朝食
ー/ー 朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。
ふーん、大変だな……と思いながら私は朝食を食べ始めた。朝はほとんどバケルスを食べることに決めている。パッケージを剥いてすぐにかぶりつけるし、赤く透明なジェルは口当たりがよく、朝の乾いた喉でも優しく飲み込めるからだ。
七チャンネルで配信されているのは遥か彼方にあるシュターラト星……という星のテレビ番組である。知らない星だ。これから七日後に爆発するんだ、と私は興味もなくそのチャンネルを聞き流していた。
星にも寿命がある。でも、最近は星の爆発や劣化の予測を立てられるようになっており、星が滅ぶ前に住人が避難することも珍しくは無い。全宇宙会議に参加していない未開の星ならば、例外はあるかもしれないけど、概ね星がダメになる前にどこかに移住するのが普通であった。
神妙な面持ちでキャスターがシュターラトの歴史や過去の文化、現在過ごしている人たちの様子について喋っている。星が滅びるときにもカウントダウンの番組を作るなんて珍しい文化だな……、と私は思う。遥か彼方、この宇宙には私の知らない星がごまんとある。そのうちの一つの知らない文化が滅びる。しかし、私はその事実を感慨もなく聞いていたのだった。
私がバケルスがシュターラト星でしか生産されていないと知ったのはその一週間後のことだ。
「販売中止……?」
店には張り紙が貼ってあった。バケルスの在庫は枯渇したため、今後は販売しないらしい。どこに行っても、バケルスは完売という赤札が貼られていた。それを見て、私は通販でバケルスを買おうと調べ、品切れに驚き、SNSを見てシュターラト星でしか作られていないことを初めて知ったのだった。
バケルスは家にはあとわずかしかない。朝食にバケルス以外の物を食べてもいいわけだけど、なぜか手に入らなくなるとわかると無性にバケルスが食べたくなる。家に帰って、三個しか残っていないバケルスを見る。無性にバケルスが食べたくなる。唾液がこみ上げてくるのを感じながら、それを手に取り食べていた。甘く、柔らかく、瑞々しい。そして、バケルスを食べながら、私はこの星のどこかでまだ眠っているバケルスの在庫を探し始めたのだった。
いくつかのサイトをはしごする。どうやらまだフリマサイトでは売ってるようだ。バケルスがシュターラト星で生産されていると知っていた転売ヤーが、星が滅ぶ前に買い占めて売っているのだろう。一面に並ぶ真っ赤で透明なパッケージ達。買い占めやがって……と悪態をつきながら、私はポチポチといくつかを購入する。倍以上の値段がするが仕方がない。もう手に入らないのだ。私はバケルスを必要としている。転売されている商品が不要なものならば、私が買わないと。
問題は、そのストックが尽きた時だ。これがないと死ぬわけではないが、バケルスがなかった時、私は何を食べていたのだろうと考えると思い出せなくなっていた。それくらい私の朝の支度に染み付いた食べ物だったのだ。
バケルスはすぐに出荷された。最近の配送便は早い。今日の夜には家に届くだろう。私はひとまず安堵してベッドの上に身を投げ出した。寝ころびながら、携帯端末を開きSNSの投稿を眺める。おすすめにはここ最近調べものをしたからか、バケルスとシュターラト星の話題が流れるようになっていた。
どうして、シュターラト星はなくなってしまったんだろう。どこかの星に移住したシュターラト星人がバケルスを作れば、販売再開がされるんじゃないだろうか。私は「バケルス 販売再開」で検索をかける。並ぶのは、販売再開を願いますという嘆願の投稿だけで、めぼしい情報は手に入らなかった。しかし、バケルスとシュターラト星について投稿を眺めていると、現代では到底考えられない事実を目にすることになったのだった。
シュターラト星の住人は、星が滅ぶというのにシュターラト星から脱出せずに、星と共に消えてなくなったというのだ。誰一人も、生き残らずに。
──誰一人として?
シュターラト星からの波動では脱出記録もなく、どこかの星に降り立ったという記録も見つからない。意味するところは、シュターラト星の住人は星と運命を共にしたということである。理由は謎だ。
その理由について、SNSにはいろいろな憶測が流れていたが、一番多かったのはバケルスはシュターラト星人から作られていたという陰謀論だった。シュターラト星人の枯渇によりバケルスが枯渇した。星の資金源をバケルスに頼っていたシュターラト星人は、その星の住人が減少したために、バケルスでの貿易ができなくなり、財政難に陥った。シュターラト星にわずかに残った住人は、最後のバケルスになることよりも、自死を選んだという言説である。
チャイムが鳴った。
今日ここにやってくるのは、バケルスの荷物しかない。
ばかばかしい。嫌な情報を入手してしまった……と思いながら、私はベッドの上から起き上がり、荷物を受け取りに立ち上がったのだった。購入したはいいものの、明日の朝バケルスを食べる気分になるか、私はわからない。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。
ふーん、大変だな……と思いながら私は朝食を食べ始めた。朝はほとんどバケルスを食べることに決めている。パッケージを剥いてすぐにかぶりつけるし、赤く透明なジェルは口当たりがよく、朝の乾いた喉でも優しく飲み込めるからだ。
七チャンネルで配信されているのは遥か彼方にあるシュターラト星……という星のテレビ番組である。知らない星だ。これから七日後に爆発するんだ、と私は興味もなくそのチャンネルを聞き流していた。
星にも寿命がある。でも、最近は星の爆発や劣化の予測を立てられるようになっており、星が滅ぶ前に住人が避難することも珍しくは無い。全宇宙会議に参加していない未開の星ならば、例外はあるかもしれないけど、概ね星がダメになる前にどこかに移住するのが普通であった。
神妙な面持ちでキャスターがシュターラトの歴史や過去の文化、現在過ごしている人たちの様子について喋っている。星が滅びるときにもカウントダウンの番組を作るなんて珍しい文化だな……、と私は思う。遥か彼方、この宇宙には私の知らない星がごまんとある。そのうちの一つの知らない文化が滅びる。しかし、私はその事実を感慨もなく聞いていたのだった。
私がバケルスがシュターラト星でしか生産されていないと知ったのはその一週間後のことだ。
「販売中止……?」
店には張り紙が貼ってあった。バケルスの在庫は枯渇したため、今後は販売しないらしい。どこに行っても、バケルスは完売という赤札が貼られていた。それを見て、私は通販でバケルスを買おうと調べ、品切れに驚き、SNSを見てシュターラト星でしか作られていないことを初めて知ったのだった。
バケルスは家にはあとわずかしかない。朝食にバケルス以外の物を食べてもいいわけだけど、なぜか手に入らなくなるとわかると無性にバケルスが食べたくなる。家に帰って、三個しか残っていないバケルスを見る。無性にバケルスが食べたくなる。唾液がこみ上げてくるのを感じながら、それを手に取り食べていた。甘く、柔らかく、瑞々しい。そして、バケルスを食べながら、私はこの星のどこかでまだ眠っているバケルスの在庫を探し始めたのだった。
いくつかのサイトをはしごする。どうやらまだフリマサイトでは売ってるようだ。バケルスがシュターラト星で生産されていると知っていた転売ヤーが、星が滅ぶ前に買い占めて売っているのだろう。一面に並ぶ真っ赤で透明なパッケージ達。買い占めやがって……と悪態をつきながら、私はポチポチといくつかを購入する。倍以上の値段がするが仕方がない。もう手に入らないのだ。私はバケルスを必要としている。転売されている商品が不要なものならば、私が買わないと。
問題は、そのストックが尽きた時だ。これがないと死ぬわけではないが、バケルスがなかった時、私は何を食べていたのだろうと考えると思い出せなくなっていた。それくらい私の朝の支度に染み付いた食べ物だったのだ。
バケルスはすぐに出荷された。最近の配送便は早い。今日の夜には家に届くだろう。私はひとまず安堵してベッドの上に身を投げ出した。寝ころびながら、携帯端末を開きSNSの投稿を眺める。おすすめにはここ最近調べものをしたからか、バケルスとシュターラト星の話題が流れるようになっていた。
どうして、シュターラト星はなくなってしまったんだろう。どこかの星に移住したシュターラト星人がバケルスを作れば、販売再開がされるんじゃないだろうか。私は「バケルス 販売再開」で検索をかける。並ぶのは、販売再開を願いますという嘆願の投稿だけで、めぼしい情報は手に入らなかった。しかし、バケルスとシュターラト星について投稿を眺めていると、現代では到底考えられない事実を目にすることになったのだった。
シュターラト星の住人は、星が滅ぶというのにシュターラト星から脱出せずに、星と共に消えてなくなったというのだ。誰一人も、生き残らずに。
──誰一人として?
シュターラト星からの波動では脱出記録もなく、どこかの星に降り立ったという記録も見つからない。意味するところは、シュターラト星の住人は星と運命を共にしたということである。理由は謎だ。
その理由について、SNSにはいろいろな憶測が流れていたが、一番多かったのはバケルスはシュターラト星人から作られていたという陰謀論だった。シュターラト星人の枯渇によりバケルスが枯渇した。星の資金源をバケルスに頼っていたシュターラト星人は、その星の住人が減少したために、バケルスでの貿易ができなくなり、財政難に陥った。シュターラト星にわずかに残った住人は、最後のバケルスになることよりも、自死を選んだという言説である。
チャイムが鳴った。
今日ここにやってくるのは、バケルスの荷物しかない。
ばかばかしい。嫌な情報を入手してしまった……と思いながら、私はベッドの上から起き上がり、荷物を受け取りに立ち上がったのだった。購入したはいいものの、明日の朝バケルスを食べる気分になるか、私はわからない。