二人は、再び地下水路を歩き、ヴァルキリーとノワールの元へと向かっていった。彼らの心には、ヴァルキリーとノワールが語った真実と、自分たちが下した決断の重さが、深くのしかかっていた。
ユウキとリアは、決意を固め、ノワールとヴァルキリーが待つ廃墟へと戻っていった。廃墟の影に、二人の幻晶機乗りが静かに佇んでいる。月明かりが二人の顔をぼんやりと照らし、その表情は読み取れない。
「…決断は下されたようだな」
ヴァルキリーが静かに問いかけると、ユウキはまっすぐな目でヴァルキリーを見つめ、力強く頷いた。その瞳には、迷いのない強い光が宿っていた。
「はい。マリア少佐に取り次ぎます。僕たちが、少佐に真実を伝え、あなたたちとの会談の場を設けます」
ユウキの言葉に、ヴァルキリーは静かに頷いた。その瞳に、かすかな安堵の色が浮かんだ。ノワールもまた、ユウキたちの決意を静かに受け止めていた。
「感謝する。貴様らの決断が、この世界の運命を変えることになるだろう」
ヴァルキリーはそう告げると、ノワールと共に地下水路の影に消えていった。二人は、ユウキたちがマリア少佐を連れてくるのを待つために、身を隠したのだ。ユウキとリアは、その背中を見送り、アークライトの基地へと戻っていった。
◇◆◇◆◇
二人は、重い足取りでマリア少佐の執務室の前にたどり着いた。時刻は深夜を回り、基地内は静まり返っている。マリアは一人、書類に目を通していたが、二人の顔を見るなり、その表情を引き締めた。
「ユウキ、リア…二人だけで、一体どこへ行っていた?」
マリアの声には、厳しさが滲んでいた。夜間の無断外出は、重大な規律違反だ。
けれども、彼女の瞳には、怒りだけでなく、二人の身を案じる色が浮かんでいた。マリアは警戒を解くことなく、ユウキとリアを部屋へと招き入れた。ユウキはリアと顔を見合わせ、深く息を吸い込んだ。
「マリア少佐。ご報告したいことがあります。…実は、ヴァルキリーさんと、そして…アビスの幹部である、ノワールさんに、会っていました」
ユウキの言葉に、マリアの顔から血の気が引いた。彼女の脳裏には、ジェイの死、そしてヴァルキリーとの激戦の記憶が蘇っていた。
「馬鹿な…!ユウキ、リア…!君たちは、私情で動くような人間ではないはずだ…!なぜ、そのようなことを…!」
マリアの声には、悲しみと、抑えきれない怒りが滲んでいた。
ユウキとリアが、ヴァルキリーという危険な存在と黙って接触したことが、彼女には信じられなかった。
「マリア少佐、すみません。僕たちは、ヴァルキリーさんに、アビスが両勢力を争わせている真実を、すべて聞かされました」
ユウキは、マリアの問いかけに、アビスの真実を語り始めた。
ヴァルキリーとノワールから聞いた、幻晶のコア、そしてアビス・コアの計画、そして何よりも、アビスが両勢力を争わせるために、裏で手を引いているという衝撃的な事実を。
「…信じられない話だ。アビスが幻晶機を操り、両勢力を争わせている…そんなこと、誰が信じると言うのだ」
マリアは、ユウキの言葉をにわかに信じることができなかった。彼女の頭脳は、論理的な思考を拒んでいた。
「マリア少佐…僕たちが交戦したクロノス・タイプMの破片、まだ残っていますよね?ヴァルキリーさんは、あれをアビスが作った幻晶機だと言いました。マリア少佐が、僕たちの言葉を信じてくださるのなら…」
リアが、震える声で告げた。マリアはリアの言葉に、ハッとした。クロノス・タイプMの破片は、解析不能な未知の物質でできていた。それは、マリア少佐がこれまで見てきた、いかなる幻晶機の技術とも異なるものだった。
「その幻晶機を操っていたのが…ノワールだと言っていたな」
マリアは、ユウキとリアを真っ直ぐに見つめた。
「ユウキ、リア。…君たちの言葉を、信じよう。だが…ヴァルキリーはまだしも、ノワールはアビスの幹部だ。なぜ、アビスを裏切る必要があったのか…私には理解できない。そして…君たちは、ヴァルキリーとノワールの言葉を、どうして信じるに至ったのだ?」
マリアの問いかけに、ユウキは静かに語り始めた。
「僕たちは、故郷を失った者同士です。ヴァルキリーさん…彼女は、故郷を失った悲劇を背負いながらも、この世界を救うために戦っている。彼女の瞳に宿る悲しみと、強い決意は…僕と同じでした。彼女は、僕たちと同じ『召喚者』なのです」
ユウキは、ヴァルキリーが故郷を失った悲劇を背負っていることを語り、彼女がアビスの言葉を信じていたこと、そして故郷を滅ぼした者たちへの憎しみから、アビスの計画に加担していたことを説明した。
「マリア少佐。僕たちは、ヴァルキリーさんが、僕たちと同じように、故郷を失った悲劇を背負っていることを知っています。彼女の言葉は、嘘ではないと信じます」
リアもまた、ユウキの言葉に力強く頷いた。
「そして…ノワールさんです。彼女はアビスの幹部ですが、ヴァルキリーさんと同じく、アビスの真の目的に気づき、裏切ることを決意しました。ノワールさんは…幻晶のコアを全て吸収し、究極の力である『アビス・コア』を完成させ、最終兵器を生み出すという、アビスの本当の目的を教えてくれました。ノワールさんがアビスを裏切ったのは、ヴァルキリーさんとの間で真実を共有からです。ノワールさんも、僕たちと同じ『召喚者』なのです」
ユウキは、ノワールがアビスを裏切った理由を、マリア少佐に説明した。
マリアは、ユウキの言葉に、静かに耳を傾けていた。彼女の脳裏には、ユウキとリアの故郷が、幻晶のコアによって滅んだという、過去の悲劇が蘇っていた。
「分かった。君たちの言葉を信じよう。そして、ヴァルキリーとノワール…彼女たちに、今すぐ、ここに来るように伝えなさい。君たちの言葉が真実だった場合…私は、この身を賭して、君たちと共に戦おう。アビスという闇の勢力を、この世界から駆逐するために」
マリアの言葉に、ユウキとリアは、安堵の表情を浮かべた。彼らの努力が、報われた瞬間だった。
ユウキは、すぐに携帯端末を取り出し、ヴァルキリーに連絡を取る。
数分後、執務室のドアがノックされ、ヴァルキリーとノワールが姿を現した。
二人は、マリアの執務室の厳粛な雰囲気に、かすかに緊張した表情を浮かべていた。
「…マリア少佐。ユウキとリアから、話は聞いていると思う。貴様らが、我々の言葉を信じたことに感謝する」
ヴァルキリーは、マリア少佐をまっすぐに見つめ、静かに、しかし力強く告げた。マリアは、ヴァルキリーを静かに見つめ、冷たい視線を向けた。
「ヴァルキリー。君がこの世界を救おうとしているという言葉を、私は信じよう。だが…君が私を欺き、ジェイを死に追いやったことは、決して忘れない」
マリアの言葉に、ヴァルキリーは静かに頷いた。
「ああ。貴様の怒りは、当然だ。だが、この世界を救うために…今は、貴様と協力しなければならない」
ヴァルキリーの言葉に、マリアは静かに頷いた。
彼女の心の中には、ジェイの死に対する怒りが渦巻いていたが、それ以上に、アビスという見えない敵への憎しみが勝っていた。
「ノワール…貴様が、アビスの幹部だという話も聞いた。なぜ、アビスを裏切るのか。その理由を、貴様自身の口から聞かせてもらおうか」
マリアは、ノワールを真っ直ぐに見つめ、厳しい視線を向けた。
「…私は、アビスの目的が、この世界の幻晶のコアを全て吸収し、究極の力である『アビス・コア』を完成させ、最終兵器を生み出すことだと知った。そして…アビスは、その目的のために、ヴァルキリー帝国と自由同盟の争いを、影で操っていた。私にとって、アビスは…故郷を滅ぼした者たちと同じだ。だから…私は、アビスを裏切る」
ノワールの言葉に、マリアは静かに頷いた。
「…分かった。君たちの言葉を信じよう。そして、アビスを打倒するための、新たな同盟を結成する」
マリアの言葉に、ヴァルキリーとノワールは、安堵の表情を浮かべた。
ユウキ、リア、そしてマリア少佐の尽力により、彼らは、アビスを打倒するための、新たな同盟を結成した。
それは、彼らの未来を賭けた、静かなる戦いの始まりだった。