第20話 親友
ー/ー「はわわぁ……本当に、たってしまったのれふ……」
目の前のそれを眺めて、ミモザが興奮気味に感想の言葉をもらす。
感情が高ぶっているということは一目見て分かる。
「ふふふ……思う存分、好きにしていいのだぞ」
「フィーしゃん、でもわたし、どうしたらいいか」
喜び半分、困惑半分といったところか。
これからミモザにとっての初めてが始まるのだからそれも無理はない。
「今までと変わらんさ。なぁに、困ったら我に任せればいい」
「フィーさん……」
うるうると、涙を溜めてミモザがこちらを見つめてくる。
相変わらずも小動物みたいな奴だ。
我とミモザの前にあるもの。それは、新しく建てられたお店だった。
誰のお店なのかは言うまでもない。ミモザが運営する魔具の専門店だ。
「それではミモザ様、こちらにサインをお願いします」
「はひっ! 分かりましらっ」
差し出された書類に緊張しながらもペンを走らせる。
名前をうっかり書き間違えないか少し不安になったが、ちゃんと書けたようだ。
「はい、確かに」
書類は受理され、名実と共にここはミモザのものとなった。
「はぅ~……まだドキドキしてるのれす……まさかわたしが自分のお店を持てるなんて……」
「ふははははははははははっ!!!! 胸を張れ、ミモザ。お前ならできるさ。せいぜい、我に恩を尽くすのだな!」
と、我はミモザに懐から取り出したその書類を見せる。
「いつか、この額を返せるよう頑張るのだぞ」
我の手元の書類に書かれているのは、結構な額だ。それはこの店の建設費であったり、運営費であったり、その他諸々を全部まとめて綴ってある。
少なくとも短期間で返せるような額などではないことだけは確かだ。
我は、この程度の額などくれてやったってよかった。
だが、それでは意味がないのだ。
ミモザ自身が払うことに意味がある。我はただ背中を押しただけに過ぎん。
どうしてわざわざミモザの店を建ててやったのかって?
シンプルな答えだ。パエデロスの市場では高価な品を売るのはリスクが高い。
専門の店として開業すれば客層も絞り込めるし、都合が良かった。
発展途上の街とはいえ、このパエデロスにも富裕層は一定数いる。
そういう客を対象にしていけば高額でも決して売れないことはない。
実際、そんな層を狙って店を出している遠方からの商人も少なくはないからな。
「わたし……、わたし、絶対にフィーしゃんに全部お返ししましゅ……っ!」
力強い返事だ。
この借金返済が簡単なことではないことはミモザも重々承知している。
露天商からいきなり店を持つことが大変だろうということも。
ただ、我には確信があった。既にミモザの造る魔具の品質についてはこのパエデロスでも周知されているということも知っている。
いつぞや、市場で騒ぎを起こしたとき、ダリアがミモザの商品を実証するためにドデカい魔法を打ち上げてくれたからな。あれがいい販促になったらしい。
あれから順調に売り上げも伸びていたことも知っている。
きっと軌道に乗れば繁盛することは間違いないだろう。
全てはミモザの頑張り次第だ。
「やっほ~♪ 立派なお店が建ったわね」
「あ、ダリアしゃん」
噂はしていないが、ダリアがひょっこり現れる。
「アンタも気前がいいことするじゃない。どうせなら私らの方にもいくらか援助してほしいな~、なんて」
「なんで我がそんなことを。それにこれは別に譲渡ではない。貸しだ」
「ふぅん? それにしちゃサービスよすぎる気がするんだけど……ま、いっか」
「あ、あの、ダリアさん。わたし、頑張りましゅので……」
「うんうん、これからもちょくちょく寄らしていただくわ。魔具のお店なんてここいらじゃなかなかないものね」
そういってミモザの頭を撫でやがる。気安くミモザに触るな。
どうせ、寄る理由のほとんどは治安維持のための監査だろう。
「おぉ、目が怖っ。ミモザちゃんはこんなに素直で可愛いのに、どうしてフィーはこんなに無愛想なんだか。噛みつかれる前に退散するわ」
ぐるるるぅ! 本当に噛むぞっ!
「私もこういう立場だけどさ、応援はしてるから。これ、本当だからね」
「ダリアさんもう行っちゃうのでふか?」
名残惜しそうにミモザが言う。確かに今来たばっかりではあるが。
「ああ、ごめんね。開店したらまた来るから、じゃあね」
そういってダリアは手を振りながらサァッと風のように去っていった。
どうやら顔を見せに来ただけらしい。わざわざご苦労なことだ。
ま、ミモザの造る魔具は一級品なのだから、勇者たちからすればマークせざるを得ないだろうしな。仕方のないことではあるが、万が一にでもミモザに何かしようものなら覚悟しておれよ。
そうでなくとも、アイツらには報復するつもりだがな!
ふははははははははははっ!!!!
※ ※ ※
「ほう、中も小綺麗ではないか」
店内に入ってみると、当然ではあるがお店らしい内装になっていた。
大きなカウンターに、ズラリと並んだ商品棚。ここにパエデロスの客たちが足を運び、ミモザの造ってきた魔具を品定めしていくと思うと感動すら覚える。
カウンターを抜けて奥の方は工房になっており、今まで使ってきた工具や素材も大体移してきている。新築だというのにもう既にミモザに染まっておるな。
二階の方に上がれば、キッチンスペースもあり、寝室もある。
我の屋敷と比べてしまえばこぢんまりとした家ではあるが、ここにはミモザにとって必要なものが全部揃っている。
「うっ……、うぅ……」
突然、カウンターを前にしてミモザがうずくまる。
「お、おい、どうした? 気分が悪いのか?」
「い、いえ……、しゅみましぇん……嬉しすぎて……」
見ると、ミモザの目からは涙がこぼれ落ちていた。
嬉しくて泣き出すとは、変わった奴だ。
「……フィーしゃんには、話したことなかったと思いましゅが、わたし、落ちこぼれのエルフだったんれす。魔法もろくに使えないし、狩りも下手くそだし、何にも取り柄がなくて……」
言わずとも気付いておったがな、とは言ってはいけない空気だな。
「あはは……バレバレれしたよね。故郷の森を追放されちゃって、それでも一人前のエルフだって認められたくて、一所懸命、魔具の作り方を勉強して……人間の里で売るようになって……」
ぐすっ、とミモザが鼻を鳴らす。
「全然うまくいかなったんでふよね。ほら、わたしって舌っ足らずれしゅし。セールストーク? も苦手らったし。誰もわたしのこと認めてくれないのかな、って」
また顔を伏せたかと思えば、袖でグシグシグシと顔を拭い、もう一度顔を上げ、我の目を一点に見つめる。そして思い切り鼻をズズゥと啜り、言葉をひねり出す。
「フィーさんが、わたしのことを認めてくれたの、本当に嬉しかったんです。わたしなんかのことを欲しいって言ってくれたの、ウソでも嬉しかった」
ウソなわけがなかろう。こんな辺境の街の有象無象どもにはミモザの価値が分からなかっただけだ。
「フィーさんには、感謝の言葉じゃ、足りないのです。だからこれからはフィーさんに精一杯のお礼をさせてください!」
感謝……、感謝か。
本当に我は感謝されるような筋合いはあるのだろうか。
ただ、ミモザの技術が欲しくて、利用するつもりしかなかったというのに。
――今も、利用するつもりでいるのか?
こんな店までプレゼントして。
「これからもどうか、親友でいてくださいね。フィーさん」
その太陽の如き眩い笑顔を目の当たりにして、我は、我自身の本心が分からなくなってしまった。
目の前のそれを眺めて、ミモザが興奮気味に感想の言葉をもらす。
感情が高ぶっているということは一目見て分かる。
「ふふふ……思う存分、好きにしていいのだぞ」
「フィーしゃん、でもわたし、どうしたらいいか」
喜び半分、困惑半分といったところか。
これからミモザにとっての初めてが始まるのだからそれも無理はない。
「今までと変わらんさ。なぁに、困ったら我に任せればいい」
「フィーさん……」
うるうると、涙を溜めてミモザがこちらを見つめてくる。
相変わらずも小動物みたいな奴だ。
我とミモザの前にあるもの。それは、新しく建てられたお店だった。
誰のお店なのかは言うまでもない。ミモザが運営する魔具の専門店だ。
「それではミモザ様、こちらにサインをお願いします」
「はひっ! 分かりましらっ」
差し出された書類に緊張しながらもペンを走らせる。
名前をうっかり書き間違えないか少し不安になったが、ちゃんと書けたようだ。
「はい、確かに」
書類は受理され、名実と共にここはミモザのものとなった。
「はぅ~……まだドキドキしてるのれす……まさかわたしが自分のお店を持てるなんて……」
「ふははははははははははっ!!!! 胸を張れ、ミモザ。お前ならできるさ。せいぜい、我に恩を尽くすのだな!」
と、我はミモザに懐から取り出したその書類を見せる。
「いつか、この額を返せるよう頑張るのだぞ」
我の手元の書類に書かれているのは、結構な額だ。それはこの店の建設費であったり、運営費であったり、その他諸々を全部まとめて綴ってある。
少なくとも短期間で返せるような額などではないことだけは確かだ。
我は、この程度の額などくれてやったってよかった。
だが、それでは意味がないのだ。
ミモザ自身が払うことに意味がある。我はただ背中を押しただけに過ぎん。
どうしてわざわざミモザの店を建ててやったのかって?
シンプルな答えだ。パエデロスの市場では高価な品を売るのはリスクが高い。
専門の店として開業すれば客層も絞り込めるし、都合が良かった。
発展途上の街とはいえ、このパエデロスにも富裕層は一定数いる。
そういう客を対象にしていけば高額でも決して売れないことはない。
実際、そんな層を狙って店を出している遠方からの商人も少なくはないからな。
「わたし……、わたし、絶対にフィーしゃんに全部お返ししましゅ……っ!」
力強い返事だ。
この借金返済が簡単なことではないことはミモザも重々承知している。
露天商からいきなり店を持つことが大変だろうということも。
ただ、我には確信があった。既にミモザの造る魔具の品質についてはこのパエデロスでも周知されているということも知っている。
いつぞや、市場で騒ぎを起こしたとき、ダリアがミモザの商品を実証するためにドデカい魔法を打ち上げてくれたからな。あれがいい販促になったらしい。
あれから順調に売り上げも伸びていたことも知っている。
きっと軌道に乗れば繁盛することは間違いないだろう。
全てはミモザの頑張り次第だ。
「やっほ~♪ 立派なお店が建ったわね」
「あ、ダリアしゃん」
噂はしていないが、ダリアがひょっこり現れる。
「アンタも気前がいいことするじゃない。どうせなら私らの方にもいくらか援助してほしいな~、なんて」
「なんで我がそんなことを。それにこれは別に譲渡ではない。貸しだ」
「ふぅん? それにしちゃサービスよすぎる気がするんだけど……ま、いっか」
「あ、あの、ダリアさん。わたし、頑張りましゅので……」
「うんうん、これからもちょくちょく寄らしていただくわ。魔具のお店なんてここいらじゃなかなかないものね」
そういってミモザの頭を撫でやがる。気安くミモザに触るな。
どうせ、寄る理由のほとんどは治安維持のための監査だろう。
「おぉ、目が怖っ。ミモザちゃんはこんなに素直で可愛いのに、どうしてフィーはこんなに無愛想なんだか。噛みつかれる前に退散するわ」
ぐるるるぅ! 本当に噛むぞっ!
「私もこういう立場だけどさ、応援はしてるから。これ、本当だからね」
「ダリアさんもう行っちゃうのでふか?」
名残惜しそうにミモザが言う。確かに今来たばっかりではあるが。
「ああ、ごめんね。開店したらまた来るから、じゃあね」
そういってダリアは手を振りながらサァッと風のように去っていった。
どうやら顔を見せに来ただけらしい。わざわざご苦労なことだ。
ま、ミモザの造る魔具は一級品なのだから、勇者たちからすればマークせざるを得ないだろうしな。仕方のないことではあるが、万が一にでもミモザに何かしようものなら覚悟しておれよ。
そうでなくとも、アイツらには報復するつもりだがな!
ふははははははははははっ!!!!
※ ※ ※
「ほう、中も小綺麗ではないか」
店内に入ってみると、当然ではあるがお店らしい内装になっていた。
大きなカウンターに、ズラリと並んだ商品棚。ここにパエデロスの客たちが足を運び、ミモザの造ってきた魔具を品定めしていくと思うと感動すら覚える。
カウンターを抜けて奥の方は工房になっており、今まで使ってきた工具や素材も大体移してきている。新築だというのにもう既にミモザに染まっておるな。
二階の方に上がれば、キッチンスペースもあり、寝室もある。
我の屋敷と比べてしまえばこぢんまりとした家ではあるが、ここにはミモザにとって必要なものが全部揃っている。
「うっ……、うぅ……」
突然、カウンターを前にしてミモザがうずくまる。
「お、おい、どうした? 気分が悪いのか?」
「い、いえ……、しゅみましぇん……嬉しすぎて……」
見ると、ミモザの目からは涙がこぼれ落ちていた。
嬉しくて泣き出すとは、変わった奴だ。
「……フィーしゃんには、話したことなかったと思いましゅが、わたし、落ちこぼれのエルフだったんれす。魔法もろくに使えないし、狩りも下手くそだし、何にも取り柄がなくて……」
言わずとも気付いておったがな、とは言ってはいけない空気だな。
「あはは……バレバレれしたよね。故郷の森を追放されちゃって、それでも一人前のエルフだって認められたくて、一所懸命、魔具の作り方を勉強して……人間の里で売るようになって……」
ぐすっ、とミモザが鼻を鳴らす。
「全然うまくいかなったんでふよね。ほら、わたしって舌っ足らずれしゅし。セールストーク? も苦手らったし。誰もわたしのこと認めてくれないのかな、って」
また顔を伏せたかと思えば、袖でグシグシグシと顔を拭い、もう一度顔を上げ、我の目を一点に見つめる。そして思い切り鼻をズズゥと啜り、言葉をひねり出す。
「フィーさんが、わたしのことを認めてくれたの、本当に嬉しかったんです。わたしなんかのことを欲しいって言ってくれたの、ウソでも嬉しかった」
ウソなわけがなかろう。こんな辺境の街の有象無象どもにはミモザの価値が分からなかっただけだ。
「フィーさんには、感謝の言葉じゃ、足りないのです。だからこれからはフィーさんに精一杯のお礼をさせてください!」
感謝……、感謝か。
本当に我は感謝されるような筋合いはあるのだろうか。
ただ、ミモザの技術が欲しくて、利用するつもりしかなかったというのに。
――今も、利用するつもりでいるのか?
こんな店までプレゼントして。
「これからもどうか、親友でいてくださいね。フィーさん」
その太陽の如き眩い笑顔を目の当たりにして、我は、我自身の本心が分からなくなってしまった。
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