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第二百八十六話

ー/ー



「――私たちの生きる意味は、最初から善吉さんだけ。教会なんぞの援助は受けずとも、あの人は天下を取る」
「実際に長いこと日本の天下を統一していた徳川家康のように、無能がのさばらない世の中になるだろうね」
 その言葉に、院は明確に怒気を滲ませる。
「――無能と蔑む存在がいないと、有能という存在ばかりになった結果全てが平凡と呼ばれるような……歪んだ世の中に成り果てようと、ですか?」
「そんなことにはなりっこないよ。なんせ……善吉さんが最も優れているんだから」
 反論を重ねようとする院を、透が制止する。こういった手合いは、どこまで行っても聞く耳を持たない確信があったからこそであった。
「……お前ら、生身だとそこまで戦闘力を感じないが……俺らがここに辿り着いた後に……俺らをどうするつもりだったんだ? 約束事はお前さんらのリーダーの都合上守るんだろうが……その代償は絶対に存在するだろ」
 透が、どこか諦めたように語り掛けると、双子は同じ柄の小瓶を取り出す。容易に中身は想像がつくだろうが、自決用の毒の小瓶であった。しかも、人体ならばほんの少量で確実に死に至ることの出来る、フグ毒で有名なテトロドトキシンである。それをオーバーキルと言わんばかりに十ミリグラムを経口接種。
 すぐさま二人とも喀血し、英雄二人に向かって笑って見せたのだ。
「――私たちをいくら止めようと、結局はこうして死ぬ手筈だったの」
「僕たちにとって、それほど善吉さんは大きな存在なんだ」
 次第に血色が悪くなり、その場に跪く双子。院と透は、改めて命の灯火が消えゆく姿を目の当たりにしていたのだ。多少なり気分が悪くなりながらも、その姿を最期まで見届けることが自分たちの役目であると認識していた。
 英雄では救えない存在が、歪んだ形で最期を迎える。自分の不甲斐なさといい、自分の無力さといい……痛いほど実感する瞬間であったが、それでも見届けなければならないと、心のどこかで思っていた。
「私たちは、絶対に君たちに傷を負わせる。でも確かな力なんて存在しない。誰もかれもが因子持ちだなんて恵まれた境遇に置かれている訳じゃあないんだ」
「恵まれた存在が誰かを救う。その在り方はきっと素晴らしいんだろうけれど……僕たちはそれじゃあ救われない。誰かに奪われた存在は、誰かを害さなきゃ生きられないんだ」

「「世の言う悪には、悪の救世主が必要なんだよ」」

 そうとだけ語ると、二人は事切れた。最後の最後まで仲良く手を繋ぎながら、この世と一生の別れを果たしたのだ。
 二人とも、自分自身の無力感に苛まれながら、静かに手を合わせる。少しでも、安らかな『その後』を送れるように、ただただ無言で祈りを捧げていたのだ。

 だが、事はそれだけで済む訳が無かったのだ。

 あれほどの底知れない悪意を持った人間を『理想の人間』と称している中で、自分たちにそれが降りかからない訳が無いと。来栖善吉という男が、死人となった社員を弔いはするが敬いはしないように。自分以外のほぼ全てを見下している存在が、どんな倫理観にも中指を突き立てるように。
 双子の死体が、唐突に何者かに踏みにじられる。それとともに、院と透の二人を思い切り蹴り飛ばす。
 咄嗟のことだったために、気配感知程度しか追い付かず、咄嗟の柔らかいガードのみで受けてしまったがために、盛大に壁に叩きつけられてしまう。
「な、何ですの……?」
「何もクソもねェ……『理想の人間』にアイツを据えるんだ、それなりの悪意は覚悟していたよ」
 その場に立つのは、双子の死体を吸収し、双子の統合意識を内部に宿した奇妙な生命体。顔も体も、何もかもがのっぺらぼうであったはずが、まるで唐突に怪物が宿ったかのように顔も腹も大口を開け、耳障りな金切り声を上げるのだった。まるで赤ん坊のような声であったのだ。
 体躯としては、実に人間よりも少し大きい程度。しかし、肉体はどこまでも可変が効きそうな様相であり、現に存在しなかった大口以外にも、多くの赤ん坊の顔が生まれ始めていた。人間の心の奥底に存在する、潜在的恐怖心を掻き立てられるほどの、薄気味悪さであったのだ。
 それと共に、徐々に世界は通常の世界から漆黒と純白の台地が広がる、所々に黒曜石の柱が乱立した、このゲーム本来の最終決戦(ラストバトル)の地に様変わりしていく。元々双子の遊び心で付けられたエプロンは取っ払われ、ドライバーの使用制限も当人が死んだことによって解除された。
「――本来なら、この場には馬鹿デケェ黒の龍がいるはずなんだけどよ。あんな趣味悪ィ奇妙生物用意されるだなんて……このゲームも不服だろうよ」
「ええ、全く持ってその通りですわ。昨今のスプラッター・ホラ―映画の敵役のような、あんなの出されたら……怖すぎて子供が泣きそうです。このゲームは子供のファンが大量にいるでしょうに」
 化け物じみた大口を開く顔が、突如として双子を無理やり合わせたような表情が浮き出る。その表情は、これまでの平静を保ったものとは異なり、これまでの言動全てを疑うような荒々しさを感じた。

『ぜんきち さん は ぼくたち の あこがれ。 この せかい で  ふあん の め を つみとる んだ』

 確かに、自死したオトとケイの意識は似たようなものとしてあるのだろう。だが、生命の冒涜と言わんばかりに、純白の化け物はその双子の表情を自分自身で無理やり閉じ込めたのだ。あろうことか、自分の顔を何度も殴り飛ばしたり、床に叩きつけたりするように。
 そうしても、多少の出血すらありはせず、まるで赤ん坊が笑ったかのような声で二人を見据えるのだった。
「――院、俺ァ……これまでにねえ程キレてッかもしれねえ」
「……奇遇ですね。私がキレるだなんて……礼安がらみか仲間にまつわる物だけかと思っていましたわ」
 今、二人は静かに怒っていた。死者を徹底的に冒涜し、死体すら利用し最後の最後まで戦わせる……仲間ではないかもしれない、ただ同じ志を胸に宿した存在であるだろうに、それを喪っても何とも思わない、そんな腐り切った性根に、二人は怒っていたのだ。
「オト、ケイ……お前らの思考は……やっぱり完全には理解できねェ。ある意味、相容れねえ存在だったのかもしれねェ」
「ですが、その考えを理解できないとはいえ、死してなおどうこう言うことは致しません。戦った相手には、心からの敬意を払うのが、戦士として上等です。死体蹴りなど、愚者のすることですわ」
 二人は、ドライバーを下腹部に装着し、怒り心頭のままにライセンスを二枚認証、装填。それぞれのドライバーに、『孫悟空×猪八戒』、『ギルガメッシュ×イシュタル』の紋様が輝き、魔力が全身に溢れ出していく。

「「だからこそッ!! 死んだ同志を何とも思わねェッ その精神(こころ)が気に食わねェェェェッ/ですわァァッ!!」」

 通常時ならばこれほどの出力は無かっただろうが、感情の爆発によってこれまで以上の出力のまま、白の怪物にぶつかり、尋常でない衝撃波を生み出すのだった。



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「実際に長いこと日本の天下を統一していた徳川家康のように、無能がのさばらない世の中になるだろうね」
 その言葉に、院は明確に怒気を滲ませる。
「――無能と蔑む存在がいないと、有能という存在ばかりになった結果全てが平凡と呼ばれるような……歪んだ世の中に成り果てようと、ですか?」
「そんなことにはなりっこないよ。なんせ……善吉さんが最も優れているんだから」
 反論を重ねようとする院を、透が制止する。こういった手合いは、どこまで行っても聞く耳を持たない確信があったからこそであった。
「……お前ら、生身だとそこまで戦闘力を感じないが……俺らがここに辿り着いた後に……俺らをどうするつもりだったんだ? 約束事はお前さんらのリーダーの都合上守るんだろうが……その代償は絶対に存在するだろ」
 透が、どこか諦めたように語り掛けると、双子は同じ柄の小瓶を取り出す。容易に中身は想像がつくだろうが、自決用の毒の小瓶であった。しかも、人体ならばほんの少量で確実に死に至ることの出来る、フグ毒で有名なテトロドトキシンである。それをオーバーキルと言わんばかりに十ミリグラムを経口接種。
 すぐさま二人とも喀血し、英雄二人に向かって笑って見せたのだ。
「――私たちをいくら止めようと、結局はこうして死ぬ手筈だったの」
「僕たちにとって、それほど善吉さんは大きな存在なんだ」
 次第に血色が悪くなり、その場に跪く双子。院と透は、改めて命の灯火が消えゆく姿を目の当たりにしていたのだ。多少なり気分が悪くなりながらも、その姿を最期まで見届けることが自分たちの役目であると認識していた。
 英雄では救えない存在が、歪んだ形で最期を迎える。自分の不甲斐なさといい、自分の無力さといい……痛いほど実感する瞬間であったが、それでも見届けなければならないと、心のどこかで思っていた。
「私たちは、絶対に君たちに傷を負わせる。でも確かな力なんて存在しない。誰もかれもが因子持ちだなんて恵まれた境遇に置かれている訳じゃあないんだ」
「恵まれた存在が誰かを救う。その在り方はきっと素晴らしいんだろうけれど……僕たちはそれじゃあ救われない。誰かに奪われた存在は、誰かを害さなきゃ生きられないんだ」
「「世の言う悪には、悪の救世主が必要なんだよ」」
 そうとだけ語ると、二人は事切れた。最後の最後まで仲良く手を繋ぎながら、この世と一生の別れを果たしたのだ。
 二人とも、自分自身の無力感に苛まれながら、静かに手を合わせる。少しでも、安らかな『その後』を送れるように、ただただ無言で祈りを捧げていたのだ。
 だが、事はそれだけで済む訳が無かったのだ。
 あれほどの底知れない悪意を持った人間を『理想の人間』と称している中で、自分たちにそれが降りかからない訳が無いと。来栖善吉という男が、死人となった社員を弔いはするが敬いはしないように。自分以外のほぼ全てを見下している存在が、どんな倫理観にも中指を突き立てるように。
 双子の死体が、唐突に何者かに踏みにじられる。それとともに、院と透の二人を思い切り蹴り飛ばす。
 咄嗟のことだったために、気配感知程度しか追い付かず、咄嗟の柔らかいガードのみで受けてしまったがために、盛大に壁に叩きつけられてしまう。
「な、何ですの……?」
「何もクソもねェ……『理想の人間』にアイツを据えるんだ、それなりの悪意は覚悟していたよ」
 その場に立つのは、双子の死体を吸収し、双子の統合意識を内部に宿した奇妙な生命体。顔も体も、何もかもがのっぺらぼうであったはずが、まるで唐突に怪物が宿ったかのように顔も腹も大口を開け、耳障りな金切り声を上げるのだった。まるで赤ん坊のような声であったのだ。
 体躯としては、実に人間よりも少し大きい程度。しかし、肉体はどこまでも可変が効きそうな様相であり、現に存在しなかった大口以外にも、多くの赤ん坊の顔が生まれ始めていた。人間の心の奥底に存在する、潜在的恐怖心を掻き立てられるほどの、薄気味悪さであったのだ。
 それと共に、徐々に世界は通常の世界から漆黒と純白の台地が広がる、所々に黒曜石の柱が乱立した、このゲーム本来の|最終決戦《ラストバトル》の地に様変わりしていく。元々双子の遊び心で付けられたエプロンは取っ払われ、ドライバーの使用制限も当人が死んだことによって解除された。
「――本来なら、この場には馬鹿デケェ黒の龍がいるはずなんだけどよ。あんな趣味悪ィ奇妙生物用意されるだなんて……このゲームも不服だろうよ」
「ええ、全く持ってその通りですわ。昨今のスプラッター・ホラ―映画の敵役のような、あんなの出されたら……怖すぎて子供が泣きそうです。このゲームは子供のファンが大量にいるでしょうに」
 化け物じみた大口を開く顔が、突如として双子を無理やり合わせたような表情が浮き出る。その表情は、これまでの平静を保ったものとは異なり、これまでの言動全てを疑うような荒々しさを感じた。
『ぜんきち さん は ぼくたち の あこがれ。 この せかい で  ふあん の め を つみとる んだ』
 確かに、自死したオトとケイの意識は似たようなものとしてあるのだろう。だが、生命の冒涜と言わんばかりに、純白の化け物はその双子の表情を自分自身で無理やり閉じ込めたのだ。あろうことか、自分の顔を何度も殴り飛ばしたり、床に叩きつけたりするように。
 そうしても、多少の出血すらありはせず、まるで赤ん坊が笑ったかのような声で二人を見据えるのだった。
「――院、俺ァ……これまでにねえ程キレてッかもしれねえ」
「……奇遇ですね。私がキレるだなんて……礼安がらみか仲間にまつわる物だけかと思っていましたわ」
 今、二人は静かに怒っていた。死者を徹底的に冒涜し、死体すら利用し最後の最後まで戦わせる……仲間ではないかもしれない、ただ同じ志を胸に宿した存在であるだろうに、それを喪っても何とも思わない、そんな腐り切った性根に、二人は怒っていたのだ。
「オト、ケイ……お前らの思考は……やっぱり完全には理解できねェ。ある意味、相容れねえ存在だったのかもしれねェ」
「ですが、その考えを理解できないとはいえ、死してなおどうこう言うことは致しません。戦った相手には、心からの敬意を払うのが、戦士として上等です。死体蹴りなど、愚者のすることですわ」
 二人は、ドライバーを下腹部に装着し、怒り心頭のままにライセンスを二枚認証、装填。それぞれのドライバーに、『孫悟空×猪八戒』、『ギルガメッシュ×イシュタル』の紋様が輝き、魔力が全身に溢れ出していく。
「「だからこそッ!! 死んだ同志を何とも思わねェッ その|精神《こころ》が気に食わねェェェェッ/ですわァァッ!!」」
 通常時ならばこれほどの出力は無かっただろうが、感情の爆発によってこれまで以上の出力のまま、白の怪物にぶつかり、尋常でない衝撃波を生み出すのだった。