作戦会議が終わり、アークライトの格納庫に重厚な足音が響いた。
大地の魔力を宿したバハムートが、カイトを乗せてゆっくりと姿を現す。その威容は、純白のアストレイアとは対照的で、まるで動く要塞のようだった。
「…来たか、カイト」
ユウキは、バハムートを見上げながら呟いた。
格納庫にはすでに、リアのアストレイア、ヴァルキリーのヴァルハラ、そしてマーリンのオケアノスが整列している。4機の伝説機が並び立つ光景は、まさに壮観の一言だった。
「ああ。まさか、ルネアの伝説機5機のうち4機が、こうして一堂に会する日が来るとはな。感無量だ」
カイトがバハムートのコックピットから降りてくる。
その表情は、どこか吹っ切れたように穏やかだった。
「信じられない。雷を纏う漆黒の機体、水を司る蒼い機体、大地を司る茶褐色の機体……それぞれが全く違うのに、こんなに息が合っているように感じるなんて」
ユウキは、バハムート、ヴァルハラ、オケアノスを交互に見つめ、その不思議な感覚を口にした。
「伝説機は、持ち主の魂と共鳴する。それぞれの故郷、背負う想いが、この機体を一つの意思に導いているのだろう」
マーリンが、静かにその言葉に続いた。彼女のオケアノスは、まるで深海の静けさを湛えているかのようだった。
その瞬間、4機の伝説機が共鳴を開始した。
アストレイアの純白の輝き、ヴァルハラの漆黒の雷光、オケアノスの澄んだ青光、そしてバハムートの重厚な土色。それぞれの光が、螺旋を描くように絡み合い、一つの巨大な光の渦となってアークライトの夜空を照らした。
光の渦がパイロットたちの心を繋ぐ。
ヴァルキリーの脳裏には、故郷の村が燃え盛る光景がフラッシュバックする。
炎の中で、彼女はたった一人で幻晶機に乗り込み、村を救おうとした。
だが、その力は村の炎を消すことはできなかった。故郷の燃え盛る炎の中で、ただ一人、無力な自分。その時の深い無力感と、村を滅ぼした元凶であるアビスへの燃えるような復讐心が、ヴァルハラのコアに響く。
(…あの日の炎……私には、何もできなかった……!)
彼女は復讐を誓った。アビスを、この手で滅ぼすことこそが、唯一の生きる意味だと信じていた。その炎は、ヴァルハラに乗り込み、アビスの駒として動かされていた間も、決して消えることはなかった。
彼女の心は、憎しみによって凍てつき、ただ命令に従うだけの機械人形と化していた。
(私は、ただの道具だった。感情なんて、必要なかった…)
しかし、ユウキやリア、そして竜騎士中隊の仲間たちとの出会いが、彼女の閉ざされた心の扉をゆっくりと開けていった。
温かい言葉、自分を信じてくれる眼差し、そして共に戦うという強い意志が、彼女の凍てついた心を溶かしてくれた。
(…違う。私は、もう一人じゃない…)
彼女は、もはや復讐のためだけに生きているのではない。
故郷の村を、そしてユウキたちを、この手で守るために戦うのだと、新たな決意を胸に刻んだ。
(…私の力は、もう誰にも奪わせない。この力は、大切なものを守るためにあるんだ。)
ノワールは静かに目を閉じた。アビスに利用され、人としての心を閉ざし、ただ命令に従うだけの存在だった過去。
(…私は、ずっと孤独だった。感情なんて、ただのノイズだと思っていた。)
彼女の心は、アビスによって与えられた「使命」によって満たされ、それ以外の感情はすべて排除されていた。
ユウキたちと出会った当初、彼女は彼らを「アビスの計画を阻害する存在」としか見ていなかった。
でも、ユウキたちの純粋な優しさ、仲間を想う強い絆に触れるうちに、彼女の心に、これまで感じたことのない温かい感情が芽生えていった。
(…この温かさは…何だろう?胸が、締め付けられる…)
ユウキとリアの、故郷へ帰るという強い願いは、彼女の心を揺さぶった。ノワールは、初めて「自分自身の意志」で行動したいと願った。
(私は、もう誰かの命令で動く人形じゃない。私は…私自身の意志で…!)
彼女は、もう誰にも利用されない。アビスの鎖を断ち切り、自分自身の意思で、この戦いを終わらせると決意する。
ノワールは、己の過去と決別し、新しい未来を創造するために、ユウキたちと共に戦うことを選んだ。彼女の決意は、ヴァルハラのコアに新たな輝きをもたらし、その漆黒の機体は、雷を纏いながらも、どこか穏やかな光を放っていた。
カイトは、胸元に下げたジェイのドッグタグを強く握りしめた。
「見ていてくれ、ジェイ。お前の犠牲を、絶対に無駄にはしない。俺たちの戦いは、お前の死を乗り越えるための、最後の戦いだ」
彼の決意は、バハムートのコアに深く刻み込まれた。大地を司る機体は、彼の強い意志に応えるように、さらに重厚な光を放つ。
マーリンは、故郷の海の景色を心に思い描いた。嵐に荒れる海も、平和な海も、すべてを包み込むオケアノスの光。
「この光が、いつか、ルネアを包み込み、すべての争いを鎮めてくれることを願って……」
彼女の祈りは、オケアノスのコアを通じて、穏やかな水の魔力となって溢れ出した。
そして、ユウキとリアは、アストレイアの光の中で、互いの存在を確かめ合った。ユウキは、リアの温かい手を取り、彼女の瞳を見つめた。
「リア……僕、絶対、この戦いを終わらせて、みんなと一緒に元の世界に帰る。約束する」
「はい。ユウキ、約束よ。絶対に、生きて帰りましょう」
二人の願いが、アストレイアの純白の輝きをさらに強めていく。
それは、彼らの未来への希望を象徴する光だった。