周囲を探索しながら、二人はこの世界でやれることを知っていたために土を掘ったり、石を掘ったり、素材を整えるところから始まった。その辺りの家からろうそくや油、種やエメラルドのスタックされたものなど、一見不要そうなものもなぜか集めてしまうのは、透のプレイスタイルの表れである。大して院は必要最低限の物以外は集めないために、持ち物は基本的に綺麗なまま。
「――曖昧な説明に、曖昧な目的。普通なら何かしら裏があるものですが、今回ばかりはそれが読めません」
院が苦悩しながらまんべんなく素材を集めていると、遠くの方で素材を集めていた透が駆け寄る。手には目を痛くするほどに眩しい、各種宝石類が握られていた。
「鉄の
鶴橋作ってこういうの掘るのは、ある意味
妥当だろ? これ持ってあの双子に見せつけに行ったら、少しでもなんか変わるかもしれねえぜ!」
「確かに、ああいう幼子というものは、煌びやかなものが好きな傾向があります。玩具でもそういうものがあるでしょうし」
二人で各種鉱石類を手に、近くの村へ向かう二人。こじんまりとした家の中に双子がおり、暢気に茶を啜っていた。今置かれている状況がどんなものか、分からなくなるほどに悠長なものであった。
部屋の内装は、実にさっぱりとしたもの。テーブルと椅子、細かな食器類のみ以外存在しない。だが、このゲーム内には存在しないテクスチャばかりであり、不必要なものなど何一つないような、現実を忘れさせるゲーム内とは言えないような、奇妙な空間であった。
「あら、こんな早々にどうしたんですか
英雄さんたち」
「僕たちの好む理想の人間というものを示せるんですか?」
「簡単だ、このゲームを終わらせに来たんだよ」
双子の前に提示されたのは、ラピスラズリやエメラルド、アメジストなどの煌びやかな宝石類であった。ゲーム内とはいえ、全てが本物。現実価値に換算したら、数億は下らないほどの価値あるもので埋め尽くされていた。
「こういう宝石類ってのは、子供は好きなもんだろ。見ていて飽きねえし。全部
無償でやるよ」
通常ならば、大層喜んでくれるはずが……双子に関しては実に白けた表情のままであった。
「――まさか、それだけのためにここにやってきたのですか?」
「そんな簡単な条件なら、まずこのゲームやっている意味がないけれど」
唐突にデバイスの電源が付き、そこに示された数字が減ってしまう。元々の数字が百だった中、急速にごっそり減った結果……まさかの五十にまで減少。
「あ、言い損ねていたけれどその数字ゼロになったら貴女たち死ぬから」
「ンな気軽に言ってくれるなよ!? こんなんあるんだったら俺だってもうちょい慎重にやるわ!!」
何か思うところがあった院は、何も言わずに透を家の外へ連れ出す。あまりにもの理不尽な展開に物申したい透であったが、考えがある院の思うがままに連れ出されたのだ。
「――正直、そういった現実世界にて高値で存在する宝石類には興味がないんですわ、あの子たち」
「じゃあ、これから何をするってんだよ。アイツら、言ってなかったけれど……って言って
時間制限出してくるかもしれねえぜ?」
「その時はその時。ですが……少しばかり道が見えたので、勝機はあると思われますわ」
院が静かに提示するのは、これから集めるもののリストアップ。通常の攻略では必要のないものを作るべく、二人は個別に動き出したのだ。
それは、幼子ならば誰もが好きであるもののクラフトレシピであった――のだが。
「駄目、私たちの好みじゃあないの。四十点」
「駄目、僕たちの好みじゃあないの。四十点」
なぜか、レースが付いたエプロンを付けた院と透の二人が、うなだれていたのだ。
その先にあるものは、皿に乗せられた立派なケーキ。このためにスポンジ用の小麦や卵だったり、生クリーム用の牛乳だったりを、方々を周って回収してきたのにも拘らず、ほんの一瞬で全てが無駄に。院と透、二人仲良く点数が四十点に減少してしまったのだ。
「う、嘘でしょ……ホールケーキでも駄目だなんて……」
「チビたち絶対喜ぶ布陣が……ものの見事に……」
可愛らしいエプロンを着た二人がうなだれる中、双子はそれを仕方なさそうに間食しながら二人を見下していたのだ。
「本当にこれが、理想の人間にふさわしいと思っているのですか?」
「お姉ちゃんたちにはがっかりだよ、もう少しまともな思考をしていると思ったのに」
二人とも、子供をあやすことは得意分野。透に関しては、ピアノ技術を磨いた瞬間に保育士が務まるほどの、子供に関するエキスパートであるのだが、その
自尊心がものの数秒で圧し折られそうな勢いであった。
「……じゃあ、貴方たちにとって、何が正解なんですの? 何が、『理想の人間』たらしめるのですか?」
その院の問いに、まるで唾でも吐き捨てるかのような呆れ方で、美しい髪を引っ張り無理やり顔を向ける双子。その瞳の奥には、無限に続く憎悪が宿っている、今まで多くの人間と関わってきた院であったが、そんな気がしたのだ。
「すべての物事にヒントがあると思わないで、お姉ちゃん?」
「それを見つけ出すことこそに、意義があるんだよ?」
そうとだけ言い放つと、院の髪を乱暴に放し、二人を不思議な力で家から追い出したのだ。
「――んだよアイツら! こっちが手出しできないのをいいことに……教育のなってねえ
子供共だな、全くよ!」
あえて聞こえるように叫んだものの、家の中からは一切の反応なし。反応はまさに凪同然であった。分かりやすく舌打ちをする透であったが、院は二人の闇を垣間見てしまったがために、思い悩んでいたのだ。
「……なあ、大丈夫か院? 髪とか痛くないか? 今からでもアイツらに怒鳴りに行くか?」
「――いえ、そんな事をせずとも大丈夫ですわ。もしそれを行って点数がゼロになってしまっては元も子もありません。それよりも……この世界の
解法が、分からなくなってしまいまして」
院はずっと、終始曖昧な基準として提示された『理想の人間』という部分に引っ掛かっていたのだ。『理想の両親』、あるいは『理想の兄姉』であるならば、道徳心に則って導き出される答えは単純明快、『当人の意志を阻害せず、優しく寄り添うこと』が正解である。万人にこれが適応されるとは思っていないが、少なくとも減点されることは無いと考えていたのだ。
ほぼ作り損になってしまったケーキでも食べゲーム内空腹度を満たしながら、お互いの鬱憤を晴らしていく。それでもいい上に、ただ他愛もない話で笑い合うもよし。この緊急事態に適しているかはさておいて、少なくともすぐさま怒鳴りつけるだなんて行為は、歩み寄る以前に人としてどうかと思ったためである。そんなことをしたら最後……透はこの世界のルールに則り死んでしまうだろう。
「……じゃあ俺ら、どうしような。いまいちこの世界が見えてこねえというか……どうするのが『アイツらのため』になるんだろうな」
「きっと、生半可な回答は無駄……その中でどうにかするには……」
夜の来ない原っぱ、そのど真ん中に二人腰掛けながら、一見答えのない問いに頭を悩ませる。しかし、ここで透が閃いた様子であった。
「何か、抜け道でも見つけましたの?」
「――いや、抜け道というよりは……本当の正攻法を見つけた気がしてよ」