「サンドマンは、ヨーロッパ諸国の伝承に登場する妖精だ。魔法の砂が詰まった袋を携えて、夜更けに現れると言われている」
淡々と話すロックの影が、揺れるランタンの明かりに照らされてテントの内側に映し出されている。
「妖精がこの辺りにいるの?」
ロックはゆっくりと横に振った。
「そういう訳じゃない。ただ、みんないつしかそう呼ぶようになった」
町の住人がほとんど集まっているのに、テントの中は妙にシンとしていた。
重苦しい空気の中、ドクターが口を開く。
「不安神経症の一種だと思うんだがな。ここに来たばかりのヤツに多いんだ。吹雪の夜に、集落の外へ向かう黒い人影を見つけるらしい。それを追いかけて行ったヤツは……この町からいなくなってしまう」
ゾッとするような寒気が背筋を伝った。
みんなの目が、僕を見つめている。
ここに来たばかりのヤツに多いんだ、というドクターの言葉が、頭の中で反響した。
この中でサンドマンを見てしまう可能性が一番高いのは、僕なのだ。
カチャリ、とチタンカップを置く音がした。赤いジャケットを着たオリンピアが、鳶色の瞳で僕を見つめていた。
「おいおい、もうやめようぜ! 辛気臭えったらありゃしねえ」
キーホールが立ち上がり、大袈裟に腕を広げる。
「こういう時は夢の話がいい。ジョン、俺のとっておきを聞かせてやる」
テントの中の空気がフッと緩み、みんなの表情に笑顔が戻る。
「またキーホールの夢の話か、聞き飽きたな」
「うるせえぞ、ロック! ジョンにはまだ話してないだろうが!」
男たちが騒ぎ始めたところに、オリンピアが凛とした声を発する。
「キーホール、話してちょうだい。久しぶりにあなたの夢の話が聞きたい」
渋々とした表情で押し黙った周りの男たちの前でフフン、と鼻を鳴らし、キーホールは得意げに夢の話を始めた。
それはこんな話だった。