帝国軍の臨時会議室では、ファントムが皇帝の椅子に座り、将校たちを前に冷酷な命令を下していた。
「ヴァルハラの奪還は不要だ。我々の真の目的は、幻晶のコアの力を吸収し、『アビス・コア』を完成させることにある。もはや、伝説機を奪還することに意味はない。皇帝陛下には、アビスの計画を成就させるための時間稼ぎを命じられていたが、もはや不要。全ての伝説機を破壊し、この世界を混沌に陥れる」
ファントムの言葉に、将校たちは驚きを隠せない。彼らにとって、ファントムは皇帝の密命を帯びた、謎多き人物だった。
「ファントム様……。それでは、我々の戦いは、何のために……?」
一人の将校が、震える声で尋ねた。
「愚問だな。我々の戦いは、アビスの目的を達成するためだ。この世界の人間は、幻晶のコアに囚われ、滅びの道を歩んでいる。我々は、その道から彼らを救い出す。そして、アビスが創り出す、新たな世界に導くのだ」
ファントムはそう言うと、不気味な笑みを浮かべた。
その瞳には、狂信的な光が宿っていた。
◇◆◇◆◇
その頃、自由同盟の本部では、マリア少佐、エリナ大尉、そしてソフィアが、過去の悲劇を乗り越えるため、静かに語り合っていた。
「アビスの存在を知った今……アレンの死を無駄にはしない。この世界から、混沌を、悲劇を、消し去るために戦おう」
セシリアが、静かに言った。彼女の目には、強い決意が宿っていた。
「そうだな。私も……ジェイの死を、無駄にはしたくない」
エリナは、そう言うと、静かに目を閉じた。彼女の脳裏には、ジェイの笑顔が蘇っていた。
「私の愛した人は、皆、戦争に命を奪われた。もう、これ以上、誰も失いたくない……」
エリナの言葉に、マリアは静かに頷いた。
「この戦争を終わらせる。そして、この世界を、誰も悲しむことのない、平和な世界にする。それが、私たちにできる、唯一のことだ」
マリアの言葉に、エリナとセシリアは、深く頷いた。三人の女性たちは、過去の悲劇を乗り越え、アビスを打倒するという、新たな使命を心に誓った。
◇◆◇◆◇
その夜、アークライトの港から少し離れた薄暗い倉庫で、一人の男が静かに煙草を燻らせていた。
彼の名は、グレイ・シャドー。
各勢力間の裏取引を取り仕切る謎の武器商人だ。
彼の前には、複数の帝国軍の将校が立っていた。彼らは、ファントムの指示を受け、グレイ・シャドーと接触していた。
「グレイ・シャドー殿。我々は、ファントム殿から、新型幻晶機『クロノス・タイプX』の部品を、貴殿を通じて入手せよとの命令を受けております。貴殿の協力が不可欠です」
将校の一人が、そう告げた。
「ふふふ……。ファントム様も、随分と気が早い。ヴァルハラを奪還する前に、戦火を広げようとされているとは……。しかし、私のような商人は、利益がなければ動きません。貴殿らは、私に何を提供してくださるのですかな?」
グレイ・シャドーは、不気味な笑みを浮かべ、将校たちを値踏みするように見つめた。
彼は、帝国と自由同盟の争いが長引くことを望んでいた。戦乱が続けば、幻晶機の部品や魔導素材の需要が高まり、彼の組織が巨万の富を得ることができるからだ。
(愚かな人間どもめ……。ファントムの掌の上で、踊らされていることにも気づいていない。だが、この戦争は、まだ終わらせてはならぬ……。私が仕掛けた餌を、彼らが食いついてくれるのなら……)
グレイ・シャドーの心には、ファントムへの深い警戒と、自身の利益を追求するという、冷徹な計算が渦巻いていた。彼は、アビスの計画を阻止する気など毛頭なく、ただ混沌が続くことを望んでいた。
その時、グレイ・シャドーの通信機が鳴った。
ファントムからの、暗号化されたメッセージだった。
「グレイ・シャドー。自由同盟が、アビスの存在に気づいたようだ。伝説機のコアの力を、全て吸収する前に、アークライトを壊滅させる必要がある。貴様は、自由同盟に、偽の情報を流せ。そして、伝説機をアークライトから遠ざけさせろ」
ファントムの命令に、グレイ・シャドーはニヤリと笑った。
「ふふふ……。ファントム様。それは、私の最も得意とするところです。しかし……その情報の代価として、さらに多くの幻晶機を提供していただかねばなりませんな」
グレイ・シャドーは、そう言うと、ファントムからの命令を快諾した。
彼は、アビスの計画を阻止するのではなく、利用することで、さらなる富を得ようと画策していた。
◇◆◇◆◇
同じ夜、アークライトの地下水路の奥で、ノワールとヴァルキリーが密かに顔を合わせていた。
ノワールが持ち込んだ通信機は、アビスの暗号通信を傍受できる特殊なものだ。彼女の青白い顔には、深刻な表情が浮かんでいた。
「ヴァルキリー、ファントムから通信が入りました。グレイ・シャドーという男を通じて、自由同盟に偽の情報を流し、伝説機をアークライトから遠ざけさせようとしています。どうやら、アビスはアークライトを一気に壊滅させるつもりです」
ノワールがそう告げると、ヴァルキリーの鋭い瞳がさらに険しくなった。
「ファントムめ……。やはり、あいつは、私の行動を監視していたか。グレイ・シャドー……あの男は、ファントムにとって有益な存在。アビスが計画通りに世界を滅ぼそうとすれば、戦乱を長引かせようとする奴の存在は邪魔になるが、今はまだ共存関係にある……」
ヴァルキリーは、そう呟くと、静かにノワールに視線を向けた。
「しかし、奴の存在は、アビスを打倒した後も、この世界に混沌をもたらす危険な悪だ。奴の情報を利用するが、最終決戦の最中に極秘裏に始末しなければならない。誰も、その死に気づくことはない……」
ヴァルキリーの冷徹な言葉に、ノワールは静かに頷いた。
「ええ。グレイ・シャドーは、帝国にも自由同盟にも深く潜入している。彼を始末するためには、アビスの計画を阻止する最終決戦の最中が、最も適しているでしょう。誰も、その死に気づくことはない……」
ノワールはそう言うと、ヴァルキリーに、小型のナイフを差し出した。
それは、彼女がアビスの幹部だった頃に、暗殺任務のために使っていたものだ。ヴァルキリーは、無言でそれを受け取ると、静かにポケットにしまった。
「我々は、アビスを打倒する。そして、この世界の人間を、混沌から救い出す。それが……故郷を失った者たちの、最後の使命だ」
ヴァルキリーの言葉に、ノワールは力強く頷いた。二人の「召喚者」は、この世界の運命を変えるために、それぞれの役割を果たすことを心に誓った。
◇◆◇◆◇
アークライトの格納庫に、伝説の機竜アストレイア、ヴァルハラ、オケアノスが並べられている。
そこに、自由同盟のエースパイロット、カイト・アルベルト大尉の姿があった。彼は優秀な後輩であるジェイを失った深い悲しみを胸に、二度と若者を戦場で死なせないという強い決意を固めていた。
「マリア少佐。アビスに対抗するため、竜骨山脈の部族連合が保管する伝説機バハムートの力を借りるべきかと存じます。そして……そのパイロットに、私が志願します」
カイト大尉の言葉に、マリア少佐は驚きの表情を浮かべた。
「カイト大尉……本気かね? バハムートのパイロットは、部族連合の人間以外は務まらないと聞いている。それに、君は自由同盟のエースだ。君を失うわけにはいかん」
マリア少佐の言葉に、カイト大尉は静かに首を振った。
「マリア少佐。ジェイ少尉の死は、僕たちパイロットに戦争の非情さを改めて突きつけました。この戦争の裏で暗躍するアビスを打倒するため、伝説機バハムートの力は不可欠です。僕の故郷は山岳地帯にあり、バハムートの力を最も引き出せるのは僕だと確信しています。もう二度と、若者を戦場で死なせたくはありません」
カイト大尉の言葉に、マリア少佐は彼の強い決意を感じ取った。
「わかった。君の覚悟、受け止めよう。ユウキ君、リアさん。君たちも、カイト大尉に同行してくれ。部族連合の長老ジーナに、君たちの言葉で、カイト大尉の決意を伝えてほしい」
マリア少佐の言葉に、ユウキとリアは静かに頷いた。