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5-2

ー/ー



「ああ」と侑麻はスカートのポケットに手を入れ、指の腹に載るくらいの黒い小さな物体を取り出す。
「これは……?」
「カメラだ。超小型のな」
「なっ……! そ、それ、前に学校に仕掛けられてたカメラとおんなじやつじゃあ……?」
「ああ、そうだ」
 彩芽の言葉に侑麻は首肯して答える。
「数か月前、校内で発見された複数の小型カメラ。全て回収されたと思われていたが、たった一つだけ発見されずに残っていたんだ。それが、この生徒会室に仕掛けられたカメラだ。私は今朝、それを回収しにここに来た」
「生徒会室に……カメラが……」
「じ、じゃあ……学校にカメラを仕掛けたのって、侑麻姉だったの?」
「いいや、それは違う。カメラを仕掛けたのは」と侑麻は一度言葉を切り、どこか苦しげに続きを言った。「……カメラを仕掛けたのは、晶だ」
「七尾……お姉さまが? どうして……?」
「それは……一条、きみを貶めるためだ」
「わたしを?」
「ああ。晶は……きみたちも知っての通り、一条に会長選挙で負け、生徒会長の座を奪われたことを強く根に持っていた。だから校内にカメラを仕掛け、普段の一条の行動を監視することにしたんだ。そこから何か弱みを握って、一条を生徒会長の座から引きずり下ろすためにな」
「そんな……」
 驚きの表情を浮かべ、呆然と立ち尽くす怜花に侑麻は続ける。
「一条。きみは気づかなかったのか? カメラが仕掛けられていた場所はどこも、きみに関係の深い場所ばかりじゃないか。仮にこれが女子高校生に性的興味をもつ変質者の犯行だったなら、もっとそれらしい場所を中心に仕掛けるだろう。三田のような運動部員が着替えを行なう部室や、更衣室など」
 彩芽が納得したように首を振った。
「たしかに……そう言われてみれば、変な場所にばかり仕掛けられてるね。女子トイレはまだわかるとしても、廊下に学食……あと、校門近くの物陰だっけ?」
「生徒会室がある東棟二階と二年生の教室前の廊下は、一条が日常的に最も利用する頻度の高い廊下だ。生徒会役員は朝の挨拶当番で校門前に立つことが頻繁にあるし、ご両親が共働きの一条は弁当よりも学食をよく利用する」
「え、ええ。たしかにうちは父も母も仕事が忙しい人なので、わたしのお弁当を作るような暇はありません。家のことも、ほとんどヘルパーさんに任せきりにしているくらいですから……」
「なるほど……それがあの、校内隠しカメラ事件の真相だったのか」彩芽は腕組みをし、数度首を振る。「ちなみにそのカメラは、生徒会室のどこに仕掛けられてたの?」
「あの辺りだ」と侑麻は天井付近の壁の一か所に指を向ける。
「たしかに、あそこなら座っている怜花の様子を俯瞰できそうだね」
「ああ。そして私は定期的にそのカメラの映像をチェックしていた。何か一条の弱みになるものを見つけるため……七尾晶の、スパイとしてな」
「ス、スパイ?」
「ああ、そうだ」
 そう言って、侑麻は怜花のほうに向き直る。
「一条。前回の会長選挙の後、他の三年生役員たちが全員辞めていく中で私だけが残ったのは、晶にそうするように言われたからなんだ。副会長として生徒会に残り、内側からきみのことを探れ、と」
「そんな……」
「許してもらおうとは思わない。謝って済むことではないとわかってもいる。だが今は、頭を下げさせてほしい。これまできみを騙していて……本当に、すまなかった」
 侑麻は立ち上がり、怜花に向かって深々と頭を下げた。返す言葉を怜花はすぐには思い付かない。副会長としてこれまで様々な場面で自分をサポートし、時には上級生として自分を導いてもくれた二谷侑麻。怜花にとって彼女は信頼できる仲間であり、また身近で最も尊敬できる先輩だった。そんな彼女との絆が全て偽りだったというのか――。怜花は、目から溢れそうになるものを堪えるのに必死だった。
「そうか。だから侑麻姉は最初、持ち物検査を嫌がってたんだね。そのカメラを発見されると思ったから」
 彩芽の言葉に侑麻は頷く。
「ああ。だから苛立ったふりをして先に鞄を出すことで、持ち物検査はあくまで荷物の中身を調べることだ、という流れを作らせてもらった。あのまま何もせずにいたら、ポケットの中まで調べられていたかもしれないからな」
「……それで? 侑麻姉はこれからどうするの? まさか、そのカメラを七尾姉に届けに行くつもり? 映ってるんでしょ、そのカメラには。怜花が生徒会室で一人、BL漫画を読み耽っている映像が」
 それは怜花にとって人に知られたくない秘密の趣味。仮にその本は自分のものではないと言い逃れようとしたところで、では生徒から没収した品を私的利用していたのかという非難に繋がる。友人の「弱み」を敵の手に渡すまいと、彩芽は侑麻のほうに一歩寄る。侑麻はそれを見てふんと鼻で笑うと、持っていた小型カメラを放るように机の上に置いた。
「これを晶に届けたところでどうにもならんさ。この中に、あいつが求めるような映像はもはや何も残っていないからな」
「へ?」と彩芽の肩から力が抜ける。「どういうこと?」
「一条が例の漫画本を読んでいる映像は既に全て消去してある。ついでに三田、きみがそれを読んでいるところもな。今やそのカメラの中に残されているのは、生徒会のなんてことない日常の活動風景だけだ」
 彩芽は頭上にたくさんのハテナマークを浮かべ、カメラと侑麻を交互に見る。怜花もその言葉の意味を計りかねていた。
「一条」
 ちらりと怜花のほうに目をやり、侑麻は言った。
「さっきも言った通り、私が生徒会に残ったのは、晶の内通者としてきみの行動を観察するためだ。しかし、副会長としてきみと共に仕事をしていく中で、きみの生徒会に対する熱意や誠実さを知って、次第に自分の役割に疑問をもちはじめた。生徒や学校のことをこんなにも本気で考え、より良くしていこうと努力する人間を失脚させることは、果たして本当によいことなのか、とな。それを確実に喜ぶ人間は一人だけいる。だがそれ以外のほとんどの人間はきっと喜ばない。そしてかく言う私も……いつの間にかそちら側の人間になってしまっていたんだ。一条。私は副会長として――いや、一人の人間として、きみのことを尊敬している。……だから今朝、私はこのカメラを回収し、映像に細工をした。きみの秘密が晶に露見しないようにと」
「ひょっとして……今朝お姉さまが図書室で作業をしていたというのは……」
「ああ。その映像の編集作業をしていたんだ。万一にでも人に見られるわけにはいかない作業だからな。こんな早朝の時間を利用することにした」
「なんだよ、それなら最初からそう言ってくれればよかったのに」
「言い訳に聞こえるかもしれないが、言うつもりだったんだ。だが、私が漫画本のことで一条を問い詰めたとき、彼女はそれが自分のものでないと主張することを選んだ。だから私もそれに合わせる形で黙っていることにした。私の口からそれを暴露して、一条のプライドを傷つけるのは可哀想だと思ったからな」
「二谷お姉さま……!」
 怜花の両目のダムはもはや決壊寸前だった。しかしその涙は先ほどまでのそれとは意味が違っていた。怜花は涙とともに、胸の内の喜びを溢れさせながら侑麻に抱きついた。
「お、おい、なんだ。やめろ、一条」
「お姉さま、わたし、嬉しいんです。二谷お姉さまはわたしにとって、最も敬愛するお姉さまだったから。そんなお姉さまに尊敬していると言ってもらえて……大切に思ってもらえていることがわかって……わたし、本当に嬉しい……!」
「わ、わかった、わかったから。頼む、ちょっと離れてくれ、一条」
 そう言いつつも、侑麻の顔はみるみるうちに赤くなっていく。その様子を見て、「ははーん」と彩芽が何かに気づいたように片方の口角を上げる。
「な、なんだ、三田」
「侑麻姉ぇ。そういえば侑麻姉、よく知ってたよねぇ。怜花の両親が共働きだとか、怜花が学食派だとかさ」
「そ、それは、前に一条が自分で言っていたのをたまたま覚えていただけだ。副会長として、役員たちのことを知っておくのは当然のことだろう」
「へえー、そうですかー。その割には侑麻姉、あたしがテニス部だってことは覚えてらっしゃらなかったみたいですけどねぇ。そういえば怜花が悲鳴を上げたとき、真っ先に駆け付けてきたのも侑麻姉だったよね」
「き、きみの部活のことは逆に、たまたま忘れていただけで……それと、私が先に生徒会室に着いたのは、単純に距離とか、脚力とかの問題で――」
「おかしいなぁ、脚力ならあたしも自信あるんだけどなー。なんたってバドミントン部――ああ、間違えた、テニス部やってますからねぇ。……侑麻姉ってさあ、普段から、なーんかあたしにだけ当たり強いよなあって、ずうっと思ってたんだよねぇ。でも、そっか、そういうことね。要するに、嫉妬してたわけだ。あたしと怜花の幼なじみって関係に」
「お、おい! それ以上言うとただじゃおかないぞ! い、一条、いつまでくっついているんだ! いいかげん離れろ、鬱陶しい!」
「そんな顔真っ赤にして言っても説得力ないよ、侑麻姉。もっと素直になってもいいんですよー? なんならあたし、今のその状態、撮影しときましょうか? このカメラでぇ」
「くっ、三田!」
 けらけらと愉快そうに笑う彩芽。よく熟れたトマトのように顔を真っ赤にして怒鳴る侑麻。それらの声にまじって、「あのぉー」と控えめな細い声がどこからか響いた。一同、ぴたりと動きを止め、その声のしたほうに目を向ける。端の席にちょこんと座る、書記担当・四十万汐音が上目遣いに彼女たちのほうを見ていた。
(あ……)
(そういえば……)
(いたんだ……)
 というような表情が一瞬、三人の顔に一様に浮かんだ。怜花は涙を拭い、取り繕うように汐音に微笑みかける。


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「ああ」と侑麻はスカートのポケットに手を入れ、指の腹に載るくらいの黒い小さな物体を取り出す。
「これは……?」
「カメラだ。超小型のな」
「なっ……! そ、それ、前に学校に仕掛けられてたカメラとおんなじやつじゃあ……?」
「ああ、そうだ」
 彩芽の言葉に侑麻は首肯して答える。
「数か月前、校内で発見された複数の小型カメラ。全て回収されたと思われていたが、たった一つだけ発見されずに残っていたんだ。それが、この生徒会室に仕掛けられたカメラだ。私は今朝、それを回収しにここに来た」
「生徒会室に……カメラが……」
「じ、じゃあ……学校にカメラを仕掛けたのって、侑麻姉だったの?」
「いいや、それは違う。カメラを仕掛けたのは」と侑麻は一度言葉を切り、どこか苦しげに続きを言った。「……カメラを仕掛けたのは、晶だ」
「七尾……お姉さまが? どうして……?」
「それは……一条、きみを貶めるためだ」
「わたしを?」
「ああ。晶は……きみたちも知っての通り、一条に会長選挙で負け、生徒会長の座を奪われたことを強く根に持っていた。だから校内にカメラを仕掛け、普段の一条の行動を監視することにしたんだ。そこから何か弱みを握って、一条を生徒会長の座から引きずり下ろすためにな」
「そんな……」
 驚きの表情を浮かべ、呆然と立ち尽くす怜花に侑麻は続ける。
「一条。きみは気づかなかったのか? カメラが仕掛けられていた場所はどこも、きみに関係の深い場所ばかりじゃないか。仮にこれが女子高校生に性的興味をもつ変質者の犯行だったなら、もっとそれらしい場所を中心に仕掛けるだろう。三田のような運動部員が着替えを行なう部室や、更衣室など」
 彩芽が納得したように首を振った。
「たしかに……そう言われてみれば、変な場所にばかり仕掛けられてるね。女子トイレはまだわかるとしても、廊下に学食……あと、校門近くの物陰だっけ?」
「生徒会室がある東棟二階と二年生の教室前の廊下は、一条が日常的に最も利用する頻度の高い廊下だ。生徒会役員は朝の挨拶当番で校門前に立つことが頻繁にあるし、ご両親が共働きの一条は弁当よりも学食をよく利用する」
「え、ええ。たしかにうちは父も母も仕事が忙しい人なので、わたしのお弁当を作るような暇はありません。家のことも、ほとんどヘルパーさんに任せきりにしているくらいですから……」
「なるほど……それがあの、校内隠しカメラ事件の真相だったのか」彩芽は腕組みをし、数度首を振る。「ちなみにそのカメラは、生徒会室のどこに仕掛けられてたの?」
「あの辺りだ」と侑麻は天井付近の壁の一か所に指を向ける。
「たしかに、あそこなら座っている怜花の様子を俯瞰できそうだね」
「ああ。そして私は定期的にそのカメラの映像をチェックしていた。何か一条の弱みになるものを見つけるため……七尾晶の、スパイとしてな」
「ス、スパイ?」
「ああ、そうだ」
 そう言って、侑麻は怜花のほうに向き直る。
「一条。前回の会長選挙の後、他の三年生役員たちが全員辞めていく中で私だけが残ったのは、晶にそうするように言われたからなんだ。副会長として生徒会に残り、内側からきみのことを探れ、と」
「そんな……」
「許してもらおうとは思わない。謝って済むことではないとわかってもいる。だが今は、頭を下げさせてほしい。これまできみを騙していて……本当に、すまなかった」
 侑麻は立ち上がり、怜花に向かって深々と頭を下げた。返す言葉を怜花はすぐには思い付かない。副会長としてこれまで様々な場面で自分をサポートし、時には上級生として自分を導いてもくれた二谷侑麻。怜花にとって彼女は信頼できる仲間であり、また身近で最も尊敬できる先輩だった。そんな彼女との絆が全て偽りだったというのか――。怜花は、目から溢れそうになるものを堪えるのに必死だった。
「そうか。だから侑麻姉は最初、持ち物検査を嫌がってたんだね。そのカメラを発見されると思ったから」
 彩芽の言葉に侑麻は頷く。
「ああ。だから苛立ったふりをして先に鞄を出すことで、持ち物検査はあくまで荷物の中身を調べることだ、という流れを作らせてもらった。あのまま何もせずにいたら、ポケットの中まで調べられていたかもしれないからな」
「……それで? 侑麻姉はこれからどうするの? まさか、そのカメラを七尾姉に届けに行くつもり? 映ってるんでしょ、そのカメラには。怜花が生徒会室で一人、BL漫画を読み耽っている映像が」
 それは怜花にとって人に知られたくない秘密の趣味。仮にその本は自分のものではないと言い逃れようとしたところで、では生徒から没収した品を私的利用していたのかという非難に繋がる。友人の「弱み」を敵の手に渡すまいと、彩芽は侑麻のほうに一歩寄る。侑麻はそれを見てふんと鼻で笑うと、持っていた小型カメラを放るように机の上に置いた。
「これを晶に届けたところでどうにもならんさ。この中に、あいつが求めるような映像はもはや何も残っていないからな」
「へ?」と彩芽の肩から力が抜ける。「どういうこと?」
「一条が例の漫画本を読んでいる映像は既に全て消去してある。ついでに三田、きみがそれを読んでいるところもな。今やそのカメラの中に残されているのは、生徒会のなんてことない日常の活動風景だけだ」
 彩芽は頭上にたくさんのハテナマークを浮かべ、カメラと侑麻を交互に見る。怜花もその言葉の意味を計りかねていた。
「一条」
 ちらりと怜花のほうに目をやり、侑麻は言った。
「さっきも言った通り、私が生徒会に残ったのは、晶の内通者としてきみの行動を観察するためだ。しかし、副会長としてきみと共に仕事をしていく中で、きみの生徒会に対する熱意や誠実さを知って、次第に自分の役割に疑問をもちはじめた。生徒や学校のことをこんなにも本気で考え、より良くしていこうと努力する人間を失脚させることは、果たして本当によいことなのか、とな。それを確実に喜ぶ人間は一人だけいる。だがそれ以外のほとんどの人間はきっと喜ばない。そしてかく言う私も……いつの間にかそちら側の人間になってしまっていたんだ。一条。私は副会長として――いや、一人の人間として、きみのことを尊敬している。……だから今朝、私はこのカメラを回収し、映像に細工をした。きみの秘密が晶に露見しないようにと」
「ひょっとして……今朝お姉さまが図書室で作業をしていたというのは……」
「ああ。その映像の編集作業をしていたんだ。万一にでも人に見られるわけにはいかない作業だからな。こんな早朝の時間を利用することにした」
「なんだよ、それなら最初からそう言ってくれればよかったのに」
「言い訳に聞こえるかもしれないが、言うつもりだったんだ。だが、私が漫画本のことで一条を問い詰めたとき、彼女はそれが自分のものでないと主張することを選んだ。だから私もそれに合わせる形で黙っていることにした。私の口からそれを暴露して、一条のプライドを傷つけるのは可哀想だと思ったからな」
「二谷お姉さま……!」
 怜花の両目のダムはもはや決壊寸前だった。しかしその涙は先ほどまでのそれとは意味が違っていた。怜花は涙とともに、胸の内の喜びを溢れさせながら侑麻に抱きついた。
「お、おい、なんだ。やめろ、一条」
「お姉さま、わたし、嬉しいんです。二谷お姉さまはわたしにとって、最も敬愛するお姉さまだったから。そんなお姉さまに尊敬していると言ってもらえて……大切に思ってもらえていることがわかって……わたし、本当に嬉しい……!」
「わ、わかった、わかったから。頼む、ちょっと離れてくれ、一条」
 そう言いつつも、侑麻の顔はみるみるうちに赤くなっていく。その様子を見て、「ははーん」と彩芽が何かに気づいたように片方の口角を上げる。
「な、なんだ、三田」
「侑麻姉ぇ。そういえば侑麻姉、よく知ってたよねぇ。怜花の両親が共働きだとか、怜花が学食派だとかさ」
「そ、それは、前に一条が自分で言っていたのをたまたま覚えていただけだ。副会長として、役員たちのことを知っておくのは当然のことだろう」
「へえー、そうですかー。その割には侑麻姉、あたしがテニス部だってことは覚えてらっしゃらなかったみたいですけどねぇ。そういえば怜花が悲鳴を上げたとき、真っ先に駆け付けてきたのも侑麻姉だったよね」
「き、きみの部活のことは逆に、たまたま忘れていただけで……それと、私が先に生徒会室に着いたのは、単純に距離とか、脚力とかの問題で――」
「おかしいなぁ、脚力ならあたしも自信あるんだけどなー。なんたってバドミントン部――ああ、間違えた、テニス部やってますからねぇ。……侑麻姉ってさあ、普段から、なーんかあたしにだけ当たり強いよなあって、ずうっと思ってたんだよねぇ。でも、そっか、そういうことね。要するに、嫉妬してたわけだ。あたしと怜花の幼なじみって関係に」
「お、おい! それ以上言うとただじゃおかないぞ! い、一条、いつまでくっついているんだ! いいかげん離れろ、鬱陶しい!」
「そんな顔真っ赤にして言っても説得力ないよ、侑麻姉。もっと素直になってもいいんですよー? なんならあたし、今のその状態、撮影しときましょうか? このカメラでぇ」
「くっ、三田!」
 けらけらと愉快そうに笑う彩芽。よく熟れたトマトのように顔を真っ赤にして怒鳴る侑麻。それらの声にまじって、「あのぉー」と控えめな細い声がどこからか響いた。一同、ぴたりと動きを止め、その声のしたほうに目を向ける。端の席にちょこんと座る、書記担当・四十万汐音が上目遣いに彼女たちのほうを見ていた。
(あ……)
(そういえば……)
(いたんだ……)
 というような表情が一瞬、三人の顔に一様に浮かんだ。怜花は涙を拭い、取り繕うように汐音に微笑みかける。