表示設定
表示設定
目次 目次




キーホール

ー/ー



 集落の生活に慣れるまで、僕は住人の一人に付いて行動することになった。


 ペアの相手は、前歯が欠けた髪の長い男で、呼び名をキーホールといった。

「あん? どうしtれキーホールって呼ばれているか、だって?」

 僕が尋ねると、キーホールは歯茎を剥き出しにしてニッと笑った。
 黄ばんだ前歯のうち数本が欠けている。
 それは確かに鍵穴のように見えた。

「安直だろ? でもそれでいいんだ。ドクターの奴なんか、適当に医者の真似事をしているだけでそう呼ばれているんだから」

 集落の住人達は、明るいうちは各々の仕事をして、夜になると集まってオーガニック・ティーを飲みながらおしゃべりする、という生活をしていた。
 各々の仕事の内容は、リーダーのオリンピアが適性を見て割り振っているようだった。

 白衣を着たドクターはメンバーのメディカルチェック。
 ロック(坊主頭の大男の名前だ。顔の形が岩のようだから、らしい)は発電施設のメンテナンス、という具合だ。

 キーホールと僕の担当は、シンプルな肉体労働だった。つまり雪かきだ。太陽光パネルやシェルターの周りに積もった雪をどかして、地面を整える。

「腰に頼るなよ、なるべく膝を使え。そうしないとドクターの下手なマッサージを受ける羽目になっちまうからな」

 教育係のキーホールは、見た目の印象に反して面倒見が良く、僕にさまざまな事を教えてくれた。
 僕が一心に雪を掘り進めていると、キーホールがその肩を叩いた。

「そっちはあまりやらなくていいぜ。集落から離れちまうからな」

 周りを見渡すと、僕のシャベルは確かにシェルターから逸れていた。

「なるべく遠くには行かない方がいい。……サンドマンに攫われるからな」

 サンドマン。
 その単語には聞き覚えがあった。

 ここにたどり着いた時、よくサンドマンに見つからなかったな、と誰かが言ったのだ。思い返してみれば、それはキーホールの声だった。

「そのサンドマンって、何なの?」

 キーホールは困ったように頭を掻いた。

「えぇとなぁ……うまくは言えねぇんだが、危ねえんだよ。そうだなぁ、ロックにでも聞いてくれ。あいつは説明がうまいから」

 そう言ってキーホールはシャベルを担いで集落へと戻っていった。日が沈み始めているのだ。僕も作業をやめ、慌ててキーホールに続いた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む サンドマン


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 集落の生活に慣れるまで、僕は住人の一人に付いて行動することになった。
 ペアの相手は、前歯が欠けた髪の長い男で、呼び名をキーホールといった。
「あん? どうしtれキーホールって呼ばれているか、だって?」
 僕が尋ねると、キーホールは歯茎を剥き出しにしてニッと笑った。
 黄ばんだ前歯のうち数本が欠けている。
 それは確かに鍵穴のように見えた。
「安直だろ? でもそれでいいんだ。ドクターの奴なんか、適当に医者の真似事をしているだけでそう呼ばれているんだから」
 集落の住人達は、明るいうちは各々の仕事をして、夜になると集まってオーガニック・ティーを飲みながらおしゃべりする、という生活をしていた。
 各々の仕事の内容は、リーダーのオリンピアが適性を見て割り振っているようだった。
 白衣を着たドクターはメンバーのメディカルチェック。
 ロック(坊主頭の大男の名前だ。顔の形が岩のようだから、らしい)は発電施設のメンテナンス、という具合だ。
 キーホールと僕の担当は、シンプルな肉体労働だった。つまり雪かきだ。太陽光パネルやシェルターの周りに積もった雪をどかして、地面を整える。
「腰に頼るなよ、なるべく膝を使え。そうしないとドクターの下手なマッサージを受ける羽目になっちまうからな」
 教育係のキーホールは、見た目の印象に反して面倒見が良く、僕にさまざまな事を教えてくれた。
 僕が一心に雪を掘り進めていると、キーホールがその肩を叩いた。
「そっちはあまりやらなくていいぜ。集落から離れちまうからな」
 周りを見渡すと、僕のシャベルは確かにシェルターから逸れていた。
「なるべく遠くには行かない方がいい。……サンドマンに攫われるからな」
 サンドマン。
 その単語には聞き覚えがあった。
 ここにたどり着いた時、よくサンドマンに見つからなかったな、と誰かが言ったのだ。思い返してみれば、それはキーホールの声だった。
「そのサンドマンって、何なの?」
 キーホールは困ったように頭を掻いた。
「えぇとなぁ……うまくは言えねぇんだが、危ねえんだよ。そうだなぁ、ロックにでも聞いてくれ。あいつは説明がうまいから」
 そう言ってキーホールはシャベルを担いで集落へと戻っていった。日が沈み始めているのだ。僕も作業をやめ、慌ててキーホールに続いた。