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第二百七十六話

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 車に揺られる中、『   』はその心の中にある英雄を見た。自分自身に宿りながら、永い間偽りの力を振るい続けた、ある種の被害者。何サイズも大きい男物の着物を肩から提げるだけの、胸元にサラシを巻いた和装の女。
 ただひたすらに、鍛冶用鎚を振るって練度の高い熱された鉄を打ち続ける。その背中を見るたびに、彼女は申し訳なさが勝るのだ。
『――よォ、久方ぶりだな』
「……ごめんなさい、『  』。私が……意気地なしなばっかりに」
 そんな『   』の言葉を聞いた瞬間、その英雄は笑っていた。まるでそんなことを今の今まで気にしていたのか、と小馬鹿にせん勢いで。
『――何、儂だって……ただお前さんと共にあり続けてきた訳じゃアない。それとなく、人となりは分かっとった。ただ……お前さんは義に忠実すぎるだけさ』
「まるで、『レ―――』のように……だよね。分かってる、『レイ――』の生き方こそ、私に適していたからさ。誰かのために動いて、どんな窮地でも笑って見せる。だから……あの力を振るえた」
 だが、今は違う。『レイジー』だけではない、新たな想い人である、『礼―』の傍でもその力を振るいたいと思えるようになったのだ。真なる力を、真なる――『村―』の力を。

「……だからさ。私……大先輩である貴女と……『村正』と、もう一度契約し直したいと思って」
『何だって、本当に言った傍からそれだ。儂が先ほど言うたろう、堅っ苦しいと。もう少し……そうさな、『ふらんく』に接したらどうじゃあ、全く』
 そう笑われた女……エヴァ・クリストフは、村正に強気な笑みで、ただ手を差し伸べる。
「じゃあさ、私と……もう一度『友達になって』よ」
『――ハッ。まさか……日の本の国から遠く離れた、『あめりか』の地で言われた文言を……そのまま鸚鵡返しするとはな。こりゃアしてやられたもんだ』

 遠くの記憶に蘇るは、親を事件により喪った後のこと。一人ぼっちであったエヴァの傍に……村正が姿を見せた時のこと。

(――じゃあ、私と……『友達になって』よ、村正さん)
(友達、じゃと!? ……ハッ。エヴァよ、見てくれは若々しいもんじゃが、元をただせば儂はババアだってのに……っておいコラ! 儂の膝を借りて寝るでない! ……全く)

 エヴァの事情は知っていた。だから突っぱねることはしなかった。ただ、親を喪った子供をあやすように、友達であり続けた。あくまで、そう言われたからこそのものであったが。
 だが、今は違う。契約だからではない、長い付き合いを経て、本当の意味で力を振るうためであり、そして長いこと能力を偽ってきた謝罪の意を込め、関係性の修復をもしたいがためである、契約という名の仲直りの握手を提示したのだ。

『――強い目をするようになったな、エヴァ』
「伊達に、『礼安』さんを好きになってないからさ」



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 車に揺られる中、『   』はその心の中にある英雄を見た。自分自身に宿りながら、永い間偽りの力を振るい続けた、ある種の被害者。何サイズも大きい男物の着物を肩から提げるだけの、胸元にサラシを巻いた和装の女。
 ただひたすらに、鍛冶用鎚を振るって練度の高い熱された鉄を打ち続ける。その背中を見るたびに、彼女は申し訳なさが勝るのだ。
『――よォ、久方ぶりだな』
「……ごめんなさい、『  』。私が……意気地なしなばっかりに」
 そんな『   』の言葉を聞いた瞬間、その英雄は笑っていた。まるでそんなことを今の今まで気にしていたのか、と小馬鹿にせん勢いで。
『――何、儂だって……ただお前さんと共にあり続けてきた訳じゃアない。それとなく、人となりは分かっとった。ただ……お前さんは義に忠実すぎるだけさ』
「まるで、『レ―――』のように……だよね。分かってる、『レイ――』の生き方こそ、私に適していたからさ。誰かのために動いて、どんな窮地でも笑って見せる。だから……あの力を振るえた」
 だが、今は違う。『レイジー』だけではない、新たな想い人である、『礼―』の傍でもその力を振るいたいと思えるようになったのだ。真なる力を、真なる――『村―』の力を。
「……だからさ。私……大先輩である貴女と……『村正』と、もう一度契約し直したいと思って」
『何だって、本当に言った傍からそれだ。儂が先ほど言うたろう、堅っ苦しいと。もう少し……そうさな、『ふらんく』に接したらどうじゃあ、全く』
 そう笑われた女……エヴァ・クリストフは、村正に強気な笑みで、ただ手を差し伸べる。
「じゃあさ、私と……もう一度『友達になって』よ」
『――ハッ。まさか……日の本の国から遠く離れた、『あめりか』の地で言われた文言を……そのまま鸚鵡返しするとはな。こりゃアしてやられたもんだ』
 遠くの記憶に蘇るは、親を事件により喪った後のこと。一人ぼっちであったエヴァの傍に……村正が姿を見せた時のこと。
(――じゃあ、私と……『友達になって』よ、村正さん)
(友達、じゃと!? ……ハッ。エヴァよ、見てくれは若々しいもんじゃが、元をただせば儂はババアだってのに……っておいコラ! 儂の膝を借りて寝るでない! ……全く)
 エヴァの事情は知っていた。だから突っぱねることはしなかった。ただ、親を喪った子供をあやすように、友達であり続けた。あくまで、そう言われたからこそのものであったが。
 だが、今は違う。契約だからではない、長い付き合いを経て、本当の意味で力を振るうためであり、そして長いこと能力を偽ってきた謝罪の意を込め、関係性の修復をもしたいがためである、契約という名の仲直りの握手を提示したのだ。
『――強い目をするようになったな、エヴァ』
「伊達に、『礼安』さんを好きになってないからさ」