第1章 捨てる神あれば拾う神あり-5
ー/ー その後二人でしばらく有名キャラのカート対戦ゲームで楽しく遊んだ後、夕方になってから、近所にある地元でチェーン展開しているスーパーに食材を買い出しに出かける事にした。肩を並べて見慣れた地元の商店街を歩いていると知人にばったり出くわすのではないかと少し意識してしまう。背が高いだけではなくくっきりした目鼻立ちの駆は人ごみの中でもひときわ目立つのだ。
「ランちゃん、身長どのくらいあるの?」
私は何気なく尋ねた。駆は首を傾げた。
「最近計ってないけど、まだ伸びてなければ185センチかな。アルファさんは?」
「私は167センチ」
そう答えながら、改めて駆の頭のてっぺんを見上げる。身近にここまで身長の高い人はいなかったからまだ見慣れない。
「アルファさんは女性としては背が高い方だからその長いスカートがとても似合ってる。かっこいいな」
かっこいい? 私は耳を疑った。普段は威圧感があるとか、目が怖いとか言われているんだけど。要はいわゆる三白眼なのだ。
「職場のシニアのおじさんから長いスカート履いてるとスケバンとか言われるんだよ。酷くない?」
「スケバンって刑事?」
駆が目をぱちくりさせた。私は手を振った。
「違う違う、ヨーヨーを武器にしているあの刑事のことじゃなくて、木刀片手にオラオラ言ってる女子の不良の事」
ああ、と駆は納得したように頷いた。私だってスケバンなんて単語わざわざ調べなければ知らなかったし、駆だって同様だろう。
「先日せっかく長く伸ばしていた髪を思い切ってレイアーカットにしたら、明菜ちゃんカットとか言われるし、そのおじさん言いたい放題でまじで腹立つ」
私の怒りが止まらなくなる。明菜ちゃんカットの意味も全く理解できなくて後で検索してしまったが、いや、おじさん、全然違うし、そもそも私とすごいアイドルと比較しちゃ駄目でしょ。 普段から私に好き勝手言ってくるおじさんに頭にきたから、職場ではバレッタを使ってハーフアップにするようにしたが、それでは何のためにレイアー入れたか分からなくなってしまった。
ぷんすか怒っている私に対して駆はにこやかにこう言った。
「アルファさんがかっこいいから、そう言ってるんじゃないの?」
またかっこいいと言った。もしかして駆は目に特殊フィルターでもかかっている? 私は困惑のあまり駆をじっと見つめながら
「……お、おう……」
としか答えることしかできなかったのだ。
やがて地元では大きいスーパーに到着する。価格は高めだが品質がいいのだ。
「あ、そうだ、合鍵を作らなくちゃね」
私はスーパーに付属している合鍵屋を見かけて重要なことを思い出し、まずはそこに立ち寄った。五分少々で合鍵は出来上がり、私は駆にそれを手渡した。
「はい、どうぞ、失くしちゃダメだよ」
「ありがとうございます!」
駆は恭しく受け取ると自分のサコッシュから、可愛いというよりは凛々しい、長靴を履きレイピアを掲げた黒猫のキーチェーンを取り出すと、真剣な表情で新しい合鍵をセットしている。その黒猫には明らかに見覚えがあったがなかなか思い出せずにいたところ、私の視線に気が付いた駆が説明してくれる。
「あ、これ、『夏休みの妖精』に出てきたケットシーだよ。ってアルファさん、知ってる?」
『夏休みの妖精』とは十年ほど前に発売された子ども向けの携帯ゲーム機用RPGだが、子ども向けとは思えないほどダークで切ない世界観のゲームだったため大人にもカルト的人気のある作品で、ゲームを禁じられていた駆が持っているグッズとしてはとても意外な品だった。
「知ってるよ。私もプレイしたけど、母親の方がどっぷりハマっちゃったからやたら覚えてる」
「東京に住んでいる母方の叔母さんの家に夏休み一人で泊りがけで遊びに行ったら、従姉がたまたま『夏休みの妖精』を持っていたんだけど、ちょっと貸してもらったら夢中になってしまって寝る間も惜しんでずっと遊ばせてもらったんだよ……」
駆がそのゲームを遊べた理由を説明してくれた。
「そのキーチェーンは確か予約特典だったよね?」
「うん、良く知ってるね……その従姉がそんなに好きならあげるって譲ってくれたんだ……それ以来ずっと大事にしている」
駆はぎゅっとケットシーのキーチェーンを握りしめた。
ゲームを禁止されている年下の従弟が貸したゲームに夢中になっているのを見て、貴重な予約特典のキーチェーンをくれたのだろう。私は胸が熱くなった。それと同時に、『夏休みの妖精』というゲームの孤独な主人公と駆が重なり物悲しくもなった。
『夏休みの妖精』はヨーロッパの架空の国を舞台にしているゲームで、父親が仕事に忙しく、母親は病弱な妹の世話に追われていて、引っ込み思案なことから学校でも孤独な主人公(男女選択可能)が夏休みに田舎の祖父母の家に預けられたところから始まる物語だった。ひょんなことから主人公は妖精を見る能力が備わり、そのために妖精達の戦いに巻き込まれていくのだが、キーチェーンの人間の言葉を話せる猫妖精ケットシーが、主人公の頼もしいお供としてずっと補佐してくれる。このケットシーには主人公と同様自由に名前を付けられるのだ。
「従姉さん、優しいじゃん」
私にはいとこはいないけど、大事なゲームの初回特典を誰かにあげられる自信はなかった。
「本当だよね。従姉だけじゃなく叔母さんもそうだった……オレをわざわざ観光に連れて行ってくれたのに、ずっとゲームで遊んでいた事親に黙ってくれていたし……」
せっかく出かけてもゲームばかりしている子どもはよくいるが、駆のような子には「遊ぶな」なんてとても言えなかったのだろうと推測する。
「そんな訳でオレにとって『夏休みの妖精』は色々な意味で特別なゲームなんだ」
「……すっごく分かるよ……」
私は小学生の頃の駆を抱きしめてあげたくなった。
『夏休みの妖精』の子どもにも容赦のない世界観が駆の心に刺さったことは想像に難くなかった。様々な妖精がゲーム中に登場するものの、大抵見た目は美しいが非常に残酷な存在だ。孤独な主人公の心を遠慮なく抉っていく。しかし主人公はそれにはへこたれずケットシーの力を借りて挫折を経験しながら逞しく成長していくのだ。
「でもあのゲームけっこうプレイ時間必要だったと思うけど、無事エンディング見られた?」
私はふと疑問に思い駆に尋ねると、駆は苦笑した。
「実はオレの夏休みはあれ以来終わってないんだよ。今なら実況動画を検索すれば気軽にエンディングとか見れるのは分かっているんだけど、怖くて見られないでいる」
「あれは絶対自力で見なくちゃダメだよ!」
私は拳を握りしめそう力説しながら、我が家のゲーム収納棚に収められている『夏休みの妖精』と携帯ゲーム機を頭に思い浮かべた。しかし次の瞬間慌てて首を振った。私が駆をゲームの世界に誘惑してしまったら本末転倒過ぎる。
「い、いつか実際に見られるといいね!」
急いで取り繕った。
「うん、まずは卒業だよね!」
駆は力強く頷いたのだった。
その後、私達は多くの客で賑わっているスーパーの中に入って行った。駆はカートに買い物かごを載せながら尋ねてくる。
「アルファさん、食べ物何が好き? 苦手なものとかある?」
「私は辛いものはダメかも。カレーは中辛まで。胃が痛くなっちゃう」
「承知しました! 他には?」
駆はおどけて敬礼してみせる。私は考えた。
「パクチーとか刺激の強いものが基本苦手かな、あ、甘いものは大好きだよ」
聞かれてもいないことまで答えてしまう。
「なるほど、了解です!」
そう言ってから駆は楽しそうに、押しているカートのかごに食材を迷いなく放り込んでいく。私はそこにそっと三連の焼きプリンを押し込んだ。
周囲を見るとだいたい奥さんが食材を選んでいるから、私達みたいな組み合わせは珍しいようだ。私がスポンサーなのでいちいち気にしても仕方ないのだが、何となく周囲が気になってしまう。今後は駆一人に買い物を頼むこともあるとは思うが、この場合お金を渡さなければならないことに気が付いた。その都度レシートを確認しながら渡すことになるのだろう。共に生活するということはこういうことなのかとじわじわ実感が湧いてくる。
「買い物にかかった費用、レシート見せてくれればpoypoyで送金するから。これから支払いはそうするね」
私はさりげなく聞こえるように意識しながら駆に声をかけた。駆は満面の笑みを浮かべた。
「やったね! オレ、ポイ活してるからすごい嬉しい。現金だといちいちチャージするのが面倒だし」
「ポイカツって何?」
「ポイ活とはポイント活動の略で、ポイントを貯めて活用することだよ」
それを聞いた私は吹き出した。
「ああ、婚活とか、ヌン活とかと同じ用法ね。君ってそういうの全く気にしないのかと勝手に思ってた」
「めちゃ気にするし」
駆は少し顔を赤くしながら答える。駆はそのきりりとした顔立ちに、なおかつ絶対ファストファッションとか着そうもない上品な佇まいから、生活感のない王子様のような印象を周囲に与えるにも関わらず、実際は女子が好みそうな可愛いものが好きだったり料理が得意だったりと乙女のような一面を持っていることが、警察官僚だという精神的マッチョ系お父さんの癇に障ったのかもしれないとは思った。
「私も気にするよ。○曜日はポイント5倍とかいう文字見るとつい買い控えしちゃうし」
「ポイント貯めてそれでちょっと贅沢するのが楽しい」
「分かるー。私もそうだよ」
私たちは顔を見合わせ笑い合うと、しばらくわいわいとポイント談議で盛り上がったのだった。
「ランちゃん、身長どのくらいあるの?」
私は何気なく尋ねた。駆は首を傾げた。
「最近計ってないけど、まだ伸びてなければ185センチかな。アルファさんは?」
「私は167センチ」
そう答えながら、改めて駆の頭のてっぺんを見上げる。身近にここまで身長の高い人はいなかったからまだ見慣れない。
「アルファさんは女性としては背が高い方だからその長いスカートがとても似合ってる。かっこいいな」
かっこいい? 私は耳を疑った。普段は威圧感があるとか、目が怖いとか言われているんだけど。要はいわゆる三白眼なのだ。
「職場のシニアのおじさんから長いスカート履いてるとスケバンとか言われるんだよ。酷くない?」
「スケバンって刑事?」
駆が目をぱちくりさせた。私は手を振った。
「違う違う、ヨーヨーを武器にしているあの刑事のことじゃなくて、木刀片手にオラオラ言ってる女子の不良の事」
ああ、と駆は納得したように頷いた。私だってスケバンなんて単語わざわざ調べなければ知らなかったし、駆だって同様だろう。
「先日せっかく長く伸ばしていた髪を思い切ってレイアーカットにしたら、明菜ちゃんカットとか言われるし、そのおじさん言いたい放題でまじで腹立つ」
私の怒りが止まらなくなる。明菜ちゃんカットの意味も全く理解できなくて後で検索してしまったが、いや、おじさん、全然違うし、そもそも私とすごいアイドルと比較しちゃ駄目でしょ。 普段から私に好き勝手言ってくるおじさんに頭にきたから、職場ではバレッタを使ってハーフアップにするようにしたが、それでは何のためにレイアー入れたか分からなくなってしまった。
ぷんすか怒っている私に対して駆はにこやかにこう言った。
「アルファさんがかっこいいから、そう言ってるんじゃないの?」
またかっこいいと言った。もしかして駆は目に特殊フィルターでもかかっている? 私は困惑のあまり駆をじっと見つめながら
「……お、おう……」
としか答えることしかできなかったのだ。
やがて地元では大きいスーパーに到着する。価格は高めだが品質がいいのだ。
「あ、そうだ、合鍵を作らなくちゃね」
私はスーパーに付属している合鍵屋を見かけて重要なことを思い出し、まずはそこに立ち寄った。五分少々で合鍵は出来上がり、私は駆にそれを手渡した。
「はい、どうぞ、失くしちゃダメだよ」
「ありがとうございます!」
駆は恭しく受け取ると自分のサコッシュから、可愛いというよりは凛々しい、長靴を履きレイピアを掲げた黒猫のキーチェーンを取り出すと、真剣な表情で新しい合鍵をセットしている。その黒猫には明らかに見覚えがあったがなかなか思い出せずにいたところ、私の視線に気が付いた駆が説明してくれる。
「あ、これ、『夏休みの妖精』に出てきたケットシーだよ。ってアルファさん、知ってる?」
『夏休みの妖精』とは十年ほど前に発売された子ども向けの携帯ゲーム機用RPGだが、子ども向けとは思えないほどダークで切ない世界観のゲームだったため大人にもカルト的人気のある作品で、ゲームを禁じられていた駆が持っているグッズとしてはとても意外な品だった。
「知ってるよ。私もプレイしたけど、母親の方がどっぷりハマっちゃったからやたら覚えてる」
「東京に住んでいる母方の叔母さんの家に夏休み一人で泊りがけで遊びに行ったら、従姉がたまたま『夏休みの妖精』を持っていたんだけど、ちょっと貸してもらったら夢中になってしまって寝る間も惜しんでずっと遊ばせてもらったんだよ……」
駆がそのゲームを遊べた理由を説明してくれた。
「そのキーチェーンは確か予約特典だったよね?」
「うん、良く知ってるね……その従姉がそんなに好きならあげるって譲ってくれたんだ……それ以来ずっと大事にしている」
駆はぎゅっとケットシーのキーチェーンを握りしめた。
ゲームを禁止されている年下の従弟が貸したゲームに夢中になっているのを見て、貴重な予約特典のキーチェーンをくれたのだろう。私は胸が熱くなった。それと同時に、『夏休みの妖精』というゲームの孤独な主人公と駆が重なり物悲しくもなった。
『夏休みの妖精』はヨーロッパの架空の国を舞台にしているゲームで、父親が仕事に忙しく、母親は病弱な妹の世話に追われていて、引っ込み思案なことから学校でも孤独な主人公(男女選択可能)が夏休みに田舎の祖父母の家に預けられたところから始まる物語だった。ひょんなことから主人公は妖精を見る能力が備わり、そのために妖精達の戦いに巻き込まれていくのだが、キーチェーンの人間の言葉を話せる猫妖精ケットシーが、主人公の頼もしいお供としてずっと補佐してくれる。このケットシーには主人公と同様自由に名前を付けられるのだ。
「従姉さん、優しいじゃん」
私にはいとこはいないけど、大事なゲームの初回特典を誰かにあげられる自信はなかった。
「本当だよね。従姉だけじゃなく叔母さんもそうだった……オレをわざわざ観光に連れて行ってくれたのに、ずっとゲームで遊んでいた事親に黙ってくれていたし……」
せっかく出かけてもゲームばかりしている子どもはよくいるが、駆のような子には「遊ぶな」なんてとても言えなかったのだろうと推測する。
「そんな訳でオレにとって『夏休みの妖精』は色々な意味で特別なゲームなんだ」
「……すっごく分かるよ……」
私は小学生の頃の駆を抱きしめてあげたくなった。
『夏休みの妖精』の子どもにも容赦のない世界観が駆の心に刺さったことは想像に難くなかった。様々な妖精がゲーム中に登場するものの、大抵見た目は美しいが非常に残酷な存在だ。孤独な主人公の心を遠慮なく抉っていく。しかし主人公はそれにはへこたれずケットシーの力を借りて挫折を経験しながら逞しく成長していくのだ。
「でもあのゲームけっこうプレイ時間必要だったと思うけど、無事エンディング見られた?」
私はふと疑問に思い駆に尋ねると、駆は苦笑した。
「実はオレの夏休みはあれ以来終わってないんだよ。今なら実況動画を検索すれば気軽にエンディングとか見れるのは分かっているんだけど、怖くて見られないでいる」
「あれは絶対自力で見なくちゃダメだよ!」
私は拳を握りしめそう力説しながら、我が家のゲーム収納棚に収められている『夏休みの妖精』と携帯ゲーム機を頭に思い浮かべた。しかし次の瞬間慌てて首を振った。私が駆をゲームの世界に誘惑してしまったら本末転倒過ぎる。
「い、いつか実際に見られるといいね!」
急いで取り繕った。
「うん、まずは卒業だよね!」
駆は力強く頷いたのだった。
その後、私達は多くの客で賑わっているスーパーの中に入って行った。駆はカートに買い物かごを載せながら尋ねてくる。
「アルファさん、食べ物何が好き? 苦手なものとかある?」
「私は辛いものはダメかも。カレーは中辛まで。胃が痛くなっちゃう」
「承知しました! 他には?」
駆はおどけて敬礼してみせる。私は考えた。
「パクチーとか刺激の強いものが基本苦手かな、あ、甘いものは大好きだよ」
聞かれてもいないことまで答えてしまう。
「なるほど、了解です!」
そう言ってから駆は楽しそうに、押しているカートのかごに食材を迷いなく放り込んでいく。私はそこにそっと三連の焼きプリンを押し込んだ。
周囲を見るとだいたい奥さんが食材を選んでいるから、私達みたいな組み合わせは珍しいようだ。私がスポンサーなのでいちいち気にしても仕方ないのだが、何となく周囲が気になってしまう。今後は駆一人に買い物を頼むこともあるとは思うが、この場合お金を渡さなければならないことに気が付いた。その都度レシートを確認しながら渡すことになるのだろう。共に生活するということはこういうことなのかとじわじわ実感が湧いてくる。
「買い物にかかった費用、レシート見せてくれればpoypoyで送金するから。これから支払いはそうするね」
私はさりげなく聞こえるように意識しながら駆に声をかけた。駆は満面の笑みを浮かべた。
「やったね! オレ、ポイ活してるからすごい嬉しい。現金だといちいちチャージするのが面倒だし」
「ポイカツって何?」
「ポイ活とはポイント活動の略で、ポイントを貯めて活用することだよ」
それを聞いた私は吹き出した。
「ああ、婚活とか、ヌン活とかと同じ用法ね。君ってそういうの全く気にしないのかと勝手に思ってた」
「めちゃ気にするし」
駆は少し顔を赤くしながら答える。駆はそのきりりとした顔立ちに、なおかつ絶対ファストファッションとか着そうもない上品な佇まいから、生活感のない王子様のような印象を周囲に与えるにも関わらず、実際は女子が好みそうな可愛いものが好きだったり料理が得意だったりと乙女のような一面を持っていることが、警察官僚だという精神的マッチョ系お父さんの癇に障ったのかもしれないとは思った。
「私も気にするよ。○曜日はポイント5倍とかいう文字見るとつい買い控えしちゃうし」
「ポイント貯めてそれでちょっと贅沢するのが楽しい」
「分かるー。私もそうだよ」
私たちは顔を見合わせ笑い合うと、しばらくわいわいとポイント談議で盛り上がったのだった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
その後二人でしばらく有名キャラのカート対戦ゲームで楽しく遊んだ後、夕方になってから、近所にある地元でチェーン展開しているスーパーに食材を買い出しに出かける事にした。肩を並べて見慣れた地元の商店街を歩いていると知人にばったり出くわすのではないかと少し意識してしまう。背が高いだけではなくくっきりした目鼻立ちの駆は人ごみの中でもひときわ目立つのだ。
「ランちゃん、身長どのくらいあるの?」
私は何気なく尋ねた。駆は首を傾げた。
「最近計ってないけど、まだ伸びてなければ185センチかな。アルファさんは?」
「私は167センチ」
そう答えながら、改めて駆の頭のてっぺんを見上げる。身近にここまで身長の高い人はいなかったからまだ見慣れない。
「アルファさんは女性としては背が高い方だからその長いスカートがとても似合ってる。かっこいいな」
かっこいい? 私は耳を疑った。普段は威圧感があるとか、目が怖いとか言われているんだけど。要はいわゆる三白眼なのだ。
「職場のシニアのおじさんから長いスカート履いてるとスケバンとか言われるんだよ。酷くない?」
「スケバンって刑事?」
駆が目をぱちくりさせた。私は手を振った。
「違う違う、ヨーヨーを武器にしているあの刑事のことじゃなくて、木刀片手にオラオラ言ってる女子の不良の事」
ああ、と駆は納得したように頷いた。私だってスケバンなんて単語わざわざ調べなければ知らなかったし、駆だって同様だろう。
「先日せっかく長く伸ばしていた髪を思い切ってレイアーカットにしたら、明菜ちゃんカットとか言われるし、そのおじさん言いたい放題でまじで腹立つ」
私の怒りが止まらなくなる。明菜ちゃんカットの意味も全く理解できなくて後で検索してしまったが、いや、おじさん、全然違うし、そもそも私とすごいアイドルと比較しちゃ駄目でしょ。 普段から私に好き勝手言ってくるおじさんに頭にきたから、職場ではバレッタを使ってハーフアップにするようにしたが、それでは何のためにレイアー入れたか分からなくなってしまった。
ぷんすか怒っている私に対して駆はにこやかにこう言った。
「アルファさんがかっこいいから、そう言ってるんじゃないの?」
またかっこいいと言った。もしかして駆は目に特殊フィルターでもかかっている? 私は困惑のあまり駆をじっと見つめながら
「……お、おう……」
としか答えることしかできなかったのだ。
「ランちゃん、身長どのくらいあるの?」
私は何気なく尋ねた。駆は首を傾げた。
「最近計ってないけど、まだ伸びてなければ185センチかな。アルファさんは?」
「私は167センチ」
そう答えながら、改めて駆の頭のてっぺんを見上げる。身近にここまで身長の高い人はいなかったからまだ見慣れない。
「アルファさんは女性としては背が高い方だからその長いスカートがとても似合ってる。かっこいいな」
かっこいい? 私は耳を疑った。普段は威圧感があるとか、目が怖いとか言われているんだけど。要はいわゆる三白眼なのだ。
「職場のシニアのおじさんから長いスカート履いてるとスケバンとか言われるんだよ。酷くない?」
「スケバンって刑事?」
駆が目をぱちくりさせた。私は手を振った。
「違う違う、ヨーヨーを武器にしているあの刑事のことじゃなくて、木刀片手にオラオラ言ってる女子の不良の事」
ああ、と駆は納得したように頷いた。私だってスケバンなんて単語わざわざ調べなければ知らなかったし、駆だって同様だろう。
「先日せっかく長く伸ばしていた髪を思い切ってレイアーカットにしたら、明菜ちゃんカットとか言われるし、そのおじさん言いたい放題でまじで腹立つ」
私の怒りが止まらなくなる。明菜ちゃんカットの意味も全く理解できなくて後で検索してしまったが、いや、おじさん、全然違うし、そもそも私とすごいアイドルと比較しちゃ駄目でしょ。 普段から私に好き勝手言ってくるおじさんに頭にきたから、職場ではバレッタを使ってハーフアップにするようにしたが、それでは何のためにレイアー入れたか分からなくなってしまった。
ぷんすか怒っている私に対して駆はにこやかにこう言った。
「アルファさんがかっこいいから、そう言ってるんじゃないの?」
またかっこいいと言った。もしかして駆は目に特殊フィルターでもかかっている? 私は困惑のあまり駆をじっと見つめながら
「……お、おう……」
としか答えることしかできなかったのだ。
やがて地元では大きいスーパーに到着する。価格は高めだが品質がいいのだ。
「あ、そうだ、合鍵を作らなくちゃね」
私はスーパーに付属している合鍵屋を見かけて重要なことを思い出し、まずはそこに立ち寄った。五分少々で合鍵は出来上がり、私は駆にそれを手渡した。
「はい、どうぞ、失くしちゃダメだよ」
「ありがとうございます!」
駆は恭しく受け取ると自分のサコッシュから、可愛いというよりは凛々しい、長靴を履きレイピアを掲げた黒猫のキーチェーンを取り出すと、真剣な表情で新しい合鍵をセットしている。その黒猫には明らかに見覚えがあったがなかなか思い出せずにいたところ、私の視線に気が付いた駆が説明してくれる。
「あ、これ、『夏休みの妖精』に出てきたケットシーだよ。ってアルファさん、知ってる?」
『夏休みの妖精』とは十年ほど前に発売された子ども向けの携帯ゲーム機用RPGだが、子ども向けとは思えないほどダークで切ない世界観のゲームだったため大人にもカルト的人気のある作品で、ゲームを禁じられていた駆が持っているグッズとしてはとても意外な品だった。
「知ってるよ。私もプレイしたけど、母親の方がどっぷりハマっちゃったからやたら覚えてる」
「東京に住んでいる母方の叔母さんの家に夏休み一人で泊りがけで遊びに行ったら、従姉がたまたま『夏休みの妖精』を持っていたんだけど、ちょっと貸してもらったら夢中になってしまって寝る間も惜しんでずっと遊ばせてもらったんだよ……」
駆がそのゲームを遊べた理由を説明してくれた。
「そのキーチェーンは確か予約特典だったよね?」
「うん、良く知ってるね……その従姉がそんなに好きならあげるって譲ってくれたんだ……それ以来ずっと大事にしている」
駆はぎゅっとケットシーのキーチェーンを握りしめた。
ゲームを禁止されている年下の従弟が貸したゲームに夢中になっているのを見て、貴重な予約特典のキーチェーンをくれたのだろう。私は胸が熱くなった。それと同時に、『夏休みの妖精』というゲームの孤独な主人公と駆が重なり物悲しくもなった。
「あ、そうだ、合鍵を作らなくちゃね」
私はスーパーに付属している合鍵屋を見かけて重要なことを思い出し、まずはそこに立ち寄った。五分少々で合鍵は出来上がり、私は駆にそれを手渡した。
「はい、どうぞ、失くしちゃダメだよ」
「ありがとうございます!」
駆は恭しく受け取ると自分のサコッシュから、可愛いというよりは凛々しい、長靴を履きレイピアを掲げた黒猫のキーチェーンを取り出すと、真剣な表情で新しい合鍵をセットしている。その黒猫には明らかに見覚えがあったがなかなか思い出せずにいたところ、私の視線に気が付いた駆が説明してくれる。
「あ、これ、『夏休みの妖精』に出てきたケットシーだよ。ってアルファさん、知ってる?」
『夏休みの妖精』とは十年ほど前に発売された子ども向けの携帯ゲーム機用RPGだが、子ども向けとは思えないほどダークで切ない世界観のゲームだったため大人にもカルト的人気のある作品で、ゲームを禁じられていた駆が持っているグッズとしてはとても意外な品だった。
「知ってるよ。私もプレイしたけど、母親の方がどっぷりハマっちゃったからやたら覚えてる」
「東京に住んでいる母方の叔母さんの家に夏休み一人で泊りがけで遊びに行ったら、従姉がたまたま『夏休みの妖精』を持っていたんだけど、ちょっと貸してもらったら夢中になってしまって寝る間も惜しんでずっと遊ばせてもらったんだよ……」
駆がそのゲームを遊べた理由を説明してくれた。
「そのキーチェーンは確か予約特典だったよね?」
「うん、良く知ってるね……その従姉がそんなに好きならあげるって譲ってくれたんだ……それ以来ずっと大事にしている」
駆はぎゅっとケットシーのキーチェーンを握りしめた。
ゲームを禁止されている年下の従弟が貸したゲームに夢中になっているのを見て、貴重な予約特典のキーチェーンをくれたのだろう。私は胸が熱くなった。それと同時に、『夏休みの妖精』というゲームの孤独な主人公と駆が重なり物悲しくもなった。
『夏休みの妖精』はヨーロッパの架空の国を舞台にしているゲームで、父親が仕事に忙しく、母親は病弱な妹の世話に追われていて、引っ込み思案なことから学校でも孤独な主人公(男女選択可能)が夏休みに田舎の祖父母の家に預けられたところから始まる物語だった。ひょんなことから主人公は妖精を見る能力が備わり、そのために妖精達の戦いに巻き込まれていくのだが、キーチェーンの人間の言葉を話せる猫妖精ケットシーが、主人公の頼もしいお供としてずっと補佐してくれる。このケットシーには主人公と同様自由に名前を付けられるのだ。
「従姉さん、優しいじゃん」
私にはいとこはいないけど、大事なゲームの初回特典を誰かにあげられる自信はなかった。
「本当だよね。従姉だけじゃなく叔母さんもそうだった……オレをわざわざ観光に連れて行ってくれたのに、ずっとゲームで遊んでいた事親に黙ってくれていたし……」
せっかく出かけてもゲームばかりしている子どもはよくいるが、駆のような子には「遊ぶな」なんてとても言えなかったのだろうと推測する。
「そんな訳でオレにとって『夏休みの妖精』は色々な意味で特別なゲームなんだ」
「……すっごく分かるよ……」
私は小学生の頃の駆を抱きしめてあげたくなった。
「従姉さん、優しいじゃん」
私にはいとこはいないけど、大事なゲームの初回特典を誰かにあげられる自信はなかった。
「本当だよね。従姉だけじゃなく叔母さんもそうだった……オレをわざわざ観光に連れて行ってくれたのに、ずっとゲームで遊んでいた事親に黙ってくれていたし……」
せっかく出かけてもゲームばかりしている子どもはよくいるが、駆のような子には「遊ぶな」なんてとても言えなかったのだろうと推測する。
「そんな訳でオレにとって『夏休みの妖精』は色々な意味で特別なゲームなんだ」
「……すっごく分かるよ……」
私は小学生の頃の駆を抱きしめてあげたくなった。
『夏休みの妖精』の子どもにも容赦のない世界観が駆の心に刺さったことは想像に難くなかった。様々な妖精がゲーム中に登場するものの、大抵見た目は美しいが非常に残酷な存在だ。孤独な主人公の心を遠慮なく抉っていく。しかし主人公はそれにはへこたれずケットシーの力を借りて挫折を経験しながら逞しく成長していくのだ。
「でもあのゲームけっこうプレイ時間必要だったと思うけど、無事エンディング見られた?」
私はふと疑問に思い駆に尋ねると、駆は苦笑した。
「実はオレの夏休みはあれ以来終わってないんだよ。今なら実況動画を検索すれば気軽にエンディングとか見れるのは分かっているんだけど、怖くて見られないでいる」
「あれは絶対自力で見なくちゃダメだよ!」
私は拳を握りしめそう力説しながら、我が家のゲーム収納棚に収められている『夏休みの妖精』と携帯ゲーム機を頭に思い浮かべた。しかし次の瞬間慌てて首を振った。私が駆をゲームの世界に誘惑してしまったら本末転倒過ぎる。
「い、いつか実際に見られるといいね!」
急いで取り繕った。
「うん、まずは卒業だよね!」
駆は力強く頷いたのだった。
「でもあのゲームけっこうプレイ時間必要だったと思うけど、無事エンディング見られた?」
私はふと疑問に思い駆に尋ねると、駆は苦笑した。
「実はオレの夏休みはあれ以来終わってないんだよ。今なら実況動画を検索すれば気軽にエンディングとか見れるのは分かっているんだけど、怖くて見られないでいる」
「あれは絶対自力で見なくちゃダメだよ!」
私は拳を握りしめそう力説しながら、我が家のゲーム収納棚に収められている『夏休みの妖精』と携帯ゲーム機を頭に思い浮かべた。しかし次の瞬間慌てて首を振った。私が駆をゲームの世界に誘惑してしまったら本末転倒過ぎる。
「い、いつか実際に見られるといいね!」
急いで取り繕った。
「うん、まずは卒業だよね!」
駆は力強く頷いたのだった。
その後、私達は多くの客で賑わっているスーパーの中に入って行った。駆はカートに買い物かごを載せながら尋ねてくる。
「アルファさん、食べ物何が好き? 苦手なものとかある?」
「私は辛いものはダメかも。カレーは中辛まで。胃が痛くなっちゃう」
「承知しました! 他には?」
駆はおどけて敬礼してみせる。私は考えた。
「パクチーとか刺激の強いものが基本苦手かな、あ、甘いものは大好きだよ」
聞かれてもいないことまで答えてしまう。
「なるほど、了解です!」
そう言ってから駆は楽しそうに、押しているカートのかごに食材を迷いなく放り込んでいく。私はそこにそっと三連の焼きプリンを押し込んだ。
「アルファさん、食べ物何が好き? 苦手なものとかある?」
「私は辛いものはダメかも。カレーは中辛まで。胃が痛くなっちゃう」
「承知しました! 他には?」
駆はおどけて敬礼してみせる。私は考えた。
「パクチーとか刺激の強いものが基本苦手かな、あ、甘いものは大好きだよ」
聞かれてもいないことまで答えてしまう。
「なるほど、了解です!」
そう言ってから駆は楽しそうに、押しているカートのかごに食材を迷いなく放り込んでいく。私はそこにそっと三連の焼きプリンを押し込んだ。
周囲を見るとだいたい奥さんが食材を選んでいるから、私達みたいな組み合わせは珍しいようだ。私がスポンサーなのでいちいち気にしても仕方ないのだが、何となく周囲が気になってしまう。今後は駆一人に買い物を頼むこともあるとは思うが、この場合お金を渡さなければならないことに気が付いた。その都度レシートを確認しながら渡すことになるのだろう。共に生活するということはこういうことなのかとじわじわ実感が湧いてくる。
「買い物にかかった費用、レシート見せてくれればpoypoyで送金するから。これから支払いはそうするね」
私はさりげなく聞こえるように意識しながら駆に声をかけた。駆は満面の笑みを浮かべた。
「やったね! オレ、ポイ活してるからすごい嬉しい。現金だといちいちチャージするのが面倒だし」
「ポイカツって何?」
「ポイ活とはポイント活動の略で、ポイントを貯めて活用することだよ」
それを聞いた私は吹き出した。
「ああ、婚活とか、ヌン活とかと同じ用法ね。君ってそういうの全く気にしないのかと勝手に思ってた」
「めちゃ気にするし」
駆は少し顔を赤くしながら答える。駆はそのきりりとした顔立ちに、なおかつ絶対ファストファッションとか着そうもない上品な佇まいから、生活感のない王子様のような印象を周囲に与えるにも関わらず、実際は女子が好みそうな可愛いものが好きだったり料理が得意だったりと乙女のような一面を持っていることが、警察官僚だという精神的マッチョ系お父さんの癇に障ったのかもしれないとは思った。
「私も気にするよ。○曜日はポイント5倍とかいう文字見るとつい買い控えしちゃうし」
「ポイント貯めてそれでちょっと贅沢するのが楽しい」
「分かるー。私もそうだよ」
私たちは顔を見合わせ笑い合うと、しばらくわいわいとポイント談議で盛り上がったのだった。
「買い物にかかった費用、レシート見せてくれればpoypoyで送金するから。これから支払いはそうするね」
私はさりげなく聞こえるように意識しながら駆に声をかけた。駆は満面の笑みを浮かべた。
「やったね! オレ、ポイ活してるからすごい嬉しい。現金だといちいちチャージするのが面倒だし」
「ポイカツって何?」
「ポイ活とはポイント活動の略で、ポイントを貯めて活用することだよ」
それを聞いた私は吹き出した。
「ああ、婚活とか、ヌン活とかと同じ用法ね。君ってそういうの全く気にしないのかと勝手に思ってた」
「めちゃ気にするし」
駆は少し顔を赤くしながら答える。駆はそのきりりとした顔立ちに、なおかつ絶対ファストファッションとか着そうもない上品な佇まいから、生活感のない王子様のような印象を周囲に与えるにも関わらず、実際は女子が好みそうな可愛いものが好きだったり料理が得意だったりと乙女のような一面を持っていることが、警察官僚だという精神的マッチョ系お父さんの癇に障ったのかもしれないとは思った。
「私も気にするよ。○曜日はポイント5倍とかいう文字見るとつい買い控えしちゃうし」
「ポイント貯めてそれでちょっと贅沢するのが楽しい」
「分かるー。私もそうだよ」
私たちは顔を見合わせ笑い合うと、しばらくわいわいとポイント談議で盛り上がったのだった。