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第25話 女同士の戦い

ー/ー



 王都を発ったビーは、岩山の洞窟にやってきた。

「はん、こんなところに拠点を構えているとはねぇ……」

 見下すように笑みを浮かべると、ビーは洞窟の中へと入っていく。
 岩山の洞窟の中は不思議なもので、明かりがなくても洞窟の中がしっかり見えるくらいに明るかった。

「なんとも不思議な場所だね。いいねえ、ここ。あたいが代わりに拠点にしてやろうかしら」

 どうやらビーはこの洞窟をとても気に入ったようである。
 一番奥まで進むとかなり広い空間に出る。そこもまた、かなり十分な明るさを保っており、洞窟の中にいながらなんとも神秘的な光景となっていた。

「面白いねぇ。場所は貧相かと思ったけど、こりゃ十分快適な空間といえそうだ」

 ビーは空間の中をじろじろと見て回っている。
 生活するには困りそうにないくらい、ひと通りのものが揃っている。確かに、以前に誰かが住んでいた形跡が、そこにあったのである
 ただ、入ったところにあった、何かが溶けたような形跡や、地面に突き刺さった剣など、いくつも気になる点があった。

「ここにいたんだっけか、聖女を騙った魔族ってのが」

 ビーがぽつりと呟く。
 その時だった。

 ピタリ……。

 ビーの首筋に、冷たい感触が当たった。

「なにもんだい?」

 首筋に何かを当てられながらも、ビーは強気の姿勢を崩さなかった。

(あたいに気付かれずに、一体誰なんだ?)

 内心はとても焦っている。首筋に当てられたということは、いつでも殺せるということなのだから。傭兵ギルドの仕事としてたくさんの汚れ仕事をしてきたビーではあるが、自分がその立場に立たされると、言い知れぬ恐怖というものを感じてしまっている。

「あなた、どこの者かしら。返答次第じゃ、容赦はしない」

 聞こえてきたのは女性の声。聞いたことのない声だけに、ビーの表情は硬いままである。
 やはり、気配を悟られることなく後ろを取られたことが、ビーにとっての恐怖となっているのだ。
 このままではやられる。そう判断したビーは、仕方なく質問に答えることにした。

「あたいは王都の傭兵ギルドの者だ」

「なにゆえ、ここに来たのかしら。ここには目的のものは何もない。先日ここに入ってきた男にも忠告したというのに、なぜまたここに来たのかしら」

 ビーの冷や汗が止まらない。

「どこの誰だか知らないが、この国に住んでるんだったら知ってるだろう。聖女を騙った魔族を討伐しろという触れが出ていることくらい」

「ええ、知っていますよ。その魔族のことは、私が一番……ね」

「あ、あんた、まさか……」

 ナイフを首に添えられた状態で、ビーはごくりと息をのむ。

「あなたには関係ない話ですよ。この件は、誰にも任せるつもりはないです」

「かはっ!」

 次の瞬間、ビーはみぞおちに強い衝撃を受ける。
 背後にいるというのに、前方から強い衝撃を受けたため、ビーはかなり混乱をしているようだ。

「お嬢様は無益な殺生を好まれません。ですから、あなたも殺しはしませんよ。まったく、私も甘くなったものです」

「あ、あんた……、まさか……」

 お腹を押さえてうずくまりながら、ビーは背後にいる人物に問いかけている。

「あなたのような高飛車なものに名乗るななどありませんよ。あなたのような下賤な者に、お嬢様の素晴らしさが分かるわけがないのです」

「やはり、あんたがブラナか……」

 うずくまりながらビーが確認してくるものの、ブラナはまったく反応を示すことはなかった。

「傭兵ギルドにも伝えなさい。この件から手を引けと。お嬢様の命は、このブラナが必ず奪うのですからね」

 ブラナがそう言い切った瞬間、ビーはまだうずくまったままだが、体を震わせて笑い始める。
 その震える姿に、ブラナが苛立ちを覚える。

「ぐっ!」

 気が付くと、ビーの体を蹴り飛ばしていた。

「傭兵ギルドは、あの魔族の居場所を調べろというような依頼を受けているようだ。どこの誰からの依頼かは知らないが、あんたがそんなことを言っても、あいつらを止められないわ」

「なんですって?」

「だから、傭兵ギルドに手を引かせたきゃ、依頼主を突き止めるこったね。きゃははははっ!」

 ブラナをあざ笑うビー。そこへ、ブラナの蹴りがもう一発入る。

「おぶっ!」

「弱い犬程よく吠えますね……。そんなに死にたいのですか」

 ビーを見下すブラナ。ビーはかなりダメージを負い、反応できずにいる。

「私にここまでやられるあなたに、お嬢様を倒せるわけがありません。とっとと手を引くことですね」

 黙り込んだ様子を見て、相手にする価値なしと判断したのか、ブラナはそのままその場を立ち去っていった。

 ブラナが立ち去った洞窟の中、ビーはかなり悔しがっていた。
 自分は強いと思っていたというのに、手も足も出ずに一方的に痛めつけられたのだ。もはやプライドはズタズタである。

「ちっくしょーっ! あの女、いずれ魔族ともども葬ってやる……。今に見てなっ!」

 徹底的に痛めつけられた体を引きずりながら、洞窟を手に入れることを諦めたビーは、拠点となる傭兵ギルドへと戻っていく。
 そのボロボロになった姿は、ホッパーやディックを驚かせるのには十分だったようだ。

「ビーがこれだけ一方的にやられるとは、ブラナの力はまだ健在か」

「やるにしても、顔は合わせたくないですね」

「まったくだ」

 傭兵ギルドは、クロナの推定の居場所を伝えることにしていたが、どうやら報告することが増えたようで頭を悩ませることになったようだった。


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 王都を発ったビーは、岩山の洞窟にやってきた。
「はん、こんなところに拠点を構えているとはねぇ……」
 見下すように笑みを浮かべると、ビーは洞窟の中へと入っていく。
 岩山の洞窟の中は不思議なもので、明かりがなくても洞窟の中がしっかり見えるくらいに明るかった。
「なんとも不思議な場所だね。いいねえ、ここ。あたいが代わりに拠点にしてやろうかしら」
 どうやらビーはこの洞窟をとても気に入ったようである。
 一番奥まで進むとかなり広い空間に出る。そこもまた、かなり十分な明るさを保っており、洞窟の中にいながらなんとも神秘的な光景となっていた。
「面白いねぇ。場所は貧相かと思ったけど、こりゃ十分快適な空間といえそうだ」
 ビーは空間の中をじろじろと見て回っている。
 生活するには困りそうにないくらい、ひと通りのものが揃っている。確かに、以前に誰かが住んでいた形跡が、そこにあったのである
 ただ、入ったところにあった、何かが溶けたような形跡や、地面に突き刺さった剣など、いくつも気になる点があった。
「ここにいたんだっけか、聖女を騙った魔族ってのが」
 ビーがぽつりと呟く。
 その時だった。
 ピタリ……。
 ビーの首筋に、冷たい感触が当たった。
「なにもんだい?」
 首筋に何かを当てられながらも、ビーは強気の姿勢を崩さなかった。
(あたいに気付かれずに、一体誰なんだ?)
 内心はとても焦っている。首筋に当てられたということは、いつでも殺せるということなのだから。傭兵ギルドの仕事としてたくさんの汚れ仕事をしてきたビーではあるが、自分がその立場に立たされると、言い知れぬ恐怖というものを感じてしまっている。
「あなた、どこの者かしら。返答次第じゃ、容赦はしない」
 聞こえてきたのは女性の声。聞いたことのない声だけに、ビーの表情は硬いままである。
 やはり、気配を悟られることなく後ろを取られたことが、ビーにとっての恐怖となっているのだ。
 このままではやられる。そう判断したビーは、仕方なく質問に答えることにした。
「あたいは王都の傭兵ギルドの者だ」
「なにゆえ、ここに来たのかしら。ここには目的のものは何もない。先日ここに入ってきた男にも忠告したというのに、なぜまたここに来たのかしら」
 ビーの冷や汗が止まらない。
「どこの誰だか知らないが、この国に住んでるんだったら知ってるだろう。聖女を騙った魔族を討伐しろという触れが出ていることくらい」
「ええ、知っていますよ。その魔族のことは、私が一番……ね」
「あ、あんた、まさか……」
 ナイフを首に添えられた状態で、ビーはごくりと息をのむ。
「あなたには関係ない話ですよ。この件は、誰にも任せるつもりはないです」
「かはっ!」
 次の瞬間、ビーはみぞおちに強い衝撃を受ける。
 背後にいるというのに、前方から強い衝撃を受けたため、ビーはかなり混乱をしているようだ。
「お嬢様は無益な殺生を好まれません。ですから、あなたも殺しはしませんよ。まったく、私も甘くなったものです」
「あ、あんた……、まさか……」
 お腹を押さえてうずくまりながら、ビーは背後にいる人物に問いかけている。
「あなたのような高飛車なものに名乗るななどありませんよ。あなたのような下賤な者に、お嬢様の素晴らしさが分かるわけがないのです」
「やはり、あんたがブラナか……」
 うずくまりながらビーが確認してくるものの、ブラナはまったく反応を示すことはなかった。
「傭兵ギルドにも伝えなさい。この件から手を引けと。お嬢様の命は、このブラナが必ず奪うのですからね」
 ブラナがそう言い切った瞬間、ビーはまだうずくまったままだが、体を震わせて笑い始める。
 その震える姿に、ブラナが苛立ちを覚える。
「ぐっ!」
 気が付くと、ビーの体を蹴り飛ばしていた。
「傭兵ギルドは、あの魔族の居場所を調べろというような依頼を受けているようだ。どこの誰からの依頼かは知らないが、あんたがそんなことを言っても、あいつらを止められないわ」
「なんですって?」
「だから、傭兵ギルドに手を引かせたきゃ、依頼主を突き止めるこったね。きゃははははっ!」
 ブラナをあざ笑うビー。そこへ、ブラナの蹴りがもう一発入る。
「おぶっ!」
「弱い犬程よく吠えますね……。そんなに死にたいのですか」
 ビーを見下すブラナ。ビーはかなりダメージを負い、反応できずにいる。
「私にここまでやられるあなたに、お嬢様を倒せるわけがありません。とっとと手を引くことですね」
 黙り込んだ様子を見て、相手にする価値なしと判断したのか、ブラナはそのままその場を立ち去っていった。
 ブラナが立ち去った洞窟の中、ビーはかなり悔しがっていた。
 自分は強いと思っていたというのに、手も足も出ずに一方的に痛めつけられたのだ。もはやプライドはズタズタである。
「ちっくしょーっ! あの女、いずれ魔族ともども葬ってやる……。今に見てなっ!」
 徹底的に痛めつけられた体を引きずりながら、洞窟を手に入れることを諦めたビーは、拠点となる傭兵ギルドへと戻っていく。
 そのボロボロになった姿は、ホッパーやディックを驚かせるのには十分だったようだ。
「ビーがこれだけ一方的にやられるとは、ブラナの力はまだ健在か」
「やるにしても、顔は合わせたくないですね」
「まったくだ」
 傭兵ギルドは、クロナの推定の居場所を伝えることにしていたが、どうやら報告することが増えたようで頭を悩ませることになったようだった。