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第22話 あなたのせいで、謎が増える

ー/ー



たどり着いたよ(イッツ・ダーン)

 街角で私は何度目かの仕事を、たった今、解決に導いた。これでギルドからもらってきた仕事は一通り完遂したと思う。また新しい事件が入ってきていなければ、の話だけれども。

「お疲れ様です、ルックさん」

 私の監視役の自警団さんが敬礼する。特に何をすることもなく、私の動向だけを見張っている。いつでも戦闘できそうな重装備をしているのだから、せめてボディガードをしてほしいと思うのはやはりワガママだろうか。

 ……さて、やっと一段落ついたか。

 あれからチェイサーの姿は見ていない。今朝、目を覚ましたときには既にホテルの何処にもチェイサーの姿はなく、残っていたのはベッドの上の毛くらいのものだ。

 結局、元の世界に戻してくれる条件として提示してきた、見つけてほしいものというものの正体は不明。無駄に一晩、人のベッドを占拠しただけ。あんまり寝心地のよくないソファで一夜を明かすはめになった。

 あの白猫は、本当に何を考えているのか分かったものではない。

 何かを見つけ出してほしいのなら情報提供するのが筋ってもんじゃなかろうか。ギルドの依頼だって人探し物探し、色々と難解なところはあるけれど、これこのようにして解決できている。

 チェイサーにとって、必要なものなのか、はたまたそうでもないものなのか。そんな根本的なところさえもノーヒントとは歯がゆいことこの上ない。

 というか、監視がついているのは、思っていた以上に動き辛いし。振り切ろうと思えば振り切れそうな具合も何とももどかしさがある。怪しい動きを見せたら処刑されるって分かっているんだろうか、この自警団の人。

 多分だけど、私が異世界からやってきたことはファイド刑事さんが内密にしてくれているから誰も知らない可能性は大いにある。というか、吹聴された時点で詰みなのだからほぼほぼそれは確定だろう。

「じゃ、ギルドに帰りましょうか」

 そう会釈を添える私は、ちょっと疲れた顔をしていたのかもしれない。


 ※ ※ ※


 ギルドに戻ってくるのも、これで何度目くらいだろうか。
 私がこの異世界に迷い込んできたのも一昨日のはずだと思ったけれども、既に馴染んでしまった感が否めない。

 その証拠に、仕事斡旋の窓口に立っているスキンヘッドのおっちゃんは昨日今日で随分と愛想良く振る舞っているように思う。
 私の受注している仕事の殆どは誰も手を付けたがらないものばかりで、そういうのが片付いていってるから肩の荷が下りているといった感じか。

 繰り返しになるが、この世界には探偵なる職業のものは存在しない。人捜しもの探しは占い師か、自警団の一部がこそこそやってる程度のものなんだ。
 諜報活動ともなれば、そりゃあもうどっかの大きいお城から出てくるガチのスパイが出張ってくるんだから探偵という商売がないのも納得だ。

「助かったよ、ルック。他所のギルドの仕事まで根こそぎ片付けてくれるたぁよ。全く関係ないのに俺ぁ鼻高々さ」

 ギルド間でノルマみたいなものとかあったりするんだろうか。仕事が順調であるならそれに越したこともなく、私としても十分な報酬が得られているからお互いに納得お得のウィンウィンだ。

 まあ、この世界でお金を稼いでも元の世界では流通していないから、もし早い段階で帰ることができたなら荒稼ぎすることのメリットは皆無なのだけど。
 なんとなしで地を固めるつもりでギルドの仕事をこなしているが、このままでは異世界に骨をうずめかねないところまできているような気さえしてくるというもの。

 ほどほどにするべきなのかな、やっぱり。
 主題となる情報収集の方はといえば、やっぱり自警団の人が直ぐそばで見張っていて、私の喋る言葉の一つ一つにも注意深く、聞き漏らさないようにしているせいもあって、異世界情報を訊くに訊けない。これは大きなデメリット。

 そうでなかったとしても、私が異世界人でーす、などという情報を流布することで私自身の首がはね飛ばされることも知ってしまったので、尚のこと、昨日よりも気軽に情報を集められないのが現状だ。

 こうなってくると、元の世界に戻るためには、あの白猫――チェイサーとの決着を付ける他ない。やれやれ、今度見つかるのはいつになるのやら。

 案外直ぐひょっこりと出てきそうな気はしてくるのだけれども、あの気まぐれっぷりは本当に予測できない。逆に何日、何週間と姿をくらましても不思議じゃない。

「どうした。ずいぶんと浮かない顔だな。仕事が物足りなかったのか?」

 どうやら酷い顔をしていたらしい。スキンヘッドのおっちゃんが心配そうにこちらを見てくる。目の前にあるのは確かに結構な額の報酬だろう。ソレを見て憂鬱な表情になることなど普通ならあり得ない。

「いえ、仕事は大満足ですよ。成果もこの通りですし……」

 チラっと見張りの人の方に視線が泳ぐ。
 ちょっと目を離したらギルドの中の人と密会っぽいことをしていた。
 あれって今日一日の私の行動の全てを報告してるんだよね……。

「ああ、よくは分からないが、自警団に目をつけられたようだな。ルック、目立ちすぎることでもしでかしたか? ……いや、これだけ短時間で稼いでたらそれも仕方ないとは思うがな」

 スキンヘッドのおっちゃんにそう笑い飛ばされてしまった。
 そういう方向性で解釈されたっぽい。

 私にとっての憂鬱の種は、いつまで異世界に滞在することになるのかというこの一点のみだ。ここにいる間には自警団さんたちにつきまとわれるわけだし、チェイサーを見つけたとしてもあの条件をクリアする手立てもないし。

 早く、おうちに帰りたいなー……。
 別にスマホ中毒とかそういうのではないけれど、色んな人に何の連絡もなしに異世界に失踪してしまったことがとても心残りだ。

 一週間くらいならまだ音信不通でも大丈夫だとは思うけれど、それが一ヶ月、一年と延びていくと厄介どころの騒ぎではない。何年も失踪ということになると、死亡扱いにもなってしまう。

 もう、無事な状態であることをあちこちに発信したくてしょうがない。

「今度暇があったら酒の席で聞かせてくれよ。ルック、アンタの仕事の話をよ」
「えへへ……機会があったらそのうちに……」
 その機会を一刻も早くなくそうとしている立場からは何とも言い辛い言葉である。

「あ、ルックさん。少しお話が……」

 今日一日私に連れ回されていた自警団の人がこちらにトコトコと向かってきて、なんともはや神妙な顔で言う。あまりそうシリアスな顔をされるのは心臓に悪い。

「ええと、なんでしょうか?」
「まずは、自警団の本拠地までお越しください」

 あまりにも不穏なお誘いだ。断らせる気も微塵もなさそう。
 心身ともに疲れている状況だというのに、追い打ちを掛けてくる。
 私としてもリアルに首を撥ねられたくないので行かないという選択肢はない。

「……分かりました」

 そんな渋々の返事をどのように受け取られたのかはさておき、自警団の人は先導するよう歩き出す。本拠地なんて何処にあるんだろう、と一瞬考えてしまったが、自警団さんはギルドの奥へ奥へと入り込んでいく。

 ああ、この建物内だったのか。なんでかもうちょっと遠い場所に移動するものとばかり思ってしまっていた。元より、この建物も大きく、そして広い。
 今いる場所こそ、職業安定所みたいな認識でお世話になっていたけれども、何もそれだけの施設じゃないんだった。

 とかく、私は自警団さんに先導されるがままギルドの深部へと赴いていくのだった。


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「|たどり着いたよ《イッツ・ダーン》」
 街角で私は何度目かの仕事を、たった今、解決に導いた。これでギルドからもらってきた仕事は一通り完遂したと思う。また新しい事件が入ってきていなければ、の話だけれども。
「お疲れ様です、ルックさん」
 私の監視役の自警団さんが敬礼する。特に何をすることもなく、私の動向だけを見張っている。いつでも戦闘できそうな重装備をしているのだから、せめてボディガードをしてほしいと思うのはやはりワガママだろうか。
 ……さて、やっと一段落ついたか。
 あれからチェイサーの姿は見ていない。今朝、目を覚ましたときには既にホテルの何処にもチェイサーの姿はなく、残っていたのはベッドの上の毛くらいのものだ。
 結局、元の世界に戻してくれる条件として提示してきた、見つけてほしいものというものの正体は不明。無駄に一晩、人のベッドを占拠しただけ。あんまり寝心地のよくないソファで一夜を明かすはめになった。
 あの白猫は、本当に何を考えているのか分かったものではない。
 何かを見つけ出してほしいのなら情報提供するのが筋ってもんじゃなかろうか。ギルドの依頼だって人探し物探し、色々と難解なところはあるけれど、これこのようにして解決できている。
 チェイサーにとって、必要なものなのか、はたまたそうでもないものなのか。そんな根本的なところさえもノーヒントとは歯がゆいことこの上ない。
 というか、監視がついているのは、思っていた以上に動き辛いし。振り切ろうと思えば振り切れそうな具合も何とももどかしさがある。怪しい動きを見せたら処刑されるって分かっているんだろうか、この自警団の人。
 多分だけど、私が異世界からやってきたことはファイド刑事さんが内密にしてくれているから誰も知らない可能性は大いにある。というか、吹聴された時点で詰みなのだからほぼほぼそれは確定だろう。
「じゃ、ギルドに帰りましょうか」
 そう会釈を添える私は、ちょっと疲れた顔をしていたのかもしれない。
 ※ ※ ※
 ギルドに戻ってくるのも、これで何度目くらいだろうか。
 私がこの異世界に迷い込んできたのも一昨日のはずだと思ったけれども、既に馴染んでしまった感が否めない。
 その証拠に、仕事斡旋の窓口に立っているスキンヘッドのおっちゃんは昨日今日で随分と愛想良く振る舞っているように思う。
 私の受注している仕事の殆どは誰も手を付けたがらないものばかりで、そういうのが片付いていってるから肩の荷が下りているといった感じか。
 繰り返しになるが、この世界には探偵なる職業のものは存在しない。人捜しもの探しは占い師か、自警団の一部がこそこそやってる程度のものなんだ。
 諜報活動ともなれば、そりゃあもうどっかの大きいお城から出てくるガチのスパイが出張ってくるんだから探偵という商売がないのも納得だ。
「助かったよ、ルック。他所のギルドの仕事まで根こそぎ片付けてくれるたぁよ。全く関係ないのに俺ぁ鼻高々さ」
 ギルド間でノルマみたいなものとかあったりするんだろうか。仕事が順調であるならそれに越したこともなく、私としても十分な報酬が得られているからお互いに納得お得のウィンウィンだ。
 まあ、この世界でお金を稼いでも元の世界では流通していないから、もし早い段階で帰ることができたなら荒稼ぎすることのメリットは皆無なのだけど。
 なんとなしで地を固めるつもりでギルドの仕事をこなしているが、このままでは異世界に骨をうずめかねないところまできているような気さえしてくるというもの。
 ほどほどにするべきなのかな、やっぱり。
 主題となる情報収集の方はといえば、やっぱり自警団の人が直ぐそばで見張っていて、私の喋る言葉の一つ一つにも注意深く、聞き漏らさないようにしているせいもあって、異世界情報を訊くに訊けない。これは大きなデメリット。
 そうでなかったとしても、私が異世界人でーす、などという情報を流布することで私自身の首がはね飛ばされることも知ってしまったので、尚のこと、昨日よりも気軽に情報を集められないのが現状だ。
 こうなってくると、元の世界に戻るためには、あの白猫――チェイサーとの決着を付ける他ない。やれやれ、今度見つかるのはいつになるのやら。
 案外直ぐひょっこりと出てきそうな気はしてくるのだけれども、あの気まぐれっぷりは本当に予測できない。逆に何日、何週間と姿をくらましても不思議じゃない。
「どうした。ずいぶんと浮かない顔だな。仕事が物足りなかったのか?」
 どうやら酷い顔をしていたらしい。スキンヘッドのおっちゃんが心配そうにこちらを見てくる。目の前にあるのは確かに結構な額の報酬だろう。ソレを見て憂鬱な表情になることなど普通ならあり得ない。
「いえ、仕事は大満足ですよ。成果もこの通りですし……」
 チラっと見張りの人の方に視線が泳ぐ。
 ちょっと目を離したらギルドの中の人と密会っぽいことをしていた。
 あれって今日一日の私の行動の全てを報告してるんだよね……。
「ああ、よくは分からないが、自警団に目をつけられたようだな。ルック、目立ちすぎることでもしでかしたか? ……いや、これだけ短時間で稼いでたらそれも仕方ないとは思うがな」
 スキンヘッドのおっちゃんにそう笑い飛ばされてしまった。
 そういう方向性で解釈されたっぽい。
 私にとっての憂鬱の種は、いつまで異世界に滞在することになるのかというこの一点のみだ。ここにいる間には自警団さんたちにつきまとわれるわけだし、チェイサーを見つけたとしてもあの条件をクリアする手立てもないし。
 早く、おうちに帰りたいなー……。
 別にスマホ中毒とかそういうのではないけれど、色んな人に何の連絡もなしに異世界に失踪してしまったことがとても心残りだ。
 一週間くらいならまだ音信不通でも大丈夫だとは思うけれど、それが一ヶ月、一年と延びていくと厄介どころの騒ぎではない。何年も失踪ということになると、死亡扱いにもなってしまう。
 もう、無事な状態であることをあちこちに発信したくてしょうがない。
「今度暇があったら酒の席で聞かせてくれよ。ルック、アンタの仕事の話をよ」
「えへへ……機会があったらそのうちに……」
 その機会を一刻も早くなくそうとしている立場からは何とも言い辛い言葉である。
「あ、ルックさん。少しお話が……」
 今日一日私に連れ回されていた自警団の人がこちらにトコトコと向かってきて、なんともはや神妙な顔で言う。あまりそうシリアスな顔をされるのは心臓に悪い。
「ええと、なんでしょうか?」
「まずは、自警団の本拠地までお越しください」
 あまりにも不穏なお誘いだ。断らせる気も微塵もなさそう。
 心身ともに疲れている状況だというのに、追い打ちを掛けてくる。
 私としてもリアルに首を撥ねられたくないので行かないという選択肢はない。
「……分かりました」
 そんな渋々の返事をどのように受け取られたのかはさておき、自警団の人は先導するよう歩き出す。本拠地なんて何処にあるんだろう、と一瞬考えてしまったが、自警団さんはギルドの奥へ奥へと入り込んでいく。
 ああ、この建物内だったのか。なんでかもうちょっと遠い場所に移動するものとばかり思ってしまっていた。元より、この建物も大きく、そして広い。
 今いる場所こそ、職業安定所みたいな認識でお世話になっていたけれども、何もそれだけの施設じゃないんだった。
 とかく、私は自警団さんに先導されるがままギルドの深部へと赴いていくのだった。