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第七十四話:人間の毒と献身的な護衛

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 辺境連合軍との合同演習を終え、盟約軍は次の攻撃目標に向けた準備を進めていた。カインの謀略が依然として続く中、ヒカルの心身は、軍務と六龍姫の愛の調律による重圧に晒されていた。

 司令部の自室。ヒカルは、リリアが淹れてくれた温かい薬草茶を前に、一息ついていた。リリアは、王室メイド隊を率いるメイド長として、ヒカルの日常のケアと身辺警護を一手に担っている。

「ヒカル様。どうぞ、お疲れでしょう」

 リリアは柔らかな微笑みを浮かべ、薬草茶をヒカルの口元へと運ぶ。その献身的な姿は、ヒカルの心に深い安息を与えていた。

「リリア。お前がいてくれるだけで、俺の心は休まる。お前の静かな愛は、レヴィアたちの熱狂とは違う、唯一の安寧だ」

 ヒカルの言葉に、リリアは頬を染めながらも、メイド長としての義務を全うする。

「ヒカル様の安寧こそ、リリアの全てです。……ですが、ヒカル様。恐れながら、今朝お出ししたスープに、微かな違和感を感じました」

 リリアの表情が、一瞬にしてメイド長から、暗器術の使い手へと変わる。

「違和感? 毒物か?」

 ヒカルの問いに、リリアは静かに頷いた。

「はい。竜族の魔力探知では感知しにくい、人間社会の貴族が用いる、極めて巧妙な遅効性の毒です。竜族の毒物解析では検出が遅れるでしょう」

 リリアの特技、毒物の判別と解毒という人間ならではの知識が、竜族には盲点となる人間社会の謀略をいち早く察知したのだ。

 その報告に、王室メイド隊の隊員が即座に動く。

 闇のメイド、ルナリス(ヴァルキリア配下)が、漆黒の戦闘服で静かに現れた。

「メイド長。ご指示いただいていた暗殺者の潜伏ルートと、毒物の製造元を特定しました。間違いなく帝国貴族に潜む教団の過激派、残党です。彼らは王の暗殺を、毒殺という卑劣な謀略を試みたのです!」

 土のメイド、テラナ(テラ配下)が、ヒカルの寝室を魔力で覆う。

「ありがとう、ルナリス。さすがは闇のヴァルキリア様が目をかける精鋭だわ。さて、主(あるじ)の安寧を乱す者、私は許しません。ルナリスの報告に基づき、防御を最優先で固めます」

 リリアはルナリスとテラナの連携に満足げに頷くと、ヒカルを見つめ、短剣を構える。

「そして、ヒカル様。ご安心ください。毒物の解毒は、このリリアの特技です。そして……」

 リリアの瞳に、ヒカルを守るためなら命を投げ出す、狂気的なまでの覚悟が宿る。

「ヒカル様の命を脅かす者がいる限り、私の静かで深い愛が、ヒカル様の最後の盾となりましょう」

 リリアの献身的な愛と、王室メイド隊の迅速な対応により、人類側の毒物謀略による暗殺計画は、戦闘に至る前に完全に阻止された。

 ヒカルは、竜族の魔力探知を掻い潜った人間の悪意に対し、人間の献身的な愛が勝利したという事実に、安堵と、裏切りのトラウマが癒やされる感覚を覚える。

(俺の優しさは、人間社会の裏切りに敗北したのではない。リリアの献身的な愛という真の優しさに、救われたのだ……)

 ◇◆◇◆◇

 暗殺計画の阻止という功績を受け、ヒカルは直ちに司令部で MVP 裁定を行った。

「MVPは、王の命を護った、メイド長リリア・シャイニングとする!」

 ヒカルの裁定に、リリアは王室メイド隊と共に深く一礼した。

「ヒカル様。王の安寧は、私の義務であり当然のことをしたまででです。ただそれではヒカル様のご考慮を無碍にすることになります。MVPという最高の褒美を、謹んでお受けし、心より感謝いたします」

 しかし、この裁定に紅蓮の激情竜姫レヴィアの嫉妬の炎が、司令部全体を熱波で包み込んだ。

「待ちなさい! 人間特有の陰湿で姑息な毒を阻止した程度で、MVPがその女だと!? 我が炎の竜姫のプライドは、その静かな献身よりも王の最大の防御であり、MVPにふさわしい武功だというのに! 許せないわ、王の安寧という最も重要な独占権を、その人間特有の技巧で侵すつもりか!」

 レヴィアの魔力が暴走しそうになるが、ヒカルは冷静にレヴィアの愛の形を調律する。

「レヴィア。静粛に。リリアの献身は、お前の激情という炎が届かない、人間社会の謀略から俺の命を守った。お前の炎が最強の矛なら、リリアの静かな愛は、最も厄介な毒から王を護る唯一の解毒剤なんだ」

 ヒカルの論理に、蒼玉の理性竜姫アクアが冷静に賛同する。

「王の判断は論理的に正しいわ、レヴィア。リリア殿の特技は、竜族の魔力では対応できない情報戦の最重要対抗策なのです。彼女の存在は、人間側の謀略への対抗策として、論理的に見て極めて高い戦略的価値を持つのよ」

 闇の王妃ヴァルキリアが、冷静な瞳でリリアの功績の裏側を指摘する。

「今回の功績は、リリアの解毒技術と、私の配下ルナリスによる暗殺者ルートの特定という情報戦の勝利あってこそだ。ルナリスは、闇の王妃たる私の義務を果たした。王よ、情報戦の貢献度も評価していただきたい」

 大地を司るテラも、静かに自らの献身をアピールする。

「はい。ヴァルキリア姉さまが仰る通り、ルナリスが最も厄介な敵の潜伏場所を特定し、テラナ(私の配下)が、王の安寧(あんねい)を物理的に、強固に守り抜きました。王の防御に、私の愛と配下の献身が貢献できたことを光栄に思います」

 テラとヴァルキリアによる静かなMVPアピール合戦は、レヴィアの嫉妬をさらに煽る。

「くそっ、アクア! その冷たい論理が私の愛を否定するのか! そしてヴァルキリア、テラ! お前たちまで地味な武功を誇るな!」

 レヴィアは嫉妬の炎を燃やしながらも、MVPの褒美に代わる要求を突きつけた。

「 悔しいけど、MVPの褒美はリリアに譲るわ! 王よ! リリアの地味な献身は認める! だからこそ、私の激情的な愛も、王の心を癒やすことができると証明させて! そうね、
MVPの褒美に代わる過剰なスキンシップを、今夜、私に独占させてくれなければ、ユニゾンが暴走しちゃうわよ!」

 レヴィアは、リリアの「静かな愛」に嫉妬しつつも、自身の愛の形を、ヒカルの「精神的な安寧」というリリアの独占領域にまで侵食させようとしたのだ。

(王の義務として、これを許可して良いのか……? テラの時は、過剰な献身は軍務に支障をきたす非合理として拒否した。だが、レヴィアの激情は、鎮火しなければ軍の火力そのものが暴走する……)

 ヒカルは、愛の調律とは一貫性ではなく、その場に応じた最適解を選ぶ孤独な決断であることを噛み締めた。

「レヴィア。お前の愛は、王の火力を最大化する最も重要な要素なのは言うまでもない。MVPに代わる過剰なスキンシップの要求、王の義務として許可しよう。ただし、リリアの近接護衛の役割は、王の命を護る最優先の軍務として、今後も黙認せよ。それが条件だぞ……」
「むぅ、仕方ないわね。わかったわよ……。我は聞き分けがいいのよ!」

 レヴィアは、リリアの献身的な愛の重要性を戦略的な論理として認めざるを得なかった。シエルは、リリアの献身的な愛が盟約軍の「人間社会の謀略への対抗策」として不可欠な存在となったことを、冷静な瞳で記録する。

「リリア殿の献身的な愛は、王の戦略的資産の維持に不可欠です。王室メイド隊の役割の重要性を強く認識しましたわ!」

 リリアは、竜姫たちの激しい愛の衝突を静かに見守り、ヒカルへの献身という「静かな愛の独占」を誓うのだった。

【第75話へ続く】



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 辺境連合軍との合同演習を終え、盟約軍は次の攻撃目標に向けた準備を進めていた。カインの謀略が依然として続く中、ヒカルの心身は、軍務と六龍姫の愛の調律による重圧に晒されていた。
 司令部の自室。ヒカルは、リリアが淹れてくれた温かい薬草茶を前に、一息ついていた。リリアは、王室メイド隊を率いるメイド長として、ヒカルの日常のケアと身辺警護を一手に担っている。
「ヒカル様。どうぞ、お疲れでしょう」
 リリアは柔らかな微笑みを浮かべ、薬草茶をヒカルの口元へと運ぶ。その献身的な姿は、ヒカルの心に深い安息を与えていた。
「リリア。お前がいてくれるだけで、俺の心は休まる。お前の静かな愛は、レヴィアたちの熱狂とは違う、唯一の安寧だ」
 ヒカルの言葉に、リリアは頬を染めながらも、メイド長としての義務を全うする。
「ヒカル様の安寧こそ、リリアの全てです。……ですが、ヒカル様。恐れながら、今朝お出ししたスープに、微かな違和感を感じました」
 リリアの表情が、一瞬にしてメイド長から、暗器術の使い手へと変わる。
「違和感? 毒物か?」
 ヒカルの問いに、リリアは静かに頷いた。
「はい。竜族の魔力探知では感知しにくい、人間社会の貴族が用いる、極めて巧妙な遅効性の毒です。竜族の毒物解析では検出が遅れるでしょう」
 リリアの特技、毒物の判別と解毒という人間ならではの知識が、竜族には盲点となる人間社会の謀略をいち早く察知したのだ。
 その報告に、王室メイド隊の隊員が即座に動く。
 闇のメイド、ルナリス(ヴァルキリア配下)が、漆黒の戦闘服で静かに現れた。
「メイド長。ご指示いただいていた暗殺者の潜伏ルートと、毒物の製造元を特定しました。間違いなく帝国貴族に潜む教団の過激派、残党です。彼らは王の暗殺を、毒殺という卑劣な謀略を試みたのです!」
 土のメイド、テラナ(テラ配下)が、ヒカルの寝室を魔力で覆う。
「ありがとう、ルナリス。さすがは闇のヴァルキリア様が目をかける精鋭だわ。さて、主《あるじ》の安寧を乱す者、私は許しません。ルナリスの報告に基づき、防御を最優先で固めます」
 リリアはルナリスとテラナの連携に満足げに頷くと、ヒカルを見つめ、短剣を構える。
「そして、ヒカル様。ご安心ください。毒物の解毒は、このリリアの特技です。そして……」
 リリアの瞳に、ヒカルを守るためなら命を投げ出す、狂気的なまでの覚悟が宿る。
「ヒカル様の命を脅かす者がいる限り、私の静かで深い愛が、ヒカル様の最後の盾となりましょう」
 リリアの献身的な愛と、王室メイド隊の迅速な対応により、人類側の毒物謀略による暗殺計画は、戦闘に至る前に完全に阻止された。
 ヒカルは、竜族の魔力探知を掻い潜った人間の悪意に対し、人間の献身的な愛が勝利したという事実に、安堵と、裏切りのトラウマが癒やされる感覚を覚える。
(俺の優しさは、人間社会の裏切りに敗北したのではない。リリアの献身的な愛という真の優しさに、救われたのだ……)
 ◇◆◇◆◇
 暗殺計画の阻止という功績を受け、ヒカルは直ちに司令部で MVP 裁定を行った。
「MVPは、王の命を護った、メイド長リリア・シャイニングとする!」
 ヒカルの裁定に、リリアは王室メイド隊と共に深く一礼した。
「ヒカル様。王の安寧は、私の義務であり当然のことをしたまででです。ただそれではヒカル様のご考慮を無碍にすることになります。MVPという最高の褒美を、謹んでお受けし、心より感謝いたします」
 しかし、この裁定に紅蓮の激情竜姫レヴィアの嫉妬の炎が、司令部全体を熱波で包み込んだ。
「待ちなさい! 人間特有の陰湿で姑息な毒を阻止した程度で、MVPがその女だと!? 我が炎の竜姫のプライドは、その静かな献身よりも王の最大の防御であり、MVPにふさわしい武功だというのに! 許せないわ、王の安寧という最も重要な独占権を、その人間特有の技巧で侵すつもりか!」
 レヴィアの魔力が暴走しそうになるが、ヒカルは冷静にレヴィアの愛の形を調律する。
「レヴィア。静粛に。リリアの献身は、お前の激情という炎が届かない、人間社会の謀略から俺の命を守った。お前の炎が最強の矛なら、リリアの静かな愛は、最も厄介な毒から王を護る唯一の解毒剤なんだ」
 ヒカルの論理に、蒼玉の理性竜姫アクアが冷静に賛同する。
「王の判断は論理的に正しいわ、レヴィア。リリア殿の特技は、竜族の魔力では対応できない情報戦の最重要対抗策なのです。彼女の存在は、人間側の謀略への対抗策として、論理的に見て極めて高い戦略的価値を持つのよ」
 闇の王妃ヴァルキリアが、冷静な瞳でリリアの功績の裏側を指摘する。
「今回の功績は、リリアの解毒技術と、私の配下ルナリスによる暗殺者ルートの特定という情報戦の勝利あってこそだ。ルナリスは、闇の王妃たる私の義務を果たした。王よ、情報戦の貢献度も評価していただきたい」
 大地を司るテラも、静かに自らの献身をアピールする。
「はい。ヴァルキリア姉さまが仰る通り、ルナリスが最も厄介な敵の潜伏場所を特定し、テラナ(私の配下)が、王の安寧《あんねい》を物理的に、強固に守り抜きました。王の防御に、私の愛と配下の献身が貢献できたことを光栄に思います」
 テラとヴァルキリアによる静かなMVPアピール合戦は、レヴィアの嫉妬をさらに煽る。
「くそっ、アクア! その冷たい論理が私の愛を否定するのか! そしてヴァルキリア、テラ! お前たちまで地味な武功を誇るな!」
 レヴィアは嫉妬の炎を燃やしながらも、MVPの褒美に代わる要求を突きつけた。
「 悔しいけど、MVPの褒美はリリアに譲るわ! 王よ! リリアの地味な献身は認める! だからこそ、私の激情的な愛も、王の心を癒やすことができると証明させて! そうね、
MVPの褒美に代わる過剰なスキンシップを、今夜、私に独占させてくれなければ、ユニゾンが暴走しちゃうわよ!」
 レヴィアは、リリアの「静かな愛」に嫉妬しつつも、自身の愛の形を、ヒカルの「精神的な安寧」というリリアの独占領域にまで侵食させようとしたのだ。
(王の義務として、これを許可して良いのか……? テラの時は、過剰な献身は軍務に支障をきたす非合理として拒否した。だが、レヴィアの激情は、鎮火しなければ軍の火力そのものが暴走する……)
 ヒカルは、愛の調律とは一貫性ではなく、その場に応じた最適解を選ぶ孤独な決断であることを噛み締めた。
「レヴィア。お前の愛は、王の火力を最大化する最も重要な要素なのは言うまでもない。MVPに代わる過剰なスキンシップの要求、王の義務として許可しよう。ただし、リリアの近接護衛の役割は、王の命を護る最優先の軍務として、今後も黙認せよ。それが条件だぞ……」
「むぅ、仕方ないわね。わかったわよ……。我は聞き分けがいいのよ!」
 レヴィアは、リリアの献身的な愛の重要性を戦略的な論理として認めざるを得なかった。シエルは、リリアの献身的な愛が盟約軍の「人間社会の謀略への対抗策」として不可欠な存在となったことを、冷静な瞳で記録する。
「リリア殿の献身的な愛は、王の戦略的資産の維持に不可欠です。王室メイド隊の役割の重要性を強く認識しましたわ!」
 リリアは、竜姫たちの激しい愛の衝突を静かに見守り、ヒカルへの献身という「静かな愛の独占」を誓うのだった。
【第75話へ続く】