【勇者組】再会

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 昼を過ぎ、太陽がやや傾いた頃合いのパエデロスの街は、相も変わらず来る者は拒まず、人々が行き交っており、賑やかさを日に日に増しているようだった。

 時には楽しそうな笑い声が響き、時には荒れた喧騒が巻き起こったり、ある意味では退屈しそうにもない混沌を保ちつつあった。

 この発展途上の街には、誰が訪れるかなど分かったものではない。
 それをよく理解していたのは、かつて世界を脅かしたという魔王の討伐に成功した実績を持つ勇者と、その一行だ。

 紆余曲折こそあったものの、今はこのパエデロスで治安維持に勤めるべく、飽きもせず巡回を続けていた。

「てめぇからケンカ吹っ掛けてきたんだるぉぉぉ!!!?」
「はあぁぁ!? 先にガンつけやがったのはそっちじゃねえぇかぁ!!!!」

 バチバチと火花でも飛び散りそうなイカつい男たち二人の間に――

「すまないが、ここは穏便に済ませてくれないか。詳しい話なら俺が聞く」

――勇者、ロータスが割り込む。

「うおっ……」
「あ、ああ……」
 さすがに顔を見ただけで拳を収めざるを得なかったのだろう。男たちは二人とも冷水でもぶっかけられたかのように瞬時にして怒りを収める。

 ロータスもパエデロスに滞在して短くはない。どれだけの実力を持っているかなど確認するまでもなかった。

「誰かを殴り足りないなら俺が相手になってやってもいいが?」
「い、いえ……すんません」
「く……」

 それ以上の言葉を結べなくなったのか、途端に男たちが小さく見えてしまう。
 そして目を逸らすようにして、それぞれは逃げるように立ち去っていく。
 それを確認して、ロータスはやれやれと溜め息をついた。

「ようよう、相変わらず精が出ますな、勇者様」
 ロータスの疲れた横顔に向けて陽気な言葉を放たれる。不意にそちらの方を見てみれば、鉄の塊かと見間違うほどにガッチリとした鎧を身に纏う大男が一人。

「リンドー、来てくれたのか」
 パッと切り替わるようにロータスの顔が明るくなる。
「ハッハ、もうちっとお城の兵士さんやっててもよかったがな。お前に呼ばれたとあっちゃ断れまいよ」
 リンドーと呼ばれた大男は、鎧の胸板をガチンと叩き、豪快に笑う。

「パエデロスも随分と治安が良くなったと聞いているぞ。俺としちゃあお前が無茶してるんだろうなって心配だったがな」
「ははは、まあお察しの通りさ。そっちの調子はどうだい?」
「お前んとこと比べりゃ平和なもんよ。飯も美味いし、文句なしっ! だはは!」

 リンドーもまた、かつて魔王を討伐した勇者の仲間の一人だった。
 パエデロスには共に滞在はしなかったものの、彼は彼でここから遠い地方の国で似たような活動をしていた。

「積もる話はあるだろうが、お前がわざわざ俺を呼びつけるくらいだ。そっちの本題の方を聞かせてもらおうじゃないか」
「ありがとう、助かるよリンドー」

 ※ ※ ※

「魔王軍の動き、ねぇ」
 教会の中に設けた拠点の中、リンドーは体格が合わず座り心地の悪そうな椅子に腰を掛けながら水を一杯煽る。

「残党がいるかもなぁ、くらいの話なら俺んとこの耳にも入ってくるが、何かしようとしているかっつうのはちょっとなぁ」
「そうか……杞憂ならいいんだが」
 ロータスは渋い顔で俯く。

「ま、気にすんなよロータス。むしろ逆な話ならいくらでも聞くからな」
「逆、っていうのは?」
「ハッキリとした話じゃないが、どこぞの冒険者が何やら強力な武器を携えて、魔王城を一気に攻め込んでいったらしい。まあ、そこまでなら変わった話じゃない。残党狩りで名を上げようとするバカは未だに絶えないからな」

「それで、攻め込んでいったらどうなったんだ?」
「思う存分に宝を持ち帰って、すっかりもぬけの空になったそうだ。以降に魔王城に向かった奴らの話によれば、あの近辺にはもう魔王軍はいない、ってさ」
 リンドーの語った話がそのまま真実なのであれば、勇者ロータスたちが討伐した魔王の率いていた魔王軍の残党は殲滅が完了したと言うことになる。

 魔王を討伐し、それからしばらく残党狩りを続けていた勇者としては喜ばしい報告だ。だが、釈然とはしなかった。

「そのよぉ、ロータス。お前が見つけたっていう偵察用のナントカだが、残りカスみてぇなもんだったんだろうよ。魔王城は陥落したんだ。だとしたら一握りの中の一握りがお前に恨みを抱いてるってだけさ」

 遡ればついぞ先日。ロータスはこのパエデロスの周辺を巡回している最中に、魔王軍が偵察するために使う合成生物を捕捉していた。
 自然に生息するようなものではない。だからこそ、魔王軍はまだ息を潜めており、さらにはパエデロスの近辺にいると推測した。

 仮に勇者を狙う者だったとしても、このパエデロスの平穏を脅かす者ものにならない。推測が正しければ、それは由々しき事態だ。

 わざわざロータスが遠方よりリンドーを呼び寄せた理由はそこにあった。

「それに、もう見かけなくなったんだろ? 安心――とはいかないだろうが、お前が思うほどの脅威にはならないと思うぞ」
 豪快に笑い飛ばし、リンドーが真っ直ぐロータスを見据える。
 疲弊した顔。記憶に思い描いていたよりも小さなソレ。

 そんなものを目の当たりにしてしまっては、リンドーも次に言おうとしていた言葉を喉奥につっかえてしまいそうだったが、もう一杯の水をかっ込む。

「不安を煽りてぇワケじゃねえんだが聞け、ロータス」
「なんだ?」
 愛想笑いもないリンドーの顔を見て、冗談話ではないことを察する。

「さっきな、どっかの冒険者どもが強力な武器を携えて……って言ったと思うが、ちょっとコイツが厄介な案件になりそうなんだ。ブツは高度な魔具。それを何処の馬の骨とも分からん連中が大量に所持してたってんだ。心当たり、あるか?」

 その言葉でロータスはハッとする。おそらく自分がリンドーの知らない情報を持っているという確信した、そんな表情だった。

「出所を探るのに苦労したんだぜ? ウチの同僚ひっ捕まえてよぉ、まあまあ面倒臭かった。強力な魔具を安価で売りさばいてるバカなんてそうはいないさ。そんでよ、やっと分かったんだ。何処でそんなものを手に入れたのかを」
 その目を見てリンドーの突き止めた真実を、ロータスは察した。

「ふぅ……、心当たりはある。そしてそれは俺も少し危惧していたことだ。知っている情報を話す」
 そういってロータスは自分の手元のコップに水を注ぎ、そのまま喉を潤す。

「リンドー、きっとキミはこういうのだろう。その魔具の出所はここ、パエデロスの市場だったのだと」
「ああ、そうだ」
 そこで、ロータスは溢すようにフフっと笑ってみせた。

「少し前、ほんの数ブロンで魔具を販売している商人をこの街で見つけた。もう話はダリアが付けているが、どうやら本人は全く自覚していなかったようだ。自分の造った魔具がそこまで危険なものとは思っていなかったらしい。俺も驚いた」
「ほう。危なっかしい奴もいたものだな」

「比較的若いエルフの女の子だったよ。ちょっと世間知らずだっただけだ。今はダリアがみっちりと指導している。あれからいくつか買い戻すのに手間どったんだが……そうか、そんな遠くの冒険者の手にまで渡っていたのか」
 ロータスは乾いた笑いでお茶を濁す。
 どうやらこの話は先ほどの魔王軍の残党の話以上に自分が思うよりも杞憂のようだと思ったからだ。

「なら、ロータス。もう一つパエデロス関連の話があるんだが――」
 安堵しかけていたところに、リンドーの言葉が遮った。


次のエピソードへ進む 第21話 開店


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 昼を過ぎ、太陽がやや傾いた頃合いのパエデロスの街は、相も変わらず来る者は拒まず、人々が行き交っており、賑やかさを日に日に増しているようだった。
 時には楽しそうな笑い声が響き、時には荒れた喧騒が巻き起こったり、ある意味では退屈しそうにもない混沌を保ちつつあった。
 この発展途上の街には、誰が訪れるかなど分かったものではない。
 それをよく理解していたのは、かつて世界を脅かしたという魔王の討伐に成功した実績を持つ勇者と、その一行だ。
 紆余曲折こそあったものの、今はこのパエデロスで治安維持に勤めるべく、飽きもせず巡回を続けていた。
「てめぇからケンカ吹っ掛けてきたんだるぉぉぉ!!!?」
「はあぁぁ!? 先にガンつけやがったのはそっちじゃねえぇかぁ!!!!」
 バチバチと火花でも飛び散りそうなイカつい男たち二人の間に――
「すまないが、ここは穏便に済ませてくれないか。詳しい話なら俺が聞く」
――勇者、ロータスが割り込む。
「うおっ……」
「あ、ああ……」
 さすがに顔を見ただけで拳を収めざるを得なかったのだろう。男たちは二人とも冷水でもぶっかけられたかのように瞬時にして怒りを収める。
 ロータスもパエデロスに滞在して短くはない。どれだけの実力を持っているかなど確認するまでもなかった。
「誰かを殴り足りないなら俺が相手になってやってもいいが?」
「い、いえ……すんません」
「く……」
 それ以上の言葉を結べなくなったのか、途端に男たちが小さく見えてしまう。
 そして目を逸らすようにして、それぞれは逃げるように立ち去っていく。
 それを確認して、ロータスはやれやれと溜め息をついた。
「ようよう、相変わらず精が出ますな、勇者様」
 ロータスの疲れた横顔に向けて陽気な言葉を放たれる。不意にそちらの方を見てみれば、鉄の塊かと見間違うほどにガッチリとした鎧を身に纏う大男が一人。
「リンドー、来てくれたのか」
 パッと切り替わるようにロータスの顔が明るくなる。
「ハッハ、もうちっとお城の兵士さんやっててもよかったがな。お前に呼ばれたとあっちゃ断れまいよ」
 リンドーと呼ばれた大男は、鎧の胸板をガチンと叩き、豪快に笑う。
「パエデロスも随分と治安が良くなったと聞いているぞ。俺としちゃあお前が無茶してるんだろうなって心配だったがな」
「ははは、まあお察しの通りさ。そっちの調子はどうだい?」
「お前んとこと比べりゃ平和なもんよ。飯も美味いし、文句なしっ! だはは!」
 リンドーもまた、かつて魔王を討伐した勇者の仲間の一人だった。
 パエデロスには共に滞在はしなかったものの、彼は彼でここから遠い地方の国で似たような活動をしていた。
「積もる話はあるだろうが、お前がわざわざ俺を呼びつけるくらいだ。そっちの本題の方を聞かせてもらおうじゃないか」
「ありがとう、助かるよリンドー」
 ※ ※ ※
「魔王軍の動き、ねぇ」
 教会の中に設けた拠点の中、リンドーは体格が合わず座り心地の悪そうな椅子に腰を掛けながら水を一杯煽る。
「残党がいるかもなぁ、くらいの話なら俺んとこの耳にも入ってくるが、何かしようとしているかっつうのはちょっとなぁ」
「そうか……杞憂ならいいんだが」
 ロータスは渋い顔で俯く。
「ま、気にすんなよロータス。むしろ逆な話ならいくらでも聞くからな」
「逆、っていうのは?」
「ハッキリとした話じゃないが、どこぞの冒険者が何やら強力な武器を携えて、魔王城を一気に攻め込んでいったらしい。まあ、そこまでなら変わった話じゃない。残党狩りで名を上げようとするバカは未だに絶えないからな」
「それで、攻め込んでいったらどうなったんだ?」
「思う存分に宝を持ち帰って、すっかりもぬけの空になったそうだ。以降に魔王城に向かった奴らの話によれば、あの近辺にはもう魔王軍はいない、ってさ」
 リンドーの語った話がそのまま真実なのであれば、勇者ロータスたちが討伐した魔王の率いていた魔王軍の残党は殲滅が完了したと言うことになる。
 魔王を討伐し、それからしばらく残党狩りを続けていた勇者としては喜ばしい報告だ。だが、釈然とはしなかった。
「そのよぉ、ロータス。お前が見つけたっていう偵察用のナントカだが、残りカスみてぇなもんだったんだろうよ。魔王城は陥落したんだ。だとしたら一握りの中の一握りがお前に恨みを抱いてるってだけさ」
 遡ればついぞ先日。ロータスはこのパエデロスの周辺を巡回している最中に、魔王軍が偵察するために使う合成生物を捕捉していた。
 自然に生息するようなものではない。だからこそ、魔王軍はまだ息を潜めており、さらにはパエデロスの近辺にいると推測した。
 仮に勇者を狙う者だったとしても、このパエデロスの平穏を脅かす者ものにならない。推測が正しければ、それは由々しき事態だ。
 わざわざロータスが遠方よりリンドーを呼び寄せた理由はそこにあった。
「それに、もう見かけなくなったんだろ? 安心――とはいかないだろうが、お前が思うほどの脅威にはならないと思うぞ」
 豪快に笑い飛ばし、リンドーが真っ直ぐロータスを見据える。
 疲弊した顔。記憶に思い描いていたよりも小さなソレ。
 そんなものを目の当たりにしてしまっては、リンドーも次に言おうとしていた言葉を喉奥につっかえてしまいそうだったが、もう一杯の水をかっ込む。
「不安を煽りてぇワケじゃねえんだが聞け、ロータス」
「なんだ?」
 愛想笑いもないリンドーの顔を見て、冗談話ではないことを察する。
「さっきな、どっかの冒険者どもが強力な武器を携えて……って言ったと思うが、ちょっとコイツが厄介な案件になりそうなんだ。ブツは高度な魔具。それを何処の馬の骨とも分からん連中が大量に所持してたってんだ。心当たり、あるか?」
 その言葉でロータスはハッとする。おそらく自分がリンドーの知らない情報を持っているという確信した、そんな表情だった。
「出所を探るのに苦労したんだぜ? ウチの同僚ひっ捕まえてよぉ、まあまあ面倒臭かった。強力な魔具を安価で売りさばいてるバカなんてそうはいないさ。そんでよ、やっと分かったんだ。何処でそんなものを手に入れたのかを」
 その目を見てリンドーの突き止めた真実を、ロータスは察した。
「ふぅ……、心当たりはある。そしてそれは俺も少し危惧していたことだ。知っている情報を話す」
 そういってロータスは自分の手元のコップに水を注ぎ、そのまま喉を潤す。
「リンドー、きっとキミはこういうのだろう。その魔具の出所はここ、パエデロスの市場だったのだと」
「ああ、そうだ」
 そこで、ロータスは溢すようにフフっと笑ってみせた。
「少し前、ほんの数ブロンで魔具を販売している商人をこの街で見つけた。もう話はダリアが付けているが、どうやら本人は全く自覚していなかったようだ。自分の造った魔具がそこまで危険なものとは思っていなかったらしい。俺も驚いた」
「ほう。危なっかしい奴もいたものだな」
「比較的若いエルフの女の子だったよ。ちょっと世間知らずだっただけだ。今はダリアがみっちりと指導している。あれからいくつか買い戻すのに手間どったんだが……そうか、そんな遠くの冒険者の手にまで渡っていたのか」
 ロータスは乾いた笑いでお茶を濁す。
 どうやらこの話は先ほどの魔王軍の残党の話以上に自分が思うよりも杞憂のようだと思ったからだ。
「なら、ロータス。もう一つパエデロス関連の話があるんだが――」
 安堵しかけていたところに、リンドーの言葉が遮った。