァルキリアは、ヒカルの裁定が自らの愛の役割を最も重要な義務として位置づけたことに満足し、静かに頷いた。レヴィアは、一番頻回に独占の権利を勝ち取った喜びに全身を震わせ、ヒカルを抱きついた。
レヴィアの激情が最高潮に達した瞬間、ヒカルは最後の冷徹な一言を投げかけた。
「ただし、レヴィア。その激情が、もし王の命の安寧を乱すノイズとなり、今後も王妃たちの愛の調和を乱し続けると判断した場合は――貴様の当番の頻度を、最低限まで論理的に減らすことも考えざるを得ない」
ヒカルの言葉は、レヴィアの「王の愛の独占」という最も本能的な欲望に、「当番の削減」という最も残酷な戦略的脅威を突きつけた。
レヴィアの炎の魔力が、狂喜から絶望へと一瞬で転化する。
「そ……それは、ダメェエエエエエエ!!!」
レヴィアは、その場に乙女のように泣き崩れた。その激しい悲鳴は、ヒカルの当番の削減という罰則への、絶対的な恐怖を体現していた。
「わ、わかったわ! 夫よ! 貴方の裁定に、二度と異を唱えない! 我の愛は、貴方の命を護る最高の盾となる! だから、だから当番だけは、お願い、減らさないで! 約束よ!」
レヴィアは、王の義務という名の愛の論理に完全に降伏した。ヒカルは、レヴィアの激情を当番の頻度という最も有効な戦略的資源で制御することに成功したのだ。
ヒカルは、激情の鎮火に成功したレヴィアの頭を優しく撫で、最大限の賛辞を送った。
「ああ、それでこそ俺の妻だ。レヴィア、お前は本当に物分かりが良くて可愛いな」
「あぁ……夫よ! ごめんなさい。やはり、貴方の愛の調律は、最高の戦略だわ! 私の激情は、貴方の愛の盾の中で、最高の火力を生むのだわ!」
この極限の当番制は、カインとの最終決戦を前に、六龍姫の愛の形を「王の義務」という強固な絆へと調律し、盟約軍の士気を最高潮に高めた。
(レヴィアの激情を鎮火したのではない。俺は、彼女の純粋な愛の形を、「当番」という名の鎖で縛り付けただけだ。愛を戦略的資源として利用し、竜姫たちの最も深い本能(独占欲)を、王の支配のために使った。この孤独な決断こそが、王の義務であり、俺の優しさが最も歪む瞬間だ。愛の調律の音色は完璧でも、王の孤独は深まるばかりだ……)
ヒカルは、王の義務としての愛の調律の重圧に耐えながら、明日の最終決戦へと意識を集中させるのだった。
(今回は、なんとか詭弁を用いて納得させたが、こんなこと続けていたらいつか破綻するな……。体力も精神力も人間のままでは限界だ……)
【第77話へ続く】
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しかし、その安寧は長くは続かない。ヒカルの「絆の共感者」は、一つの激しい激情の音色が、他の全ての竜姫の愛の音色を圧倒せんとしているのを感知した。
扉を乱暴に開けて入室してきたのは、紅蓮の激情竜姫レヴィアだった。彼女は戦闘服のまま、怒りとも歓喜ともつかない炎の魔力を解放し、ヒカルの寝台の傍らまで歩み寄る。
「夫ォオオオオオオ!」
レヴィアの激情は、ルーナの調律の光すらも焼き尽くさんばかりの熱量を持つ。
「あの人間の女(リリア)の地味な献身のMVPを認めた屈辱は、まだ忘れていないわ! そして、貴方はあの場で約束したでしょう!」
レヴィアはヒカルの胸元に顔を埋め、彼の体温と鼓動を確かめるように強く抱きついた。
「MVPに代わる過剰なスキンシップの独占を、今夜、私に許可すると! 裏切りの膿を出し切った今、貴方の心身を癒やせるのは、我の激情という名の愛だけよ! 他の女の甘い光や冷たい論理など、貴方には不要だわ!」
レヴィアの要求は、ヒカルの「精神的安寧」というルーナの独占領域への明確な侵略であり、愛の独占という名の王の心身の支配権の要求だった。
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レヴィアの要求は、他の王妃たちを黙らせるほどに情熱的で強烈だったが、その激しさは、ヒカルの心身の消耗を無視している。
その時、ヒカルの部屋に、静かな愛を司る三人の姫たちが、それぞれの「王の安寧を護る義務」を主張するために現れた。
まず口を開いたのは、磐石の守護龍テラだった。彼女はレヴィアの激情を母性的な愛で静かに牽制する。
「レヴィア姉上様。貴女の激情は、主の心身を焦がします。王の肉体的安寧は、わらわの献身という名の生命維持の基盤が独占すべき。貴女の過剰なスキンシップは、王の軍務遂行能力を低下させる非合理的行動です!」
テラは、自分の献身こそが、王の持続可能性を保証する最高の愛だと主張した。
純白の調和聖女ルーナは、テラと連携しつつ、自身の精神的独占を主張する。
「レヴィア姉さま。王の魂の楽譜は、私が調律の責任がありますわ。裏切り者の刑の執行という重い決断を実行された今、貴女の激情は、王の精神的な安寧を乱すさらなるノイズとなりかねません。王の心は、わたくしの光の献身が独占してこそ保たれるのです!」
ルーナの言葉は、レヴィアの愛の形そのものを「戦略的リスク」として断罪した。
「テラ、ルーナもいい度胸じゃない!?」
「レヴィア姉様がわがままなだけですわ。ねえ、ルーナ」
「そうよ、そうよ。当番制とMVPはみんなで決めたルールですわ」
そして、深淵の孤高竜姫ヴァルキリアさえもが、孤高の威圧感を放ちながら口を開いた。
「フン。貴様らの愛の衝突は、契約者(ヒカル)の安寧を乱す。王の命を狙うカインの謀略は、まだ終わっていない。私は、王の闇の護衛として、王の安寧という資産の裏側を護る義務がある。当番制の乱れは、私の孤高の忠誠が許容できない」
ヴァルキリアの主張は、王の安寧が「闇の特務機関の最重要軍務」であることを強調し、他の姫たちへの静かな牽制となった。
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ヒカルは、六龍姫の愛の奔流が、王国の存続という種の存続計画に直結していることを理解していた。レヴィアの火力(激情)、テラの防御(肉体)、ルーナの調律(精神)、ヴァルキリアの防諜(闇)、どれ一つ欠けても、カインとの最終決戦に勝利できない。
(愛の調律とは、一貫性ではない。この場で、誰か一人を選び、他の愛を否定することは、軍の火力そのものを暴走させることだ……)
ヒカルは、意を決して、王の孤独な決断を王の義務として下した。
「静粛に、俺の最強の妻たちよ!」
ヒカルは、レヴィアの燃えるような瞳を正面から見据えた。
「レヴィア。貴様の激情は、王の火力を最大化する最高の燃料だ。MVPに代わる過剰なスキンシップの要求、王の義務として許可しよう。ただし、王の安寧の持続可能性も、王国の最優先事項だ。それが損なわれるようなら受け入れられない!」
ヒカルは、他の三人の姫たちに向き直る。
「故に、今夜の『過剰なスキンシップ』は、レヴィアの激情を鎮火させ、戦場での火力の暴走を防ぐための戦略的な調律としてやむを得ない。一方で、テラ、ルーナ、ヴァルキリア。貴様たちの愛の義務は、この調律を護る盾となれ!」
ヒカルの裁定は、レヴィアの要求を「戦略的な軍務」として昇華させることで、他の姫たちの不満を「王の防衛義務」という論理で封じ込めた。
「テラは、まず夜明けまで肉体的安寧を独占する。ルーナは、そのあと午前中いっぱい王の精神的安寧を、ヴァルキリアは午後の時間で闇の防諜を、それぞれ独占する。レヴィアの激情は、その三人の愛の防御の中で複数回の時間を設けよう。俺という王の心身に愛の和音を刻むのだ! これでいいか!?」
テラ、ルーナ、ヴァルキリアは、ヒカルの裁定が自らの愛の役割を最も重要な義務として位置づけたことに満足し、静かに頷いた。レヴィアは、一番頻回に独占の権利を勝ち取った喜びに全身を震わせ、ヒカルを抱きついた。
レヴィアの激情が最高潮に達した瞬間、ヒカルは最後の冷徹な一言を投げかけた。
「ただし、レヴィア。その激情が、もし王の命の安寧を乱すノイズとなり、今後も王妃たちの愛の調和を乱し続けると判断した場合は――貴様の当番の頻度を、最低限まで論理的に減らすことも考えざるを得ない」
ヒカルの言葉は、レヴィアの「王の愛の独占」という最も本能的な欲望に、「当番の削減」という最も残酷な戦略的脅威を突きつけた。
レヴィアの炎の魔力が、狂喜から絶望へと一瞬で転化する。
「そ……それは、ダメェエエエエエエ!!!」
レヴィアは、その場に乙女のように泣き崩れた。その激しい悲鳴は、ヒカルの当番の削減という罰則への、絶対的な恐怖を体現していた。
「わ、わかったわ! 夫よ! 貴方の裁定に、二度と異を唱えない! 我の愛は、貴方の命を護る最高の盾となる! だから、だから当番だけは、お願い、減らさないで! 約束よ!」
レヴィアは、王の義務という名の愛の論理に完全に降伏した。ヒカルは、レヴィアの激情を当番の頻度という最も有効な戦略的資源で制御することに成功したのだ。
ヒカルは、激情の鎮火に成功したレヴィアの頭を優しく撫で、最大限の賛辞を送った。
「ああ、それでこそ俺の妻だ。レヴィア、お前は本当に物分かりが良くて可愛いな」
「あぁ……夫よ! ごめんなさい。やはり、貴方の愛の調律は、最高の戦略だわ! 私の激情は、貴方の愛の盾の中で、最高の火力を生むのだわ!」
この極限の当番制は、カインとの最終決戦を前に、六龍姫の愛の形を「王の義務」という強固な絆へと調律し、盟約軍の士気を最高潮に高めた。
(レヴィアの激情を鎮火したのではない。俺は、彼女の純粋な愛の形を、「当番」という名の鎖で縛り付けただけだ。愛を戦略的資源として利用し、竜姫たちの最も深い本能(独占欲)を、王の支配のために使った。この孤独な決断こそが、王の義務であり、俺の優しさが最も歪む瞬間だ。愛の調律の音色は完璧でも、王の孤独は深まるばかりだ……)
ヒカルは、王の義務としての愛の調律の重圧に耐えながら、明日の最終決戦へと意識を集中させるのだった。
(今回は、なんとか詭弁を用いて納得させたが、こんなこと続けていたらいつか破綻するな……。体力も精神力も人間のままでは限界だ……)
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