大規模な戦闘を前に、幻晶機の整備士たちもまた、それぞれの持ち場で職務を全うしていた。整備班の長であるラルフは、ロイドと共に、アストレイアの最終調整に追われていた。
「ロイド!アストレイアの魔力回路は、もう一度点検しておけ!ヴァルキリーの雷撃は、幻晶のコアにまで影響を与えている可能性がある!」
ラルフは、真剣な表情で指示を出す。
「はい、親方!承知いたしました!」
ロイドは、汗だくになりながらアストレイアの内部を点検する。彼の視線の先には、ジェイの幻晶機があった。
クロノス・タイプXとの激戦で大破したジェイの幻晶機は、もはや元の姿をとどめていない。しかし、その残骸を前にして、ロイドはジェイの魂を感じていた。
「ジェイ……俺たち、絶対、あんたの仇を取ってみせるからな!」
ロイドはそう呟くと、再びアストレイアの整備に戻った。
その頃、輸送部隊のニックは、飛空艇に幻晶機と兵士たちを送り出すため、タクトを操るフィンとオペレーターのエラと連携を確認していた。
「フィン!エラちゃん!出撃の準備はいいか!今回は、アビスという見えない敵との戦いだ。油断は禁物だぞ!」
ニックは、そう言うと、フィンとエラに敬礼した。
「ニック隊長。私たちは、幻晶機を操るパイロットたちを信じ、それぞれの持ち場で職務を全うします」
エラは、ジェイの死を乗り越え、オペレーターとして、以前にも増して冷静で的確な判断を下すようになっていた。彼女の瞳には、悲しみを乗り越えた強さが宿っている。
フィンもまた、寡黙ながらも、エラを陰から支え、輸送任務の成功を誓っていた。
「俺たちが、この戦争を終わらせるんだ……!」
ニックは、そう呟くと、飛空艇のタクトを握りしめた。
彼らの後方支援が、アビスとの最終決戦を支えている。
◇◆◇◆◇
最終決戦を前に、アークライトの食堂は、緊張の空気に包まれていた。
ジェイがいつも座っていた席は空席のままだ。
誰もが口数少なかったが、それは、悲しみからではなかった。
ルナは、ジェイの形見であるドッグタグを握りしめ、静かに食堂の席に座っていた。彼の最期の言葉が、今も耳から離れない。
「……ルナ……幸せになれよ……!」
ルナは、そう呟くと、ドッグタグを強く握りしめた。彼の死を無駄にしないためにも、ルナは、アビスを打倒することを心に誓っていた。
彼女は、ただ悲しみに打樋がれるヒロインではない。
「ジェイ、見ててね。私たち絶対に勝って、幸せになるからね」
エリナは、マリア少佐の執務室で、アレンとジェイの写真を見つめていた。彼女の瞳には、悲しみだけでなく、アビスという見えない敵への怒りが宿っている。
「アレン、ジェイ……見ていて。この戦争を、私たちが終わらせる」
エリナはそう告げると、静かに敬礼した。
彼らの心に刻まれた深い傷は、決して消えることはないだろう。
だが、その傷は、彼らを強くする。そして、彼らは、新たな仲間と共に、世界の運命を変えるための、最後の一歩を踏み出していくのだった。
◇◆◇◆◇
アークライトの格納庫に、夜の帳が降りる。昼間の喧騒が嘘のように静まり返った空間で、ただ一つの幻晶機だけが、まるで呼吸しているかのように淡い光を放っていた。
それは、修理が終わり、その純白の輝きを取り戻したアストレイアだった。
ユウキは、その機体を前にして静かに佇んでいた。操縦席のハッチから漏れる光が、彼の顔をぼんやりと照らし、そこに浮かぶ憂いを帯びた表情を浮かび上がらせる。
「ユウキ……」
背後から、リアの震えるような声が聞こえた。
ユウキが振り返ると、リアは今にも泣き出しそうな顔でそこに立っていた。彼女の手は固く握りしめられ、その瞳は、何かを決意したかのように強く、そして悲しみに満ちていた。
「どうしたんだ、リア?どうかしたのか?」
ユウキは、リアのただならぬ様子に、思わず駆け寄ろうとした。
しかし、リアはその場から動かなかった。
「あの……ユウキ、聞いてほしいことがあるの」
リアはそう言うと、一歩、また一歩とユウキに近づいた。
その一歩ごとに、ユウキの心臓は締め付けられていく。
彼の顔には、ジェイを失った悲しみと、ヴァルキリーが語った真実を受け入れ、アビスと戦うという強い決意が宿っている。
故郷へ帰るという個人的な願いを胸に秘めながらも、リアや仲間たちのために戦おうとするユウキの姿が、リアの心を締め付けていた。
そして、リアは、ユウキの目の前で、涙を流しながら告白した。
「ユウキ……!私は、あなたとずっと一緒にいたい…!」
彼女の言葉が、静寂に満ちた格納庫に響き渡る。
リアの瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。
「あなたが、いなくなってしまうのは…もう、嫌なの…!」
彼女の悲痛な叫びが、ユウキの胸に突き刺さる。ジェイを失った時と同じような、心臓を鷲掴みにされるような痛みが彼を襲った。
だが、今回は違う。
この悲しみを、もう二度と繰り返してはならないと、ユウキは強く心に誓った。
「リア…!」
ユウキは、思わずリアを強く抱きしめた。
彼女の震える肩を抱き寄せ、その背中を優しく撫でる。
「ごめんな。僕は、どこにも行かないよ」
ユウキの温かい声が、リアの耳元で響く。
「ジェイさんを失った悲しみを、もう二度と味わいたくないんだ。だからこそ、僕は戦う。君と、みんなを守るために。そして…」
ユウキは、リアの肩を抱いたまま、アストレイアを見つめた。
「そして、この戦いを終わらせて、君と一緒にここに帰る。必ずだ。僕たちの力で、この世界を平和にして、一緒に故郷へ帰ろう。二人で、一緒に」
ユウキの言葉に、リアは安心したように、その胸に顔をうずめた。彼の腕の中に包まれながら、リアの心は安堵と幸福感に満たされていく。
ユウキの温かさと、これから始まる未来への希望に包まれ、リアは涙を浮かべながら、ゆっくりと顔を上げた。
濡れた瞳が、星明かりを反射してきらきらと輝いている。
彼女は、静かに、そしてゆっくりとユウキの顔に手を添え、唇を近づけた。
そっと触れ合う二人の唇に、互いの想いが溶け合っていく。それは、未来への誓い、そして何よりも深い愛情の証だった。
遠く離れた場所、格納庫の影から、この様子を温かい眼差しで見つめるザラの姿があった。
リアの幸せな告白と、ユウキがそれに応える姿を見て、ザラの表情には安堵と満足が浮かんでいた。ユウキの存在を初めて心から認め、彼がリアにとって唯一無二の存在であることを確信した。
そして、その日の夜明け。
4機の伝説機と、討伐連合の全戦力がアークライトから出撃した。
世界の命運を賭けた最終決戦の幕開けだ。