第1章 捨てる神あれば拾う神あり-6
ー/ー その晩は駆が作ってくれた、食欲をそそる香りのとろけるようなパンプキンシチューとシーザーサラダをリビングダイニングで食べる。この家で自分以外の人が作ってくれた食事を美味しく頂くなんて本当に久しぶりの事だったので、私は涙ぐみそうになった。
「ランちゃん、本当に料理が上手なんだね。いいお婿さんになれるよ」
私はべた褒めした。イケメンで背が高くて頭が良くて料理が上手だなんてあまりにも出木杉君だ。ただし現時点では留年が決まったばかりで、しかも親から『勘当』されてしまった物凄く頼りない存在だけど。
「ありがとう、褒められるとなんだか嬉しいね」
駆は相好を崩した。
その後で、明日以降の予定を確認し始める。
「明日午前中にオレの荷物が到着するはずだからまずは荷物を解くことを優先させてもらうね。明後日月曜からアルファさんが仕事だったよね。いつも何時に家を出ていくの?」
「朝7時までには家を出ることにしているよ」
「じゃ、朝食は6時過ぎでいい?」
「朝食はそんなに食べないから本当に簡単でいいからね。あ、ちなみに私、朝はパン派だから」
朝から気合を入れて一汁三菜とか出されたら絶対に困るので最初に断りを入れておく。
「オレもパン派だから良かった。明日はさっき買ったパンと一緒にシチューの残りを食べよう」
駆がにこにこする。昼にカフェで落ち合った時の焦燥しきった表情とはまるで別人で、私は内心ほっとした。
「月曜は住民票を横浜市から移したり、大学で住所変更の手続きしたりするよ」
駆がスマホのアプリに予定を入力していたが、ふと顔を上げた。
「あ……そうだ、思い出した……父さんに健康保険証を取り上げられたから市役所で国民健康保険だっけ?の手続しなくちゃいけないらしい」
それを聞いた私は激しくドン引きしてしまった。駆のお父さんは本当に駆の扶養をする気がないという強い意志を感じてしまったからだ。いざという時の健康保険証まで取り上げるなんて、抜かりがなさ過ぎて恐怖すら覚える。とはいえ家族でもない私の扶養に入れてあげる訳にもいかないし。私が両親を失った時は既に社会人だったから扶養云々なんて気にするする必要がなかったけど、実の親からそんな風に扱われたら私なら絶望してしまっただろう。
「バイトどうしようかな。これから春休みだからがっつり稼がないといけないし、今まで大学近くでやってきたけど……」
と駆が顎に手を当てたので
「どうせ通学定期券買うんだから大学近くでいいんじゃない? その方が大学方面に行く理由にもなるでしょ。大学が休みでもサークル活動があるだろうし」
私がそう提案したところ、駆の顔がさっと曇った。
「オレ……今はサークル活動してないんだ……」
「以前はテニスしてなかったっけ?」
以前オフ会では、大学公認のテニスサークルに入っていると語っていたはずだったが。
「昨年末辞めた……」
駆は肩を落とした。
「色々あったんだよ……すごく揉めてさ……」
「そっか……大変だったんだね……」
私は敢えて踏み込まなかった。その辺は今立ち入る話ではない気がしたのだ。
「でも、テニスは好きなんだよね?」
「大好きだよ。全身使うのが心地いいし、広いコートを思い切り自由に走り回れるし、汗臭くないし」
「汗臭くない?」
私は吹き出した。駆は真面目な顔をして頷いた。
「子どもの頃は地元の道場で剣道やってたんだけど、防具が臭くて我慢が出来なかったんだ。だから中学からは父親の反対を押し切って硬式テニスやってたんだよ」
なるほど、その辺も父親の不興を買う理由にはなっていたのかもしれない。警察と言えば、剣道や柔道だよね。
「アルファさん、スポーツは?」
駆が私に話を振ってくる。私は肩をすくめた。
「全然やってない。私はずっと文化系だよ。中学は吹奏楽部でクラリネット、高校は歴史研究会で、大学はアナログゲーム研究会」
「アナログゲームって?」
「え、知らない? ボードゲーム、カードゲームにテーブルトークRPGとかだよ」
「アルファさんって本当に根っからのゲーマーなんだ」
今度は駆が吹き出した。私は腕を組んで胸を張った。
「いいじゃん、両親もゲーマーだったし、私の身体には脈々とゲーマーの血が流れているんだよ!」
そう言いながら私はローボードに載っている両親の写真を見やった。二人はゲーム関係のオフ会で知り合ったらしかった。二人の馴れ初め話をもっと詳しく聞いておけばよかったと今更ながら後悔している。
「ご両親がゲーマーとか羨ましい……」
駆が言うので、私は首をぶるぶる振った。
「そう思うでしょ。それがね、据置型ゲームは家族で争奪戦が起こる訳よ。結局長時間遊べなかったし、親がやたらゲームに詳しいから厳しく管理されてたし」
あくまで私の経験上の話だが、ゲームに詳しくない親を持つ子の方がゲームを好き勝手遊んでいたような気がする。私なんて寝る時は必ず携帯ゲーム機を取り上げられていたし、部屋にパソコンを置くことは中学まで認められなかった。親の管理下でだけ遊ぶことを許可されていたのである。
「なるほど。だからこそ今きちんと自己管理できるんだろうね」
「そうなのかも」
私はそう言ってから、ふふふと笑った。
「ランちゃん、これからは私がびしばし管理させてもらうから覚悟してね!」
「アルファ先生、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
駆は深々と頭を下げたのだった。
駆にお風呂や洗面所の使い方を説明してから入浴してもらった後、それぞれの部屋に引っ込んだ。私はパジャマに着替えるとベッドにだらしなく寝転び、リア友・柳田 渚にLIMEを送った。渚は小学生の時からの苦楽を共にした私の大事な親友だ。
私『今日からうちに居候来たからよろしく!』
渚『居候って誰? 親戚?』
私『ううん、違う、FQⅢで同じパーティ組んでた男子大学生のランちゃん』
渚『なんと、あの奥手な有葉ちゃんもついに同棲ですかー!?』
直後にクラッカーが弾けるアニメーションスタンプが送信されてくる。タッキーさんと同じこと言ってるよ。まあ、男女が一緒に住み始めるって聞いたら普通そう思うよね。
私『全然違うって、私達付き合ってないし。そもそも直接会うの今日が二日目だから』
渚『うそ、付き合ってもいないのに住まわせるとか、どーいうこと? まさかペットとしてとかじゃないよね!?』
私『おいおい、漫画の読みすぎだって』
『そんなんじゃないよ。事情があってランちゃんが住む処がなくなってしまったから提供してあげただけ』
渚『信じられなーい。でもそう言えば有葉ちゃん、昔から色々拾ってきてたもんね』
私『うん、まあ、そんなこともあったね』
『怪我した小鳥とか、捨てられてた老犬とか』
その節は渚を巻き込んで大騒ぎしたんだった。ごめんよ、渚。結局小鳥は二人のお小遣いをかき集めてペットクリニックに連れて行き治療してもらったけど、餌を食べてくれず衰弱して死んでしまった。だから二人で協力してお墓を作って号泣したんだった。
一方の老犬は親達を巻き込み引き取ってくれる愛護団体を懸命に探して、そこに託した。運よく引き取ってくれた親切な方がいたという事は聞いている。
渚『有葉ちゃんらしいや、ま、知らぬ者同士のルームシェアは色々大変だと思うけど頑張って!』
励ますようなスタンプが送られてくる。私は頑張る!とお休みなさいというスタンプを連続投下してからLIMEを閉じ、スマホを枕元に置いた。
部屋の明かりを消してから、羽毛布団に潜り込む。暖房を入れていなかったので案外肌寒い。駆の部屋はまだ暖房がないし北向きだからこの部屋よりも寒いはずだ。明日には荷物が届くから寒いのは今日だけだし、駆は岩手出身だから寒さには慣れているだろうけど、ちゃんと眠れるだろうかと心配になった。しかし互いに部屋に入ったら干渉しない、用がある時はLIMEやスマホで連絡をすると先ほど約束をしたばかりだし、私は敢えて気にしないことにした。布団を頭まで被って無理やり目を閉じ寝ることに専念する。
だが、眠らなくてはと思うほど眠れなくなり、何度も寝返りを打ってしまう。駆とは友達と呼ぶほど親しくもなく、かといって見ず知らずの人間という訳でもなく、三年近く同じゲームでずっと遊んできた関係。お互いのことをよくは知らないのに、共に過ごした時間だけは相当長い不思議な間柄である。そう、駆は大切な仲間だ。仲間が困っていたら助けるのは人として当然だ。天国にいる両親がこのことを知ったら私を褒めてくれるだろう。うん、きっとそうだ。私は自分の選択について誇りを持つことに決めた。駆がたまたま異性だっただけで私より四つも年下だし、頼りない弟みたいな存在だし……。
そこまで考えてから私は自分は誰に対して言い訳しているんだと可笑しくなり、声を立てて笑ってしまった。渚の言う通り私は強気な見かけに反して異性に対して奥手だし、全く免疫がないのだ。こっ恥ずかしいやら情けないやら、とほほである。マネージャーなんて言ってしまった手前毅然とした態度で臨まなければいけないというのに。
どうか駆にはこのことがバレませんように。私はこういう時だけ信じている心の中にいる神に祈ったのだった。
「ランちゃん、本当に料理が上手なんだね。いいお婿さんになれるよ」
私はべた褒めした。イケメンで背が高くて頭が良くて料理が上手だなんてあまりにも出木杉君だ。ただし現時点では留年が決まったばかりで、しかも親から『勘当』されてしまった物凄く頼りない存在だけど。
「ありがとう、褒められるとなんだか嬉しいね」
駆は相好を崩した。
その後で、明日以降の予定を確認し始める。
「明日午前中にオレの荷物が到着するはずだからまずは荷物を解くことを優先させてもらうね。明後日月曜からアルファさんが仕事だったよね。いつも何時に家を出ていくの?」
「朝7時までには家を出ることにしているよ」
「じゃ、朝食は6時過ぎでいい?」
「朝食はそんなに食べないから本当に簡単でいいからね。あ、ちなみに私、朝はパン派だから」
朝から気合を入れて一汁三菜とか出されたら絶対に困るので最初に断りを入れておく。
「オレもパン派だから良かった。明日はさっき買ったパンと一緒にシチューの残りを食べよう」
駆がにこにこする。昼にカフェで落ち合った時の焦燥しきった表情とはまるで別人で、私は内心ほっとした。
「月曜は住民票を横浜市から移したり、大学で住所変更の手続きしたりするよ」
駆がスマホのアプリに予定を入力していたが、ふと顔を上げた。
「あ……そうだ、思い出した……父さんに健康保険証を取り上げられたから市役所で国民健康保険だっけ?の手続しなくちゃいけないらしい」
それを聞いた私は激しくドン引きしてしまった。駆のお父さんは本当に駆の扶養をする気がないという強い意志を感じてしまったからだ。いざという時の健康保険証まで取り上げるなんて、抜かりがなさ過ぎて恐怖すら覚える。とはいえ家族でもない私の扶養に入れてあげる訳にもいかないし。私が両親を失った時は既に社会人だったから扶養云々なんて気にするする必要がなかったけど、実の親からそんな風に扱われたら私なら絶望してしまっただろう。
「バイトどうしようかな。これから春休みだからがっつり稼がないといけないし、今まで大学近くでやってきたけど……」
と駆が顎に手を当てたので
「どうせ通学定期券買うんだから大学近くでいいんじゃない? その方が大学方面に行く理由にもなるでしょ。大学が休みでもサークル活動があるだろうし」
私がそう提案したところ、駆の顔がさっと曇った。
「オレ……今はサークル活動してないんだ……」
「以前はテニスしてなかったっけ?」
以前オフ会では、大学公認のテニスサークルに入っていると語っていたはずだったが。
「昨年末辞めた……」
駆は肩を落とした。
「色々あったんだよ……すごく揉めてさ……」
「そっか……大変だったんだね……」
私は敢えて踏み込まなかった。その辺は今立ち入る話ではない気がしたのだ。
「でも、テニスは好きなんだよね?」
「大好きだよ。全身使うのが心地いいし、広いコートを思い切り自由に走り回れるし、汗臭くないし」
「汗臭くない?」
私は吹き出した。駆は真面目な顔をして頷いた。
「子どもの頃は地元の道場で剣道やってたんだけど、防具が臭くて我慢が出来なかったんだ。だから中学からは父親の反対を押し切って硬式テニスやってたんだよ」
なるほど、その辺も父親の不興を買う理由にはなっていたのかもしれない。警察と言えば、剣道や柔道だよね。
「アルファさん、スポーツは?」
駆が私に話を振ってくる。私は肩をすくめた。
「全然やってない。私はずっと文化系だよ。中学は吹奏楽部でクラリネット、高校は歴史研究会で、大学はアナログゲーム研究会」
「アナログゲームって?」
「え、知らない? ボードゲーム、カードゲームにテーブルトークRPGとかだよ」
「アルファさんって本当に根っからのゲーマーなんだ」
今度は駆が吹き出した。私は腕を組んで胸を張った。
「いいじゃん、両親もゲーマーだったし、私の身体には脈々とゲーマーの血が流れているんだよ!」
そう言いながら私はローボードに載っている両親の写真を見やった。二人はゲーム関係のオフ会で知り合ったらしかった。二人の馴れ初め話をもっと詳しく聞いておけばよかったと今更ながら後悔している。
「ご両親がゲーマーとか羨ましい……」
駆が言うので、私は首をぶるぶる振った。
「そう思うでしょ。それがね、据置型ゲームは家族で争奪戦が起こる訳よ。結局長時間遊べなかったし、親がやたらゲームに詳しいから厳しく管理されてたし」
あくまで私の経験上の話だが、ゲームに詳しくない親を持つ子の方がゲームを好き勝手遊んでいたような気がする。私なんて寝る時は必ず携帯ゲーム機を取り上げられていたし、部屋にパソコンを置くことは中学まで認められなかった。親の管理下でだけ遊ぶことを許可されていたのである。
「なるほど。だからこそ今きちんと自己管理できるんだろうね」
「そうなのかも」
私はそう言ってから、ふふふと笑った。
「ランちゃん、これからは私がびしばし管理させてもらうから覚悟してね!」
「アルファ先生、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
駆は深々と頭を下げたのだった。
駆にお風呂や洗面所の使い方を説明してから入浴してもらった後、それぞれの部屋に引っ込んだ。私はパジャマに着替えるとベッドにだらしなく寝転び、リア友・柳田 渚にLIMEを送った。渚は小学生の時からの苦楽を共にした私の大事な親友だ。
私『今日からうちに居候来たからよろしく!』
渚『居候って誰? 親戚?』
私『ううん、違う、FQⅢで同じパーティ組んでた男子大学生のランちゃん』
渚『なんと、あの奥手な有葉ちゃんもついに同棲ですかー!?』
直後にクラッカーが弾けるアニメーションスタンプが送信されてくる。タッキーさんと同じこと言ってるよ。まあ、男女が一緒に住み始めるって聞いたら普通そう思うよね。
私『全然違うって、私達付き合ってないし。そもそも直接会うの今日が二日目だから』
渚『うそ、付き合ってもいないのに住まわせるとか、どーいうこと? まさかペットとしてとかじゃないよね!?』
私『おいおい、漫画の読みすぎだって』
『そんなんじゃないよ。事情があってランちゃんが住む処がなくなってしまったから提供してあげただけ』
渚『信じられなーい。でもそう言えば有葉ちゃん、昔から色々拾ってきてたもんね』
私『うん、まあ、そんなこともあったね』
『怪我した小鳥とか、捨てられてた老犬とか』
その節は渚を巻き込んで大騒ぎしたんだった。ごめんよ、渚。結局小鳥は二人のお小遣いをかき集めてペットクリニックに連れて行き治療してもらったけど、餌を食べてくれず衰弱して死んでしまった。だから二人で協力してお墓を作って号泣したんだった。
一方の老犬は親達を巻き込み引き取ってくれる愛護団体を懸命に探して、そこに託した。運よく引き取ってくれた親切な方がいたという事は聞いている。
渚『有葉ちゃんらしいや、ま、知らぬ者同士のルームシェアは色々大変だと思うけど頑張って!』
励ますようなスタンプが送られてくる。私は頑張る!とお休みなさいというスタンプを連続投下してからLIMEを閉じ、スマホを枕元に置いた。
部屋の明かりを消してから、羽毛布団に潜り込む。暖房を入れていなかったので案外肌寒い。駆の部屋はまだ暖房がないし北向きだからこの部屋よりも寒いはずだ。明日には荷物が届くから寒いのは今日だけだし、駆は岩手出身だから寒さには慣れているだろうけど、ちゃんと眠れるだろうかと心配になった。しかし互いに部屋に入ったら干渉しない、用がある時はLIMEやスマホで連絡をすると先ほど約束をしたばかりだし、私は敢えて気にしないことにした。布団を頭まで被って無理やり目を閉じ寝ることに専念する。
だが、眠らなくてはと思うほど眠れなくなり、何度も寝返りを打ってしまう。駆とは友達と呼ぶほど親しくもなく、かといって見ず知らずの人間という訳でもなく、三年近く同じゲームでずっと遊んできた関係。お互いのことをよくは知らないのに、共に過ごした時間だけは相当長い不思議な間柄である。そう、駆は大切な仲間だ。仲間が困っていたら助けるのは人として当然だ。天国にいる両親がこのことを知ったら私を褒めてくれるだろう。うん、きっとそうだ。私は自分の選択について誇りを持つことに決めた。駆がたまたま異性だっただけで私より四つも年下だし、頼りない弟みたいな存在だし……。
そこまで考えてから私は自分は誰に対して言い訳しているんだと可笑しくなり、声を立てて笑ってしまった。渚の言う通り私は強気な見かけに反して異性に対して奥手だし、全く免疫がないのだ。こっ恥ずかしいやら情けないやら、とほほである。マネージャーなんて言ってしまった手前毅然とした態度で臨まなければいけないというのに。
どうか駆にはこのことがバレませんように。私はこういう時だけ信じている心の中にいる神に祈ったのだった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
その晩は駆が作ってくれた、食欲をそそる香りのとろけるようなパンプキンシチューとシーザーサラダをリビングダイニングで食べる。この家で自分以外の人が作ってくれた食事を美味しく頂くなんて本当に久しぶりの事だったので、私は涙ぐみそうになった。
「ランちゃん、本当に料理が上手なんだね。いいお婿さんになれるよ」
私はべた褒めした。イケメンで背が高くて頭が良くて料理が上手だなんてあまりにも出木杉君だ。ただし現時点では留年が決まったばかりで、しかも親から『勘当』されてしまった物凄く頼りない存在だけど。
「ありがとう、褒められるとなんだか嬉しいね」
駆は相好を崩した。
その後で、明日以降の予定を確認し始める。
「明日午前中にオレの荷物が到着するはずだからまずは荷物を解くことを優先させてもらうね。明後日月曜からアルファさんが仕事だったよね。いつも何時に家を出ていくの?」
「朝7時までには家を出ることにしているよ」
「じゃ、朝食は6時過ぎでいい?」
「朝食はそんなに食べないから本当に簡単でいいからね。あ、ちなみに私、朝はパン派だから」
朝から気合を入れて一汁三菜とか出されたら絶対に困るので最初に断りを入れておく。
「オレもパン派だから良かった。明日はさっき買ったパンと一緒にシチューの残りを食べよう」
駆がにこにこする。昼にカフェで落ち合った時の焦燥しきった表情とはまるで別人で、私は内心ほっとした。
「月曜は住民票を横浜市から移したり、大学で住所変更の手続きしたりするよ」
駆がスマホのアプリに予定を入力していたが、ふと顔を上げた。
「あ……そうだ、思い出した……父さんに健康保険証を取り上げられたから市役所で国民健康保険だっけ?の手続しなくちゃいけないらしい」
それを聞いた私は激しくドン引きしてしまった。駆のお父さんは本当に駆の扶養をする気がないという強い意志を感じてしまったからだ。いざという時の健康保険証まで取り上げるなんて、抜かりがなさ過ぎて恐怖すら覚える。とはいえ家族でもない私の扶養に入れてあげる訳にもいかないし。私が両親を失った時は既に社会人だったから扶養云々なんて気にするする必要がなかったけど、実の親からそんな風に扱われたら私なら絶望してしまっただろう。
「ランちゃん、本当に料理が上手なんだね。いいお婿さんになれるよ」
私はべた褒めした。イケメンで背が高くて頭が良くて料理が上手だなんてあまりにも出木杉君だ。ただし現時点では留年が決まったばかりで、しかも親から『勘当』されてしまった物凄く頼りない存在だけど。
「ありがとう、褒められるとなんだか嬉しいね」
駆は相好を崩した。
その後で、明日以降の予定を確認し始める。
「明日午前中にオレの荷物が到着するはずだからまずは荷物を解くことを優先させてもらうね。明後日月曜からアルファさんが仕事だったよね。いつも何時に家を出ていくの?」
「朝7時までには家を出ることにしているよ」
「じゃ、朝食は6時過ぎでいい?」
「朝食はそんなに食べないから本当に簡単でいいからね。あ、ちなみに私、朝はパン派だから」
朝から気合を入れて一汁三菜とか出されたら絶対に困るので最初に断りを入れておく。
「オレもパン派だから良かった。明日はさっき買ったパンと一緒にシチューの残りを食べよう」
駆がにこにこする。昼にカフェで落ち合った時の焦燥しきった表情とはまるで別人で、私は内心ほっとした。
「月曜は住民票を横浜市から移したり、大学で住所変更の手続きしたりするよ」
駆がスマホのアプリに予定を入力していたが、ふと顔を上げた。
「あ……そうだ、思い出した……父さんに健康保険証を取り上げられたから市役所で国民健康保険だっけ?の手続しなくちゃいけないらしい」
それを聞いた私は激しくドン引きしてしまった。駆のお父さんは本当に駆の扶養をする気がないという強い意志を感じてしまったからだ。いざという時の健康保険証まで取り上げるなんて、抜かりがなさ過ぎて恐怖すら覚える。とはいえ家族でもない私の扶養に入れてあげる訳にもいかないし。私が両親を失った時は既に社会人だったから扶養云々なんて気にするする必要がなかったけど、実の親からそんな風に扱われたら私なら絶望してしまっただろう。
「バイトどうしようかな。これから春休みだからがっつり稼がないといけないし、今まで大学近くでやってきたけど……」
と駆が顎に手を当てたので
「どうせ通学定期券買うんだから大学近くでいいんじゃない? その方が大学方面に行く理由にもなるでしょ。大学が休みでもサークル活動があるだろうし」
私がそう提案したところ、駆の顔がさっと曇った。
「オレ……今はサークル活動してないんだ……」
「以前はテニスしてなかったっけ?」
以前オフ会では、大学公認のテニスサークルに入っていると語っていたはずだったが。
「昨年末辞めた……」
駆は肩を落とした。
「色々あったんだよ……すごく揉めてさ……」
「そっか……大変だったんだね……」
私は敢えて踏み込まなかった。その辺は今立ち入る話ではない気がしたのだ。
「でも、テニスは好きなんだよね?」
「大好きだよ。全身使うのが心地いいし、広いコートを思い切り自由に走り回れるし、汗臭くないし」
「汗臭くない?」
私は吹き出した。駆は真面目な顔をして頷いた。
「子どもの頃は地元の道場で剣道やってたんだけど、防具が臭くて我慢が出来なかったんだ。だから中学からは父親の反対を押し切って硬式テニスやってたんだよ」
なるほど、その辺も父親の不興を買う理由にはなっていたのかもしれない。警察と言えば、剣道や柔道だよね。
と駆が顎に手を当てたので
「どうせ通学定期券買うんだから大学近くでいいんじゃない? その方が大学方面に行く理由にもなるでしょ。大学が休みでもサークル活動があるだろうし」
私がそう提案したところ、駆の顔がさっと曇った。
「オレ……今はサークル活動してないんだ……」
「以前はテニスしてなかったっけ?」
以前オフ会では、大学公認のテニスサークルに入っていると語っていたはずだったが。
「昨年末辞めた……」
駆は肩を落とした。
「色々あったんだよ……すごく揉めてさ……」
「そっか……大変だったんだね……」
私は敢えて踏み込まなかった。その辺は今立ち入る話ではない気がしたのだ。
「でも、テニスは好きなんだよね?」
「大好きだよ。全身使うのが心地いいし、広いコートを思い切り自由に走り回れるし、汗臭くないし」
「汗臭くない?」
私は吹き出した。駆は真面目な顔をして頷いた。
「子どもの頃は地元の道場で剣道やってたんだけど、防具が臭くて我慢が出来なかったんだ。だから中学からは父親の反対を押し切って硬式テニスやってたんだよ」
なるほど、その辺も父親の不興を買う理由にはなっていたのかもしれない。警察と言えば、剣道や柔道だよね。
「アルファさん、スポーツは?」
駆が私に話を振ってくる。私は肩をすくめた。
「全然やってない。私はずっと文化系だよ。中学は吹奏楽部でクラリネット、高校は歴史研究会で、大学はアナログゲーム研究会」
「アナログゲームって?」
「え、知らない? ボードゲーム、カードゲームにテーブルトークRPGとかだよ」
「アルファさんって本当に根っからのゲーマーなんだ」
今度は駆が吹き出した。私は腕を組んで胸を張った。
「いいじゃん、両親もゲーマーだったし、私の身体には脈々とゲーマーの血が流れているんだよ!」
そう言いながら私はローボードに載っている両親の写真を見やった。二人はゲーム関係のオフ会で知り合ったらしかった。二人の馴れ初め話をもっと詳しく聞いておけばよかったと今更ながら後悔している。
「ご両親がゲーマーとか羨ましい……」
駆が言うので、私は首をぶるぶる振った。
「そう思うでしょ。それがね、据置型ゲームは家族で争奪戦が起こる訳よ。結局長時間遊べなかったし、親がやたらゲームに詳しいから厳しく管理されてたし」
あくまで私の経験上の話だが、ゲームに詳しくない親を持つ子の方がゲームを好き勝手遊んでいたような気がする。私なんて寝る時は必ず携帯ゲーム機を取り上げられていたし、部屋にパソコンを置くことは中学まで認められなかった。親の管理下でだけ遊ぶことを許可されていたのである。
「なるほど。だからこそ今きちんと自己管理できるんだろうね」
「そうなのかも」
私はそう言ってから、ふふふと笑った。
「ランちゃん、これからは私がびしばし管理させてもらうから覚悟してね!」
「アルファ先生、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
駆は深々と頭を下げたのだった。
駆が私に話を振ってくる。私は肩をすくめた。
「全然やってない。私はずっと文化系だよ。中学は吹奏楽部でクラリネット、高校は歴史研究会で、大学はアナログゲーム研究会」
「アナログゲームって?」
「え、知らない? ボードゲーム、カードゲームにテーブルトークRPGとかだよ」
「アルファさんって本当に根っからのゲーマーなんだ」
今度は駆が吹き出した。私は腕を組んで胸を張った。
「いいじゃん、両親もゲーマーだったし、私の身体には脈々とゲーマーの血が流れているんだよ!」
そう言いながら私はローボードに載っている両親の写真を見やった。二人はゲーム関係のオフ会で知り合ったらしかった。二人の馴れ初め話をもっと詳しく聞いておけばよかったと今更ながら後悔している。
「ご両親がゲーマーとか羨ましい……」
駆が言うので、私は首をぶるぶる振った。
「そう思うでしょ。それがね、据置型ゲームは家族で争奪戦が起こる訳よ。結局長時間遊べなかったし、親がやたらゲームに詳しいから厳しく管理されてたし」
あくまで私の経験上の話だが、ゲームに詳しくない親を持つ子の方がゲームを好き勝手遊んでいたような気がする。私なんて寝る時は必ず携帯ゲーム機を取り上げられていたし、部屋にパソコンを置くことは中学まで認められなかった。親の管理下でだけ遊ぶことを許可されていたのである。
「なるほど。だからこそ今きちんと自己管理できるんだろうね」
「そうなのかも」
私はそう言ってから、ふふふと笑った。
「ランちゃん、これからは私がびしばし管理させてもらうから覚悟してね!」
「アルファ先生、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
駆は深々と頭を下げたのだった。
駆にお風呂や洗面所の使い方を説明してから入浴してもらった後、それぞれの部屋に引っ込んだ。私はパジャマに着替えるとベッドにだらしなく寝転び、リア友・|柳田《やなぎだ》 |渚《なぎさ》にLIMEを送った。渚は小学生の時からの苦楽を共にした私の大事な親友だ。
私『今日からうちに居候来たからよろしく!』
渚『居候って誰? 親戚?』
私『ううん、違う、FQⅢで同じパーティ組んでた男子大学生のランちゃん』
渚『なんと、あの奥手な有葉ちゃんもついに同棲ですかー!?』
直後にクラッカーが弾けるアニメーションスタンプが送信されてくる。タッキーさんと同じこと言ってるよ。まあ、男女が一緒に住み始めるって聞いたら普通そう思うよね。
渚『居候って誰? 親戚?』
私『ううん、違う、FQⅢで同じパーティ組んでた男子大学生のランちゃん』
渚『なんと、あの奥手な有葉ちゃんもついに同棲ですかー!?』
直後にクラッカーが弾けるアニメーションスタンプが送信されてくる。タッキーさんと同じこと言ってるよ。まあ、男女が一緒に住み始めるって聞いたら普通そう思うよね。
私『全然違うって、私達付き合ってないし。そもそも直接会うの今日が二日目だから』
渚『うそ、付き合ってもいないのに住まわせるとか、どーいうこと? まさかペットとしてとかじゃないよね!?』
私『おいおい、漫画の読みすぎだって』
『そんなんじゃないよ。事情があってランちゃんが住む処がなくなってしまったから提供してあげただけ』
渚『信じられなーい。でもそう言えば有葉ちゃん、昔から色々拾ってきてたもんね』
私『うん、まあ、そんなこともあったね』
『怪我した小鳥とか、捨てられてた老犬とか』
渚『うそ、付き合ってもいないのに住まわせるとか、どーいうこと? まさかペットとしてとかじゃないよね!?』
私『おいおい、漫画の読みすぎだって』
『そんなんじゃないよ。事情があってランちゃんが住む処がなくなってしまったから提供してあげただけ』
渚『信じられなーい。でもそう言えば有葉ちゃん、昔から色々拾ってきてたもんね』
私『うん、まあ、そんなこともあったね』
『怪我した小鳥とか、捨てられてた老犬とか』
その節は渚を巻き込んで大騒ぎしたんだった。ごめんよ、渚。結局小鳥は二人のお小遣いをかき集めてペットクリニックに連れて行き治療してもらったけど、餌を食べてくれず衰弱して死んでしまった。だから二人で協力してお墓を作って号泣したんだった。
一方の老犬は親達を巻き込み引き取ってくれる愛護団体を懸命に探して、そこに託した。運よく引き取ってくれた親切な方がいたという事は聞いている。
一方の老犬は親達を巻き込み引き取ってくれる愛護団体を懸命に探して、そこに託した。運よく引き取ってくれた親切な方がいたという事は聞いている。
渚『有葉ちゃんらしいや、ま、知らぬ者同士のルームシェアは色々大変だと思うけど頑張って!』
励ますようなスタンプが送られてくる。私は頑張る!とお休みなさいというスタンプを連続投下してからLIMEを閉じ、スマホを枕元に置いた。
励ますようなスタンプが送られてくる。私は頑張る!とお休みなさいというスタンプを連続投下してからLIMEを閉じ、スマホを枕元に置いた。
部屋の明かりを消してから、羽毛布団に潜り込む。暖房を入れていなかったので案外肌寒い。駆の部屋はまだ暖房がないし北向きだからこの部屋よりも寒いはずだ。明日には荷物が届くから寒いのは今日だけだし、駆は岩手出身だから寒さには慣れているだろうけど、ちゃんと眠れるだろうかと心配になった。しかし互いに部屋に入ったら干渉しない、用がある時はLIMEやスマホで連絡をすると先ほど約束をしたばかりだし、私は敢えて気にしないことにした。布団を頭まで被って無理やり目を閉じ寝ることに専念する。
だが、眠らなくてはと思うほど眠れなくなり、何度も寝返りを打ってしまう。駆とは友達と呼ぶほど親しくもなく、かといって見ず知らずの人間という訳でもなく、三年近く同じゲームでずっと遊んできた関係。お互いのことをよくは知らないのに、共に過ごした時間だけは相当長い不思議な間柄である。そう、駆は大切な仲間だ。仲間が困っていたら助けるのは人として当然だ。天国にいる両親がこのことを知ったら私を褒めてくれるだろう。うん、きっとそうだ。私は自分の選択について誇りを持つことに決めた。駆がたまたま異性だっただけで私より四つも年下だし、頼りない弟みたいな存在だし……。
そこまで考えてから私は自分は誰に対して言い訳しているんだと可笑しくなり、声を立てて笑ってしまった。渚の言う通り私は強気な見かけに反して異性に対して奥手だし、全く免疫がないのだ。こっ恥ずかしいやら情けないやら、とほほである。マネージャーなんて言ってしまった手前毅然とした態度で臨まなければいけないというのに。
どうか駆にはこのことがバレませんように。私はこういう時だけ信じている心の中にいる神に祈ったのだった。