アビスの本拠地制圧作戦を前に、ヴァルキリーはユウキとリアを密かに呼び出した。
行き先を告げないまま、アークライトの地下水路を進んでいく。薄暗く、じめじめとした空気の中、二人は互いに顔を見合わせる。
「ヴァルキリーは、一体僕たちをどこへ連れていくんだろう……」
ユウキが不安そうに呟くと、リアは強くユウキの手を握りしめた。
「ユウキ…!ヴァルキリーさんのことは信じたいけど、なんだか、嫌な予感がするわ…」
リアはヴァルキリーが投降した経緯を知っているが、彼女の冷徹な言動に、まだ完全に心を許せていなかった。
特に、マリア少佐やディオンにも行き先を告げず、秘密裏にユウキを連れ出そうとするヴァルキリーの行動に、リアは不審感を抱いていた。
やがて、二人がたどり着いたのは、人里離れた地下の廃墟だった。
おそらく、以前は軍の格納庫として使われていたのだろう。
朽ち果てた屋根の隙間から月明かりが差し込んでいる。
そこには、すでに一人の女性が待っていた。
同盟軍の制服を身につけた、青白い肌の女性。ユウキとリアは、その女性が誰なのか、全く見当がつかない。
「ヴァルキリー。貴様が言っていた『召喚者』…坂本ユウキ、そしてそのインターフェースか」
その女性は、冷たい視線でユウキとリアを見つめた。その瞳には、ユウキとヴァルキリーと同じ、故郷を失った悲しみが宿っていた。
「ああ。この二人こそ、故郷を失った悲劇を背負いながらも、この世界を救おうとしている『召喚者』だ。彼らなら…貴様の言葉を信じるだろう」
ヴァルキリーは、そう告げると、ユウキとリアを女性に引き合わせた。
「…ヴァルキリーさん、この人は一体……」
ユウキが尋ねると、ヴァルキリーは静かに、しかしはっきりと告げた。
「この女は、ノワール。アビスの幹部の一人だ」
「「!!!」」
ノワールの名を聞き、ユウキとリアは警戒を強めた。
ヴァルキリーがアビスの幹部の名前を口にしたことで、ユウキとリアの心に緊張が走る。まさか、ヴァルキリーがまだ帝国と繋がっているのではないかとまで、二人は疑念を抱いた。
ユウキが警戒を強めると、ノワールは、ユウキたちの警戒心をよそに、淡々と語り始めた。
「私は、アビスの幹部として、この世界の幻晶のコアを吸収し、故郷を再構築するために動いていた。しかし…彼女からも聞いていると思うが、アビスの真の目的は、故郷の再構築ではない。この世界の幻晶のコアを全て吸収し、究極の力である『アビス・コア』を完成させ、最終兵器を生み出すことだ。そして…アビスは、その目的のために、ヴァルキリー帝国と自由同盟の争いを、影で操っていた」
ノワールの言葉に、ユウキとリアは息をのんだ。
ヴァルキリーが語った真実が、ノワールの口からも語られたのだ。
「…ヴァルキリーさん、これは…どういうことですか?」
ユウキが、怒りに任せて叫んだ。ヴァルキリーは、静かに、しかしはっきりと答えた。
「ユウキ…!ヴァルキリーさんは、アビスの幹部と知っていながら、私たちをここに連れてきたの…?」
リアの声には、不審と裏切られたような悲しみが滲んでいた。
「そうだ。貴様らを欺こうとしたのではない。アビスがこの世界に深く潜入し、同盟と帝国の争いを煽っているという真実を、貴様らを通じて同盟上層部に伝えるためだ」
ヴァルキリーはそう告げると、ユウキとリアを真っ直ぐに見つめた。
「我々が、アビスの幹部であるノワールの言葉を直接マリア少佐に伝えても、信じる者はいないだろう。だが、貴様らなら…ジェイ少尉の死を乗り越え、この真実を語れば、マリア少佐は耳を傾けるはずだ。貴様らが、我々の言葉を取り次いでほしい。それが、この世界の運命を変える唯一の方法だ」
ノワールも静かに頷いた。
「アビスは、この世界の人間を『愚かな存在』と蔑んでいる。力を与えられた人間は、その力に酔いしれ、やがて自らを滅ぼす、と。だからこそ、アビスは、人間が滅びる前に、コアの力を吸収し、世界を『再構築』しようとしているのだ」
ノワールの言葉は、ユウキの心を深く抉った。
彼女の故郷もまた、力を手に入れた人間たちの手によって滅びた。ノワールは、ユウキの瞳に、自分と同じ悲しみが宿っているのを見て、言葉を続けた。
「お前も…彼女の故郷の悲劇を、知っているのだろう。私の故郷も…自らの手で、自らを滅ぼした。その悲劇を、この世界で繰り返してはいけない」
ノワールの言葉に、ユウキは言葉を失った。
ノワールは、ユウキに、アビスが伝説機の「幻晶のコア」を集めるために両勢力を争わせている真の目的を告白。アークライトに伝説機が集結していること自体が、アビスの計画に好都合であるという衝撃的な真実を明かす。
「アストレイア、ヴァルハラ、オケアノス、そしてバハムート…伝説機が集まる場所には、コアの力が集まる。そして、コアの力が集まれば、アビス・コアの完成も、より現実味を帯びる。我々は…アビスの計画を阻止するために、この世界を『再構築』しなければならない」
ノワールの言葉は、ユウキの心を深く揺さぶった。
彼は、ノワールの言葉に、ヴァルキリーが語った真実の裏側にある、アビスの歪んだ「正義」を感じ取った。
ノワールとヴァルキリーの言葉に、ユウキとリアは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
あまりにも突飛な話、そして、ヴァルキリーへの拭えない不信感。ユウキは、即座に協力を決めることができなかった。
「ヴァルキリーさん…ノワールさん…」
ユウキは、言葉を探しながら、二人の顔を見つめた。
「僕たちには…あまりにも、突拍子もない話すぎます。そして、ジェイさんの死のことも、ヴァルキリーさんを完全に信じられない理由の一つです」
ユウキは、正直な気持ちを伝えた。
リアもまた、ユウキの隣で、強く頷いた。
「もう少し、僕たちに時間をください。リアと二人で…じっくりと話したいんです。その上で、マリア少佐に取り次ぐかどうか、僕たちで決めさせてください」
ユウキは、そう告げると、リアの手を握りしめた。彼は、ヴァルキリーとノワールの言葉を鵜呑みにするのではなく、リアというパートナーと共に、自分たちの意志で決断を下すことを選んだ。
ヴァルキリーは、ユウキの言葉に、静かに頷いた。
「…分かった。だが、我々には、時間がない。貴様らが決断を下すのを、待っていよう」
ノワールもまた、ヴァルキリーの言葉に頷き、二人はユウキたちから少し離れた場所で待機していた。
ユウキとリアは、二人きりで廃墟の壁際に移動した。
彼らの心には、ヴァルキリーとノワールが語った真実と、自分たちが下すべき決断の重さが、深くのしかかっていた。
リアは、ユウキの隣で、不安そうに呟いた。
「ユウキ…私…どうしたらいいのかな…」
ユウキはリアの手を握り、廃墟の隅にある古い石段に腰を下ろした。リアもその隣に座り、ユウキにそっと寄り添った。
「リア…大丈夫だよ。僕たちは、アビスという闇の勢力と戦う。リアは、僕にとって、かけがえのないパートナーだ。君がいないと、アストレイアは動かせない」
ユウキは、リアを力強く抱きしめた。その温かい手に、リアの心に、再び、強い光が宿った。
だが、リアの心に宿る不安は、消えてはいなかった。
彼女は、戦闘を前にした不安から、ユウキに対し、告白にも似た想いを吐露する。
「もう…ユウキがどこかに行ってしまうのは、嫌だ…!私を、一人にしないで…!」
リアの言葉に、ユウキはリアを抱きしめる腕に力を込めた。彼は、故郷への帰還という個人的な願いと、リアを守りたいという、強い思いが、彼の心の中で交錯するのを感じていた。
「リア…大丈夫。僕はどこにも行かないよ。リアを、そしてみんなを、僕が守るから」
ユウキはそう告げると、リアを安心させるように、その髪を優しく撫でた。
「僕たちは…ヴァルキリーさんたちの言葉を信じよう。ヴァルキリーさんは、ジェイさんを殺したわけじゃない。彼女は、故郷を失った僕たちと同じ、悲劇を背負っている。彼女の言葉は…きっと、真実だ」
ユウキの言葉に、リアは静かに頷いた。彼女もまた、ユウキと同じように、ヴァルキリーの瞳に、自分たちと同じ悲しみと、そして強い決意を見ていたのだ。
「ヴァルキリーさんとノワールさんを…マリア少佐に取り次ごう。そして、みんなで、アビスという見えない敵と戦う。ジェイさんの死を無駄にしないためにも…」
ユウキは、リアの瞳を真っ直ぐに見つめた。彼の瞳には、迷いはなく、強い決意の光が宿っていた。
「うん…ユウキが、そう決めたのなら、私も…ヴァルキリーさんを信じるわ。みんなで、この戦争を終わらせましょう」
リアは、ユウキの言葉に、力強く頷いた。
こうして、ユウキとリアは、ヴァルキリーとノワールの依頼に応じ、マリア少佐に取り次ぐことを決意した。