所変わって、千葉県側の道路。後ろに海ほまれを抱える中、院と透は別世界にてある勝負を行っていた。それは――
「駄目、私たちの好みじゃあないの。四十点」
「駄目、僕たちの好みじゃあないの。四十点」
なぜか、レースが付いたエプロンを付けた院と透の二人が、うなだれていたのだ。
遡ること、十数分前のこと。狐川たちが、秋山と交戦し始めた時のこと。
院と透は、変身しない徒手空拳のみで、トクリュウの連中をのしていた。麻薬で凶化されていたため、構成員や御庭番衆でようやく片付いた相手であったのにも拘らず、山梨での一件以降招集がかからない間に修行していた結果、礼安ほどではないものの確実な地力がついたのだ。
数十人の半グレを相手取ったのにも拘らず、傷一つ付けられていないどころか、息切れ一つしていないのだ。
「……んだよ。これほどの量用意しておいて、ただのこけおどしで終わりか? 俺まだ準備運動終わってねえんだけど」
「そうですわね。正直……あの山梨の一件と比べて、大した難易度ではありませんわね」
肩を荒っぽく回す透と、ドライバーを手持無沙汰に弄る院。その目線の先には、新生山梨支部幹部である、双子の子供がいた。
「しっかし……俺らにチビの相手をさせるなんてよ。アイツ俺らの弱みにでも付けこむつもりだな」
「あれほどの経験をして、眼前の存在を子供だと思いたくはないんですがね」
しかし、二人の片眼鏡に映るものはすべて真実。二人とも、正真正銘の子供であったのだ。子供絡みで様々あった山梨旅行組相手に、何とも皮肉なマッチメイクである。
だが、双子の姉弟は、こんな戦場でありながら大きな欠伸を隠す様子すらなかった。
「――次の遊び相手は、貴女たちなのね。
大人じゃあなくて良かったわ」
「そうだね、お姉ちゃん。高校生くらいだから、大人一歩手前って感じだけど……相手として不足は無いね」
二人にとって引っ掛かる文言があったために、院が名を聞こうとした瞬間に、言葉を発することを制止される。
「どうせ、貴女たちの言いたいことは分かるわ。私たちの名前を聞きたいんでしょう? 戦う前には名乗る、日本古来から続く慣例のようなもの、あるいは裏社会の
慣例のようなもの。何となく理解できるわ」
二人は手を合わせながら、まるで鏡写しのように触れ合って見せる。一挙手一投足、手を合わせるタイミングや合わせる手の角度、そして呼吸のタイミング……全てが完全一致していた。
「私の名前はオト」
「僕の名前はケイ」
「「二人に挑むは、『理想の人間』ゲームだよ」」
「「……は??」」
二人はその言葉とともに、異空間に飛ばされる。そしていつの間にか――まるで新妻が着るようなレースかつハート柄、それでいて淡い水色のエプロンを着用した姿で放り出されたのだ。
あろうことか、空中で。
「「嘘だろ/でしょ!?」」
二人は焦りながらも、互いに頷き、すぐさまドライバーを装着し、あらかじめ装填しておいたライセンスにて変身する。エプロンを付けていたことなど忘れてしまうような、英雄の装甲を身に纏った二人が現る。
宙で身を翻し、お互い片膝立ちの状態で地面に着地する。頭部装甲を霧散させ、辺りの様子を確認する二人であったが、自分の常識を軽く疑ってしまうような世界であった。
「何なんですの、ここ……?」
「本当だ。……って待て、これ見覚えがあるというか……?」
二人が降り立った世界は、現実ではなくゲームの世界そのものであった。未開拓の世界が、無限に広がったもの。幸い青空が広がっており、天候がこれから悪くなる予感はしない。動物もそこら中におり、自分たちに被害を与える行動を取っているわけではない。
だが、院は何となくこの世界の正体に気づいていた。それは似たようなゲームを過去プレイしていたからこそ。
「――このゲーム、かつてプレイした記憶があります。礼安と一緒に……紫色のブレスを吐く変な黒い
竜だったり、三つ首の
髑髏を携えた空飛ぶ
魔物だったり、あとは目が無い代わりに耳が異常に発達した巨人だったりを、倒した記憶もありますが……」
「そのゲーム……俺も知ってるしチビたちとやった記憶があるけれど、じゃあこの世界は『その世界』ってことかよ?」
「ええ。この
長閑さは無論それなんですけれど……そこで行われるのが『理想の人間』を示す、という目的が実に曖昧なものなんですよね」
首を傾げる院の疑問を解決するためなのか、その場にオトとケイが現れる。思わず身構える二人であったが、殺意はないようであった。
「このゲーム内で、理想の人間に成ってもらうの」
「僕たちは、そのために
大人目前にまで差し迫った君たちを矯正します」
「戦うんじゃあねえのか? つっても、チビたちみてえなお前等を傷つけんのは、流石に良心が痛むけれどよ」
「ある意味戦うのかもね、私たち」
その一声で、装甲を纏っていたはずの院と透の変身が強制的に解除され、デバイスも必要最低限の用途でしか使用できず、沈黙してしまった。
「この世界で行ってもらうことは、
RTAではないよ。あくまで、『理想の人間』を目指してもらうんだから」
「野蛮な道が理想の人間だと思うのなら、それで進めばいい。改める必要があるのなら、思うままに進めばいい。自由度は他の面子よりも上だから」
そうとだけ語ると、双子は近くに存在する村に歩いていき、院たちから離れていく。
あまりにもの拍子抜けな展開に、二人は顔を見合わせて肩を竦めるのだった。