「まあ、モルモットって成長が早いからね」
「いや、それにしてもじゃない? たった二週間でこんなに大きくなる?」
モルモットの写真が映ったスマホの画像を見せるも、澄香の反応はあまり芳しくない。「そんなにでかいかな」とスマホの画面に顔を近づけ、首を捻っている。写真だと実際の大きさが想像しづらいのかもしれない。
「アズはさ、このモルモットくんのお世話、毎日してるの?」
「ううん。世話するのは基本的にお母さんか妹で、たまにお父さんもやってるけど、わたしはほとんど関わってない」
「だからじゃない?」
「なにが?」
「毎日近くで見てないから、たまに見たときに急に大きくなったように感じるんだよ。ほら、親戚のおじさんがさ、たまに会うと決まって『大きくなったねえ』って言ってくるじゃん。ああいう感覚なんじゃない?」
「わたし、親戚のおじさん?」
「ああ、おばさんか」
「いや、どっちでもいいけど」
澄香の言う理屈はわかる。だけどまだ釈然としない。だって、買ったときは小学二年生の妹の手に乗るくらい小さかったのだ。それがこの短期間でここまで成長するものだろうか。
「スミ、今日帰り、うち寄ってよ」
「え、いいの? うん、行く行く」
澄香に、実際にその目で見てもらおうと思った。
「アズんち行くの、ひさしぶりだなー」
「そうだっけ?」
「そうだよ。高校に上がってからは初めてじゃん」
駅からの道を澄香と並んで歩く。澄香とは中学も同じで、よく一緒に登下校していた。高校に上がってからは、そういえばあまりそういうことはしなくなっていたかもしれない。
「楽しみだなあ、生ハナちゃん」
「ただのモルモットだよ」
「冷めてるなあ、アズは。……あ、ねえ、金魚は? まだいるの?」
「金魚?」
「あれ、熱帯魚だっけ?」
「スミ、なに言ってるの?」
「え。だって、前行ったときいたじゃん、魚。アズ、けっこうかわいがってなかったっけ? 名前までつけてさ」
「いないよ、うちに魚なんて」
「えー? そうだっけえ? 飼ってたと思うけどなあ」
「だれかほかの子と勘違いしてるんじゃないの?」
そうこう話しているうちに家に着いた。ドアを開け、中に入る。
「ただいま」
「おじゃましまーす」
澄香の声に反応し、母がリビングのほうからやってくる。
「あら。お友だち? えーと――」
「澄香」
「そうそう。スミコちゃんね。いらっしゃい」
「おじゃまします! 今日はハナちゃんに会いに来ました!」
「あらそう。うふふ。どうぞ、上がって。あとでお茶とお菓子、持っていくわね」
さっそく澄香をモルモットのもとへ案内する。ケージの前にはすでに妹がへばりついていた。
「えあ? もしかして、奏乃ちゃん? いやー、おっきくなったねえ」
澄香が親戚のおじさんよろしく妹に声をかける。いや、おばさんか。二人が最後に会ったのは二年前、いや、三年前だろうか。妹はもじもじと両手の指をこすり合わせ、助けを求めるような目をわたしに向けていた。
「そんで? この子が噂のハナちゃん?」
澄香がケージのほうへ顔を向けて言った。そうだ、今日の目的はそれだった。澄香がどんな反応を示すかと、ケージのほうへ一歩寄る。その瞬間、足に釘を打たれたようにそれ以上動けなくなった。
モルモットはさらに大きくなっていた。サッカーボールなんてものじゃない。ちょっとした大型犬くらいのサイズになっている。ケージの中に収まっているのが不思議に思えるほどの大きさだった。
「やっぱ写真で見るより実物のほうがかわいいねえ」
「えへへー。ハナちゃん、かわいいでしょ?」
「うん、かわいい。こんにちはー、ハナちゃん」
「こんにちはー」
妹が澄香のまねをしてモルモットに声をかける。いまさっきまで気まずそうにしていたのが嘘のように親しげな様子だ。だけどいま、そんなことはどうでもいい。どうしてこの二人は目の前にいる異様な生物を見て、こんなにも平然としていられるのだろう。
「あ、あ、あの、あのさ」
後ろから澄香の肩をたたく。動揺と恐怖で舌がうまく回らなかった。
「なに、アズ?」
「い、いや、なにって……で、でかいよね、モルモット」
「ハナちゃん」妹がわたしを睨む。突き刺してくるような視線だった。
「んー? ……まあ、でかいっちゃでかいけど。でも、こんなもんじゃない?」
そんな馬鹿な。モルモットは小動物だ。こんなに大きくていいはずがない。
「ハナちゃんはね、くいしんぼさんなの」
「なるほどー。きみは食いしんぼなのかー。たしかに、よく見るとお腹にちょっと余計なお肉がついているみたいだねえ」
「ハナちゃん、ぷにぷに」
「あはは。そうだね、ぷにぷにだ。ハナちゃん、ぷにぷにー」
そんなことを言いながら二人は笑い合っていた。あはは。えへへ。えへへ。あはは。聞いているうちになんだか頭がくらくらしてくる。笑い声はどこか遠くから聞こえてくるようだった。