アークライトの空は、夜明け前の静けさに包まれていた。
しかし、この平穏は長くは続かない。
アビスという見えない敵、そして再び迫り来る帝国軍の脅威が、世界の命運を賭けた戦いの火蓋を切ろうとしていた。
自由同盟の拠点アークライトでは、大規模な最終決戦を前に、伝説の幻晶機と、それぞれのパイロットたちが次々と集結していた。
マリア少佐は、ヴァルキリーが語った真実とノワールから得た情報を元に、ルネアの各勢力に共闘を呼びかけ、ついに「討伐連合」が結成された。
司令室には、マリア少佐を中心に、討伐連合の全パイロットが集結していた。
張り詰めた空気が部屋を満たし、誰もが黙って大型スクリーンに映し出された地図を見つめている。地図には、帝国軍がアークライトへの再侵攻を準備しているという情報と、ノワールから提供されたアビス本拠地の位置が示されていた。
「諸君、この作戦は、我々の未来を賭けた、ルネア史上最大の作戦となる」
マリア少佐の重々しい声が響く。彼女の瞳には、多くの仲間を失いながらも、それでもなお前を向く指揮官としての覚悟が宿っていた。
「アビスは、この戦争の背後に潜み、両勢力を争わせて伝説機のコアを吸収しようと画策している。我々が今から戦うのは、帝国軍だけではない。アビスという見えない敵だ」
その言葉に、ヴァルキリーが鋭い視線を向けた。彼女は、かつてアビスの駒として動かされていた悔恨を胸に、静かに復讐の炎を燃やしていた。
ノワールが口を開く。
「奴らは、この混沌を利用して、一気に最終計画を実行に移すだろう。帝国軍の侵攻は、そのための陽動に過ぎない」
マリアは頷き、再びスクリーンに向き合った。
「戦況は圧倒的に不利だ。帝国の総兵力は健在、このまま正面からぶつかれば、我々の勝利は難しい」
そこで、ヴァルキリーが立ち上がった。
「マリア少佐、提案があります。帝国の兵士はアビスによって扇動され、洗脳されている可能性が高い。これまでもそうだった。ならば、その根源であるアビスの拠点を少数精鋭で討ち取るべきです」
「ヴァルキリーの言う通りだ。我々が、奴らの目論見を逆手に取る。それが最善の策だ」
ノワールもまた、その意見を支持した。
しかし、その大胆な提案に、他の部隊の指揮官たちから異論が出された。
「待ってください、マリア少佐!ヴァルキリーとノワールの言葉を信じて、アビスの本拠地に乗り込むなんて、あまりにも危険すぎます!それは、奴らの罠かもしれない!」
ある部隊の指揮官が叫んだ。その声に、他の指揮官たちも同調する。
「彼女たちは我々を裏切ったわけではない。しかし、この混沌の最中に投降してきた彼女たちの言葉をどうして信じられるというのですか!ジェイ少尉の死を忘れたのですか!」
ルナとソフィアは、苦々しい顔でヴァルキリーとノワールを睨みつけていたが、発言はしなかった。
ユウキは、ルナとソフィアの苦悩に満ちた表情を見て、胸が締め付けられる思いだった。しかし、彼は、ヴァルキリーが語った真実を信じている。
「指揮官の皆さん、僕たちの気持ちも、どうか聞いてください。僕たちも、ヴァルキリーとノワールが敵である可能性を考えました。ですが、彼女たちの言葉は、僕たちが経験してきたことと一致します。それに、ジェイさんの死は……彼女たちのせいじゃない!僕の未熟さが、ジェイさんを死なせたんだ!」
ユウキの悲痛な叫びに、ルナとソフィアは言葉を失った。
その時、エリナが立ち上がった。彼女は、静かな眼差しで指揮官たちを見つめる。
「皆様の疑念は当然です。しかし、ヴァルキリーとノワールは、これまでの戦闘で、帝国軍の動向、そしてアビスの目的について、正確な情報を提供してくれました。そして、ユウキと私、そしてマリア少佐も、彼女たちの言葉を信じ、アビスという見えない敵と戦うことを決意しました。この作戦は、ジェイの死を無駄にしないためにも、必要なことなのです」
エリナの言葉に、指揮官たちは沈黙した。彼らは、エリナとジェイの深い絆を知っていた。
「エリナの言う通りだ」
カイトが静かに口を開く。
「俺は、ジェイの死を無駄にしないために、何でもするつもりだ。伝説機バハムートの力は、守備にこそ真価を発揮する。攻めるべきは、敵の根源だ」
「我々も、カイトの意見に賛成です。オケアノスの力は、アークライトの防衛にこそ役立つでしょう。ただ、帝国の侵攻を防ぐこと、なによりアビスの目的が、伝説機のコアだとしたら、全員でアビス討伐に向かうのもリスクです」
マーリンもまた、その意見に賛同した。
作戦は二手に分かれることが決定した。マリアは、スクリーンに映し出された地図を指さし、作戦の概要を説明した。
「ええ、そこで作戦は二手に分かれることを提案します。アビス殲滅部隊は、ユウキ、ヴァルキリー、ノワール、そして竜騎士中隊がアビス本拠地へ向かい、アビスの幹部を討つ役割を担う。この作戦には伝説機アストレイアとヴァルハラを投入する」
マリアは次に、カイトとマーリンに視線を向けた。
「そして、帝国軍迎撃部隊は、カイト、マーリン、そしてアクエリアス公国軍がアークライトへ攻め寄せる帝国軍を迎え撃つ。伝説機オケアノスとバハムートは、守備隊の要としてアークライトの防衛を担う」
カイトは、ジェイの形見であるドッグタグを握りしめ、静かに頷いた。彼の瞳に宿る、若者を戦場で死なせないという強い決意が、マリアに伝わる。
マーリンは、穏やかな表情でマリアに微笑んだ。
「マリア少佐。この世界の平和のため、伝説機オケアノスの力を、存分に振るいましょう」
作戦は、各部隊の責任と役割を明確に分けた。
彼らの連携と信頼が、この絶望的な状況を打ち破る唯一の希望となるのだ。