第24話 傭兵たちの集い
ー/ー
王都にディックが戻ってくる。
「おう、どうだった」
ホッパーが確認をしてくると、ディックは苦い表情を浮かべている。
「悪い、追跡しきれませんでした」
「なんだと!? お前、何をしに行ってたんだ」
ホッパーから怒号を浴びせられる。
ディックの役割は、魔力痕跡をたどれるという特殊な能力を使って対象を追い続けることだ。それだというのに、途中で戻ってきたのだから、職務放棄と捉えられても仕方のない話である。
「……ブラナに会ったのですよ」
「あの女に会ったのか?」
ディックから飛び出してきた名前に、ホッパーの表情が歪む。
どうやら、ホッパーにとっても因縁のある相手のようだった。
「それは運が悪かったな。あいつがいたんじゃあ、仕事を切り上げても仕方ないか」
「はい……」
ホッパーも納得しているようである。
「なんなんだい、そのブラナってやつはよ」
ギルドの建物の中にいた女性が声をかけてくる。
「ビー、あいつは触れちゃいけないタブーだ。情報は教えてやってもいいが、会ってしまったら絶対に逃げろ」
「はんっ、あんたらがそんなに怖がるとはねえ。そいつについて教えてちょうだいよ」
ビーと呼ばれた女性は、ホッパーとディックに強く迫っていく。
しょうがない奴だなと、ホッパーはブラナについて話し始めた。
クロナの侍女として働くブラナは、かつては傭兵ギルドにも所属したことがあるという女性だった。
たぐいまれな身体能力と、物怖じもしないという性格もあって、傭兵ギルドの中でも特に汚れ仕事を専門に請け負っていた。それこそ、暗殺などもだ。
多くの仕事を成功させてきたブラナだが、ある時から傭兵界隈から姿を消してしまった。
その時、最後に受けた依頼が、コークロッチヌス子爵一家の暗殺だった。
聖女になるという娘が誕生したことで、それをよしとしない連中から受けた依頼だったという。
ところが、ブラナはそれを最後に消息を絶ってしまったのだ。
「コークロッチヌス子爵に負けて、そのまま娘であるクロナの侍女になっているとは思わなかったよ。あんなに柔らかい笑顔を見せている姿を見た時、俺は寒気が走ったぜ」
「へえ、コークロッチヌス子爵って、そんなに強かったのね」
「剣も魔法も実力はあるようだったからな。調べてみたところ、今はコークロッチヌス子爵邸から姿を消しているらしい。まさか、昔の拠点に顔を出しているとはな」
「へっ? ホッパー様はあの岩山の洞窟について知ってるんですかい?」
「まあな。だが、その情報のおかげで、目的のやつがどこにいるのか分かったぜ」
ディックの質問に答えたホッパーは、その表情をにやつかせている。あまりにも不気味に笑うので、ディックが引いてしまうくらいだった。
「でも、あたいがその女に関わっちゃいけないって理由にはなんないわね。そこのところ、教えてちょうだい」
「後悔しねえな?」
「納得できるならどんな話でも聞くわよ」
ビーが強く言い切ったので、ホッパーはブラナの過去をさらに話し始める。
まだホッパーとブラナが若かった頃に、一緒に依頼をこなしたことがあるらしい。
その時、傭兵としてとある国との戦争に参加した時だった。
周囲を囲まれて絶体絶命という時に、ブラナは嬉しそうに笑っていたのだという。
そして、不利な局面での包囲網を、一人でこじ開けてしまったそうなのだ。
「あいつは他人を殺すことも、自分が傷つくこともなんとも思ってないやつだった。だから、敵兵にも猛然と突っ込んでいけたんだ。その姿は、まるで死神が踊っているようだったよ」
「うへぇ……。それってホッパー様がいくつの頃の話なんで?」
「俺がまだ十代後半の頃だ。あいつはまだ十歳くらいだったな」
「……マジですか?」
思わぬ証言に、ディックは完全に腰が抜けているようだった。
「そいつは、一度戦ってみたいわね」
ビーはホッパーに迫っていく。
「ねえ、あんたらが追っている案件、あたいに譲ってくれないかい?」
「ダメだな。傭兵ギルドとしてのルールに違反する。受けた者が最後まで完遂する、それが絶対の掟だ。恨むなら、その場にいなかった自分を恨むんだな」
迫りくるビーに対し、ホッパーははっきりと言い切った。
「はあ、ざ~んねん。久しぶりに楽しめそうだったのにぃ……」
ビーは本当に残念そうに話している。
「だったらさぁ……」
そうかと思えば、ビーはナイフを取り出してテーブルに突き立てる。
「王国と教会の指名手配の方でだったら、別に動いたって構わないわよねぇ?」
「……好きにしな」
ビーの言い分に、ホッパーは冷たく返している。
「はあ、つれない男だねぇ……。まっ、傭兵稼業なんてしている間は、女とどうのこうのなんて期待できないものね」
「おい、ホッパー様に対してなんてことを!」
さすがに無礼なビーの態度に、ディックも怒りを爆発させている。
ところが、当のホッパーがディックを落ち着かせようとしている。こうなれば、ディックは強く出られなかった。
「あははははっ。それじゃ、あたいはあたいで楽しませてもらうよ」
ビーはそう言い残すと、傭兵ギルドから立ち去っていったのだった。
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「おう、どうだった」
ホッパーが確認をしてくると、ディックは苦い表情を浮かべている。
「悪い、追跡しきれませんでした」
「なんだと!? お前、何をしに行ってたんだ」
ホッパーから怒号を浴びせられる。
ディックの役割は、魔力痕跡をたどれるという特殊な能力を使って対象を追い続けることだ。それだというのに、途中で戻ってきたのだから、職務放棄と捉えられても仕方のない話である。
「……ブラナに会ったのですよ」
「あの女に会ったのか?」
ディックから飛び出してきた名前に、ホッパーの表情が歪む。
どうやら、ホッパーにとっても因縁のある相手のようだった。
「それは運が悪かったな。あいつがいたんじゃあ、仕事を切り上げても仕方ないか」
「はい……」
ホッパーも納得しているようである。
「なんなんだい、そのブラナってやつはよ」
ギルドの建物の中にいた女性が声をかけてくる。
「ビー、あいつは触れちゃいけないタブーだ。情報は教えてやってもいいが、会ってしまったら絶対に逃げろ」
「はんっ、あんたらがそんなに怖がるとはねえ。そいつについて教えてちょうだいよ」
ビーと呼ばれた女性は、ホッパーとディックに強く迫っていく。
しょうがない奴だなと、ホッパーはブラナについて話し始めた。
クロナの侍女として働くブラナは、かつては傭兵ギルドにも所属したことがあるという女性だった。
たぐいまれな身体能力と、物怖じもしないという性格もあって、傭兵ギルドの中でも特に汚れ仕事を専門に請け負っていた。それこそ、暗殺などもだ。
多くの仕事を成功させてきたブラナだが、ある時から傭兵界隈から姿を消してしまった。
その時、最後に受けた依頼が、コークロッチヌス子爵一家の暗殺だった。
聖女になるという娘が誕生したことで、それをよしとしない連中から受けた依頼だったという。
ところが、ブラナはそれを最後に消息を絶ってしまったのだ。
「コークロッチヌス子爵に負けて、そのまま娘であるクロナの侍女になっているとは思わなかったよ。あんなに柔らかい笑顔を見せている姿を見た時、俺は寒気が走ったぜ」
「へえ、コークロッチヌス子爵って、そんなに強かったのね」
「剣も魔法も実力はあるようだったからな。調べてみたところ、今はコークロッチヌス子爵邸から姿を消しているらしい。まさか、昔の拠点に顔を出しているとはな」
「へっ? ホッパー様はあの岩山の洞窟について知ってるんですかい?」
「まあな。だが、その情報のおかげで、目的のやつがどこにいるのか分かったぜ」
ディックの質問に答えたホッパーは、その表情をにやつかせている。あまりにも不気味に笑うので、ディックが引いてしまうくらいだった。
「でも、あたいがその女に関わっちゃいけないって理由にはなんないわね。そこのところ、教えてちょうだい」
「後悔しねえな?」
「納得できるならどんな話でも聞くわよ」
ビーが強く言い切ったので、ホッパーはブラナの過去をさらに話し始める。
まだホッパーとブラナが若かった頃に、一緒に依頼をこなしたことがあるらしい。
その時、傭兵としてとある国との戦争に参加した時だった。
周囲を囲まれて絶体絶命という時に、ブラナは嬉しそうに笑っていたのだという。
そして、不利な局面での包囲網を、一人でこじ開けてしまったそうなのだ。
「あいつは他人を殺すことも、自分が傷つくこともなんとも思ってないやつだった。だから、敵兵にも猛然と突っ込んでいけたんだ。その姿は、まるで死神が踊っているようだったよ」
「うへぇ……。それってホッパー様がいくつの頃の話なんで?」
「俺がまだ十代後半の頃だ。あいつはまだ十歳くらいだったな」
「……マジですか?」
思わぬ証言に、ディックは完全に腰が抜けているようだった。
「そいつは、一度戦ってみたいわね」
ビーはホッパーに迫っていく。
「ねえ、あんたらが追っている案件、あたいに譲ってくれないかい?」
「ダメだな。傭兵ギルドとしてのルールに違反する。受けた者が最後まで完遂する、それが絶対の掟だ。恨むなら、その場にいなかった自分を恨むんだな」
迫りくるビーに対し、ホッパーははっきりと言い切った。
「はあ、ざ~んねん。久しぶりに楽しめそうだったのにぃ……」
ビーは本当に残念そうに話している。
「だったらさぁ……」
そうかと思えば、ビーはナイフを取り出してテーブルに突き立てる。
「王国と教会の指名手配の方でだったら、別に動いたって構わないわよねぇ?」
「……好きにしな」
ビーの言い分に、ホッパーは冷たく返している。
「はあ、つれない男だねぇ……。まっ、傭兵稼業なんてしている間は、女とどうのこうのなんて期待できないものね」
「おい、ホッパー様に対してなんてことを!」
さすがに無礼なビーの態度に、ディックも怒りを爆発させている。
ところが、当のホッパーがディックを落ち着かせようとしている。こうなれば、ディックは強く出られなかった。
「あははははっ。それじゃ、あたいはあたいで楽しませてもらうよ」
ビーはそう言い残すと、傭兵ギルドから立ち去っていったのだった。