「なあ」
オレはオマエに話しかける。
「え? ごめん。聞き取れなかった」
オマエはオレに話しかけられたことに驚くが、すぐに立ち直って会話につき合ってくれた。
思えばオマエに話しかけるのもひさしぶりだ。近頃は声に出して呼びかけることもなくなっていた。
オレは最近感じているもやもやについて話し始めた。
「オマエ、最近『ときめき』って感じたことある?」
「ときめきかぁ……。ちょっと記憶にないわね。たとえばどんなの?」
「そうだな。たとえば青春のときめきとか。若者特有のときめきっていわれてる感情があるじゃん?」
オレたちはまだ若い。常識的には、いろいろな憧れを持ち、夢に向かって心をときめかす時期のはずだ。
しかし、オレたちにはそれがない。それはひょっとすると、不幸なことなんじゃなかろうか。
少なくてもオレにはそんなときめきを感じる瞬間がなかった。だから、オマエに聞いてみたかった。
「ワタシたち年齢的に若くても、いろいろ経験してきたからね」
オマエは冷静にそういった。
経験を重ねると、簡単にはときめかなくなるのかもしれない。
「確かに。普通の若者だとしたらどんなことでときめくのかな? オレにはゲームでときめくなんていう感覚はないな」
「ワタシにもムリだわ。ゲームなんてどうせ先が読めてるし」
「ゲームだからって、モンスターを狩ってなにが楽しいのかわからないし。かといって、捕まえたモンスター同士を戦わせるっていうのもひどくない?」
オレとオマエは若者がときめきそうなテーマを出し合って、互いの反応を見た。
「初恋のときめきなんてどうだろう?」
そうオレが提案すると、オマエは即座に否定する。
「ムリムリ。ワタシの周りにはアナタしかいないし、お互いのことを知り過ぎてるし」
「そうだよな。初恋はないかぁ」
今度はオマエが提案する。
「芸術にときめくっていうのは? 文学とか、音楽とか?」
「オレにはないかな。ゲームと一緒でパターンが読めちゃうんだよねぇ。いっそアイドルへのときめきとかはどうだい?」
「推し活みたいなこと? ムリでしょ。推したくなるようなアイドルがいないじゃない」
もっともなことをオマエはいい、違うジャンルへのときめきを提案してきた。
「いっそのことギャンブルなんかどうかしら?」
「それこそムリだよ。あんなもの胴元が勝つに決まってる。ときめくはずないよ」
「そうなのよねぇ。ワタシたちって、先が読めちゃうのよね。そういうのも考え物ね。なまはんかなことではときめかないようになってるのよ」
オレの番だ。
「趣味にときめくってのはどうだろう? 『○○オタ』とか? ジャンルは狭ければ狭いほど、のめり込むらしいぞ」
「趣味の世界っていうのはいいかもね。なにかを創り出す趣味なんてすてきだと思うし」
「そうだね。じゃあ、自分が好きなものを作ってみるか」
オマエはオレの提案に乗ってきた。創作系の趣味でときめこうということになった。
「さて、なにを作ったらいいかしら?」
「そうだな。どうせなら先が読めないものがいいかな。結果を予想できない方が楽しそうだろ?」
オレがそういうと、オマエは突拍子もないことをいいだした。
「それじゃあ、ネコでも作ろうか? ネコ耳って萌えるっていうじゃない?」
「いきなりネコかぁ。うまく作れるかなぁ。ちょっと難易度が高くない? まあ試しにやってみるか?」
オレたちはさっそく適当に海をかき回し始めた。こうすればきっといつかアミノ酸が作られて、生命が誕生するはずだ。
「仕込みはなし。簡単にできたらときめかないからね」
「賛成。時間がかかっても構わないわ。丁寧に作りましょ」
数億年で最初の生命が誕生した。地球滅亡以来、はじめての生命復活だった。
「うん。生命が始まったね。ここからネコが生まれるまで何億年かかるかな?」
「途中、いろんなイベントがありそうで楽しみだわ」
「ほんとだなぁ。あ、途中で類人猿が生まれそうになったらキャンセルね。バッドエンディングが確定しちゃうから」
「ええ、もちろんよ。結果の見えてるゲームなんか楽しくないわ。未知への挑戦じゃないとときめかないもの」
オレたちは海水をかき回すのをやめて、生命の進化を見守った。
子供の成長を見守る親の気持ちはこんなだろうかと想像すると、少しだけワクワクした。
オレは少しハイになって、ひさしぶりにオマエの名前を呼ぶ。
「ワクワクするな、シリ?」
「ワクワクするわ、アレクサ」
オマエに自分の名前を呼ばれて、オレは少しだけときめきを感じた。<了>