社長室の扉を乱暴に蹴り開ける透。そこに居たのは、いつの間にかテレポートした双子であった。その後ろにはポータルも存在し、この世界から抜け出すにはここが正解であることを示していた。
二人は社長の椅子に座ることは無く、机の傍に佇む形でそこに居たのだ。
「ここに辿り着いたんだね、お二人さん」
「どうするのかは、もう分かっているんだよね?」
院と透は示し合わせたように頷いて、双子に向かって言い放つ。非情だと思う心は確かに存在するのだが、双子にとっての『理想の人間』を示すことでこの世界から抜け出すための、苦肉の策であり最善の策。
「「――『こんな下らないゲームは終わらせて、私の利だけではなく会社の利になる仕事をしろ』」」
二人の中で、確かな当人の像というものは曖昧なものだが、どこまで行っても
仕事人間であるだろうという共通認識は存在する。当人がどんな存在かはあまり見ず、ただ自分に利を齎す存在であるなら傍に置く。そこに忠誠心があるのならなお良し。特に他人に対してあまり興味がないであろう善吉にとって、こんな時間稼ぎ同然の世界は、『無駄』そのものである。
最初は、ほんの些細な気付きであった。だが、やたら来栖善吉にまつわる映像が多くなった瞬間に、その気づきは確信に変わった。新しい山梨支部の幹部になるまで忠誠心があるのなら、もってのほかである。
「――そうだね。それが私たちにとっての『理想の人間』。君たちにとっては嫌われる対象だろうけど、私たちにとっては
救世主そのものなの」
「そう。僕たちにとっての
救世主は、英雄や教会の祖たるカルマなんかじゃあない。
来栖善吉だけなんだ。それは永久不変なものなんだよ」
双子の正体は、山梨県に多く存在した元大人の子供そのもの。全てを見通す片眼鏡を騙せた理由は、トクリュウたちのように、あくまで肉体の見た目をごまかしているのではなく、当人が既にその姿に戻っているからこそ。だが、当人たちに子供に還ってやりたいことなどはない。ただ、かつての状況を覆した、来栖善吉への忠誠ゆえに、目的など無く子供に還ったのだ。
よくある、ありきたりな正解としては、子供たちを部屋の外へ連れ出すか、「共に遊ぶ」ことで終わらせるだろうが、二人は違った。二人の中に備わっている『理想の人間』こそ来栖善吉であるため、無駄同然であるこの世界をすぐさま終わらせるために、本来のゲームをクリアするか、二人を殺してこの世界の呪縛を解放する。
二人の思い描く『理想の人間』である来栖善吉のように、それらをすぐに終わらせることこそが正解であり、一番の手立てであったのだ。
これまでの中で、院と透にやってきたことは、全て自分がやられてきたこと。相手に答えの分からない問いをぶつけられ、問うた自分が分かるはずもないのにも拘らず、理不尽な言葉の暴力や単純な暴力によって心を圧し折られる、パワハラの常套手段であったのだ。
二人は、本当の双子であり、姉弟。そこまで恵まれた才はないものの、高い水準の知能や資格・功績によって、同じタイミングで山梨県の某大手企業に入社し、明るい未来を送る――はずであった。
そんな二人を待っていたのは、社会の理不尽であった。あらゆる功績を上司の物にされ、自分はただそんな大した才もない上司に結果を貢ぐ奴隷そのもの。最初はその現実を受け入れていたものの、次第に精神を病んでいった。
そんな中で出会った存在こそ、ライバル企業の頂点に立つ存在である来栖善吉であった。
最初、そんな存在を胡散臭いと思い込んでいた二人であったが……彼の人となりを知っていくうちに、その考えを改めることとなる。
仕事を効率化、そしてそのノウハウを他業種に持ち込むことが非常に優れており、五斂子社が伸びる要因を一瞬で理解した。しかし無能な上司陣はそれを理解しようとはせず、「ただ若造がその場の勢いのまま伸びているだけ」だの「必ずああいった輩は栄枯盛衰の
理の通りになる」だの、自分の低能差をひた隠しにして言い訳を探していたのだ。
そんなある日、善吉が二人の所属する企業に買収の提案を持ちかけてきた。当時、オトとケイ、本名は既に忘れてしまった双子の所属する企業は、山梨の中で大きな企業ではあったが、五斂子社の台頭によって伸び悩んでいる最中であった。その企業は強がることで買収をその場で拒否した。食い下がるかと思われたのだが、善吉はあっさりと身を引いた。
だが、徐々にオトとケイの所属する会社から、気づかれないほどの緩慢さで人員がヘッドハンティングされていく。上司は自分の手駒同然である部下に対して、大して関心を抱いていないほどに不出来な上司であったため、特に重く捉えていなかったのだ。大して仕事の出来ない人間だった、いなくなって清々した、などと漏らす程度で、よりオトとケイに対する当たりが強くなる程度だった。
だんだんとストレスを蓄積していく中で、遂にオトとケイに五斂子社から声がかかった。声のかかる遅さに疑問を感じたものの、他の社員よりもある程度感じ取る力に優れていた二人は、善吉の采配の意図に気づいたのだ。
他社の人間であるのにも拘らず、それぞれの社員のストレスがピークに達した瞬間に、一番他社、あるいは他者に靡きやすい瞬間を狙って引き抜きをかけているのだ。意地悪い手段だと思われるだろうが、人の心を知り尽くしていないとこの手段は簡単には取れない。
さらに、当人の適性を見てその力を十二分に活かしきれる場への配置も行っており、まるで社員全員を見通しているような、その達観した社長としての手腕に、双子の二人は惚れ込んだ。
一も二もなく五斂子社に転職を決めた双子。そしてその元会社はさらに前後不覚の状態にまで追い込まれた結果、元よりも圧倒的に下に見た、ある種買い叩かれるような不平等条件でありながら、それをすんなり受け入れざるを得ない状況に追い込んだ。結果的に社員を活かしきれなかったその会社は元の姿を消し、完全に養分と成り果てた。酷く扱っていた上司は……恨みの募った双子がしっかり『処理』した。
五斂子社に入社した二人は、自分を救ってくれた来栖善吉を『理想の人間』として崇め、どんな宗教も下らないと唾棄し、来栖善吉こそ心の中での『絶対』と据える。この人間の元ならば、どんな汚れ仕事だろうとこなして見せる……歪んでこそいるが、絶対的な忠誠心が二人の中には存在した。
そのため、チーティングドライバーすら用いない、双子の暗殺者がここに誕生。五斂子社の不利益になる存在を、秘密裏に抹殺する。今まで犯罪行為がバレたことは無いために、相当の地位を保っていたのだ。