「いいか、まひろ。男なんざロクな生き物じゃねえ。男に生まれるってことは不幸なんだ。男は損ばっかりなんだよ」
パパが仕事の付き合いで酔って帰ってくるときは口癖のようにそう言っていた。幼い頃は、どうしてそんなことを言うのかを深くは考えたこともなかった。
なんとなくではあったけど、ママと離婚してしまったことをずっと引きずっているだけのことなのかな、なんて思っていたりもした。
日に日にお酒の量が増え、口を開く度にそんな話を聞かされ続けていたら、だんだん男として生まれてきた自分に嫌気が差してきた。どうして自分は女の子として生まれてこなかったんだろうと後悔するようになってきた。
そんなある日のことだ。パパが過労で倒れ、呆気なく亡くなってしまった。あまりにも突然のことで、またお酒に酔いつぶれたくらいにしか思っていなかったけれど、いつまでも病院から帰ってこないという事実が、心の余裕を削いだ。
パパが亡くなって、離婚して別居していたママの元に引き取られるまでに親戚の家を渡り歩き、辛抱強くママを説得する。そんな生活が続いていた。
ただ、その当時の記憶は曖昧だった。
ずっと男手一人で育ててくれたパパがいなくなって茫然自失だったのかもしれない。本当に空白の時間だったとしかいいようがない。
ママとの再会を果たした、その日、そのときに、ようやくして色褪せた自分が自分を取り戻せたような、そんな気がした。
ママが離婚したのは本当に物心つく前のこと。哺乳瓶を与えてくれたのか、初めて二本足で立ったときに喜んでくれたのかどうかも記憶にない。ひょっとしたらもう既にそのときには離婚していたような気もする。
パパが残してくれた一枚の写真だけが唯一の記憶だった。
「まひろ……? あなた、本当にまひろなの?」
多分、十年何ぶりくらいだった。写真の頃をあまり変わらない顔。再会したママの表情は喜びのソレではなく、色濃い驚きのソレだった。十何年ぶりの実の息子との再会を、ママは信じられないという顔で迎え入れた。
「そうだよ。私は、まひろだよ」
この日のために伸ばしてきた流れるような髪を手で梳いて、裾の長いチェック柄のスカートを翻して、改めて私は自分のママに自己紹介をした。
汚らわしく、獰猛で、野蛮で、救いようのない劣等種である男を捨てた私ならきっとママと一緒に過ごすことを許してくれるはず。
そう確信を抱いて、鏡の前で幾度と練習してきた渾身の笑みも見せた。