その日の夜、ユウキは格納庫で伝説機オケアノスを前に、その美しさに息をのんでいた。
ヴァルキリーとの訓練のあと、興奮冷めやらず、なかなか寝付けなかったからだ。
アクエリアス公国から来たマーリン・セレスが、伝説機オケアノスと共にアークライトに到着してから数日。ユウキは、彼と親交を深めていた。
オケアノスは、人魚のような優雅なフォルムと、青く輝く装甲を持つ、アストレイアとはまた異なる美しさを持っていた。
「伝説機オケアノスは、私の心と共鳴する機体です。水の力は、時に全てを包み込む優しさとなり、時に全てを飲み込む恐怖となります。使い手である私の心が、機体の力を左右するのです」
マーリンはそう言うと、オケアノスの装甲にそっと手を触れた。その表情には、オケアノスへの深い愛情が滲んでいた。
「…僕のアストレイアは、まだ力を使いこなせていません。リアさんという心強い仲間がいてくれるから、なんとか戦えているだけで…」
ユウキがそう呟くと、マーリンは静かに微笑んだ。
「謙遜なさるな。貴方の瞳には、故郷を失った悲しみと、それでもなお前を向く、強い意志が宿っています。その心が、アストレイアのコアを覚醒させているのです。そして、貴方には、リアさんという、貴方を信じてくれる存在がいます。その信頼関係こそが、アストレイアの真の力を引き出す鍵です」
マーリンの言葉に、ユウキはリアの顔を思い浮かべた。初めて異世界に召喚されてから、ずっとそばにいてくれたリア。彼女の存在が、今の自分を支えているのだと、改めて実感した。
「…はい、マーリンさん。僕、リアさんと共に、アストレイアの力を使いこなせるように、頑張ります」
「素晴らしい。貴方とリアさんの信頼関係は、やがて、我々アクエリアス公国と自由同盟の橋渡しとなるでしょう。そして、その信頼関係が、世界の運命を変える、真の希望となるのです」
マーリンの言葉は、ユウキの心に深く響いた。彼は、ジェイの死を無駄にしないためにも、そして、リアの信頼に応えるためにも、アストレイアの力を使いこなさなければならないと、改めて心に誓った。
◇◆◇◆◇
マリア少佐の執務室。マリアは、部下たちの悲しみを乗り越え、アビスという見えない敵との戦いを前に、指揮官としての決意を固めていた。
「ユウキ君とリアさん。そしてヴァルキリー。君たち『召喚者』の力が、この世界の運命を変える。だが、その力を、私は決して私情のために使わない。ジェイ少尉の死を無駄にしないためにも、アビスという闇の勢力を打倒する。それが…私の指揮官としての責務だ」
マリアは、そう告げると、執務室の窓から、遠くの空を見つめた。その瞳には、指揮官としての重責と、部下への深い愛情が滲んでいた。
「アレン…ジェイ…君たちの死を、決して無駄にはしない。この世界を、アビスの脅威から守り抜く。それが、私の…『正義』だ」
マリアは、静かにそう呟くと、再び書類に向き合った。彼女は、指揮官として、この世界の未来を切り開くために、自らの悲しみを押し殺し、戦い続けることを決意していた。
その日の夜、エリナはマリアの執務室を訪れた。彼女は、マリアの机の上に置かれた、亡きアレンの写真を見つめていた。
「マリア少佐…」
エリナが、声をかけると、マリアは静かに顔を上げた。
「エリナ。ジェイ少尉の死…君も、辛いだろう。だが…」
「いいえ、マリア少佐。私は、もう、泣きません。ジェイは…自分の意志で、戦ったのです。彼の死は、無駄ではありません。そして…ルナが、ジェイの遺志を継ぐと言ってくれました。私には…ルナという大切な部下がいます。彼女を、そして中隊の皆を守り抜く。それが…私の中隊長としての責務です」
エリナは、そう告げると、マリアに深く頭を下げた。その瞳には、悲しみだけでなく、強い決意が宿っていた。
「エリナ…」
マリアは、エリナの成長に、静かに頷いた。彼女は、エリナの言葉に、アレンの死を乗り越え、より強く成長したエリナの姿を見た。
「アレン…君の死は、決して無駄ではなかった。エリナは…こんなにも、強く成長した」
マリアは、そう呟くと、エリナに微笑んだ。
その頃、アークライトの格納庫に、鹵獲されたヴァルハラを前にしたセシリアは、弟アレンの死を思い出していた。
「アレン…あなたの死は、決して無駄にはしないわ。この世界を…アビスの脅威から守り抜く。そして…あなたの仇を、必ず討つ…!」
セシリアは、そう呟くと、ヴァルハラの装甲に、そっと手を触れた。彼女の瞳には、復讐の炎が燃え盛っていた。
◇◆◇◆◇
同時刻、訓練場の中央では、ディオンがルナとソフィアに実戦的な訓練を課していた。
訓練は、フィンが操縦する模擬輸送機を、ルナとソフィアが護衛するという設定で行われる。エラは、オペレーターとして、訓練全体の情報管理とモニタリングを担当していた。
「いいか、ひよっこども!幻晶機は、一人で動かすもんじゃねぇ! チームだ! チームなんだ!」
ディオンの声が、訓練場に響き渡る。彼の表情は厳しい。ジェイの死は、彼の心にも深い傷を残していた。彼は、二度と仲間を失いたくないと、強く願っていた。
模擬戦闘が開始されると、ルナとソフィアは、それぞれゲイルとシリウスに乗り込み、フィンが操縦する模擬輸送機の周囲を旋回する。エラは、オペレーターとして、二人に的確な指示を飛ばす。
「ソフィア先輩!敵機、正面から2機、接近中!ルナ先輩!敵機、右翼から回り込もうとしています!注意してください!」
エラの声は、冷静かつ正確だ。ルナとソフィアは、エラの指示に従い、敵機を迎え撃つ。
「くそっ……!数が多すぎる!」
ルナの悲痛な叫びが、無線から響く。ソフィアは、高精度なスナイパーライフルで、遠距離から敵機の弱点を狙撃する。
「ルナ先輩!私の援護射撃に合わせて、敵機の死角を突いて!」
ソフィアの声に、ルナはハッとした。
「分かったわ、ソフィア!」
ルナは、ソフィアの狙撃に合わせて、敵機に肉薄する。しかし、敵機の攻撃は、ルナとソフィアを同時に追い詰めていく。
「二人とも!大丈夫か!?」
フィンが、心配そうに声をかけた。
「フィン!黙ってろ!お前は、輸送機を無事に目的地まで届けることが、お前の使命だ!」
エラは、フィンに厳しい言葉を投げかける。フィンは、エラの言葉に、無言で頷き、操縦に集中した。
その時、ルナとソフィアの機体に、敵機の攻撃が直撃する。
「くそっ……!機体が……!」
ルナとソフィアの機体から、火花が散る。二人の機体は、かなりの損傷を負っていた。
「くそっ……!このままじゃ、全滅だ!」
ルナは、絶望的な声で叫んだ。その瞳には、ジェイを失った時の悲しみと、無力感が滲んでいた。
「ルナ先輩!諦めないで! 私たちが、ジェイ先輩の遺志を継ぐんです! ジェイ先輩が、私たちに教えてくれたことを、思い出してください!」
エラは、ルナに叫んだ。
その言葉に、ルナは、ハッとした。彼女の脳裏に、ジェイの最期の言葉が蘇る。
「……ルナ……幸せになれよ……!」
ルナは、操縦桿を強く握りしめた。彼女の瞳に、再び、強い光が宿った。
「そうね…行くわよ、ソフィア!エラ!フィン!私たちは……一人じゃない!」
ルナは、そう叫ぶと、ソフィアと共に、再び敵機に立ち向かっていった。
彼らは、個々の能力を超えた連携の重要性を認識していく。
そして、ジェイの死を乗り越え、より強い絆で結ばれていくのだった。