第19話 お返しをしたいのです

ー/ー



【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:33≫
 ≪HP:583/583≫
 ≪MP:174/174≫
 ≪状態:健康≫

 昨日はバタバタしていたし、確認もしないまま寝ていたのだが、真実を見る透鏡(トゥルーグラス)を掛けて改めて姿見を覗き込んでみたらこんな状態だった。

 そうか、昨日の夢魔との戦闘で一気に跳ね上がったのか。それにしたってなんか上がり幅がとんでもないことになっているような気がしないでもない。

 さすがに我も能力の上がり幅の相場は知らないから詳しいところは分からんのだが、HPとやらの上がり方はこんな感じでいいのだろうか。対するMPは若干遅いような気もするし。

 さて、確認したかったのはこれだけではない。
 昨日死にものぐるいで手に入れた幻惑の腕輪だ。
 これを付けてみるとどうなるのだろうか。

【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:1≫
 ≪HP:12/12≫
 ≪MP:3/3≫
 ≪状態:健康≫

 あー、やっぱり思った通りか。魔具越しでも認識を歪めることができるのか。
 なんて強力すぎる。これなら多少なり魔力感知に優れていてもバレまい。

 ここには勇者の仲間のダリアも頻繁に顔を見せに来るから少々不安ではあった。
 短期間であまりにも強くなりすぎるとアイツの目も誤魔化せないだろうしな。

 ふふふ……、我の野望が成就する日は近いな。

「ふわわぁ~……フィーひゃん、おはようなのでふ……」
「ああ、おはようミモザ」
 寝ぼけ眼のポケーっとしたミモザが、ベッドからのそのそと下りてきて大きく伸びをする。まだ眠そうだな。頭もぴょっこんと跳ねている。

「寝癖が酷いぞ、顔洗ってこい」
「ふぁぁい……」
 あくびで返事しつつ、ベッド脇のサイドテーブルに置いておいたヨレヨレのメガネをとると、トコトコとミモザは部屋を出ていく。のほほんと平和な奴だ。

 我は復讐に燃えているというのに、気が抜けてしまう。

 ※ ※ ※

 何とも饐えた匂いのするミモザの工房に、我はいた。
 我が用意させたものだが、造らせてからあっという間に散らかり放題になってしまった。

 どうもここにいるとミモザの匂いが充満しているように思えてくる。

 工具はキレイに整頓されているが、素材の保管は結構乱雑だ。
 大体はミモザが持ち込んできたものか、我と一緒にダンジョン探索したときに持ち帰ったもの。あと、我がミモザのために取り寄せたものもある。

 我の屋敷よりも新しいはずなのだが、この煤けた感じ、散らかり具合、そこかしこから漂う焦げ臭い窯やら何やらを見ると、もう既に何年も使われている工房のように感じてしまう。

「フィーさん、それでこの術式の構築なのでふが……」
 作業着に身を包むミモザが真剣な眼差しでテーブルに向かう。そこに置いてあるのは精密な魔法陣を描いた布と、幾つかの特殊な鉱石を削ったものだ。

「ああ、水の性質を参考にすればいい。応用が利くはずだ」
「なるほろ……、そうすると魔力がこっちに流れて」

 我の一言一言を聞き逃さぬよう耳を傾け、作業に集中する。構築の仕方など頭で理解することも大変なのだが、しっかりと理解してくれる。
 さらには実際に思った通りに組み込んでいくのが難しく、大概はここで挫折するか失敗するところ。だが、ミモザの器用な指先は見事に仕上げていく。

「ほら、魔法陣が反応しているぞ。魔力の放出が始まる」
「はいっ、ここでこの石とこれをズラして……」
 まだ我が何も言う前に魔力の流れを把握できているのか、丁寧に作業を進める。

 やはり見事なものだ。潜在魔力がないとは思えない。
 エルフだからか、感知能力に関してはお手のものといったところか。

 我にできることは魔法の知識を教えるだけ。
 ただそれだけで指示通りのものを仕上げてくれる。

「結晶化できましらっ」
 テーブルの上の魔法陣の中央に、魔力を集約させた水晶のようなものが光を放つ。ミモザのはしゃぎようも納得だ。

「ありがとうございましふ。フィーしゃんのおかげでダリアさんのキジュン? 通りの魔石が構築できました」
 あどけない歯の見える笑みを見せて、えへへへ、とミモザがこちらに向き直る。
 額には汗が光り、息も上がっている辺り、かなり集中していたらしい。

 まったく、ダリアの奴も面倒な課題を押しつけてきたものだ。

 何の話かと言えば、これまでミモザが造ってきた魔石は加減というものがなかった。最初こそただ魔力の込められただけの代物だったが、十分な素材を取りそろえて、ちゃんとした工具や工房を手に入れたことにより、グレードが上がっていた。

 それこそ、本当に魔力を持っていなくとも魔法を発動させることができるほどの魔石も作れるようになっていた。

 が、そんなものを市場で売りさばいていたものから、治安維持を勤めている勇者どもからお咎めを受けたのだ。
 おまけにミモザときたらろくに値段の付け方も知らないせいで、魔法使い放題の魔石を目の飛び出るような格安で売っていたから尚のこと大目玉だ。

 注意を受けてからというもの、こんな辺境の地パエデロスとは違う帝国レベルの都市での販売基準を突きつけてきた、というわけだ。

 ミモザの製法は独学によるものだったこともあり、一般的な教科書通り、大都市の規格に合わせるということが逆に難しかったようだ。
 何せ、基本の「き」の字も知らなかったのだからな。

 我としては、兵器クラスの魔具を安価でバラまいておけば治安も壊れ放題で都合がいいのだが、あの勇者どもに目を付けられているとあれば無視もできない。

 なんだったら今頃、知らないどこかで既に売れたミモザの魔石が悪用されている可能性もあるだろうな。残念なのは我の耳には入っていないことだ。

「うぅん……でもでもー、これをこの値段で売るのは大変そうでふね」
 ダリアから渡された相場の料金表にも目を通してみる。
 いくら金銭感覚の狂っている我でもさすがに分かるぞ。
 こんな値段を市場で出したら誰も手が出せぬわ。

 それどころか、いつぞやのようにガラの悪い冒険者にまたミモザが因縁をつけられてしまうかもしれない。あのときでさえ、多少なり値上げこそしていたものの、破格すぎる値段だった記憶もある。

「なんだったら我が全部買い取るぞ」
「それじゃダメれす……フィーさんには沢山、沢山……ホントに沢山色んな物をもらってしまったのれす。だからわたしもお返しをしたいのです」
「ミモザが造って、我が買うのじゃ駄目なのか?」
 無言で普通に首を横に振られた。分からん。何が違うというのだ。

「いつか、フィーしゃんにもらったものを全部お返しできるくらいに、いっぱい稼ぎたいと思っているのれふ!」
「わ、我は別にそんな気にしておらぬのだが……」

「ダメです、ダメなのでふ。もらいっぱなしも、あげっぱなしもイヤなのですよ」
 ミモザも何をそんなに強くこだわっているのか分からんが、我のためにお返しをしたいと言っているのだからそれをそのまま突っぱねるわけにもいかぬか。

 我がこれまでにミモザにしてきたこととなると、金額にしてどれだけのものになるかも分からない。だがミモザはソレを分かっていて言っているのだろう。

 とはいえ、この値段で売り上げを伸ばせば十分に返せる見込みはあるかもしれない。なんといってもミモザの腕前は我も認める確かなものなのだから。

 問題は、こんな発展途上の街の市場で高額な魔具を売るのは難しいということに尽きる。もっと質を下げて値段も落としていくべきだろうか。
 しかし、それを決めるのは我ではない。ミモザ自身だ。

 我にできることなど……。


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【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:33≫
 ≪HP:583/583≫
 ≪MP:174/174≫
 ≪状態:健康≫
 昨日はバタバタしていたし、確認もしないまま寝ていたのだが、|真実を見る透鏡《トゥルーグラス》を掛けて改めて姿見を覗き込んでみたらこんな状態だった。
 そうか、昨日の夢魔との戦闘で一気に跳ね上がったのか。それにしたってなんか上がり幅がとんでもないことになっているような気がしないでもない。
 さすがに我も能力の上がり幅の相場は知らないから詳しいところは分からんのだが、HPとやらの上がり方はこんな感じでいいのだろうか。対するMPは若干遅いような気もするし。
 さて、確認したかったのはこれだけではない。
 昨日死にものぐるいで手に入れた幻惑の腕輪だ。
 これを付けてみるとどうなるのだろうか。
【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:1≫
 ≪HP:12/12≫
 ≪MP:3/3≫
 ≪状態:健康≫
 あー、やっぱり思った通りか。魔具越しでも認識を歪めることができるのか。
 なんて強力すぎる。これなら多少なり魔力感知に優れていてもバレまい。
 ここには勇者の仲間のダリアも頻繁に顔を見せに来るから少々不安ではあった。
 短期間であまりにも強くなりすぎるとアイツの目も誤魔化せないだろうしな。
 ふふふ……、我の野望が成就する日は近いな。
「ふわわぁ~……フィーひゃん、おはようなのでふ……」
「ああ、おはようミモザ」
 寝ぼけ眼のポケーっとしたミモザが、ベッドからのそのそと下りてきて大きく伸びをする。まだ眠そうだな。頭もぴょっこんと跳ねている。
「寝癖が酷いぞ、顔洗ってこい」
「ふぁぁい……」
 あくびで返事しつつ、ベッド脇のサイドテーブルに置いておいたヨレヨレのメガネをとると、トコトコとミモザは部屋を出ていく。のほほんと平和な奴だ。
 我は復讐に燃えているというのに、気が抜けてしまう。
 ※ ※ ※
 何とも饐えた匂いのするミモザの工房に、我はいた。
 我が用意させたものだが、造らせてからあっという間に散らかり放題になってしまった。
 どうもここにいるとミモザの匂いが充満しているように思えてくる。
 工具はキレイに整頓されているが、素材の保管は結構乱雑だ。
 大体はミモザが持ち込んできたものか、我と一緒にダンジョン探索したときに持ち帰ったもの。あと、我がミモザのために取り寄せたものもある。
 我の屋敷よりも新しいはずなのだが、この煤けた感じ、散らかり具合、そこかしこから漂う焦げ臭い窯やら何やらを見ると、もう既に何年も使われている工房のように感じてしまう。
「フィーさん、それでこの術式の構築なのでふが……」
 作業着に身を包むミモザが真剣な眼差しでテーブルに向かう。そこに置いてあるのは精密な魔法陣を描いた布と、幾つかの特殊な鉱石を削ったものだ。
「ああ、水の性質を参考にすればいい。応用が利くはずだ」
「なるほろ……、そうすると魔力がこっちに流れて」
 我の一言一言を聞き逃さぬよう耳を傾け、作業に集中する。構築の仕方など頭で理解することも大変なのだが、しっかりと理解してくれる。
 さらには実際に思った通りに組み込んでいくのが難しく、大概はここで挫折するか失敗するところ。だが、ミモザの器用な指先は見事に仕上げていく。
「ほら、魔法陣が反応しているぞ。魔力の放出が始まる」
「はいっ、ここでこの石とこれをズラして……」
 まだ我が何も言う前に魔力の流れを把握できているのか、丁寧に作業を進める。
 やはり見事なものだ。潜在魔力がないとは思えない。
 エルフだからか、感知能力に関してはお手のものといったところか。
 我にできることは魔法の知識を教えるだけ。
 ただそれだけで指示通りのものを仕上げてくれる。
「結晶化できましらっ」
 テーブルの上の魔法陣の中央に、魔力を集約させた水晶のようなものが光を放つ。ミモザのはしゃぎようも納得だ。
「ありがとうございましふ。フィーしゃんのおかげでダリアさんのキジュン? 通りの魔石が構築できました」
 あどけない歯の見える笑みを見せて、えへへへ、とミモザがこちらに向き直る。
 額には汗が光り、息も上がっている辺り、かなり集中していたらしい。
 まったく、ダリアの奴も面倒な課題を押しつけてきたものだ。
 何の話かと言えば、これまでミモザが造ってきた魔石は加減というものがなかった。最初こそただ魔力の込められただけの代物だったが、十分な素材を取りそろえて、ちゃんとした工具や工房を手に入れたことにより、グレードが上がっていた。
 それこそ、本当に魔力を持っていなくとも魔法を発動させることができるほどの魔石も作れるようになっていた。
 が、そんなものを市場で売りさばいていたものから、治安維持を勤めている勇者どもからお咎めを受けたのだ。
 おまけにミモザときたらろくに値段の付け方も知らないせいで、魔法使い放題の魔石を目の飛び出るような格安で売っていたから尚のこと大目玉だ。
 注意を受けてからというもの、こんな辺境の地パエデロスとは違う帝国レベルの都市での販売基準を突きつけてきた、というわけだ。
 ミモザの製法は独学によるものだったこともあり、一般的な教科書通り、大都市の規格に合わせるということが逆に難しかったようだ。
 何せ、基本の「き」の字も知らなかったのだからな。
 我としては、兵器クラスの魔具を安価でバラまいておけば治安も壊れ放題で都合がいいのだが、あの勇者どもに目を付けられているとあれば無視もできない。
 なんだったら今頃、知らないどこかで既に売れたミモザの魔石が悪用されている可能性もあるだろうな。残念なのは我の耳には入っていないことだ。
「うぅん……でもでもー、これをこの値段で売るのは大変そうでふね」
 ダリアから渡された相場の料金表にも目を通してみる。
 いくら金銭感覚の狂っている我でもさすがに分かるぞ。
 こんな値段を市場で出したら誰も手が出せぬわ。
 それどころか、いつぞやのようにガラの悪い冒険者にまたミモザが因縁をつけられてしまうかもしれない。あのときでさえ、多少なり値上げこそしていたものの、破格すぎる値段だった記憶もある。
「なんだったら我が全部買い取るぞ」
「それじゃダメれす……フィーさんには沢山、沢山……ホントに沢山色んな物をもらってしまったのれす。だからわたしもお返しをしたいのです」
「ミモザが造って、我が買うのじゃ駄目なのか?」
 無言で普通に首を横に振られた。分からん。何が違うというのだ。
「いつか、フィーしゃんにもらったものを全部お返しできるくらいに、いっぱい稼ぎたいと思っているのれふ!」
「わ、我は別にそんな気にしておらぬのだが……」
「ダメです、ダメなのでふ。もらいっぱなしも、あげっぱなしもイヤなのですよ」
 ミモザも何をそんなに強くこだわっているのか分からんが、我のためにお返しをしたいと言っているのだからそれをそのまま突っぱねるわけにもいかぬか。
 我がこれまでにミモザにしてきたこととなると、金額にしてどれだけのものになるかも分からない。だがミモザはソレを分かっていて言っているのだろう。
 とはいえ、この値段で売り上げを伸ばせば十分に返せる見込みはあるかもしれない。なんといってもミモザの腕前は我も認める確かなものなのだから。
 問題は、こんな発展途上の街の市場で高額な魔具を売るのは難しいということに尽きる。もっと質を下げて値段も落としていくべきだろうか。
 しかし、それを決めるのは我ではない。ミモザ自身だ。
 我にできることなど……。