装甲を纏った二人が、怪物と空中で何度かかち合う。その度に猛烈な火花や暴風が吹き荒れるのだが、怪物は二人の攻撃をあらゆる箇所から生み出した腕の数々で、容赦なく防いでいく。
だが、二人は雄叫びをあげながら、怪物の顔面に二発の拳を同時に叩き込む。盛大に衝撃を受け凹みながら、勢いよく黒曜石の柱の一本に叩きつける。
しかし、ダメージは一切ないようで、攻撃を受けていた腕の一本を切り落としその場で蒸発させていく。山梨の深淵で感じたような、嫌悪感を呼び起こさせる肉の焼けるような臭いが鼻腔を擽る。
それでも、二人の怒りは止まるところを知らない。院は
紅斧弓バビロニア、透は如意棒を魔力によってすぐさま生成し、近距離担当と遠距離担当に分かれ、白の怪物を追い詰めていく。
どれほどダメージを感じていないふりをしていても、いつか限界は訪れる。その目算で動き出したのだ。
かつて高速道路の上で戦ったときのように、如意棒の先端を無数に増幅させ伸長、無数の如意棒による包囲網を作り出す。以前よりも当人の練度が上がっているために、先端それぞれが人間の目で負えないほどの超高速移動を果たしており、怪物もにわかに感覚だけを頼りに追い切れていない様子であった。
雁字搦めにすることで、すばしっこい動きを封じ、そこに飛来するは超速の焔矢一筋。
的確に心臓を狙い撃ち抜く精度は凄まじく、そこから全身に燃え広がっていく業火は――さながら、怪物を火種にしたキャンプファイヤーである。
透は無意識に風の力を合わせ、無数に増殖させた如意棒それぞれから一息に出力開始。酸素を急速で送り込むことで、炎の勢いを異常な勢いで進めていき、炎纏うタイフーンの出来上がりである。
だが、二人は数多の戦いの中で成長していた。これくらいで倒れはしないだろうと、最初から考えた上で行動していたのだ。怒りの中でも冷静に、透がかつて学んだ人生哲学が生きていたのだ。
むしろ、これで死んでくれれば二人にとって心安らかなものであった。案の定、幹部を呑み込むほどの
怪物が……これで終わるはずはなかったのだが。
まるで蛇のような動作で、数多の如意棒を掻い潜り、体中を捩じり、背を乱暴に掻いていたのだ。不自然に腹が膨れていることに目が行った透は、院の手をほんの少しだけ小突く。
(俺に合わせて、デカく飛び退け)
その透の予感が的中し、腹にぽっかりと開いた大口から火炎放射。しかも、院の放った炎よりも勢いが強まっていた。
「今だ!!」
お互い横に大きく飛び退き、その場を離れる。
透の目算通りに、ただの炎を吐いているのではなく、炎の内に異常なほどにまで圧縮した空気の玉を埋め込んでおり、赤子が泣き叫ぶような声を上げた瞬間に、その炎は一瞬にして超巨大な火球へ変わったのだ。
ほんの刹那ではあったが、まるでそこに小さな太陽があったかのよう。あまりにも力の読めない怪物相手でもあるが、じっとりと冷や汗を掻いていた。
「――何なんですの、アイツは。まるで……こちらの技を全て吸収しなかったことにしようとしているような」
怪物の背後で、焼け落ちた幼子の腕がぼとり、と気分が悪くなる臭いと共に落ちていく。透は最初、単純に吐き気を催していたのだが――そこで一つ気が付いた。
「……なーんとなく、分かって来たぜ……アイツの力、そしてその代償って奴が」
「え、どういうことですの!?」
あの怪物には、多少なり知能が存在する。そのために、真意を悟られた瞬間にこの弱点は消え失せるかもしれない。そのために、透は敢えて口を噤んだ。院も言葉を発した瞬間に、自分の愚かさを自覚し、深く反省した。同様の事柄を思考し、離れた位置で怪物に向き合う。
体をあらぬ方向へ自分で折りながら、「準備運動は済んだ」と言わんばかりに癇癪を起す赤子のような叫びと共にその場で魔力を解放する。楽な体勢を取り、だらりと腕を下げた状態でけたけたと歪に笑って見せるのだった。
「まるで効いてねェ、と言いたげじゃあねえか……
クソが」
「ですが……もう一度同じものを食らっても、平気でいられますかね!!」
全力で引き絞り、炎の矢を無数に撃ち放つ。
それを余すことなく食らおうとするために、口の部分を巨大にし迎え撃つ怪物。
しかし、その巨大な口に如意棒をつっかえさせ、矢全てを咀嚼させることなくダイレクトに叩き込ませる。
「お前さんの外側に攻撃しても、大概無意味になるだろうってのは分かってる。だから――『内側で大爆発を起こしてやるんだ』よ」
咄嗟に取り出したのは、最初の方で民家にて取ったものであるろうそくや油。それらを暴風と共に内部へ直送。口元から離れ、つっかえさせていた如意棒も霧散させ上唇のあたりに全力で拳を叩き込み、無理やり口を閉じさせる。
そしてそのタイミングで着火、無制限に連鎖爆発していき、膨らむ腹が限界を超え大爆散。辺りに血肉のフレーバーが舞い散り漂う、一瞬にしてこのゲームに似合わない、実にバイオレンスな空間へ変貌したのだった。
二人は静かにハイタッチを行うと、爆発四散した怪物の残骸に向き合う。自分たちがやったこととして、心にしっかりと刻み込んでいたのだ。例え司法がそこに介入せずとも、自分自身の中には罪の意識はしっかりとこびり付く。
確かにそこにあった命に手を合わせる――――だけで終わるはずはなかったのだ。
そこら中から、赤ん坊の泣き声と共に血肉が蠢き、四散した肉片を巻き込みながら、一点に集まり始めていたのだ。動作は緩慢ながら……その光景は怖気を掻き立てるものであった。
「――こいつ、不死身かよ。山梨の施設であんな気味悪い生物を、試作してたってのかよ」
「そうでしょうね。
屠殺場で出来上がった新品の子供の
臓物以外の、死肉と大量の血……あれの使い道こそあれの研究……無限の命を追い求めているのなら、ああいう成れの果ては絶対に生まれるでしょうね」
まさに、
生物兵器そのもの。どれほど傷つけようと生き返り続ける。何かしらの有効打でもない限り、生半可な殺害は全て徒労に終わる。生理的嫌悪感などいざ知らず、それら全ての嫌悪感を武器に戦う存在こそ……眼前の白い怪物であった。
ここで、院があるものを目撃した。それは……これまで表層に出てこなかった、心臓の形をした赤色の結晶。あからさま、と言えるほどに浮いていたために、それは勝利への道筋であることを即座に認識した。
「――透」
「! ……分かったぜ、院」
二人ともドライバー両端を押し込んで、魔力を右脚と左脚に一点集中させる。
このお膳立ては、きっと双子のものではない。院たちの勝利ではなく、最後の最後まで善吉の勝利を祈っていたのだから。
そのため、二人にとってこの手助けは――これまで山梨の運命に抗ってきたか、生きることに絶望した元大人たちの助力であると、何となく実感していた。
自分たちが、死してなおこのように利用され続けていることを止めてくれと、語り掛けているような気がしていたのだ。
「――ッ!! お前らの命ッ!!」「生きた証も、全て無駄にはしませんわッ!!」
『『超必殺承認!!』』
その場から高く飛び上がり、その心臓部目掛け暴風と業火纏う飛び蹴りを放つ二人。
『
天竺への道、未だ遠く!!』
『
天の牡牛、その一撃を見よ!!』
二つの飛び蹴りが
衝突する寸前、双子のような手を表した肉塊が、二人の蹴りを気持ち程度阻む。しかし、そんなものは焼け石に水であり、二人の魔力量に気圧されすぐに蒸発。
衝突時に黒雷が迸るほどの、心と心のぶつかり合い。しかし、ただの物同然と化した心臓部は二人の一撃には無力であり……ついには破砕。
圧倒的な衝撃が、辺りを波となって急速に伝播していく。何とか着地する二人であったが、達成感を覚えるよりも先に、頭部装甲を霧散させ、宙を見上げていたのだ。
万人に見える訳ではないが、血肉たちに宿っていた多くの生きることに絶望し、生きることを諦めた元大人たちの魂が、今まさに天へと昇っていくのだ。叶わなかった「純粋な死」を、成仏という形で成し遂げた今、この世に残す未練はない。
元大人たちが、天へと昇る過程で、子供だった時の姿へ還っていく。それぞれが、院と透に心からの礼を述べているように聞こえていたために、二人は静かに笑んで見せるのだった。
「――院。俺ら因子持ちだから……一人一人の顔が……くっきりと分かりやがる。望んでそうなったわけじゃあねえ奴らが……こぞって俺らに――礼、述べてやがるぜ」
「……私たちは、お世辞にも褒められたような存在ではありません。貴方がたを救うには……少し時が遅かった。完全に救うなら、生前に少しでも希望を持たせてあげたかった。でも……きっと眼前で殺されてしまった人も存在したでしょうに……」
悔やむ院の頭を、静かに抱き寄せる透。その目には、涙はない。ただ、天国へ登る魂たちを、黙って見送るのみ。
透自身、自分の前で義弟の命が消える瞬間を目の当たりにした経験もあり、同じようなことを考えたことがあるからこそ、死者の魂だけでなく院の心をも助けたいと考えていたのだ。
「――そういうのは、結局のところ結果論だ。俺らは……あの案件が明るみに出ない限り……きっと山梨の惨劇には気付けなかった。あらゆることに罪悪感を抱くのは勝手だが……何でもかんでも背負いこみすぎると……潰れちまう」
だが、それでも前へ歩き続けなければならない。主義主張の衝突の末、命を賭けた戦いが繰り広げられるかもしれない。実際、山梨の一件で底知れぬ忠誠の結果、喜んで自死した存在を目の当たりにした。その時は、二人の心が折れる寸前まで傷ついていたものの……透は数日の間に自分の中で踏ん切りをつけることを決めたのだ。
かつて、自分の抱える宿命に圧し潰されそうになっていた透だからこそ、その二の舞にならないよう院を庇っていたのだ。
「――確かに犠牲はあった。でも……その後にしっかり次の被害者を生み出す前に止められた。それに対する礼なんだろうよ、きっと」
罪悪感から、静かに涙する院。それを、黙って頭をさすることで、少しでも回復までの道のりを短くしてやる。多くの弟と妹を持った存在だからこそ、弱った存在を労わる心がより強く培われ、強い存在となるのだ。
「だから……今だけは、有難く受け取っとこうぜ。次の成長の結果、また多くの人を守れるように、な」
そこに怒りがあろうと、そこに喪失感があろうと。仲間と共にそれをバネに急成長する。それこそが…英雄という存在なのだ。
これにより、英雄学園東京本校英雄科一年一組所属・『真来院』と『天音透』VS新生山梨支部幹部、オトとケイの勝負は、双子にとっての『理想の人間』たる姿を見せつけた二人を見た双子は、謎の生物に吸収される形で第二
戦にまで発展するも、二人の咄嗟の機転によって撃退、多くの救われない魂を救い出し、見事な勝利を勝ち取ったのだった。