翌日、ユウキ、リア、カイト大尉は、竜骨山脈の部族連合へと向かった。
道中、ユウキはカイト大尉に、ジェイ少尉の最期の言葉と、彼が命をかけて守ろうとしたものについて語った。カイト大尉は、ユウキの言葉に、涙を流しながら、二度と若者を死なせないという決意を改めて心に誓った。
部族連合の集落に到着したユウキたちは、部族連合の長老ジーナと対面した。
ジーナは、ユウキとリアの故郷の仲間たちが帰ってきたことに、安堵と喜びの表情を浮かべた。そして、これまでの苦労を労うように、ユウキとリア、そしてザラに静かに語りかけた。
「よくぞ、ここまでたどり着いた。お前たちの成長を、わしは、遠い山脈の奥から見守っておった。お前たちが、故郷のために、そしてこの世界のために戦う姿を、誇りに思うぞ」
ジーナの言葉に、ユウキとリアは涙を浮かべた。ザラは、一瞬はにかむような表情を浮かべたが、すぐに引き締まった顔でジーナに向き直った。
「ジーナ長老。お久しぶりです。リアを守ることが、私の使命ですから」
ザラがそう言うと、ジーナは優しく頷いた。
「リア、ザラ。お前たちは、もう、わしらの谷の宝ではない。世界の宝だ。お前たちの成長を、心から嬉しく思うぞ」
ジーナの言葉に、リアは静かに頷いた。
「ありがとうございます、ジーナ長老。私たち、必ず、この世界を救ってみせます!」
リアの言葉に、ユウキも力強く頷き、長老に向かって言った。
「長老。僕たちも、リアやザラと一緒に、この世界を守ります。必ず、故郷を取り戻します」
ユウキの言葉に、ジーナは深い満足の表情を浮かべた。
ジーナは、カイト大尉の顔をじっと見つめると、その胸に手を当てた。
「さて、カイト大尉よ。わしは、伝説機バハムートを所蔵する部族の長老ではない。だが、我らが部族は、バハムートを所蔵する部族とは血縁の繋がりがあり、強い信頼関係で結ばれている。お前がバハムートのパイロットに志願したことは、彼らにとっても、大きな意味を持つだろう」
ジーナの言葉に、カイト大尉は静かに頷いた。
「長老。ジェイ少尉の死は、私に大きな悲しみを与えました。この戦争が、これ以上若者の命を奪うことのないよう、バハムートの力を借りたいのです。それが、私とジェイ少尉の願いです」
カイト大尉の言葉に、ジーナは静かに頷いた。
「わかった……。ならば、お前がバハムートのパイロットに相応しいかどうか、試してやろう」
ジーナがそう告げると、カイト大尉は静かに頷いた。その目には、試練を乗り越えるという強い決意が宿っていた。
試練の場所は、集落の奥にそびえ立つ、巨大な洞窟だった。
バハムートが眠る神聖な場所だ。洞窟の入り口には、槍を持った屈強な部族の戦士たちが立ち並び、カイト大尉を厳しい目で見つめていた。
彼らにとって、バハムートは単なる幻晶機ではなく、部族の守護神。それを外部の人間が操るなど、到底容認できることではなかった。
「部族の守護神を、よそ者に渡すなど、あってはならぬ!」
「たとえジーナ長老の命であっても、我らは認めぬ!」
戦士たちの怒号が、洞窟に響き渡る。
「みんな、待って!」
リアが、戦士たちの前に立ち、彼らを制止した。
「カイト大尉は、数々の仲間たちを失った戦争を憎んでいるの。それは私たちも同じでしょう! 彼の気持ちを理解してあげて!」
しかし、戦士たちの怒りは収まらない。
「リア姫様。あいつは、お前たちを悲しませた戦争の当事者だ。そんな男に、バハムートを渡すことなど、できるわけがない!」
戦士の一人が、そう叫んだ。
その時、ユウキがリアの隣に立ち、戦士たちをまっすぐに見つめた。
「皆さんの気持ちはわかります。僕も、戦争で大切な仲間を失いました。でも……だからこそ、カイト大尉の気持ちがわかるんです。もう二度と、仲間を失いたくない。そのために、バハムートの力が必要なんです!」
ユウキの言葉に、戦士たちはわずかに口を閉ざした。
ジーナは、ユウキたちの言葉を静かに聞いていた。
そして、部族の戦士たちに、静かに語りかけた。
「わしは、お前たちの気持ちがわかる。だが、カイト大尉の決意も、また真実だ。彼の言葉を信じ、試練を見守ってやってくれ。バハムートは、この男が真の守護者であるかどうか、自ら判断してくれるだろう」
ジーナの言葉に、部族の戦士たちは渋々ながらも、槍を下ろした。
試練は、バハムートの操縦席に乗り込み、バハムートのコアと共鳴すること。
それだけだった。
しかし、部族の人間以外がバハムートの操縦席に座れば、バハムートのコアが共鳴を拒否し、パイロットの精神に大きな負荷をかける。
過去にバハムートに乗ろうとした部族の人間以外のパイロットは、精神崩壊を起こすか、二度と幻晶機に乗れなくなるほどの重症を負ったという。
「よし…」
カイト大尉は、バハムートの操縦席に乗り込むと、目を閉じ、集中した。
彼の脳裏には、ジェイ少尉の最期の笑顔が鮮明に蘇っていた。
「ジェイ……見ていてくれ。俺は、もう二度と、お前のような若者を死なせない……!」
カイト大尉が操縦桿を握りしめると、バハムートのコアが、激しい光を放ち始めた。
その光は、カイト大尉の全身を包み込み、彼の精神をバハムートのコアへと引き込んでいく。
カイト大尉の脳裏には、故郷の山岳地帯の風景が広がっていた。山々を駆け巡り、魔獣と戦う部族の戦士たち。その光景に、カイト大尉の心は、深い安らぎを感じた。
しかし、次の瞬間、光景は一変する。
山岳地帯が、突如として黒い瘴気に覆われ、魔獣たちが狂暴化していく。戦士たちは、狂暴化した魔獣の猛攻に為す術もなく、次々と倒れていく。
そして、その山岳地帯の中心には、巨大な幻晶機が立ち塞がっていた。それは、バハムートだ。バハムートは、自ら部族の戦士たちを蹂躪し、狂気の笑みを浮かべていた。
「これが……バハムートの、過去……?」
カイト大尉は、信じられない、という表情でその光景を見つめていた。
「馬鹿な!バハムートは、部族の守護神だ!こんな……こんなはずがない!」
カイト大尉は、絶望的な叫びを上げた。
だがしかし、その光景は、彼自身の精神を蝕んでいく。
彼の脳裏に、幻晶機の操縦士養成所時代に、故郷で見た戦争の光景がフラッシュバックした。故郷の山岳地帯で、友軍の幻晶機が、帝国軍の幻晶機の猛攻に為す術もなく、次々と破壊されていく光景。その光景に、カイト大尉は、己の無力さを痛感した。
「くそっ……!俺は、何のために……!」
カイト大尉の心に、深い絶望と、激しい怒りがこみ上げてきた。
「諦めないで、カイト大尉!」
その時、カイト大尉の脳裏に、リアの声が響いた。
「バハムートは、カイト大尉を試しているの。カイト大尉の心に宿る、故郷への想いを試しているのよ!」
リアの言葉に、カイト大尉はハッとした。
「そうだ……!俺は、故郷を失ったリアやザラたちのように、故郷の悲劇を乗り越えるために、この世界で生きる道を選んだ。そして、ジェイ少尉の死を無駄にしないためにも、若者を戦場で死なせないためにも、この戦争を終わらせなければならない!」
カイト大尉は、そう叫ぶと、バハムートのコアに、自身の強い意志を叩き込んだ。
「バハムート!俺は、お前を、この世界の平和のために使いたい!この世界を、混沌から救い出すために、俺に力を貸してくれ!」
カイト大尉の叫びに、バハムートのコアが、再び激しい光を放ち始めた。
その光は、カイト大尉の心に深く響き、彼の精神をバハムートのコアと完全に同調させていく。
「わかった……。お前を、バハムートのパイロットとして認めよう」
バハムートのコアが、カイト大尉に、そう語りかけた。
洞窟の外では、部族の戦士たちが、バハムートが放つ光をただ呆然と見つめていた。
「バハムートが……光を放っている……!」
「バハムートが、あの男を、パイロットとして認めた……!」
戦士たちの間に、驚きと、戸惑いが広がった。
ジーナは、その光景を静かに見つめていた。
そして、部族の戦士たちに向かって、静かに語りかけた。
「見よ。バハムートが、この男を選んだ。彼の持つ、故郷への想いと、若者を守ろうとする強い意志が、バハムートのコアに響いたのじゃ」
ジーナの言葉に、部族の戦士たちは、カイト大尉に、深く頭を下げた。
こうして、伝説の機竜バハムートと、そのパイロットであるカイト大尉が、新たな伝説機のパイロットとして、討伐連合に貴重な戦力を提供することになった。
アークライトの格納庫に、すべての伝説機が集結し、世界の命運を賭けた最終決戦の幕が、今、上がろうとしていた。