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人身売買されてしまった私

ー/ー



 どうやら、私こと小森隷(こもりれい)は金で買われてしまったらしい。

 別に、今までとの家族に未練らしい未練もなかったからある意味で清々したというのが本音だし、こういうことって現実にあるんだなぁ、くらいにあまり実感もない。

 どんなトリックや魔法を使われたのか、あるいは途方もない金の力か、細かいことなんて何も知らないが、合法的な取引をされていたらしく、キレイに買われた。

 警察に飛び込んだって弁護士に助けを求めたって、無意味。私という個人は私を購入したその人物の所有物という扱いであり、私はそれを書き換えることができない。

 まったく、物好きな変態もいたものだ。

 一体どんなことをされてしまうのか。何せ、これでも私は現役女子校生。うら若き乙女。漫画みたいに性奴隷にされてしまうのか、肉便器にでもされてしまうのか、はたまたもっとエロ同人みたいなことになってしまうのか。不安ばかりが先走る。

 ところが、この生活が始まって実際のところ、もう1週間は経っている。

 飼い主たるあの男は、私に指図するわけでも服従を強要するわけでもなく、比較的簡単な命令だけ下して以来、特にこれといったことをしてくる気配もない。

 どんな命令かって、「できればこの家から出ないでほしい」とかそんな簡単なことだった。鎖で縛るわけでもないし、部屋に施錠するわけでもなし、というか、玄関すら鍵を開けっ放しなのだから、逃げようと思えばいつでも逃げられる。

 これはいわゆる軟禁というヤツなのだろう。おそらく。

 それにしたって、拘束がなさすぎるような気もするが。

 部屋のものも自由に使っていいらしいし、冷蔵庫の中身もいただき放題だ。テレビも好きなだけ見ていいし、パソコンもインターネットも制限がない。

 あの男が何を考えているのかは全く理解できないものだから、自分が買われてしまったという事実を理解するのにも大分時間を要した。

 なんかこう、メイド服でも着させられて、帰ってくる度に「おかえりなさいませ、ご主人様」とかそんな躾けをされたわけでもなく、そういうマニアックな要求を金にものを言わせて強引に突きつけてくるなんてことがそもそもない。

 私は、どうやらただ買われただけらしい。まさかとは思うが、ペットか何かと間違えているんじゃなかろうか。むしろペットか、私は。

 特に逃げ出すつもりではなかったけれど、「ちょっと喉渇いたからコンビニ行ってくる」とかいって外出してみたけれども、別に止められたりもしなかったし、むしろ小遣い貰えたし、なんか普通に立ち読みして、ジュース買って帰る余裕まであった。

 なんともはやしっくりこない。逃げたなら逃げたで仕方ないや、くらい気が抜ける軟禁っぷりだ。軟禁という言葉を辞書で引いてこい。絶対間違ってるから。

 根本的な話をすれば、私はアイツの所有物であり、今の私にこの家以外の居場所というものは存在しない。そういう意味でいえば、この家に拘束されているというのは正しいのかもしれない。逃げ出しても、逃げ出す場所すらないのだから。

 警察も弁護士も無駄なんだから、やっぱり結局これは軟禁なのかもしれない。

 釈然としないし、もやもやする。こんな何もかもが不自由しない軟禁があっていいのか。いっそのこと犯せよ、バカ!

 変態は変態でも童貞こじらせすぎただけの魔法使いなのかもしれない。金を持て余して女子校生を購入してみたものの、手を触れるのも億劫なのかもしれない。リアル生JKを目の当たりにしてチキンになった可能性も多いにある。きっとそうだ。

 そっけないフリをしていても本当は脳内では酒池肉林を描いていたんだろう。そうでもなければ納得のいく理由ってものが思いつかない。

 そもそもの話、お金を持っているというのも妙な感じはしている。この家はマンションだし、アイツ以外に誰か住んでいるわけでもなかったし、やたらと料理も美味かったし、家事も慣れているところはあった。どうにも所帯じみている。

 つい先日夜中にギャーっとフラストレーション開放して、子供みたいに駄々こねて、後々冷静になって謝ったりなんかしちゃったけど、「大丈夫。このマンションは丸ごと所有してるから他の住人の迷惑にはならない」とか抜かしやがった。

 なんかデタラメな財力は持っている。けれど何処かの御曹司ではない。このそこはかとない違和感。宝くじか何かで一発当てて、株につぎ込んでボロ儲けした泡銭か何かなんじゃないだろうか。

 本物の金持ちときたら、東京ドーム何個分ってくらいのデッカイ敷地に、何処かの王族が住まうような豪邸かまえて、執事だメイドだを何百人雇っちゃってるそんなイメージだし、どう考えてもアイツのイメージには合わない。

 一体アイツは何者なのか。

 追求するだけバカらしいことだが、私の人生を夕飯のオカズみたいにまとめ買いされてしまっている手前、このどうしようもないもやもや感が払っても消えない。

 あどけない顔をして「ここはもう自分の家だ。好きなことをしていい」とかどういう状況下になれば言えるセリフなんだか。まあ、こういう状況下だが。

 ここでの生活は贅沢としか言いようがない。

 こんな好き勝手な生活を送って、元の生活に戻りたいかなんて言われたら全力で拒否する。別に、昔の家がそこまで劣悪な環境だったわけではないが、ここまで不自由のしない暮らしがこの世にあるなんて思ってもみなかった。

 いつ寝るも起きるも自由だし、出される料理は美味いし、やらなきゃならない課題なんて一つもない。小遣いだって糸目をつけない程度にポーンとくれる。

 盗聴器や監視カメラでも仕込んであるのか疑ったりもしたが、半日かけた軽い宝探しごっこになっただけの取り越し苦労で終わった。

 アイツがしたいこととは何なのか。人を堕落に導く研究か何かか。ああいう根暗っぽいオタクっぽい人って人間観察が趣味みたいなところはあるし、あながち間違いじゃなかったりして。

 生活する分には不満も何もない人間は、どのような行動に出るのか。それを高みの見物していると思うと、なんだか小瓶にひょいと閉じ込められたアリのような気分になる。

 平穏が約束されているのだから、これ以上に望むものはないわけだが、それを得ている代償が怖くなってきてしまう。平気でご飯もいただいて、お小遣いも貰って、実は後々から請求書がドーンと突きつけられたりとかしないだろうか。

 いや、そもそもデタラメな財力を持っているのだから、金を要求するという発想がおかしいか。金をせびるにしても、もっと効率的な方法もあるだろうし、JK一人分の出費でどんな借金地獄になりえるというのか。ソシャゲで廃課金とか?

 残念だが、ガチャゲーには縁がない非課金勢だ。DLC商法すら無縁だ。ここ一週間の生活での出費を適当に合算してみたって、ジュースやお菓子代がそこそこあるくらいで、食費や電気代とかの光熱費みたいのを含めても大したことなさそうだ。

 アイツは何かを心配するということがあるのだろうか。金を湯水のように垂れ流しても飄々とヘラヘラとしていそうだ。腹の立つ性格をしているものだ。

 普通に「家から出るな」と言っておいて家から出たって平然としているような男だし、感情そのものが案外機械仕掛けの可能性も大いに考えられる。いっそアイツはロボットだろう。

 生JKの私が色仕掛けしたって指一本触れてこないともなるとますますその可能性は濃密になっていくばかり。あの時アイツなんて言ったよ。「そんなに暑いのか?」だよ。エアコン新しいの買い換えられるところだったよ。バカじゃねえのかと。

 日に日に、アイツに対する不満ないし、疑問は膨れていく一方だ。アイツは一体なんなんだ。アイツのことばかりが頭の中、錆か苔のようにこびりついて離れなくなってきた。これはもう、どうしたものやら。

 私って一体、なんなんだろう。


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 どうやら、私こと|小森隷《こもりれい》は金で買われてしまったらしい。
 別に、今までとの家族に未練らしい未練もなかったからある意味で清々したというのが本音だし、こういうことって現実にあるんだなぁ、くらいにあまり実感もない。
 どんなトリックや魔法を使われたのか、あるいは途方もない金の力か、細かいことなんて何も知らないが、合法的な取引をされていたらしく、キレイに買われた。
 警察に飛び込んだって弁護士に助けを求めたって、無意味。私という個人は私を購入したその人物の所有物という扱いであり、私はそれを書き換えることができない。
 まったく、物好きな変態もいたものだ。
 一体どんなことをされてしまうのか。何せ、これでも私は現役女子校生。うら若き乙女。漫画みたいに性奴隷にされてしまうのか、肉便器にでもされてしまうのか、はたまたもっとエロ同人みたいなことになってしまうのか。不安ばかりが先走る。
 ところが、この生活が始まって実際のところ、もう1週間は経っている。
 飼い主たるあの男は、私に指図するわけでも服従を強要するわけでもなく、比較的簡単な命令だけ下して以来、特にこれといったことをしてくる気配もない。
 どんな命令かって、「できればこの家から出ないでほしい」とかそんな簡単なことだった。鎖で縛るわけでもないし、部屋に施錠するわけでもなし、というか、玄関すら鍵を開けっ放しなのだから、逃げようと思えばいつでも逃げられる。
 これはいわゆる軟禁というヤツなのだろう。おそらく。
 それにしたって、拘束がなさすぎるような気もするが。
 部屋のものも自由に使っていいらしいし、冷蔵庫の中身もいただき放題だ。テレビも好きなだけ見ていいし、パソコンもインターネットも制限がない。
 あの男が何を考えているのかは全く理解できないものだから、自分が買われてしまったという事実を理解するのにも大分時間を要した。
 なんかこう、メイド服でも着させられて、帰ってくる度に「おかえりなさいませ、ご主人様」とかそんな躾けをされたわけでもなく、そういうマニアックな要求を金にものを言わせて強引に突きつけてくるなんてことがそもそもない。
 私は、どうやらただ買われただけらしい。まさかとは思うが、ペットか何かと間違えているんじゃなかろうか。むしろペットか、私は。
 特に逃げ出すつもりではなかったけれど、「ちょっと喉渇いたからコンビニ行ってくる」とかいって外出してみたけれども、別に止められたりもしなかったし、むしろ小遣い貰えたし、なんか普通に立ち読みして、ジュース買って帰る余裕まであった。
 なんともはやしっくりこない。逃げたなら逃げたで仕方ないや、くらい気が抜ける軟禁っぷりだ。軟禁という言葉を辞書で引いてこい。絶対間違ってるから。
 根本的な話をすれば、私はアイツの所有物であり、今の私にこの家以外の居場所というものは存在しない。そういう意味でいえば、この家に拘束されているというのは正しいのかもしれない。逃げ出しても、逃げ出す場所すらないのだから。
 警察も弁護士も無駄なんだから、やっぱり結局これは軟禁なのかもしれない。
 釈然としないし、もやもやする。こんな何もかもが不自由しない軟禁があっていいのか。いっそのこと犯せよ、バカ!
 変態は変態でも童貞こじらせすぎただけの魔法使いなのかもしれない。金を持て余して女子校生を購入してみたものの、手を触れるのも億劫なのかもしれない。リアル生JKを目の当たりにしてチキンになった可能性も多いにある。きっとそうだ。
 そっけないフリをしていても本当は脳内では酒池肉林を描いていたんだろう。そうでもなければ納得のいく理由ってものが思いつかない。
 そもそもの話、お金を持っているというのも妙な感じはしている。この家はマンションだし、アイツ以外に誰か住んでいるわけでもなかったし、やたらと料理も美味かったし、家事も慣れているところはあった。どうにも所帯じみている。
 つい先日夜中にギャーっとフラストレーション開放して、子供みたいに駄々こねて、後々冷静になって謝ったりなんかしちゃったけど、「大丈夫。このマンションは丸ごと所有してるから他の住人の迷惑にはならない」とか抜かしやがった。
 なんかデタラメな財力は持っている。けれど何処かの御曹司ではない。このそこはかとない違和感。宝くじか何かで一発当てて、株につぎ込んでボロ儲けした泡銭か何かなんじゃないだろうか。
 本物の金持ちときたら、東京ドーム何個分ってくらいのデッカイ敷地に、何処かの王族が住まうような豪邸かまえて、執事だメイドだを何百人雇っちゃってるそんなイメージだし、どう考えてもアイツのイメージには合わない。
 一体アイツは何者なのか。
 追求するだけバカらしいことだが、私の人生を夕飯のオカズみたいにまとめ買いされてしまっている手前、このどうしようもないもやもや感が払っても消えない。
 あどけない顔をして「ここはもう自分の家だ。好きなことをしていい」とかどういう状況下になれば言えるセリフなんだか。まあ、こういう状況下だが。
 ここでの生活は贅沢としか言いようがない。
 こんな好き勝手な生活を送って、元の生活に戻りたいかなんて言われたら全力で拒否する。別に、昔の家がそこまで劣悪な環境だったわけではないが、ここまで不自由のしない暮らしがこの世にあるなんて思ってもみなかった。
 いつ寝るも起きるも自由だし、出される料理は美味いし、やらなきゃならない課題なんて一つもない。小遣いだって糸目をつけない程度にポーンとくれる。
 盗聴器や監視カメラでも仕込んであるのか疑ったりもしたが、半日かけた軽い宝探しごっこになっただけの取り越し苦労で終わった。
 アイツがしたいこととは何なのか。人を堕落に導く研究か何かか。ああいう根暗っぽいオタクっぽい人って人間観察が趣味みたいなところはあるし、あながち間違いじゃなかったりして。
 生活する分には不満も何もない人間は、どのような行動に出るのか。それを高みの見物していると思うと、なんだか小瓶にひょいと閉じ込められたアリのような気分になる。
 平穏が約束されているのだから、これ以上に望むものはないわけだが、それを得ている代償が怖くなってきてしまう。平気でご飯もいただいて、お小遣いも貰って、実は後々から請求書がドーンと突きつけられたりとかしないだろうか。
 いや、そもそもデタラメな財力を持っているのだから、金を要求するという発想がおかしいか。金をせびるにしても、もっと効率的な方法もあるだろうし、JK一人分の出費でどんな借金地獄になりえるというのか。ソシャゲで廃課金とか?
 残念だが、ガチャゲーには縁がない非課金勢だ。DLC商法すら無縁だ。ここ一週間の生活での出費を適当に合算してみたって、ジュースやお菓子代がそこそこあるくらいで、食費や電気代とかの光熱費みたいのを含めても大したことなさそうだ。
 アイツは何かを心配するということがあるのだろうか。金を湯水のように垂れ流しても飄々とヘラヘラとしていそうだ。腹の立つ性格をしているものだ。
 普通に「家から出るな」と言っておいて家から出たって平然としているような男だし、感情そのものが案外機械仕掛けの可能性も大いに考えられる。いっそアイツはロボットだろう。
 生JKの私が色仕掛けしたって指一本触れてこないともなるとますますその可能性は濃密になっていくばかり。あの時アイツなんて言ったよ。「そんなに暑いのか?」だよ。エアコン新しいの買い換えられるところだったよ。バカじゃねえのかと。
 日に日に、アイツに対する不満ないし、疑問は膨れていく一方だ。アイツは一体なんなんだ。アイツのことばかりが頭の中、錆か苔のようにこびりついて離れなくなってきた。これはもう、どうしたものやら。
 私って一体、なんなんだろう。