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第二百七十八話

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 映像内の京は、善吉が宣戦布告を行った際に行ったような動作を、一切間違いなく行う。傍にいた眼鏡をかけた幹部に、タブレットを持ってくるよう指示し、すぐさまあるものを提示する。それは、まごうことなき海ほまれの監視カメラをジャックした映像の数々。しかも、これはかつての録画ではなく、今この状況を映し出す映像であった
『――おや、画面が小さいな。少しばかり援助の形としてこの映像を用意したんだがな……っと!』
 わざとらしい演技と共に映像を拡大化すると、そこには礼安たちの目を疑う『現実(リアル)』が映っていたのだ。それが映し出された瞬間、どれほどの援軍を寄せられてもなお、顔色が一切変わっていなかった善吉が……初めて焦りを見せた。
 その映像に映し出されていたのは……この千葉県に住まう一般人ではなく、見るからに半グレやトクリュウ含む、とても無辜の人々とは思えない、怪しい風貌の存在ばかりであったのだ。
 それまで、子供やら大人やら、千葉県民の姿かたちをしていたはずなのにも拘らず、京が映し出していた映像には、そんな存在がひとりたりとも存在していなかったのだ。
 確かに、魔力の影響によって、一般人もそれなりには洗脳された存在がいる。しかし、それらを統率するだのなんだの、それは夢物語。ましてや、確かに力は向上したものの、千葉県全土を覆えるほどの魔力など現在の善吉は有していなかったのだ。
 一世一代のハッタリが、たった一つの映像によって瓦解した瞬間であったのだ。
『確か、千葉支部の被害に遭っただの、一般の方々だの……過ちなど何もしていない千葉県民を名乗る割には、風貌が厳つすぎやしないかな、と俺は思っちゃったわけ』
 ある意味、根本の疑問としてずっと残っていたのは……『来栖善吉が力を補強したとはいえ、千葉県の掌握を果たすには少々早すぎる』というもの。山梨県自体の掌握を五斂子社絡みで行っていた際には、少なくとも数年がかりで行っていた。
 そんな中で、礼安たちが千葉県に関与していない間に、たった数日で掌握できるのだろうか、という疑問が少なからず存在するだろう。
 善吉の能力は『念』、しかも洗脳能力に特化したものであり、元あった精神掌握術や心理学の知識を応用した力は、その一点だけ見るのなら――礼安がかつて戦った待田よりも優れている。
 だが、たった数日で約六百三十万の人口を掌握しきれるか、と言ったら……それは違う。力は万能ではあるが、全能ではないのだ。
 いくら千葉支部のデスティニーアイランドが危険思考を取り除き、喜楽のみの洗脳しやすい状態にまで、意図的ではないとはいえ持ち込んだとはいっても……出口でそれを待ち受けて一人一人洗脳していくのは、まず割に合わない上に時間がかかりすぎる。
 偶然約六百三十万の人間がデスティニーアイランドに突っ込まれ、思考をお花畑にしたとしても、それの処理にかかる時間は骨が折れるどころの話ではないのだ。
 だからこそ、上手く『そう見せかける』ことが重要であった。そのために、短期間で善吉を始めとして幹部連中や流浪の獣構成員たちはSNSにて多くの人員を募った。数百名規模ではあったが、それらをとっかえひっかえして、まるで大勢の千葉県民が洗脳された、そういうパンデミック的状況に見せかけたのだ。
 最初から、全ては仕組まれていた。善吉が礼安たちを嵌めるために、千葉県全体に自分の魔力を及ぼしておくことによって、半グレ連中やトクリュウたちを『一般人に見せかける幻覚』を掛けていたのだ。
『あ、ついでに信頼できるツテから貰った、千葉県民の参考資料がこちらです』
 まるでバラエティ番組のVTRフリのように示された映像は、丙良が守っていた場である銚子市のものであった。銚子市に辿り着いた二人は、映像の提供先の疑惑として丙良の方を見やるも、丙良は関与していない様子であった。
 千葉県民全てが敵である、そのように見せかけた結果実際は違う。実際、銚子市や房総半島の人々はいたって平穏、灰崎が道中である程度相手取ったことはあるものの、約六百三十万が敵に回っているとは思えない。まず、ファザー牧場に訪れる県民や観光客が、ターゲットであるはずの灰崎を襲っていないことは何よりもの証拠である。
『あ、慎介が映像提供先ではないから、そこは勘違いしないように。協力してくださったのは……こちらの方です』
 そうして現れたのは、何と加賀美や千尋が世話になった、定食屋の主人であった。定食屋の主人が、今の今まで着用していた定食屋としての姿を全て脱ぎ捨て、付け髭云々を全て取っ払うと……一行が今まで目にしたことの無い漆黒のスーツの存在が現れる。見た目としては実に清純(ピュア)そうな若者であり、胸元に輝くは教会所属のバッジ。眼鏡をかけており、文武両道を地で行くような存在であった。
 しかし、彼の風貌や醸し出す雰囲気に嫌味な要素や敵意は感じられない。その姿をしていなければ、実に気の優しい青年という印象を抱く。あの定食屋の主人をやっていたことから、料理の腕も確かである。
 わざとらしく、手をひらひらと振って善吉をおちょくる男と京。彼もまた、善吉が嫌いなために、変顔までする始末であった。
『今回、ウチの幹部一人にお手伝いしてもらってね。全力で働いてもらったよ。来栖善吉の洗脳、及び干渉は……基本的に人間や四足歩行の生物に限られると考えた俺は、まず各所の監視カメラの主導権を俺の元に手繰り寄せた。そこから……関係各所に声掛けをして……こんな援軍も用意した。さあいらっしゃい、未来ある若者たちよ!』
 本州側から、三台のバイクが高速で向かってくる。そこに乗っていた存在は、今回の作戦に参加できなかった存在が二人……そして、現状信玄の一番の関係者が一人。全員、目元には『真実』を映し出す特殊カメラを内蔵した、特殊な片メガネ(モノクル)を装着していた。
「あ、院ちゃん!! 透ちゃん!! そして……」
「待っていたよ――綾部ちゃん。今回の一件……やっぱり思うところはあるよね」
 バイクを極道車付近に荒っぽく止め、ヘルメットを投げ捨てる三人。
 荒々しく拳を鳴らす者も居れば、肩を回す者も居る。実に頼もしき援軍が増えたのだった。
「よお!! 俺ァここに、子供を意地汚く食い物にする……とんでもねえクソ野郎が潜伏していると聞いたぜ!!」
「招集されずに歯がゆい思いをしていましてね……今回の補助(サポート)人員に自分から立候補しましたのよ!」
 実際にどういうやり取りがされたかは……詳しいことを述べると、ある存在の名誉が酷く落ちぶれてしまうため、表現しないことにする。説得(こぶし)を何十回も貰った、としか言い表しようが無いだろう。
 そして、最後の一人である綾部琴音(アヤベ コトネ)は、すぐさま蒼槍(ゲイ・ボルグ)を具現化し、高速道路(ハイウェイ)を傷つけつつ周りの半グレ連中を威嚇しながら、静かに怒りの頂点に達していた。
「――今回の件、信玄が全て黙っていたこともさることながら、その相手がよりにもよってとんでもないろくでなし絡みだなんて……本当、つくづく私はクソな男に縁があるようね。後々、信玄には拳骨して分からせて……彼女である私がどうにかするから」
 あまりにもの静かなる怒りにより、蒼槍(ゲイ・ボルグ)をフルパワーで集団に投げ込み、開戦前ではあるがある程度の雑兵(ザコ)狩りになった。そこから海ほまれ展望デッキに跳躍し上り、琴音は一行に混ざるのだった。
(――あの方は、来栖善吉に対し、相当に恨みがある存在。あの中に混じっても損はない実力であるから……私たちはその援護に立ちまわるべきですわね。まだ本調子、というほどに立ち直れてはいないので)
 院と透は、傍で仁王立ちする狐川たちに、肩を回しながら語り掛ける。
「俺はアンタと面識はないッスけど……ここに立つ以上命の保証は出来ねェし、庇うことは申し訳ねェけど出来ねェッス。それでも……共に戦ってくれるんスか」
「何をいまさら。ワシは……大恩を受けた。ヤクザものであるワシに命をくれた……その大恩を、ワシの(タマ)切腹(ハラキリ)するほどの覚悟を懸けて……お礼参りする以外にはないじゃろう」
 その言葉を聞いて、呆れたように笑う透。拳を黙って突き出すと、狐川はそれに対し豪快に笑って応え、一回り大きい拳がぶつかり合うのだった。院に関しては、傍にて準備運動を行う葵の身を案じていた。
「大丈夫ですの、葵? あれだけのことがありながら……」
「――そこに関しては、アタシは大丈夫。御庭番衆に関しては、元と比べても本当に少なくなったけれど……アタシが新たな『頭目』である以上、その顔に泥は塗れないから。善吉(クソオヤジ)が何だ、全力でぶつかる以外に道はないっしょ」
 たった数日の間に、子供から里の主として成長した葵を、力強く抱き締める。あれだけの辛いことがあったのにも拘らず、ろくでなしの父親を目の前にしても激情に心を支配されない、大人びたその風格に、心打たれていたのだ。
 恥ずかしくなった葵は院を引き剝がすと、ただ笑って見せたのだ。

「東京都から繋がる道は……アタシたちに任せてよ」
「日本を代表する『忍者と極道』が、半グレ連中を蹴散らし、千葉県に住まう堅気(カタギ)の皆さんを守ッちゃるからのォ!」
((……絶対狐川さん、直近で『あの』漫画読んだな))

 豪快に笑う狐川に呆れた二人は、その場から跳躍。猛者の一人として、千葉県側の道路に、そして半グレ連中の前に立ちはだかる。
 現状この場に揃った面子は、まさに最高峰。少なくとも、流浪の獣構成員やトクリュウたち有象無象では処理しきれるか疑問の盤面であったために……善吉は甲板に続く巨大な橋を急速生成。展望デッキにて立ちはだかる存在を、大口を開け待ちわびていたのだ。
『――良いだろう、そこまで敵意があるのなら……全面戦争と参りましょう』
 平静を保っている善吉。しかし、数多くの妨害を重ねられた結果、見事に額には数本の青筋が入っていた。英雄陣営が戦いにくいよう一般人の側を被せた半グレ連中を嗾けたのにも拘らず、無機物から抽出される映像だけは無防備である――そんな決定的かつ分かりづらい弱点に気づかれてしまった時点で、圧倒的有利盤面であったはずの状況が突如としてひっくり返るのだ。
 善吉が何も語らず、ただ目で指示するだけで三人の幹部を道路に派遣。すぐさま甲板上から霧散し、東京都側に一人、千葉県側に二人、トクリュウたちの後ろにて院たちに睨みを利かせる。

「丙良ししょー、灰崎さん、千尋さん、加賀美ちゃん、綾部ちゃん――そしてエヴァちゃん……行こう皆!! これが……千葉県を救う最後の戦いだ!!」

 拳をワイルドに鳴らしながら叫ぶ、勇敢な礼安の一声により、礼安たちは甲板にまで続く長い橋を走り、院や透たちカバーリング部隊は礼安たちが全力を出せるよう誰一人侵入を許さないために立ちはだかる。海ほまれから始まる千葉県全体が懸かった最後の集団戦が、日付が変わったタイミングで始まったのだ。



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『――おや、画面が小さいな。少しばかり援助の形としてこの映像を用意したんだがな……っと!』
 わざとらしい演技と共に映像を拡大化すると、そこには礼安たちの目を疑う『|現実《リアル》』が映っていたのだ。それが映し出された瞬間、どれほどの援軍を寄せられてもなお、顔色が一切変わっていなかった善吉が……初めて焦りを見せた。
 その映像に映し出されていたのは……この千葉県に住まう一般人ではなく、見るからに半グレやトクリュウ含む、とても無辜の人々とは思えない、怪しい風貌の存在ばかりであったのだ。
 それまで、子供やら大人やら、千葉県民の姿かたちをしていたはずなのにも拘らず、京が映し出していた映像には、そんな存在がひとりたりとも存在していなかったのだ。
 確かに、魔力の影響によって、一般人もそれなりには洗脳された存在がいる。しかし、それらを統率するだのなんだの、それは夢物語。ましてや、確かに力は向上したものの、千葉県全土を覆えるほどの魔力など現在の善吉は有していなかったのだ。
 一世一代のハッタリが、たった一つの映像によって瓦解した瞬間であったのだ。
『確か、千葉支部の被害に遭っただの、一般の方々だの……過ちなど何もしていない千葉県民を名乗る割には、風貌が厳つすぎやしないかな、と俺は思っちゃったわけ』
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 だが、たった数日で約六百三十万の人口を掌握しきれるか、と言ったら……それは違う。力は万能ではあるが、全能ではないのだ。
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 最初から、全ては仕組まれていた。善吉が礼安たちを嵌めるために、千葉県全体に自分の魔力を及ぼしておくことによって、半グレ連中やトクリュウたちを『一般人に見せかける幻覚』を掛けていたのだ。
『あ、ついでに信頼できるツテから貰った、千葉県民の参考資料がこちらです』
 まるでバラエティ番組のVTRフリのように示された映像は、丙良が守っていた場である銚子市のものであった。銚子市に辿り着いた二人は、映像の提供先の疑惑として丙良の方を見やるも、丙良は関与していない様子であった。
 千葉県民全てが敵である、そのように見せかけた結果実際は違う。実際、銚子市や房総半島の人々はいたって平穏、灰崎が道中である程度相手取ったことはあるものの、約六百三十万が敵に回っているとは思えない。まず、ファザー牧場に訪れる県民や観光客が、ターゲットであるはずの灰崎を襲っていないことは何よりもの証拠である。
『あ、慎介が映像提供先ではないから、そこは勘違いしないように。協力してくださったのは……こちらの方です』
 そうして現れたのは、何と加賀美や千尋が世話になった、定食屋の主人であった。定食屋の主人が、今の今まで着用していた定食屋としての姿を全て脱ぎ捨て、付け髭云々を全て取っ払うと……一行が今まで目にしたことの無い漆黒のスーツの存在が現れる。見た目としては実に|清純《ピュア》そうな若者であり、胸元に輝くは教会所属のバッジ。眼鏡をかけており、文武両道を地で行くような存在であった。
 しかし、彼の風貌や醸し出す雰囲気に嫌味な要素や敵意は感じられない。その姿をしていなければ、実に気の優しい青年という印象を抱く。あの定食屋の主人をやっていたことから、料理の腕も確かである。
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 本州側から、三台のバイクが高速で向かってくる。そこに乗っていた存在は、今回の作戦に参加できなかった存在が二人……そして、現状信玄の一番の関係者が一人。全員、目元には『真実』を映し出す特殊カメラを内蔵した、特殊な|片メガネ《モノクル》を装着していた。
「あ、院ちゃん!! 透ちゃん!! そして……」
「待っていたよ――綾部ちゃん。今回の一件……やっぱり思うところはあるよね」
 バイクを極道車付近に荒っぽく止め、ヘルメットを投げ捨てる三人。
 荒々しく拳を鳴らす者も居れば、肩を回す者も居る。実に頼もしき援軍が増えたのだった。
「よお!! 俺ァここに、子供を意地汚く食い物にする……とんでもねえクソ野郎が潜伏していると聞いたぜ!!」
「招集されずに歯がゆい思いをしていましてね……今回の|補助《サポート》人員に自分から立候補しましたのよ!」
 実際にどういうやり取りがされたかは……詳しいことを述べると、ある存在の名誉が酷く落ちぶれてしまうため、表現しないことにする。|説得《こぶし》を何十回も貰った、としか言い表しようが無いだろう。
 そして、最後の一人である|綾部琴音《アヤベ コトネ》は、すぐさま|蒼槍《ゲイ・ボルグ》を具現化し、|高速道路《ハイウェイ》を傷つけつつ周りの半グレ連中を威嚇しながら、静かに怒りの頂点に達していた。
「――今回の件、信玄が全て黙っていたこともさることながら、その相手がよりにもよってとんでもないろくでなし絡みだなんて……本当、つくづく私はクソな男に縁があるようね。後々、信玄には拳骨して分からせて……彼女である私がどうにかするから」
 あまりにもの静かなる怒りにより、|蒼槍《ゲイ・ボルグ》をフルパワーで集団に投げ込み、開戦前ではあるがある程度の|雑兵《ザコ》狩りになった。そこから海ほまれ展望デッキに跳躍し上り、琴音は一行に混ざるのだった。
(――あの方は、来栖善吉に対し、相当に恨みがある存在。あの中に混じっても損はない実力であるから……私たちはその援護に立ちまわるべきですわね。まだ本調子、というほどに立ち直れてはいないので)
 院と透は、傍で仁王立ちする狐川たちに、肩を回しながら語り掛ける。
「俺はアンタと面識はないッスけど……ここに立つ以上命の保証は出来ねェし、庇うことは申し訳ねェけど出来ねェッス。それでも……共に戦ってくれるんスか」
「何をいまさら。ワシは……大恩を受けた。ヤクザものであるワシに命をくれた……その大恩を、ワシの命《タマ》と|切腹《ハラキリ》するほどの覚悟を懸けて……お礼参りする以外にはないじゃろう」
 その言葉を聞いて、呆れたように笑う透。拳を黙って突き出すと、狐川はそれに対し豪快に笑って応え、一回り大きい拳がぶつかり合うのだった。院に関しては、傍にて準備運動を行う葵の身を案じていた。
「大丈夫ですの、葵? あれだけのことがありながら……」
「――そこに関しては、アタシは大丈夫。御庭番衆に関しては、元と比べても本当に少なくなったけれど……アタシが新たな『頭目』である以上、その顔に泥は塗れないから。善吉《クソオヤジ》が何だ、全力でぶつかる以外に道はないっしょ」
 たった数日の間に、子供から里の主として成長した葵を、力強く抱き締める。あれだけの辛いことがあったのにも拘らず、ろくでなしの父親を目の前にしても激情に心を支配されない、大人びたその風格に、心打たれていたのだ。
 恥ずかしくなった葵は院を引き剝がすと、ただ笑って見せたのだ。
「東京都から繋がる道は……アタシたちに任せてよ」
「日本を代表する『忍者と極道』が、半グレ連中を蹴散らし、千葉県に住まう|堅気《カタギ》の皆さんを守ッちゃるからのォ!」
((……絶対狐川さん、直近で『あの』漫画読んだな))
 豪快に笑う狐川に呆れた二人は、その場から跳躍。猛者の一人として、千葉県側の道路に、そして半グレ連中の前に立ちはだかる。
 現状この場に揃った面子は、まさに最高峰。少なくとも、流浪の獣構成員やトクリュウたち有象無象では処理しきれるか疑問の盤面であったために……善吉は甲板に続く巨大な橋を急速生成。展望デッキにて立ちはだかる存在を、大口を開け待ちわびていたのだ。
『――良いだろう、そこまで敵意があるのなら……全面戦争と参りましょう』
 平静を保っている善吉。しかし、数多くの妨害を重ねられた結果、見事に額には数本の青筋が入っていた。英雄陣営が戦いにくいよう一般人の側を被せた半グレ連中を嗾けたのにも拘らず、無機物から抽出される映像だけは無防備である――そんな決定的かつ分かりづらい弱点に気づかれてしまった時点で、圧倒的有利盤面であったはずの状況が突如としてひっくり返るのだ。
 善吉が何も語らず、ただ目で指示するだけで三人の幹部を道路に派遣。すぐさま甲板上から霧散し、東京都側に一人、千葉県側に二人、トクリュウたちの後ろにて院たちに睨みを利かせる。
「丙良ししょー、灰崎さん、千尋さん、加賀美ちゃん、綾部ちゃん――そしてエヴァちゃん……行こう皆!! これが……千葉県を救う最後の戦いだ!!」
 拳をワイルドに鳴らしながら叫ぶ、勇敢な礼安の一声により、礼安たちは甲板にまで続く長い橋を走り、院や透たちカバーリング部隊は礼安たちが全力を出せるよう誰一人侵入を許さないために立ちはだかる。海ほまれから始まる千葉県全体が懸かった最後の集団戦が、日付が変わったタイミングで始まったのだ。